剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第10蝶 初デートは護衛依頼

驚天動地のリブ

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「はぁ~、私―――― かしら?」
「?」

 ラブナを先頭に、孤児院に向かって移動を開始する。

 そのラブナの隣には、マハチとサワラが手振り身振りで話しながら歩いている。
 魔法がどうとか聞こえるから、先輩として、ラブナに何やら教えているみたいだ。

 その後ろ、エーイさんたちお手伝い組の4人は、街並みを見渡しながら、何のお店があそことか、指差し歩いているので、各お店の場所を確認しているようだ。この街に滞在するからだろう。

 
 そして最後尾の私の隣には、

「はぁ~、謝れば許してくれるかしら。はぁ~」
「………………」

 ギルドを出てから溜息と独り言を繰り返しているリブがいる。
 これからユーアの元に帰るって言うのに、これじゃ正直テンションが上がらない。


『ん~、この様子だとクレハンに何か言われたなぁ。私の暴露話とかではないけど、きっとリブにはショックな事なんだろうね。でもこのままだと子供たちも気を遣いそうだしなぁ…… 今日はエーイさんたちと孤児院に泊ってもらうつもりだしね……』

 この先の展開を考えて懸念してしまう。

『仕方ない。機嫌取り…… じゃなくて、誤解を解いておくか? 何の話をしてたのかは知らないけど』

 ブツブツと下を向きながら歩いているリブを見てそう決める。


「そう言えばリブ。クレハンの話は何だったの? で、今日は孤児院で――――」

 他の話を混ぜながら、さり気なく話の内容を聞いてみる。
 中味を知らないとフォローも出来ないからね。

 ザッ

「ん?」

 何て考えていると、リブが突然私の正面に回り込む。

「い、今までの非礼をお許しくださいっ! スミカ、さんっ!」
「え?」

 ガバと勢いよく頭を下げて、唐突に謝罪してきた。

 っていうか、頭を下げ過ぎて最敬礼を通り越し、膝にぶつかりそうだけど。
 魔法使いでも随分と体が柔らかいね。なんてふと思ったりして。

 い、いや、それよりも、突然のこの状況を収拾しないとっ!

「あ、あのさ、クレハンから何を聞いたか知らないけど、私はリブが思う私でいいからね? だから他の人の話を聞いて付き合い方変えないでね。私はこれからもリブと仲良くしたいからさ」

 顔が見えないけど説得するように話す。

 話の内容は不明だけど、非礼がどうとか言ってるから、そう言う事だろうと。
 それに街のみんなからも注目されてて恥ずかしいし。


「ね、だからさ顔上げて。そして今日はみんなで孤児院に泊めてもらおうよ。そして明日はロアジムのところに行こうよ」

「う、うん。わかったわ。昨日から色々あり過ぎてちょっと驚愕したり、動揺したり、混乱したり、錯乱しちゃったわ……。そうよね、スミカはスミカだものね。なんかありがとね」

 ゆっくりと頭を上げて笑顔を見せるリブ。

「う、うん……」

 何か思ったよりも多くの心労を掛けてしまい、申し訳ない気がする。
 盆とクリスマスと正月が一緒に来たみたいに、混乱させてごめんなさい。


「それでスミカってさ、この街で活躍してるみたいだけど滞在して結構長いの? それと今更なんだけど、幼く見えて冒険者歴も長いの?」

 少しだけいつものように戻ったリブ。 
 腰に手を当てて、そんな事を聞いてくる。

「…………なんで?」

「なんでって、クレハンさんの話聞いてたらそんな感じがしたから。冒険者もベテランなのかなってさ」

「ん~、そうだね。この街に来たのと冒険者になったのは一日違いだね」

「へ~、そうなんだ。それじゃスミカは見た目より結構年齢いってるんだ。 大体5年ぐらい? 街に来て冒険者になってから」

「そんなに経ってないよ。この街に来たのは。え~と…… いち、に、さん――」

 うろ覚えながら、リブの前で指折り数えてみる。

「――――じゅう、じゅういち、じゅうに――――」

「え? 10年って、スミカ一体いくつなのさっ!」

 10を超えたあたりで何やらリブが騒ぎ出す。
 でも数えてる途中なので今は答えない。

「じゅうよん、じゅうご。うん、大体このぐらいかな?」
「はぁっ!? スミカ、15年って言ったら…… 今27歳っ!」
「随分と失礼な事いうね。15年じゃなくて、15日くらいだよっ!」

 失敬な事をのたまうリブに言い返す。
 こんな見た目なのに、27歳って普通思わないでしょ。
  
 リブは冒険者の最低年齢の12歳と15年を単純に足したのだろう。
 まぁ、本当の中身は更に年上だけど。

「15日っ!? 15年じゃなくて?」

「うん、そう15日。大体だけど」
 立ち止まってまで、聞き返すリブに答える。

「それじゃ、スミカは2週間ちょっと前で冒険者になって、この街の英雄だなんて言われてるの? それとロアジムさんとの事もっ!?」

「う、うん、まぁ、そんな感じ」
 食い気味っていうか、ちょっとムキになるリブにどもってしまう。

「ち、因みにランクはっ? 冒険者ランクはっ?」
「シ、Cランクだけど」
「Cランクっ!? 2週間で?」
「あ、因みにラブナはFランク。冒険者歴で言えば殆ど一緒」

 何となく嫌な風向きになりそうなので、ラブナを振ってお茶を濁す。

「はぁっ? 今度はあの実力でFランク? 一体スミカもパーティーメンバーもどうなってるのさっ! 聞けば聞くほどおかしくなるわよっ! 2週間でCランクだの、あの魔法力でFランクとかさっ!」

 あれ? 誤魔化す話が更に変な方向に?

「そ、そう言われても…… ね? ラブにゃん」

 上手い言い訳っていうか、弁明が出来ないので先頭のラブナに頼ってみる。
 きっと恒例の『禁則事項』って警告して収めてくれるだろうから。


「にゃんって何よ? ってかそこでアタシに振らないでよスミ姉っ! そもそもおかしいのはアタシじゃなくてスミ姉なのよっ!」

 頼みのラブナが、後ろを振り返り仁王立ちで反論する。

「あれ? 禁則事項は?」
「そうよスミカっ! あなたが諸悪の根源なのよっ!」
「え? 諸悪の根源ってっ!」

「何やら騒がしいのぅ、ねぇねや。みんなが主らに注目しておるぞ。 はて? 見ない顔だが、ねぇねたちの知り合いかの? 魔法使い3人と…… む、その紋章はロアジムの知り合いか?」

 わちゃわちゃ言い合う私たちの背後から、そう声を掛けられる。

 ん? この甲高い声に不釣り合いな話し方は……


「ナジメ?」
「うむ、わしじゃ、ねぇね」
「ナジメじゃないっ!」
「うむ、ラブナよ」

 振り向く先には、トコトコとナジメが歩いくるところだった。

「もしかして、今日も商業ギルド?」

 合流したナジメに聞いてみる。
 今日の格好はスモック(園児服)だったからだ。

「それは朝だけじゃな。今はニスマジの店に行っておった。孤児院での注文したいものがあったのでな。で、今はその帰りという事じゃ。わしは色々と忙しいのじゃ」

 腕を組みながら横目でチラと私を見て答える。
 何となしにソワソワしているように見える。

「そうなんだ。私が留守中も大変だったんだね。偉いね。お~よしよし」

 褒めてオーラの出ているナジメの頭を軽く撫でる。

「う、うむ、ねぇねの不在時には、わしがお姉ちゃんだからなっ! だからいつでもわしを頼るといいのじゃっ!」

 撫でられながら、胸を逸らして満開の笑顔で答えるナジメ。
 耳まで赤いのはきっと陽気のせいだろう。

「して、その冒険者がロンドウィッチーズで、4人はロアジムの雇った女中じゃな?」

 キリと表情を変えて、リブたちをとエーイさんたちを見るナジメ。
 初対面なので、ちょっとカッコつけたかったのだろう。

「あ、はい、そうです。ってか、このお婆、幼女は誰なの? スミカ」

「はい、そうですわっ!」
「「「はいっ!」」」

 咄嗟に敬語で答えたあと、私に振り返るリブ。
 敬語の理由は、きっとナジメの口調に反応したんだろう。
 だけどエーイさんたちは普通に答えていた。


「うん、この幼女は――――」
「ねぇねや、わしは子供ではないぞ?」
「あ、ごめんごめん。この大人も私たちのパーティーメンバーなんだよ」
「わしはナジメじゃ」

 ナジメにジト目で見られながら、リブに答える。

「大人って…… スミカをお姉ちゃんって呼んでいるのに?…… まぁ、いいわ。あなたもスミカの仲間なのね? もしかして噂の妹さん?」

「うむ、そうじゃ。わしは5番目じゃ」

「5番目? ねぇ、スミカ。スミカって妹何人いるのさ?」

 ナジメの返答を聞いて、不思議そうな顔で私に聞き返す。
 まぁ、5番目とか言われたら普通そんな反応だよね。

「実質は1人だよ。でもパーティーメンバー全員が妹みたいなもんだからね」
「ああ、そう言う事? マハチとサワラが私の嫁みたいなものね?」
「えっ 嫁!? ま、まあ、そんな感じかな?」

 全くの見当違いだけどそう答える。
 家族と言えば同じ枠組みだしね。

「それじゃ、ナジメはもうお仕事は終わりなんでしょ? なら私たちと一緒に帰ろうよ。依頼の事も話ししたいし」
「そうじゃな、わしも一緒に行くのじゃ。もう孤児院の工事が始まっておるのでな」
「工事? ああ、そんな事言ってたね。あ、そうすると中は入れないの?」
「いや、内装じゃなくて外装じゃから大丈夫じゃよ」
「良かった。なら今日はみんなで泊ろうか」

 軽く胸を撫で下ろし、ナジメも含めて、女10人で移動を開始する。


 これでやっとユーアの元に帰れる。
 早くユーア成分補充しないとお姉ちゃん暴れちゃうからね。

 だた、孤児院に向かう道中の自己紹介で、ナジメの素性を聞いたリブが、往来で土下座してたのはご愛敬だろう。あんなの私だって初めて聞いた時には驚いたんだから。

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