剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
355 / 586
第10蝶 初デートは護衛依頼

それぞれの一日の始まり

しおりを挟む



「おはよ~。昨日はよく眠れた?」

 2階の寝室から降りて、食堂でモーニングティーを満喫している、ロンドウィッチーズの面々に挨拶をする。

「………………なか――わよ」
「え? リブ良く聞こえないんだけど?」

 ボソボソと何かを呟いた、リブの近くまで寄っていき耳を傾ける。

「一体何なのよこの建物はっ! お風呂もあるしっ 肌ツヤツヤだしっ! 髪だってサラサラなのよっ!? そしてお風呂上がりの冷たい飲み物まであるしっ!」

「そ、そう、それは良かったね、うん」

 リブのテンションについていけず、恐る恐る答える。

「そんなんだから、逆に興奮して寝れなかったわよっ! しかもこの建物の所有者がスミカっていうんだもんっ! もう、どこから突っ込めばいいかわからないわっ!」

「そ、そうなんだ。マ、マハチとサワラもそんな感じ?」

 喜んでいるのか、怒っているのか判断できず仲間の二人に逃げる。
 
「わたしはぐっすり眠れました。ありがとうございます。ただこの家には驚きましたが、ロアジムさんの件もあるので、質問は控えています」

「わたしもガマンしてます。うずうずしてます」

「そ、そうなんだ。ま、まぁ朝ご飯まではゆっくりしててよ。もう、みんなも準備に取り掛かるはずだから。私はエーイさんたちにも挨拶してくるよ」 

 三人から逃げるように、そそくさとキッチンに向かう。
 リブはいいとしても、マハチとサワラの目が恐いんだもん。

 だって普通は、ガマンしてるってアピールしないし。



「おはようございます。エーイさん」

 広くきれいな台所に入り、盛り付けをしていたエーイさんに挨拶する。
 他のお手伝いさんたちも、調理や食器の準備で忙しそうだった。


「あら? おはようございます、スミカさん。昨夜はこんな快適なお屋敷に泊めていただき、感謝ですわ」

 作業の手を止めてにっこりと挨拶される。
 リブたちみたく変な空気にならなくて良かった。


「どう? 何か足らないものとかある? 食器もそうだけど、包丁とか調味料とか」

 エーイさんも含めて、みんなを見渡しながら聞いてみる。

「そうですね、今のところは特に問題ないですわ。 元々私たちが持参してきた物もありますし、それにユーアちゃんが昨日も買い出しに行ってくれてたらしいので」

 エーイさんが代表してかそう答える。

「あ、そう言えば、最近毎日買い物に行ってたね。昨日もゴマチと一緒に買い出ししてたみたいだし」

 ユーアの昨日の話を思い出す。

「あ、あのぉ、ちょっとお聞きしたいのですが、ゴマチさんはユーアちゃんと仲がよろしいのですか? それとスミカさんも?」

 何やら遠慮気味に聞いてくるエーイさん。
 気のせいか、さっきよりも幾分表情が固く見える。


「うん、仲いいよ。そもそもゴマチはユーアと友達になりたがってたからね。それと私とラブナにも最近は懐いてくれたし」

 何となく不思議に思いながらも、正直に話す。
 別に隠す必要もないし、ユーア本人に聞けばわかる話だから。

「そ、そうですか、みなさん仲がよろしいのですわねっ! それと今日は午後からロアジムさんのお屋敷に行きますわよね? それまでに色々とお仕事片付けてますわ」

 数秒前とは打って変わって笑顔に戻り、急に仕事を再開するエーイさん。
 今度は鼻歌交じりに盛り付けを始める。


『? この人も良く分からないよね。人は良さそうだけど、言葉遣いと振る舞いが一般人のそれじゃないし…… もしかしてロアジムの愛人だったり? ん? って言うか、ゴマチを気に掛けてるから父親のアマジの方かな? にっしし』

 何て、下衆な事を考えてニヤニヤしてしまう。

 異性自体は好きじゃないけど、こういった話は嫌いじゃない。
 そこに、私とユーアが絡まなければだけど。

「まぁ、それも午後になればわかるかな?」

 笑みを浮かべたままのエーイさんを尻目に私は台所を離れる。
 それにこれ以上はお仕事の邪魔になっちゃうしね。


※※


「そう言えば、昨日は顔出さなかったね、ナゴタとゴナタ」

 パンを取る手を止めて、ラブナに聞いてみる。

 因みに今はお食事の最中。
 子供たちもお手伝いした朝食をみんなで食べている。


「そうね、もしかして疲れて帰っちゃったとか? それか夜遅くなったから寄れなかったのかもね? こっちは子供たちもいるし」

 特に気にする風でもなく、サラダをお皿に移しながら答える。

「うん、前者はなさそうだけど、後者はありそうだね」
「うむ。特に姉のナゴタはそう言ったのを気にするじゃろうなぁ」
「今日は来るかな? ナゴタさんたち?」

 私、ナジメ、ユーアの順に、昨夜はいなかった姉妹を気に掛ける。
 やっぱり全員集合した方が賑やかだし、ご飯も美味しいからね。


「……その二人が最後のメンバーなのね?」
「ん? そうだけど」

 私たちの話を隣で聞いていたリブが尋ねてくる。

「それで、その二人はどんな感じなの? また変な人たちじゃないわよね?」

 ジト目でリブから視線を向けられる。
 随分と私のパーティーメンバーがトラウマになってるらしい。


「全然変じゃないよ。寧ろ常識人だし、礼儀正しいし。そうだね、え~と、一言で言えば…… 凶悪かな?」

 みんなを見渡して同意を求める。
 その一言の凶悪の後ろに『な胸を持っている』って付け忘れたけど。

「そうじゃな、ねぇねの例えは的を射ているようじゃなっ! むふふ」
「もうスミ姉たらっ! それ合ってるけど、本人に聞かれたら怒られるわよっ!」
「スミカお姉ちゃん? きょうあくって?」

 それを聞いた、ナジメとラブナはすぐに意味を分かってくれた。
 ただユーアだけは首を傾げキョトンとしている。


「きょ、凶悪っ!? 言うに事欠いて最後は凶悪な仲間がいるのっ!? その呼び名に相応しい強さの持ち主だって言うの? あわわわ……」

 さっきの半目から一転、今度は怯えだすリブ。
 そして続けて口を開く。

「で、でもさっ! いくら凶悪って言っても、いつもそんな事してるわけじゃないでしょ? 私からちょっかい出さなければ大丈夫よね? ね?」

 縋りつくような目で、私に確認する。

「え? いつもそんな事してるよ? だって目立っちゃうんだもん。特に激しい(動きの)時とか、武器を(胸の前で)構えた時とかヤバいもん」

「うむ。うむ」
「ま、まぁ、そうよね」
「?」

 追記での説明に頷くナジメとラブナ。
 ユーアは可愛いからいいか。

 それを聞いたリブは、

「い、いつも街中から目立つほどに凶悪って事っ!? しかも激しく武器を使うっ!? それでいて、スミカの仲間だって事でしょ? もうそんな仲間恐怖しか感じないわっ!」

 背中を向けて青い顔で、ブツブツとそんな独り言を呟いていた。


――――――



「それじゃ、行ってきます。帰りはお昼頃になるから、その後でエーイさんたちは、ロアジムの屋敷に私と出掛けるからね。それとナジメは工事の方をよろしく」

「はい、わかりましたわ」
「うむ。工事の方はわしが監督をするから心配無用じゃっ!」 

「あ、後、時間はわからないけど、ビエ婆さんたちも来る予定だからユーアたちも覚えておいてね」

「わかりましたっ! スミカお姉ちゃん」
「了解よっ! スミ姉っ!」
「は、はい、わかりました。スミ神さま」

 見送ってくれたみんなに連絡事項を伝えて、手を振って孤児院を後にする。
 私は午前中、冒険者ギルドに依頼報告に行く予定だ。

 するとすぐさま、私の背中に声を掛けてくる三人が。

「ちょっと待ってスミカ、私たちも行くからねっ!」
「はい、色々と報告しないといけないので」
「わたしたちも行くです」

 それは、リブとマハチとサワラの三人だった。

「あっ! リブたちも報告に行かないとダメなんだ?」

 隣に並んだリブに聞いてみる。

「当り前じゃないの。そもそも最初は私たちが依頼を受けたんだもの。ただ今回の依頼は未達成になっちゃうんだけどさ、はぁ~」

 苦笑しながら溜息を吐く。

「そうなんだ。それでも行かなくちゃダメなんだ」
「そりゃそうよ。それがお仕事なんだもの、だからきちんと報告しなきゃね。スミカじゃないんだから」
「ふ~ん、冒険者は大変だね」
「………………ムカッ」

 
 そんなこんなで女4人、冒険者ギルドに報告に行くのであった。
 その先で、ちょっとしたイザコザが起こる事を知らずに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...