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第10蝶 初デートは護衛依頼

オコなお手伝いさんと恋の行方

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「それでは、最後に大事な…… ん? どうしたのだ、アマジよ」

 リブたちの話も落ち着いたので、ロアジムが次の話を切り出したところで、息子のアマジが姿を現す。


「ああ、ゴマチの姿が見えなくなったのでな。心配…… ではなく、しっかりとやってるかどうか確認したかったのだが。それで、ゴマチはどうだった?」

 ロアジムも含め、私たちにも視線を向けるアマジ。
 何やら、ゴマチの給仕の感想を聞きたいらしい。

『うん』
 なら、仕方ない。

 私が先にダメ出しをして、少しでも参考にしてもらおう。
 恐らく、私以外は採点が激甘だろうし。


「ん~、もう少し愛想と笑顔と、もっと気遣いを、それと――――」

 なんて、言い切る前に……

「まぁまぁだなっ!」
「良かったですわっ!」

 こっちはロアジムとエーイさん。

「可愛かったですねっ!」
「衣装が素敵でしたっ!」
「ケーキ美味しかったですっ!」

 こっちはリブたち3人。

『………………』

 ほらね?
 やっぱり思った通りだったよ。
 みんなべた褒めでしょ。

 しかもめちゃくちゃ抽象的で、具体的に何がいいかは答えてないけど。
 マハチとサワラに至っては、ゴマチに一切触れてないし。


「そ、そうか? ならゴマチには明日、休みを上げる事にしよう。俺から見ても懸命にこなしていたからな。うん、うん」

 ロアジムたちの感想を聞いて、頬を緩めて満足げに頷くアマジ。
 それに釣られて、みんなも微笑み軽く頷く。

『いや、いやっ』

 あれでいいなら、私だってできるからねっ!
 なんでロアジム以外は社交辞令で言ったってわからないかな?
 お前のその目と耳は節穴かっ!

 なんて、ニヤけているアマジに、現実では言わないツッコミを脳内でする。
 こんなんで、ゴマチの教育になってんの? ママごとと同レベルだよ。


「うん? そう言えばエーイも親父に呼ばれてたのだったな。随分と久しいな」

 アマジがエーイさんを見つけて話しかける。

「そ、そうですわねっ! あなたも少し見ないうちに、随分と丸くなったのではなくて?」

 若干、上擦った声で返答するエーイさん。
 微かに頬を紅潮させている。

 少しだけツンとした、突き放した言い方が気になるけど。


『えっ!? もしかして知り合いだった? 結構親しい感じするねっ! さぁ、堅物のたんこぶ付きアマジをどう攻略するかな? ゴマチからの攻略ダメだったし。 くふふっ』


 アマジとエーイさんのやり取りを見てワクワクしてしまう。
 だって、ここに来た数少ない楽しみの一つがこれだもん。

 大人の恋が成就する軌跡を、この目でしかと見届けてあげるよ。


「ああ、やはりお前にもそう見えるのか。ゴマチや親父にも時折言われるのだが、俺には実感がないんだ。ただ、心のつかえが無くなり、ドス暗いものも消え去った感じだ。これもある女と(一戦)せいかもしれんな」

 最後に「フッ」と薄く笑い、意味ありげにこちらに視線を送るアマジ。
 私は目線に気付いて、軽く手を振って答える。
 それを見て、この前の一件での事を言っているのだとわかったから。

 冒険者アンチのアマジたちと戦い、娘のゴマチ含め、ロアジムも息子との仲を取り戻した。
 アマジも前に進めるきっかけとなった、あの時の模擬戦を。

「はっ!?」

「じ~~~~」

 ここまでを振り返り回想していると、嫌な視線を感じて我に返る。
 それはアマジと話していたはずのエーイさんの視線だった。

『うっ』

「にこぉ」

 そして目が合うと意味深に微笑んでくる。
 少し前のゴマチをからかった時の様に。


「ふ~ん、そのを持った女性がスミカさんという事ですわね、そのあなたの態度からすると」
「関係? まぁ、そうなるな。そのスミカのせいでな。他にも女はいるが」

 エーイさんが、無言での私とのやり取りに気付き問いただす。
 その言い方に、少しだけ怪訝に思いながら答えるアマジ。

「他に、と言いますと?」
「ああ、双子の少女と、ゴマチよりは小さい幼子だ。なぜそこまで――――」
「えっ!? い、一度にそんなに? し、しかもゴマチさんより小さいって……」
「ん? そんなにおかしい事か? 俺たちの世界では普通だ。そこまで驚く事ではない」
「はぁっ!? 普通ですのっ!?」

 ここまで説明を聞いて、マジマジとアマジを見つめて唖然とするエーイさん。 

『…………これって』 

 ぶっきら棒で、伝えるのが不器用な、アマジの悪いところが出てるよね?
 それで勘違いしてるよね? きっと。

 私との会話でも、言葉足らずで、口説き文句に聞こえた時もあったし。

 俺たちの世界ってのは、戦場に身を置くものって事だろう。
 で、双子の少女はナゴタたち。ゴマチより小さいのはナジメの事だろう。
 元々名前で呼ばないから余計に、意味ありげに聞こえる。


『でも――――』

 面白そうだから、もう少し様子を見てみよう。
 エーイさんには悪いけど、あの仏頂面が困り果てる顔も見てみたい。

 なんて、内心で成り行きを見ようと、傍観者気取りになっていると……


「普通って、小さな女の子と関係持つのが普通なわけないですわっ!」
「なっ!?」

 エーイさんが声を荒げて、アマジに迫っていた。

 更に、

「いつからあなたは少女愛好家になったんですのっ!」
「はっ? お前は何を言って、なぜ今その話になる?」
「だって、関係を持ったのでしょう? 双子の少女と小さな女の子とも」
「い、いや、そっちは俺ではなく、バサとアオウオ兄弟だな。正確に言うと」 
「なっ! いい大人が、そ、そんな寄ってたかって、小さな女の子を……」

 突然の剣幕に押され、しどろもどろになり、言い訳をするアマジ。
 それを聞いて絶句し、わなわなと震えるエーイさん。

 ピコ~ンッ!

『あぁ~ん、なるほど』
 わかったよ。

 これやっぱり、アマジの説明が足りなくて、エーイさん誤解してるね。
 なんか、話の内容を客観的に読み解くと、私たちがアマジたちのネンゴロみたくなってるし。


『う~ん、それは微妙に嫌だね? このまま勘違いされて、街に広まっても困るし…… なら』


「あの、エーイさん。アマジの話だけど――――」

 助け舟って訳ではないが、説明の為に口を開いた瞬間……


 パア――ンッ!

「へ?」

 乾いた音が庭園に響き渡った。
 その音はエーイさんが、アマジの頬を平手打ちした音だった。


『え? えええ――――っ! ま、間に合わなかったよっ! どうしようぉっ!』

 頬を打たれて、唖然としてるアマジと、何かを叫んでここから離れていったエーイさんを見て、開いた口がふさがらなかった。

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