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第10蝶 初デートは護衛依頼
それぞれの一日の始まり
しおりを挟む「おはよ~。昨日はよく眠れた?」
2階の寝室から降りて、食堂でモーニングティーを満喫している、ロンドウィッチーズの面々に挨拶をする。
「………………なか――わよ」
「え? リブ良く聞こえないんだけど?」
ボソボソと何かを呟いた、リブの近くまで寄っていき耳を傾ける。
「一体何なのよこの建物はっ! お風呂もあるしっ 肌ツヤツヤだしっ! 髪だってサラサラなのよっ!? そしてお風呂上がりの冷たい飲み物まであるしっ!」
「そ、そう、それは良かったね、うん」
リブのテンションについていけず、恐る恐る答える。
「そんなんだから、逆に興奮して寝れなかったわよっ! しかもこの建物の所有者がスミカっていうんだもんっ! もう、どこから突っ込めばいいかわからないわっ!」
「そ、そうなんだ。マ、マハチとサワラもそんな感じ?」
喜んでいるのか、怒っているのか判断できず仲間の二人に逃げる。
「わたしはぐっすり眠れました。ありがとうございます。ただこの家には驚きましたが、ロアジムさんの件もあるので、質問は控えています」
「わたしもガマンしてます。うずうずしてます」
「そ、そうなんだ。ま、まぁ朝ご飯まではゆっくりしててよ。もう、みんなも準備に取り掛かるはずだから。私はエーイさんたちにも挨拶してくるよ」
三人から逃げるように、そそくさとキッチンに向かう。
リブはいいとしても、マハチとサワラの目が恐いんだもん。
だって普通は、ガマンしてるってアピールしないし。
「おはようございます。エーイさん」
広くきれいな台所に入り、盛り付けをしていたエーイさんに挨拶する。
他のお手伝いさんたちも、調理や食器の準備で忙しそうだった。
「あら? おはようございます、スミカさん。昨夜はこんな快適なお屋敷に泊めていただき、感謝ですわ」
作業の手を止めてにっこりと挨拶される。
リブたちみたく変な空気にならなくて良かった。
「どう? 何か足らないものとかある? 食器もそうだけど、包丁とか調味料とか」
エーイさんも含めて、みんなを見渡しながら聞いてみる。
「そうですね、今のところは特に問題ないですわ。 元々私たちが持参してきた物もありますし、それにユーアちゃんが昨日も買い出しに行ってくれてたらしいので」
エーイさんが代表してかそう答える。
「あ、そう言えば、最近毎日買い物に行ってたね。昨日もゴマチと一緒に買い出ししてたみたいだし」
ユーアの昨日の話を思い出す。
「あ、あのぉ、ちょっとお聞きしたいのですが、ゴマチさんはユーアちゃんと仲がよろしいのですか? それとスミカさんも?」
何やら遠慮気味に聞いてくるエーイさん。
気のせいか、さっきよりも幾分表情が固く見える。
「うん、仲いいよ。そもそもゴマチはユーアと友達になりたがってたからね。それと私とラブナにも最近は懐いてくれたし」
何となく不思議に思いながらも、正直に話す。
別に隠す必要もないし、ユーア本人に聞けばわかる話だから。
「そ、そうですか、みなさん仲がよろしいのですわねっ! それと今日は午後からロアジムさんのお屋敷に行きますわよね? それまでに色々とお仕事片付けてますわ」
数秒前とは打って変わって笑顔に戻り、急に仕事を再開するエーイさん。
今度は鼻歌交じりに盛り付けを始める。
『? この人も良く分からないよね。人は良さそうだけど、言葉遣いと振る舞いが一般人のそれじゃないし…… もしかしてロアジムの愛人だったり? ん? って言うか、ゴマチを気に掛けてるから父親のアマジの方かな? にっしし』
何て、下衆な事を考えてニヤニヤしてしまう。
異性自体は好きじゃないけど、こういった話は嫌いじゃない。
そこに、私とユーアが絡まなければだけど。
「まぁ、それも午後になればわかるかな?」
笑みを浮かべたままのエーイさんを尻目に私は台所を離れる。
それにこれ以上はお仕事の邪魔になっちゃうしね。
※※
「そう言えば、昨日は顔出さなかったね、ナゴタとゴナタ」
パンを取る手を止めて、ラブナに聞いてみる。
因みに今はお食事の最中。
子供たちもお手伝いした朝食をみんなで食べている。
「そうね、もしかして疲れて帰っちゃったとか? それか夜遅くなったから寄れなかったのかもね? こっちは子供たちもいるし」
特に気にする風でもなく、サラダをお皿に移しながら答える。
「うん、前者はなさそうだけど、後者はありそうだね」
「うむ。特に姉のナゴタはそう言ったのを気にするじゃろうなぁ」
「今日は来るかな? ナゴタさんたち?」
私、ナジメ、ユーアの順に、昨夜はいなかった姉妹を気に掛ける。
やっぱり全員集合した方が賑やかだし、ご飯も美味しいからね。
「……その二人が最後のメンバーなのね?」
「ん? そうだけど」
私たちの話を隣で聞いていたリブが尋ねてくる。
「それで、その二人はどんな感じなの? また変な人たちじゃないわよね?」
ジト目でリブから視線を向けられる。
随分と私のパーティーメンバーがトラウマになってるらしい。
「全然変じゃないよ。寧ろ常識人だし、礼儀正しいし。そうだね、え~と、一言で言えば…… 凶悪かな?」
みんなを見渡して同意を求める。
その一言の凶悪の後ろに『な胸を持っている』って付け忘れたけど。
「そうじゃな、ねぇねの例えは的を射ているようじゃなっ! むふふ」
「もうスミ姉たらっ! それ合ってるけど、本人に聞かれたら怒られるわよっ!」
「スミカお姉ちゃん? きょうあくって?」
それを聞いた、ナジメとラブナはすぐに意味を分かってくれた。
ただユーアだけは首を傾げキョトンとしている。
「きょ、凶悪っ!? 言うに事欠いて最後は凶悪な仲間がいるのっ!? その呼び名に相応しい強さの持ち主だって言うの? あわわわ……」
さっきの半目から一転、今度は怯えだすリブ。
そして続けて口を開く。
「で、でもさっ! いくら凶悪って言っても、いつもそんな事してるわけじゃないでしょ? 私からちょっかい出さなければ大丈夫よね? ね?」
縋りつくような目で、私に確認する。
「え? いつもそんな事してるよ? だって目立っちゃうんだもん。特に激しい(動きの)時とか、武器を(胸の前で)構えた時とかヤバいもん」
「うむ。うむ」
「ま、まぁ、そうよね」
「?」
追記での説明に頷くナジメとラブナ。
ユーアは可愛いからいいか。
それを聞いたリブは、
「い、いつも街中から目立つほどに凶悪って事っ!? しかも激しく武器を使うっ!? それでいて、スミカの仲間だって事でしょ? もうそんな仲間恐怖しか感じないわっ!」
背中を向けて青い顔で、ブツブツとそんな独り言を呟いていた。
――――――
「それじゃ、行ってきます。帰りはお昼頃になるから、その後でエーイさんたちは、ロアジムの屋敷に私と出掛けるからね。それとナジメは工事の方をよろしく」
「はい、わかりましたわ」
「うむ。工事の方はわしが監督をするから心配無用じゃっ!」
「あ、後、時間はわからないけど、ビエ婆さんたちも来る予定だからユーアたちも覚えておいてね」
「わかりましたっ! スミカお姉ちゃん」
「了解よっ! スミ姉っ!」
「は、はい、わかりました。スミ神さま」
見送ってくれたみんなに連絡事項を伝えて、手を振って孤児院を後にする。
私は午前中、冒険者ギルドに依頼報告に行く予定だ。
するとすぐさま、私の背中に声を掛けてくる三人が。
「ちょっと待ってスミカ、私たちも行くからねっ!」
「はい、色々と報告しないといけないので」
「わたしたちも行くです」
それは、リブとマハチとサワラの三人だった。
「あっ! リブたちも報告に行かないとダメなんだ?」
隣に並んだリブに聞いてみる。
「当り前じゃないの。そもそも最初は私たちが依頼を受けたんだもの。ただ今回の依頼は未達成になっちゃうんだけどさ、はぁ~」
苦笑しながら溜息を吐く。
「そうなんだ。それでも行かなくちゃダメなんだ」
「そりゃそうよ。それがお仕事なんだもの、だからきちんと報告しなきゃね。スミカじゃないんだから」
「ふ~ん、冒険者は大変だね」
「………………ムカッ」
そんなこんなで女4人、冒険者ギルドに報告に行くのであった。
その先で、ちょっとしたイザコザが起こる事を知らずに。
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