剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第10蝶 初デートは護衛依頼

ロンドウィッチーズとシスターズの戦い

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「そ、それでは、バタフライシス――――」

「私たちは3人はロンドウィッチーズよ」

「え?」

「そっちはどうせ有名人なんだから、私たちだけで紹介はいいでしょう?」

 若い冒険者の方が模擬戦開始の号令をかける、その最中で口を挟むリブ。

「い、いや、でも、しかし……」
「いいですよ、それで。引き受けてくれて、ありがとうございました」

 私は、あたふたし始めた、冒険者を庇って間に入る。

「わ、わかりました。それではロンドウィッチーズとの模擬戦開始ですっ!」

 開始の宣言をして、訓練場脇に移動する冒険者の方。
 その際に、チラチラと私たちを見ながら走って行った。

 目を離した隙に、戦闘が終わるとでも思っているのだろうか?


「普通の相手だったら、確かにそんな結末だったかもね」
「え? 何か言ったかい? ナゴ姉ちゃん」

 私の呟きに気付いたゴナタ。
 武器を出しながら、横目で聞いてくる。

「うん、簡単な相手じゃないって思っただけよ」

 素直に心の内を話す。

「やっぱりナゴ姉ちゃんもそう思うんだ。だったら本物だなっ!」
 
 ニカと笑顔で答えるゴナタ。
 私と同じように許容できず、相手を憎悪していた負の感情が見えなかった。


『ふふ、こういうところはお姉さまに似てるわね。敵意を向ける相手との戦いも楽しそうだし、それに吸収しようとしているところも』

 そんなゴナタを見て微笑んでしまう。
 ある意味では、それも同じ素質なんだと。


「なにヘラヘラしてんのさっ! そのニヤけた顔を恐怖に歪ませてやるわっ! マハチ、サワラっ! 行くわよっ!」

「は、はいっ! リブ姉さんっ!」
「はいですっ!」 

 軽口を叩く、私たちの態度が気に障ったのだろう。
 リブの掛け声とともに、3人が一斉に詠唱を始める。


「え? じゃなくて、同時に踊っている?」

 3人とも詠唱らしきものを小声で唱えながら、それぞれが舞踏の様に舞っている。


 リブは高身長を生かしてか、全身を使って軽やかに大きく舞っている。

 もう一人の金髪の少女マハチは、2本の杖を器用にクルクル回しながら自分も回っている。

 最後の青髪の少女サワラは、手を叩きながらのそのそと歩いている。
 それは舞踏って言うか、お祭りの際に踊るあれに似ていた。


「何だあれ?」

 その光景を目の当たりにして、ゴナタから出た言葉がそれだった。

「さぁ? でも口元が動いているから、詠唱だとは思うけど……」

 妹のゴナタに答えながらも、私も同じ気持ちだった。

 なぜ舞う必要があるのか? 
 どうして自らの隙をさらけ出すのか。
 
 もしかして、油断を誘う為? 何て、勘ぐってしまう。
 それ程に、無意味で無防備に見えたからだ。


「あれ? ナゴ姉ちゃん、足元がっ!」
「え? これって、砂に変化っ!?」
「うわっ! 今度は砂が舞って、前が見えないぞっ!」
「次は風の魔法で、土を砂に変えたものを飛ばしているんだわっ!」 

 ゴナタと二人、濃密な砂嵐の中で戸惑う。
 その影響で、さっきまで見えていた相手さえ見失う。 

 ただ、この砂嵐に攻撃と言った威力はなかった。
 砂地で足場が乱れ、砂塵で視界を奪われただけだ。
 恐らくそれが、本来の狙い何だろう。 
 

『多少は足は取られるけど、このぐらいなら何とかなるわ。ゴナちゃんも問題ないはず』

 ゴナタが愛用のハンマーを、脇に構えたのを見て安心する。

「おりゃ~っ! こんなもの吹き飛ばしてやるっ!」

 ブゥンッ

 ゴナタが自身を超える巨大なハンマーを横薙ぎに振り抜く。
 ハンマーの軌跡に砂塵が巻き込まれ、そのまま掻き消える。


「よし、次は私」

 タンッ

 柔らかい足元を蹴って、リブたちがいるであろう方向に飛び込む。

 途端、

「えっ!? まさか、罠っ!」

 砂塵を抜ける直前で急停止して、後方に跳躍する。

 その理由は――

「こ、これは炎? が私たちを包囲している?」

 それは、強烈な熱量を全身に感じての事だった。


「おしいっ! もう少しで大火傷だったのにさっ! さすがはBランク、憎いけど簡単には引っ掛からないのねっ!」

 砂塵の向こうでは、悔しがるリブの叫びが聞こえる。
 それを聞いて、炎の壁はリブが設置したものだとわかる。


「そうなると、残りのマハチとサワラが足止めしているのね。風、そして土魔法を操って。それにしても、この砂嵐はいつまで続くのかしら?」

 ゴナタの方を見ると、振り回したハンマーの風圧で視界が開ける。
 ただそれは一瞬の事で、すぐさま砂嵐に飲まれて姿が見えなくなる。

 私の周囲の砂嵐も、途切れる事が無かった。


「もしかして、あの舞踏らしきものは、継続して魔法を唱えている? 舞い続ける限り効果が持続できる踊りなの?」

 大規模な砂嵐で、今は見えないリブたちの舞を思い出す。

 そもそもが、接近戦を主とする私たちに、あそこまで無防備な姿を晒すには違和感があった。魔法使いだけのパーティーであれば、尚更異様だと感じていた。

 逆に、罠とさえ勘ぐって、攻撃を躊躇してしまう程に……


「その理由がこれなのね。絶え間なく魔法を放ち続けて、距離を詰めさせず、反撃の糸口すら掴ませない。それと私たちの事を、かなり調べてきてるみたいね」

 足場を砂地に変えての、私の機動力の減退。
 ゴナタの視界を奪っての、怪力の封印。

「それと、炎の壁で範囲を狭めてるから、私の俊敏の能力が生かしきれないわ。これは用意周到というか、そもそもが私たちに合わせての戦略だわ」

 恐らくだけど、あの3人はこの日の為に魔法も技も修練してきたのだろう。
 この日を見越して、日々研鑽を続けてきたんだろう。


「そうは言っても、私たちにも譲れないものがある。こんな事でリブたちを許せるわけないし、そもそも私たちは何も出していないわ。それはゴナちゃんだって――――」

 私はゴナタがいるであろう方向に目を向ける。
 あの妹ならば、こんなもの窮地でも劣勢でも、何でもない。


「んんんんっ! うりゃりゃりゃっ! まとめてぶっ飛べっ!」

 砂嵐の向こうから、ゴナタの絶叫にも似た咆哮が響いてきた。
 それと同時に砂塵が巻き上げられ霧散し、すぐさま視界がクリアになる。

 ゴナタは特殊能力を使い、ハンマーを振り回す風圧だけで魔法を消し飛ばしていた。


「ふふ、さすがはゴナちゃんね。なら、また砂塵が覆う前に私もいいところ見せないとね」

 シュッ

 私は燃え盛る炎の壁に向かって、疾走する。

「ふっ」

 シュ― ン

 俊敏の特殊能力を使い、更に飛躍的に加速する。
 目指すは、炎の向こう側にいるリブたち3人。

 このぐらいの熱量ならば、自身に燃え移る前に突破できるはず。

 シュパッ!

 僅かに熱を感じながら、燃え盛る業火の壁を突き抜ける。

「いたわっ!」

 見える20メートル先には、マハチとサワラが。
 その二人の後ろには、未だ舞っているリブの姿があった。


「一先ず、この二人を戦闘不能に、ふっ! ――――」

 両剣を前列の二人に向かって横薙ぎに振るう。
 長柄の部分を叩きつけ、戦闘不能にするために。

 ところが、

 ガギィンッ

「え?」

 私の両剣が二人に届く前に、見えない何かに防がれた。

「魔法壁っ!? でも、この強度はまるで――――」

「ナゴ姉ちゃ~んっ! どうしたんだ~っ!」

 後方から走ってくるゴナタ。

「ゴナちゃんっ! あなたも攻撃してみてっ!」

 考えるのを止めてお願いする。

「元からそのつもりだぞっ!」

 ブンッ

 すぐさま駆け寄り、ハンマーを振り下ろすゴナタ。

 ガギィッ

「え? 何だこれっ!? 今度は能力でっ!」

 私と同じように、見えない壁に攻撃が弾かれ驚く。
 今度は大きく振りかぶり、能力でハンマー叩き込む。

 が、

「はぁっ!? これってまるでお姉ぇと同じ魔法壁なのかいっ!」

 それさえも容易く弾かれ驚愕し、私と同じ考えに至るゴナタ。
 ただそれを認めることは出来ない。


「そ、そんな訳ないわっ! お姉さまと同じ魔法を使えるなんてあり得ないっ!」
「そうだぞっ! こいつらがお姉ぇと一緒なはずないんだっ!」

 ズガガガガガッ――――!!
 ドガガガガガッ――――!!

 ガムシャラにマハチとサワラを攻撃する。
 二人を守る魔法を容認できなくて何度も叩き込む。


「はぁ、はぁ、さ、さすがのあなたたちでも、これは破れないのですね」
「はぁ、これなら数十分は安心です。後はリブ姉が決着をつけてくれるです」

「くっ!」
「むっ!」

 そんな障壁の向こうでは、息を乱しながらも不敵な笑みを浮かべる二人。

 今は、マハチとサワラは魔法を発動させる舞も、詠唱も唱えていない。
 恐らくは、先ほどの大規模な魔法で魔力が尽きたものだと思える。

 ただし、その二人の手には、眩く光る丸い物が胸の前で大事に握られていた。
 まるで、その発光するものが、あたかもこの状況を作り出しているかのように。


『ま、まさか、その魔道具でこれを作り出している? お姉さまと同じ強度の魔法壁をっ!? そんなものは聞いたことないわっ!』

 私はその事実に驚愕し、唖然とする。
 これ程の魔道具が存在しているなんて、と。

 お姉さまの魔法を再現できる、そんなものがあるだなんて…… とも。 


「これが最後の攻撃よっ! これで決着だわっ!」

 マハチとサワラの後ろでは、リブが魔法を完成させていた。
 それはDランクの冒険者とは思えない程の、大規模の炎の魔法だった。

 その魔法が、戸惑う私たち二人に襲い掛かってきた。
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