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第10蝶 初デートは護衛依頼
殲滅と新たなもの
しおりを挟む「ちゅ、ちゅちよ我が敵を………… え~と、にゃに?」
「ほにょりょよ目の前に存在する私の………… あにゃ?」
空中の二人は私の作戦通りに魔法を唱え始めた。
それはいいんだけど……
「はいぃ? 一体なんて?」
そんな二人に、間の抜けた声で横やりを入れてしまう。
もうなに言ってるか聞き取れないし。
「え、あ、ちゅち? う~ん?」
「ほ、ほにょおよ! ほにょっ!?」
「………………」
まるで泥酔しているかのような状態で、魔法を唱え始めた二人だったが、ラブナはセリフをド忘れしたのか、詠唱を中断し首を傾げて悩み始める。
近くのリブもラブナと似たり寄ったりで、詠唱と同時に輪舞も止まってしまい、オロオロと焦り始める。
って言うか、二人とも呂律以外にも足元がフラフラだ。
どうみても魔法を発動させる体調ではない。
「ねえ、あのさぁ、もしかしてその症状って魔力酔いって――――」
「みょう何でもいいわっ! とにかく当てればいいにょよねっ!『※※※』」
「うみゅっ! もう全力で放てばしゅべて終わるみゃっ!『※※※』」
面倒臭くなったのか何なのか、投げやりに魔法を完成させる二人。
ただ何の魔法かがわからない。最後の呂律が残念な事になってるからだ。
それでも、実力なのかアイテムの副作用なのか魔法は顕現している。
「え? こ、これ全部ラブナがっ!?」
最初に発動した魔法を目の当たりにして言葉を失う。
おびただしい数の土の円柱が、空中に浮かんでいるからだ。
その数は優に3桁を超えていて、直径は電信柱くらいあった。
その全てが白リザードマンに矛先を向けていた。
「いっにぇえ~~~~~~っ!!!!」
シュシュシュシュシュシュ―――― ンッ!!
ラブナが力強く叫ぶと同時に、一斉に円柱が射出される。
ズガガガガガ――――――ッ!!!!
『ギャッ!』『エッ!』『グギャッ!』『グゴッ!』――――
その全てがスキルの中の白リザードマンに直撃し、5体は絶叫を上げる。
更に、
「今度はわたしにょ番っ! 喰りゃえぇ~~~~っ!!!!」
ラブナの追撃とばかりに、リブも魔法を発動させる。
二人とも呂律が残念な事になっているが気にしない。
「え? でっかいっ!?」
リブの放った魔法は隕石のような火の玉だった。
その大きさは10メートルを超える巨大な炎の塊だった。
それがラブナの魔法に打ち付けられて、身動きの取れない白リザードマンを襲う。
轟々と燃え盛る巨大な隕石が、スキルを通過し粉塵が舞う中を突き進む。
ゴオォ――――――ッ!!!!
「はっ!? って、見惚れてる場合じゃないっ! ここにいたら私も巻き込まれるじゃんっ! もうラブナもリブもメチャクチャだよっ!」
結果を見る事なく、慌ててこの場から離れる。
恐らくだけど、あれは非常にマズいものだ。
『だ、だって、あんな狭い空間の中で土煙が舞ってたら、それこそ爆発するじゃんっ! リブの火の玉が起爆剤になるじゃんっ!』
ラブナが最初に唱えた魔法は、3ケタを超える土魔法。
それが白リザードマンに直撃し、スキルの中で粉々なり舞っている。
その状態で、リブの高火力の巨大な火の玉が合わさったなら、その先は見なくてもわかるだろう。
「ヤバいっ! ヤバいってっ!」
だから私は一目散に離脱する。
その威力と規模が想像できないからだ。
「透明壁スキルが壊れる事は無いと思うけど、あの密度とあの火力はヤバいってっ! 一応何重にもスキルで覆っておこうっ!」
ある程度距離を取り、後ろを振り向きスキルを2機追加する。
ちょうど火の玉が粉塵の中に消えていく瞬間だった。
そして―――――
ゴッ
「っ!?」
ゴガァァァァァァ―――――ッ!!!!!!
「うわわっ!」
「ええええ~~~~っ!!」
「なななな~~~~っ!!」
私と空中のラブナとリブも、その威力に悲鳴を上げる。
耳をつんざく爆発音と共に、地面がグラグラと揺れ、遠くの水面が激しく波打つ。
巨大な橋も塔も、その威力でギシギシと軋みを上げる。
粉塵爆発。
偶然にも二人の魔法が合わさって起こった現象だった。
濃度の濃い粉塵に引火して起こる爆発だった。
「やっぱり、ヤバい威力だったよ。あんなに密閉されてて大量の土が舞ってる中に、火の玉なんて放り込んだら、ああなるのは当然だよね……」
モワモワと煙が舞うスキル内と、周りを見渡す。
湿原と建物には被害の跡が見えない。
それでも範囲内の地面だけは抉れてしまい、乾いた地面が見えている。
どうせだったら、立方体で覆うんだったと反省する。
「ん? 煙が晴れてきたね」
周りを確認している内に、スキル内の噴煙が消失しクリアになってくる。
なので、覆っていた透明壁スキルを全て解除する。
すると充満していた残りの煙と、堰き止められてた水が流れ出し地面を覆う。
そこ跡には見る限り何もなかった。
「うん、やっぱり跡形も無くなったか。それこそあんな爆発の中で原型が残ってた方が脅威だったよ。 ん? どうしたの二人とも?」
視線の先は私と同じだけど、何故か大人しい空の二人。
「………………っ」
「………………っ」
そんな二人は目を見開き、その光景に唖然としている様子。
どうやら爆発のショックで正気に戻っているみたいだ。
顔色も足元もしっかりしてるし。
「あれ、アタシたちがやったのよね? な、なんでこんなに威力が上がってるのよっ! それになんか気持ちよくなっちゃったし~っ!」
「ぜ、絶対にスミカのアイテムが原因だわっ! 何が減った魔力の補充よっ! 減る前にどんどん流れてくるから放出するのが追いつかないじゃないのっ!」
意識が戻ったと思ったら、今度は捲し立てる様にクレームを言い出すラブナとリブ。
『う~ん』
これはきっと私が悪い。
その効果を戦闘前に確認しなかったのが原因だ。
「うん、なんかゴメンね。ここに来る前に試せばよかったんだよね?」
なので、二人を地面に降ろしながら謝る。
トン
タタタタ――――
「スミ姉っ!」
地面に足を付けると同時に、ラブナが私に駆けてくる。
まだ文句を言い足りないのだろう。
「本当にゴメンね、ラブ――――」
「スミ姉っ! それよりも体は大丈夫なのっ!? いきなり攻撃されるし、その後も熱い空間の中アイツらに攻撃してたわよねっ!」
急いで駆け寄ってきたラブナは、私の周りをグルグルと確認してから、どこか泣きそうな表情で聞いてくる。
「あっ…………」
さっきのお叱りの続きだと思っていた私は、その行動に呆然とする。
「ちょっとスミ姉っ! 大丈夫なのっ!?」
返事のない私を異常があると勘違いしたのか、近くで顔を覗き込んでくる。
その瞳は心配そうに私を見ていた。
『ううう、なんかいつもと違う…………』
不覚にもそのギャップに感動してしまった。
「え、あ、うん。私は何ともないよ。それよりもラブナは大丈夫だった?」
動揺を隠しながら笑顔で返す。
「アタシはスミ姉に守ってもらってたからどこもケガしてないわよ。そもそも危ないとも思ってなかったし」
ケロッとした顔で答えるラブナ。
信用してくれるのはいいけど、少しは危機感持ちなよ。
「いや、そうじゃなくて、アイテムの副作用の事なんだけど。何だか暴走してたみたいに見えたからさ」
「ああ、あれなんだけどね、我慢してたのをおもいっきり出したら、なんかスッキリしちゃったのよ。だから今は何ともないわ」
「そ、そうなんだ。体が何ともないなら安心したよ」
ラブナの言い方に、何となしに卑猥に感じたけど、口調も顔色も歩き方もいつもと一緒なのを確認して胸を撫で下ろす。スッキリしたんなら良かったよ。
「そ、それよりもスミカっ! あなた、最初にあの魔物に攻撃されたでしょっ! それと蹴ってたしっ! それで何ともないわけ?」
今度はリブが私の近くに来て、気遣うように顔を覗き込んでくる。
ラブナに続いて、どうやらリブも心配してくれた。
「うん、あの時にも言ったけど、当たったわけじゃなくギリギリで防いだから大丈夫だよ。蹴ったのも全然痛くなかったし」
「違う、そうじゃないわっ! 体調は大丈夫って事よ? だってあいつ等に触れたんでしょ? 直接にさっ!」
「え? ああ、もしかして、マハチとサワラみたいに衰弱して、体力が消耗していないかって事? だったら大丈夫だよ。この衣装はそういうの受け付けないから」
リブの言いたい事を理解して、装備の影響で問題ないと説明する。
「え? それって防具なの? 趣味で着ているんじゃないの?」
それは意外だとばかりに、興味深くジロジロと見てくる。
「うん、だから大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」
そんなリブにも笑顔で答える。
会ったばかりの私にここまで気を配ってくれて。
「…………もう、本当にスミカは意味が分からないわね。色々と謎が多過ぎなのよ。アイテムもそうだけど、使う魔法も知らないものばかりだし、体術も並みじゃないしさ」
「そうだね、でも私も色んな敵や戦場を経験してるからね。それこそ寝ないで3日間くらい戦い続けた事も結構あるし。それも殆ど一人だったから、だから色々身につけなきゃ生き残れなかったんだよ」
腰に手を当て、チラと私を見ているリブにそう説明する。
まぁ、その内容は全部ゲーム内の話だけど。
「……その幼さと歳でって、普通の人なら信じないでしょうけど、今だったら意義なく納得しそうだわ。ロアジムさんがスミカを隠したがるのもわかるわね」
「まぁ、でも半分は疑似体験みたいなもので、もう半分は――――」
ズズ――――ンッ!!
ズジャッ!
(チャプ)
「え? 何、地震っ!?」
突然の揺れにラブナが反応し、腰を下げて地震に備える。
「ち、違うわっ! 地震ならあんな音しないわよっ! あの範囲だけ水面が波打つのはおかしいわっ! これってまた――――」
リブはその違和感に気付き、すぐさま警戒態勢を取る。
その視線は油断なく、辺りを見渡している。
この辺りの行動は、さすが冒険者と言ったところだろうか。
『うん、やっぱりボスが残ってたね。白リザードマンも特異種だったけど、腕輪はしてなかったからね。なら今度の奴は恐らく――――』
大きく波紋が広がったその範囲と、地響きの規模を見て巨大な魔物だと判断する。
そして私はその大きさに対抗すべく、透明壁スキルを展開した。
さぁ、ここからが本番だ。
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