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第10蝶 初デートは護衛依頼
乱戦と黒白少女
しおりを挟む「これで決着よっ! 炎を纏いし大蛇よ、私の敵をその身の業火で焼き尽くせっ!『大炎蛇』っ!」
マハチとサワラに守られたリブが、炎の魔法を完成させる。
それはその名の通り、業火に包まれた大蛇だった。
鎌首をもたげるその姿は、優に30メートルを超えていた。
「なっ!? Dランクでこんな大規模な魔法をっ!」
「で、デカいっ! しかも囲まれたぞ、ナゴ姉ちゃんっ!」
その大きさに目を見張り逡巡するうちに、私たちはとぐろを巻くように炎の胴体で包囲されていた。これでは隙間を抜ける事も、ましてや突き破るなんて不可能だ。
「さ、さすがにこの規模では、私の能力でも抜け切る前に……」
「ワ、ワタシが倒してやるぞっ!」
唖然とする私をよそに、ゴナタが接近しハンマーを振るう。
ブンッ!
「あちちっ! どうだっ!」
熱さを感じ、慌てて後方に飛びのき、一撃を見舞ったであろう場所を確認する。
が、その箇所の炎は揺らいではいたが、すぐさま復活する。
「や、やっぱりダメかっ! もしかしたら消せると思ったんだけどなっ!」
私の隣に並び、その結果に悔しがるゴナタ。
確かに普通の炎上程度だったら、ゴナタなら消し飛ばせたかもしれない。
ただし、未だリブが舞っているって事は、その間は不可能だと感じる。
炎の密度もそうだが、舞い続ける限り威力も効果も持続するからだ。
『本当に厄介ねっ! この舞い踊る継続魔法と、魔道具の障壁は……』
正直、厄介を通り越して脅威ともいえる。
それとリブの実力を見誤ってた事も相まって、今の状況を作り出してしまった。
「ナゴ姉ちゃんっ! 大蛇の包囲が狭くなってきたぞっ!」
「うん、わかってるわっ! わかってるけど、ちょっと待っててっ!」
焦るゴナタに同じように、若干取り乱して返事してしまう。
ただしそれはゴナタとは違い、他の理由があったからだ。
何かが引っ掛かる。
そして何かを見落としている。
リブが炎の蛇を操って、仲間毎、私たちを攻撃する事はわかっている。
それにマハチとサワラが巻き込まれても、障壁があるから安全と、見越している事も。
『………………』
チラと、大蛇を操るリブを見る。
そんなリブは、マハチとサワラの後方で舞い踊り、範囲外で操作をしている。
『………………』
次にマハチとサワラの二人を見る。
二人の両の手には、あの光る魔道具が握られていた。
そしてしきりに手の中のそれと、私たちを気にしている。
「もしかして…… ゴナちゃんっ! あの魔法壁を全力で攻撃してっ!」
「おうっ! わかったぞ、ナゴ姉ちゃんっ!」
ある部分に違和感を発見し、それを確かめる為にゴナタに頼む。
「おりゃりゃりゃ――――っ!!!!」
ドガガガッ――――!!!!
ゴナタが能力を使い、ハンマーの連撃をサワラの障壁に叩きつける。
「このぉっ――――!!!!」
ズガガガガガガガッ――――!!!!
私も負けじと、蹴り足をマハチの障壁に繰り出す。
ただし、業火を纏う大蛇の巨体が、もう目前まで迫って来ていた。
背中には、かなりの熱量を感じる。
「あ、あ、あ、サワラっ! そっちはどうですかっ!」
「ま、まさか、こんなに早く、マハチっ! もうダメですっ!」
突如、障壁の向こうの二人が慌て始める。
「ゴナちゃんっ! もう少しだわっ!」
「うん、わかったっ! ナゴ姉ちゃんっ!」
その二人の狼狽ぶりを見て、更に攻撃速度と威力を上げる。
私の予測が正しいならば、これで、
ドガガガッ――――!!!!
ズガガガガガガガッ――――!!!!
「も、もう、殆ど光が………… あっ!」
「う、嘘ですっ! さっきまでは眩しかった程なのに…… ああっ!」
パァンッ! ×2
二つの破裂音と共に、二人は顔を見合わせ、手の中の物を呆然と見せあう。
その手には白い球体が残されていた。
それは光が無くなり、障壁の効力を失った魔道具の残骸だった。
「ナ、ナゴ姉ちゃんっ! 壊せたのはいいけど、熱いっ!」
「リブっ! 魔道具は壊れたわっ! もう魔法を止めなさいっ!」
目前に迫る業火を見やり、未だに舞い続けるリブに叫ぶ。
「はぁ、はぁ、そんな嘘に引っ掛かる訳ないでしょっ! その魔道具はそんな簡単に壊れる訳ないのよっ! もらい主が英雄さまなんだからさっ! いくらあなたたちが強いと言っても…… はぁ、はぁ……」
大蛇を維持する限界が近いのか、息を乱しながらも私の忠告を否定する。
その言い分だと、かなり魔道具の持ち主を信じているようだった。
だけど、
「リブ姉さんっ! もう魔道具は壊れてしまいましたっ!」
「リブ姉っ! 熱いから止めてですっ!」
障壁が破られ、私たちと同じように、大蛇の熱気を肌に感じて、叫ぶマハチとサワラ。
「えっ!? 本当にっ! そんな短時間でっ!? 数分しかたってないのにっ!?」
熱さに悲鳴を上げる二人の話を聞いて、驚愕するリブ。
その話を聞くと、私の予測が当たっていた事がわかる。
最初、あの魔道具は光を放っていた。二人の手の中で眩いくらいに。
それが、私とゴナタの一撃の後で、ほんの少し光が薄れたのを感じた。
なので、あの魔道具には耐久値か、時間制限があるのだと。
その確認の為に、破壊できない壁に対して何度も攻撃を繰り返したのだから。
その結果が、光りと共に効力を失った、あの魔道具だった。
『そもそもが、あんな強力な魔法壁を、条件なしで張り続けれるわけがないわ。それにサワラが、「あと数十分は安心」って言ってたのも手掛かりになったわね。 にしても……』
ここまでの状況は、正直予測できなかった。
まさかの模擬戦が、ここまで接戦になるなんて思いもよらなかった。
私たちの戦い方を、あそこまで対策してるとは思わなかった。
リブがあそこまでの実力だとは、想像できなかった。
あんな強力な魔道具があるなんて知らなかった。
『戦いに於いて、知らぬ存ぜぬなんて意味がないのはわかっている。それは人間相手でも魔物相手でも同じ。足りないものは経験と知識で補うのだから』
だと言うのに、高ランクの私たちの、この体たらく。
誰が予想できたであろうか。
お姉さまだったら、きっと――
「―――― いや、今はここを抜け出す事を考えないと。 リブっ! このままだとあなたの仲間もろともタダではすまないわよっ!」
炎の大蛇の向こうにいるリブにそう叫ぶ。
仲間の為に戦っているなら、それは本末転倒だろうから。
「わ、わかってるわっ! けど、大炎蛇を止めるのも魔力を使うのよっ! 今はその魔力が足りないわっ!」
リブはそう叫び、足元をフラフラさせながら舞っていた。
炎の大蛇を何とか止めようと。
しかし、その大炎蛇は、徐々にだが私たちに向けて包囲を狭めてきている。
恐らく、最初に操った、その惰性で進み続けているのだろう。
それをリブは止めようと、必死に舞い続けている。
「リブ姉さんっ! それ以上無理すると、魔力が切れて意識がっ!」
「リブ姉っ! 意識が切れても爆発するですっ!」
「えっ!? そうなのかっ!」
リブに向かい叫ぶ、マハチとサワラの言葉を聞いて仰天するゴナタ。
「そ、そうなんですっ! あの大炎蛇は炎を圧縮してその姿を保ってるんですっ!」
「なので、術者が魔力切れや、意識が無くなると――――」
「一気に膨らんで、爆発するって話なのね?」
「は、はいっ!」
「はいですっ!」
私はマハチとサワラの説明を引き継ぎ、その答えに肯定する二人。
「ナゴ姉ちゃんっ! ワタシが全力でぶっ叩けば、その間を抜けられるかもしれないぞっ! マハチとサワラをナゴ姉ちゃんが抱いて走ってさっ!」
「却下よ、ゴナちゃん。それじゃあなたが逃げられないでしょ? なら最初から、私がみんなを抱いて抜ける方がいいわね」
『それでも全員無事で、とはいかないけど……』
そう、心の中で付け足す。
それか、『あの限界を超えた力を出せれば』とも、脳裏をよぎる。
だがあれは自在に出せるものではないし、仮に失敗すれば反動で動けなくなる。
「どれもこれも、代償が付きまとう。でも、これが一番最善…… なら行くしかないわね」
目前まで迫る熱と、炎の大蛇を見て決断する。
この作戦が、今を打開する妙案だと信じて。
「よし、行くわよっ! ゴナちゃんと二人ともっ!」
「うんっ! ナゴ姉ちゃんっ!」
「は、はいっ!」
「はいですっ!」
私は3人の返事を聞いて下半身に力を入れる。
あの力が出せれば、少しの火傷ですむだろうと考えて。
「あ、あああっ! わ、私の大炎蛇が小さくなってるわっ!」
「えっ!?」
今すぐ飛び込むタイミングで、リブが声高に叫ぶ。
「なっ!」
それがどうなっているかはわからないが、リブの言う通り、私たちを囲む大炎蛇が徐々に小さくなってきていた。
「な、何がっ?」
いや、小さくなってるっていうよりかは、無理やり圧縮されているように見える。
轟々と燃え盛り、蛇の形を保ったまま、その姿が縮小し始める。
やがて、それは
プシュンッ
と、間の抜けた音の後、小石ぐらいの大きさまで縮まり、そのまま消滅する。
「「「は? ………………」」」
助かったのはいいが、何がなんだかわからない。
リブも慌てている様子から、術者本人も予想外の事だったのだろう。
「だ、誰だ、お前はっ! うぎゃっ!」
「えっ!?」
唐突に、ゴナタの驚愕する声と悲鳴が聞こえる。
「だ、誰ですかっ! ぎゃんっ!」
「な、なんで黒いですっ!? もぎゃっ!」
次いで、マハチとサワラの悲鳴も響き渡る。
「い、一体今度は何だって言うのっ?」
私はすぐさま周りを見渡す。
「ゴナちゃん?」
を見ると、顔から倒れ込んでお尻を突き出し、ピクピク動いている。
無事でとはいかないが、生きているのは確認できた。
「マハチとサワラ? なっ!?」
の、二人は、謎の黒い少女に小脇にかかえられて、リブに向かって移動している。
グッタリしている事から気を失っているようだ。
「な、何よ、あの速さはっ! それに何者なのっ!」
一瞬で3人もの冒険者を戦闘不能にした、謎の存在に驚愕する。
動きもそうだが、私たちに気取られる事なく接近した事実に。
「何者って、随分と他人行儀なのねぇ? きゃははっ!」
「えっ! いつの間にっ!?」
そして驚く私の前には、黒ではなく、白い少女の姿があった。
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