364 / 586
第10蝶 初デートは護衛依頼
種明かしと女ったらし
しおりを挟む「あ、そう言えば、スミカさま。これ、ありがとございました」
「わたしもありがとうです」
全員揃って腰を上げ、訓練場を後にしようとしたところで、マハチとサワラから白い球を見せられる。
「あれ? これって…… 『インスタント・Bフィールド』?」
見覚えのあるマジックアイテム見て聞き返す。
これはノトリの街のあしばり帰る亭で、シクロ湿原に向かう前に、宿に残るマハチたちの護身用として渡したマジックアイテムだ。光を放つ間は絶対障壁を張れて、ダメージの大小にもよるが、最低でも1時間は持続するアイテム。
「はい、そうです。スミカさまからいただいた魔法壁の魔道具です」
「あ、これを使ってナゴタとゴナタの攻撃を防いでたんだ」
見せられたアイテムからそう判断する。
さすがにリブたちでは、二人の猛攻を凌げる方法はなかっただろうから。
「はい、ただ効果は凄いですが、ナゴタさんたちには数分で壊されました」
今度はサワラが答えてくれる。
「えっ!? 数分? 数十分ではなくて?」
聞いた答えに驚き、思わず聞き返してしまう。
マジか?
ゲーム内でも数分で破壊するなんて、Aランク相当の武装じゃないと……
「本当みたいよ。魔道具使ってすぐに、そこの爆乳の姉の方から、私の魔法を止めてって言われたしね」
リブがナゴタとゴナタを見ながら、ジト目でそう教えてくれる。
「ん~ …………」
その際、爆乳はどっちもなんだけどってツッコミは控える。
恐らくリブは姉妹を許してはいるが、マハチとサワラの女装の切っ掛けになった、その巨大なものは許してはいないだろう。
自身には全くないものだから尚更だ。
「そうなんだ…… それには少し驚いたよ。比べるのもあれだけど、通常状態の私でもあれを無効にするのには骨が折れるからね」
「へぇ~、スミカでも苦労するんだ。さすがは二つ名を持つ冒険者って事か」
感心したように、今度は真面目な顔で二人に視線を這わす。
そんな話の渦中にいる、二人の姉妹は、
(ふう~、あれはお姉さまの魔道具だったのねっ!)
(だよなぁっ! やっぱりお姉ぇだなっ! あんなの持ってるのはっ!)
コソコソと、背中を向けて内緒話をしていた。
何やら私たちのやり取りを聞いて安心したらしい。
※※
「それじゃ、ナゴタとゴナタはまだ冒険者の訓練を続けるんだ」
近寄ってきた冒険者たちに笑顔を向ける二人に確認する。
何故か私の周りにはリブたちしかいないのは、あの実態分身のせいだろうか?
「はい、そうですね。まだ午前中なので」
「それにムツアカさんが午後から来る予定なんだっ!」
「ムツアカ? ああ、あのおじさま来るんだ。なんか面白そうだけど、私たちも午後は貴族街だから時間が無いんだよね。なら、みんなでこれを食べたら? もうすぐお昼だしね」
アイテムボックスより、大型コンロと各種、肉と野菜を出していく。
オークやトロール、虫の魔物も並べていく。
「え? こ、こんなにいいんですか、お姉さまっ!?」
「うわっ! トロールまであるよっ!」
その量と種類を見て目を見張る姉妹。
「うん、二人もみんなも頑張ってるし、訓練場を占領しちゃったしね。その労いと迷惑料を込めてって感じ」
冒険者へのご機嫌取りだという事を悟られないように答える。
「でも、訓練場の件は、お姉さまが気に病む事ではなく、元々私たちが……」
「うん、うん……」
「でも、少なくとも私も関わってるし、それにナゴタとゴナタを守るってのも、それに含まれるんだよね。これは私のわがままかもだけど」
申し訳なさそうに、もじもじとお互いを見やる二人にその訳を話す。
「お、お姉さまっ! そこまで私たち姉妹の事をっ!」
「お姉ぇっ!」
「な、なにっ!? わわっ!」
いきなり両脇から二人に腕を抱かれて驚く。
私の腕がムギュと、その柔らか物体に埋没し、その感触に硬直する。
「私たちは強くなって、もっとお姉さまのお役に立てるように頑張りますっ!」
「だからずっと一緒にいてくれよなっ! お姉ぇっ!」
私を挟み込んで、懸命な表情で話す姉妹。
何か、不安を感じる事があったのだろうか?
「ま、まぁ、私も二人が強い方が嬉しいけど、そこまで気合入れなくても大丈夫だよ。それに一緒にいるのは当たり前でしょう? 二人は私のパーティーメンバーなんだからね」
「はい、お姉さまっ!」
「うん、うんっ!」
理由は良く分からないけど、二人を励ますような感じで話をした。
それに対して、笑顔で快活に答える姉妹。
そのやり取りを、ここまで見ていた赤髪の魔法使いは……
「はぁ~、スミカって何気に女ったらしよね? そうやってこの乳姉妹だけではなく、ユーアちゃんやラブナちゃんもナジメさまも堕としたのね? それにマハチとサワラも……」
ブツブツと恨み言なのか愚痴なのか、聞こえるようにそんな事を呟いていた。
って、言うか、女たらしって何? 聞き捨てならないんだけど。
私もれっきとした乙女だし、リブと違って真っ平じゃないからね。
「さぁ、そろそろ孤児院に戻ろうか? ナゴタたちも引き続き頑張ってね。それとムツアカにもよろしく言っといて」
「はい、ありがとうございます。お姉さまっ!」
「うん、お姉ぇの事たくさん伝えておくなっ!」
こうして、ひと悶着はあったけど、リブたちはナゴタたちと和解して、私たちは冒険者ギルドを後にした。
そんな二組は傍から見ても、かなりの距離感を感じるけど、数日顔を合わせればきっと距離は近づくと思う。
だって、ナゴタとゴナタはもちろん、リブたちも私の大のお気に入りなのだから。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる