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第10蝶 初デートは護衛依頼
大は小を兼ねない、逆もまた然り
しおりを挟むこの世界に来て、三度目となる貴族街に入り、舗装された通りを歩いていく。
通り脇には形のいい街路樹や、夜道を照らす街灯が一定間隔で置いてある。
一般地区にもあるにはあるが、ここの街路樹みたいに、管理する人間がいないのか、きれいに剪定されてはおらず、不格好に枝が伸び放題だった。
街灯も人が多い通りと、繁華街や商店街だけで、街の外れに近い孤児院までには設置されておらず、夜になると暗闇に包まれる。
この世界では、日が落ちてから外出する人間はあまりいないが、それでも全く出ない訳ではないし、私やユーアみたいな可憐な美少女は身の危険を感じてしまう。
『う~ん、植木はあまり気にならないけど、明かりを照らす物は欲しいよね? 子供たちもいるし、誰かが訪ねてくる時もあるだろうし』
ここら辺も、要改善かな?
何て、確認しながらリブと先頭を歩く。
私たちが今から向かうのは、この貴族街に住むロアジムのお屋敷だ。
今日の午後に呼ばれて、女5人で向かう道中だ。
そのメンバーは……
まず、
ロアジムのお気にの冒険者。ロンドウィッチーズの面々の3人。
長身赤毛で、胸が平らなリーダーのリブに、同じく真っ平の仲間のマハチとサワラ。
うん? 女5人じゃなくて、男2人に、女3人だった、訂正訂正。
だって、マハチとサワラは男の娘だったんだからね。
それと、ロアジムの紹介できた、孤児院のお手伝い組の4人。
かと思ったら、まとめ役のエーイさんだけでいいらしく、お手伝い組は1人。
エーイさんは育ちがいいと言うか、どこが気品のある妙齢の女性だった。
そんなエーイさんは、きっとロアジムか、その息子のアマジを気に掛けている。
可能性が高いのは、私の勘だとアマジの方。
少しだけ怪しい仕草も事もあったし、よく考えるとアマジとも歳が近い。
それに娘のゴマチの事を気にしている様子だった。
『むふふ、ロアジムのところに着くのが楽しみだね。ロアジムはもちろん、アマジ親子も屋敷にいれば面白いところが見れるかも。あの仏頂面のアマジがどんな反応をするのか、ウッシシ』
二人が対面する状況を想像して、知らずに顔がほころんでしまう。
もしかしたらゴマチには家族が増えるかもだけど。
良いか悪いかは別として。
「……さっきから何ブツブツ言ってんのさ、スミカ」
隣を歩くリブが、訝し気な目で私を見下ろしている。
「え? 私、声に出てた?」
ハッとしてリブに聞き返す。
「出てたって訳じゃないけど、何かを呟いてたわ。それと一人でニヤニヤしてるのが怖かったわよ。スミカは格好と胸はあれとして、見た目はいいんだから、もう少し気を付けた方が良いわよ?」
目を合わせながら、忠告なのか、中傷なのか、判断が難しい小言を言われた。
「ニヤけてたのは私の失態だけど、胸に関してはリブも大差ないからね」
ちょうど、私の目線の先にあるフラットな古墳を見て、そう切り返す。
この程度のレベルなら私の方が幾分高いし。ブラだって必要なさそうだし。
「スミカさん、リブ姉さんは抑えてるんですよ。実は」
「そうなんです。リブ姉はたくさんの布を巻いて目立たなくしてます」
「は?」
後ろを歩くマハチとサワラが、そんな重大な情報を暴露する。
「あまり言いたくはないけど、スミカよりはかなり大きいわよ? もちろんあの凶悪な姉妹には全く敵わないけどさ」
『えっ!?』
当の本人も両の手の平を胸において、若干恨めしそうに話す。
その真偽はわからないけど、なんでそんなに悔しそうなの?
「ふ、ふ~ん、だよね。私と一緒だね。あの二人には敵わないけど」
クイクイと、胸を持ち上げる仕草でリブに同意をする。
「え? 何が?」
「何がって、ナゴタとゴナタには勝てないから悔しいって事…… じゃないの?」
リブの表情をみて、途中から疑問形になる。
さっきよりも不機嫌な顔になってたから。
「そうじゃなくて、マハチとサワラは私の嫁候補なのよ? なのに、こんなものがあったらおかしいじゃないのさ、はぁ~」
溜息交じりに胸に置いた手に視線を落とす。
『…………そっちか、って』
いや、いや、リブの思考の方がおかしいよっ!
そもそもマハチとサワラを嫁にするのには性別が違うし、リブにしたって夫を気取りたいんだろうけど、そのリブは女だからねっ! なんで性別が逆転してんのさっ!
「あ、あのぉ~、殿方は、やっぱり大きい方がいいのでしょうか?」
私たちのやり取りを聞いていた、エーイさんがおずおずと会話に入ってくる。
「一般的にはそうだと思います。マハチとサワラも、スミカの仲間のナゴタとゴナタに憧れてましたから、あの凶悪な物体を真似するぐらいですしね」
みんなの胸部をチラ見するエーイさんに説明するリブ。
そんなエーイさんはなだらかながらも、一応それらしいものが確認できる。
「そ、そうですか、ならもう少し頑張らないとダメですわね…… はぁ~」
『え?』
頑張るって何を? 何か努力してたの?
もしかして、この世界にはいい方法があるの?
大豆食品や、マッサージ意外にも?
「あ、でもわたしは、全く無くても全然いいですよ? 女性の魅力はそれだけではないですから」
「わたしもです。洗濯板並みでも、強くてカッコいい女性に憧れますです」
次いで、マハチとサワラもフォローらしいものを入れる。
その例えに、私を見るのはかなり納得できないけど。
てか、そもそも男の娘の意見も参考にならないけどね。
「ま、まぁ、今は無いものの話をしてないで――――」
「私は普通以上にあるんだけど」
「「………………」」
埒が明かないので、何となしにまとめにかかると、リブがここぞとばかりに割って入ってくる。
それを聞いて、黙り込む私とエーイさん。
なんだよ、私たちと一緒にされたくないってか?
巨乳を毛嫌いしてたくせして、そこだけは主張しないで欲しいよ。
そんな、世の男性には聞かれたくない話で、盛り上が……ってはなく、
盛り下がったままでロアジムのお屋敷に到着した。
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