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第10蝶 初デートは護衛依頼
ノトリの街のお見送り
しおりを挟む「さあ、出発しようかっ!」
みんなであしばり帰る亭を出て、とっくに日の昇った街並みを歩く。
昨日の祝勝会の後は、各々に自由に過ごした。
そうは言っても、外に出たのは私とラブナだけ。
リブたちロンドウィッチーズはエーイさんたちの護衛を続けていたから。
「この街も少しは賑やかになるのかな?」
人がまばらな街並みを眺める。
一般街はわからないが、お店や露店が立ち並ぶこの通りは、どこも閑古鳥が鳴いている状態だ。初めてきた昨日よりも閑散としていた。
「シクロ湿原の安全が確認できれば人は自然に戻ってくるわよ」
「ん~、それにしても少なくない? もうお昼近くだよ?」
コムケの街であれば、この時間の商店街はそこそこ混雑している。
マズナさんのお店なんかは開店と同時に列をなしている。
「まぁ、それ以降の街については、スミカだってどうも出来ないでしょ? ならあまり気にしない方がいいわよ。徐々に元に戻ると思うしさ」
リブも通りを見渡して励ます様に答える。
「そう、だね。確かにリブの言う通りかな。私たちは仕事をしに来ただけだしね。それにそこまで介入するのも逆に良くないかもね」
なので今はこれで良しとしよう。
そもそもが街を救うために来たわけではないし。
後は噂が広がれば自然と賑やかな街に戻るだろうし。
「あの、スミカさま?」
「なに?」
リブとの話が終わった頃合いでエーイさんが声を掛けてくる。
「あの、馬車はよろしいんですか? さっき通り過ぎましたけど」
その質問でラブナとリブを除いたみんなが私に注目する。
「うん、馬車はいらないかな? あっても邪魔だしね」
「邪魔、ですか? はい、わかりました。そこそこ自信がありますわっ!」
エーイさんはそう言ってズンズンと前を歩きだす。
こう見えて体力ありますよ、のアピールだろうか?
「あ、言い方が悪かったね。歩かなくても魔法で帰れるから心配しないで。さすがに歩いて帰ったら何日もかかるから」
キビキビと前を歩く背中に慌てて説明する。
「魔法ですか? それで移動を?」
「うん、だから気合入れなくても大丈夫。何ならおやつも用意できるし」
「…………よく意味が分かりませんわ?」
「まぁ、そうだよね。でもそろそろだから、もうすぐわかるよ」
エーイさんに答えながら、この先の街の外門に目を向ける。
「あれ?」
「スミ姉、何か今日は昨日と比べて混んでるわよ」
「うん、そうだね。もう話が広がったのかな? いや、それはないか」
街を守る門の前には人だかりができていた。
けれど、その人たちの出で立ちは旅をしてきたようには見えない。
普通に街民が来ているような服装が殆どだった。
ただ、冒険者の風貌の人たちも数人は目に入る。
一体、何の集まりだろう?
外からの入街者じゃないのはわかるけど。
「スミ姉っ! あれ、昨日露店で欠伸してたおじさんじゃない?」
「うん? 本当だ。よく見たら結構見た顔の人が多いね」
「やっときたかっ! お~いっ! スミカたちっ!」
繁々と不思議そうに眺めていると、人だかりの中から門兵さんが出てくる。
何やら昨日より随分とテンションが高い。
「なに、どうしたの今日は?」
「おじさん、今日は忙しそうねっ!」
門兵さんの後ろの人だかりを見て聞いてみる。
「おうっ! 昨日の夕方、他の街から冒険者が到着したんだが、その際にシクロ湿原を渡ってきたが、無事にノトリの街に辿り着いたんだっ!」
声高に一気に捲し上げた後で、後ろにいた冒険者を前に促す。
「ああ、俺たち4人は北東の街から来たんだが、ここに着いて驚いたんだ。あの湿原に凶悪な魔物が出てたって聞いてよ。その情報はこの門兵さんに聞いたんだ」
前に出たのはこのパーティーのリーダーだろう。
微笑みながら経緯を教えてくれた。
「それをお前たちが倒してくれたんだろう? 助かったぜっ!」
「うう、オレが倒せば一躍有名に……」
「はい、はい。夢を見るのは自由よ」
次いで他のパーティーのメンバーも、それぞれで声を掛けてきた。
「そう、それは良かったよ、みんな何ともなくって。って事はこれで一応シクロ湿原の安全確認が取れた訳だ。ね? そうでしょ」
ニヤニヤと話を聞いている門兵さんに話を振る。
「ああ、そうだっ! やってくれたな、お前たちっ!」
「で、後ろの人だかりは何なの? もう私たちは街を出るけど」
門兵さんの肩越しに、チラと後ろの人たちを眺める。
よく見ると街民の格好だけど、皮の前掛けやらエプロンをしている者が多い。
「ああ、この人たちは街の食堂や露店、屋台で働く人たちだっ! 要はシクロ湿原からの食材の恩恵を受けてた店って事だっ!」
「ああ、だから街に人が少なかったんだ。で、その人たちがどうしてここに?」
ここに来るまでの、特に食べ物関連のお店に人が少なかった理由に合点がいった。従業員の殆どがここに集合してるんだもん。
てか、そんなんでお店の方は大丈夫なの?
なんて、余計な心配をしていると、
「スミカさま、もう街を出て行かれるならば、これをお受け取り下さい。今朝、そこの冒険者の方に譲っていただいたんですよ」
後ろの人だかりから、見知った顔の人が出てくる。
その手には大きなカゴを持っていた。
「え? あしばり帰る亭の、え~と料理長さん? いつの間にここに?」
本当は宿の店長と兼任なんだけど、料理長の印象が強くそう呼んでしまう。
「はは、スミカさまたちのお見送りはワタシの娘に任せてました。ワタシはここでみなさんを待っていたんですから」
ニコと微笑みながら持っていた大きなカゴ2つを差し出される。
「うん、これは?」
受け取りながら中身を聞いてみる。
カゴの底に触れるとかなり温かい。
「はい。これはささやかながら、ワタシからのお礼の品となっています。昨日は随分と美味しく召し上がってた様子なので、その素材と料理をお持ちしました」
「お礼って? シクロ湿原の事だよね」
「はいそうです。後ろにいる方々全員が、門兵さんに件の話を聞いて、みなさんにお礼がしたくてここに集合したんです」
「う~ん、感謝されるのは嬉しいんだけど、たまたま私の目的と被っただけだから、実際にはそんな殊勝な気持ちで倒してきたわけじゃないんだけど……」
ポリポリと頬を掻きながら苦笑する。
行動を起こした理由、がそもそも違うって事なのに。
「わはは、そんなものは関係ないなっ! スミカたちの行動そのものが何かを救うって運命なんだろうっ! 俺はそう信じてるぞっ!」
料理長さんとのやり取りを聞いていた門兵さんがそう無理やりに解釈する。
ってか、会った時と性格が違うような。こっちが素なのかな?
「いや、いや、そんな訳ないから。誰かを救うにしても、やっぱりそこに確固たる意志がないと嫌でしょう? ながらでお礼言う人たちみたいで、心もこもってないのに」
まるで義理チョコみたいだなと思ってしまう。
まぁ、あれは義理って意志を前面に出してるからいいのかな?
「もう、相変わらずね、スミ姉はっ! 小難しい話ばかり。経緯はどうあれ、みんなが感謝してるんだから細かいことは気にしないでいいのよっ! だって実際にそうなってるんだからねっ!」
ウジウジと悩んでいると、ラブナがフォロー? してくれる。
「そうよ、スミカ。そう言ったら、私たちだってスミカたちに結果的に救われたって事になるのよ? それを知った上で感謝しているんだから、それでいいじゃない?」
「そうですよ。スミカさんはリブ姉さんとわたしたちを助けてくれました」
「はい、スミカさんはもう少し簡単に考えるべきです」
リブに続いて、マハチとサワラも加わりやんわりと諭される。
「う~ん、そうは言ってもね、リブの場合は依頼の範疇でもあるし……」
「はぁっ!? 本当にスミ姉は、こういう時だけ頭固いわねっ!」
なんて、ズルズルといつまでも自分の考えに拘っているとラブナに怒られる。
「おうッ! ありがとなッ! これでこの街も安泰だッ! 今はこれしかねぇけど受け取ってくれやッ!」
「え? これってお肉?」
「ああッ! キュートードはさすがにまだ出せねえが、他の素材はあるからなッ! だから選別と礼の代わりに受け取ってくれッ!」
「う、うん。ありがとう。まだ大変な時期なのに」
私は差し出された布袋を受け取る。
ズシリと重く、そしてこれも温かかった。
「あたしのも受け取ってちょうだいな。干し肉で保存が効くし、これなら旅にあっても困らないだろう?」
「え? う、うん。ありがとう」
今度はおばあさんに重みのある紙袋を渡された。
私はそれも恭しく受け取る。
「本当によくやってくれた。オレからは食い物ではないが受けっとってくれ」
「何これ? カラフルで可愛いね」
「これはキュートードの皮から作った雨具だ」
「え? あ、ありがとう」
私はそれを震える手で受け取る。
あの湿原に浮かぶ華やかな花を思い浮かべながら。
キューちゃん…………
またこんな姿に…………
大事にするからね…………
「で、次は私の店の――――」
「これがうちの自慢の――――」
「あ、これは焼いてだな――――」
「そうだこれも持ってってくれっ! 後は――――」
「え? あ、ちょっと多過ぎっ! もう持てないってっ!」
「ア、アタシにもっ!?」
「うわわっ! マハチとサワラ助けて~っ!」
料理長、そして数名のお店の人たちからお礼を受け取ると、堰を切った様に次から次へとお礼の品を渡される。
一緒にいたラブナとリブもたくさんの人たちに囲まれていた。
恐らくだけど、門兵さんが誰が退治したか教えたんだと思う。
そんな時間が1時間以上続き、私たちはようやく街を出ることが出来た。
結果論としては街の流通を救ったって話になるけど、それでもまだ状況が苦しい中で、みんなにお礼や選別の品を貰えて嬉しかった。
ただ別れ際に『ノトリの街の英雄さま』って口々に呼ばれた時はこそばゆかった。
『っていうか、この世界って英雄を気軽に作る風習があるの? こんな事で英雄が誕生したら世界中の冒険者はみんな英雄だよ。良いも悪いもね』
そんな変な心配をしながら、私は透明壁スキルを展開する。
人数が多いので、大き目に展開して周りを囲み、テーブルセットも並べておく。
「よし、今度こそ帰ろうか」
「うん、スミ姉っ! よろしくねっ!」
「スミカ、よろしく頼むわよ」
スキルに乗りながら返事をするラブナとリブ。
「「「…………………」」」
それに対して、無言で私を見つめる他の面々。
何か言いたそうにジロジロ見てるけど気にしない。
「それじゃ、しゅっぱ~~つっ!」
シュタタタタ――――
みんなが乗ったのを確認して、号令をかけ南東に向けて走り出す。
目指すはもちろん、みんなが待つコムケの街だ。
後は全力でユーアの元に帰るだけだ。
たくさんのお土産も貰ったし。
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