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第10蝶 初デートは護衛依頼
乱戦とリブの実力
しおりを挟む「いてて、危うく全身がアザとキズだらけになるとこだったよ。咄嗟に[spinal reflex 改](特殊脊髄反射)で反応できて良かった。あのアマジとの戦いもしっかりと私の糧になってたって事だね」
腕の僅かな痛みだけで、他に支障がない事に安堵する。
突如、私を襲った攻撃は5撃。
その殆どが武器ではなく恐らく無手の物だった。
ただ無手とは言っても拳以外に、手刀や抜き手、目潰しらしき鋭い攻撃もあった。それとムチらしいもの。これは尻尾かなと思う。
なので、私に接触した瞬間に[spinal reflex 改]で躱し弾く事が出来た。
それでも全ては避けられず、拳での攻撃を受けて腕は痺れてしまったけど。
『ふぅ、武器を装備してなかったのは助かったけど、今回はそういう個体なの? それか他に理由があったりする?』
リブの話だと、武器らしきものを装備しているとの話だった。
けど、私を襲ったこいつらはそれらしいもので攻撃してこなかった。
『まぁ、もしかしたら手刀や抜き手を武器と勘違いしたってのが正解っぽいよね? リブも近接での戦闘は苦手だろうし、この状況では判別できるわけないし』
先ほどの鋭い攻撃を思い出し、そう結論付ける。
「それにしても…………」
浅い水面を見渡しながら、周囲の気配を探るが何も感じ取ることが出来ない。
攻撃をしてきた魔物は、完全にその存在を消している。
「元々リブの話を聞いてたから、これは予想の範疇だけど。でも索敵にも引っ掛からないのは予想外かも」
周囲に気を張り、身構えながら一歩下がる。
その動きに連動して水面に波紋が浮かぶ。
ただしそれは私の周りだけ。
なら、一緒に空から落ちてきた魔物は何処に?
私は目を閉じ、更に集中する。
「ん………………ダメだ。何も感じないや。それに一緒に落ちてきたのに、水面は乱れてないし。ただの透明だったら何かしらの痕跡が残るはず」
なのに湿原の水面を動かすのは、私の足の周りだけ。
ふくらはぎを中心に小さな波紋が広がっている。
少なくとも、この周りには何の存在も感じない。
「ん~、さっきの現れ方からして、空間を移動して来てるの? それか移動手段にだけ使っている?」
いきなり襲われた、さっきの状況を思いだす。
微かな物音の後で、攻撃を受けた事。
これは恐らくスキルの上に着地した音だと思う。
「それと、攻撃の際の――――」
「スミ姉っ! 大丈夫なのっ!」
「スミカっ! ケガしたのっ!?」
私の頭上からラブナとリブの心配する声が聞こえる。
「うん、こっちは大丈夫。ちょっとだけ当てられたけど痺れただけだから。それにそっちは何ともない?」
分析を中断して顔だけ向けて返事をする。
視線だけは周囲の状況を捉えながら。
「うん、大丈夫よっ! だってこれってスミ姉の魔法壁でしょっ!」
「そうだよ。それと今回は中から攻撃できるようにしたから、何かあったら魔法で反撃していいからねっ!」
「え? それってどういう事?」
「言葉通りの意味だよ。外からは何も受け付けないけど、中からは素通り出来るから攻撃が出来るって事。だからそこからは出ないでねっ!」
疑問符を浮かべる空中のラブナに叫び返す。
今の説明通りに、透明壁スキルに『通過』の能力を付与したからだ。
「はぁ? それってこっちは一方的に攻撃できるって事?」
その意味を聞いて、リブが身を乗り出し即座に反応する。
ってか、あまり出ると危ないよ。
まぁ、それはそうだよね。
リブの解釈通りに、安全地帯から攻撃できるんだから。
ただそうは言っても、近接戦闘を得意とする冒険者だったらそんな事にはならない。ラブナやリブみたいに遠距離から攻撃できる者が相性がいい。
それは近接の戦闘職のように、動き回られたら私の操作が間に合わないからだ。
なので、通過の付与と透明壁スキルのコンボは遠距離の職業が向いている。
そもそもこれは、ユーアの為に使う事を想定した能力だからだ。
ダッ! ×4
ガガガガンッ
「きゃっ!」
「ラブナっ!?」
4つの打撃音と同時に、空中のラブナが悲鳴を上げる。
それと同時にスキルが衝撃を受けて、僅かに揺らいでいる。
「って、いないと思ったら今度は上なのっ! ラブナ、そこにいれば安全だから絶対出ないでっ! 直ぐにいくからっ!」
「わ、わかったわっ! でもこっちも反撃してやるんだからっ!」
私はスキルを足場に、空中に身を躍らす。
そして円錐のポール状のスキルを展開する。
ブンッ!
「くっ! って、上と見せかけて私も狙われた?」
飛び上がった瞬間、背中の羽根に感触を感じて身を翻す。
今度も辛うじて避けたがギリギリだった。
敵が5体に対し、ラブナを襲った攻撃音が4つだったと気付くべきだった。
それと、まだ脊髄反射の練度が足りないのだと実感する。
なら、この機会に更に。
「風よ我が敵を切り裂く刃となれ『刃嵐』っ!」
ゴオォ――――ッ!!
空ではラブナが、自身の周りを範囲魔法で攻撃する。
「あれ? 手ごたえないわよっ!」
だが、その魔法でダメージを受けた敵は確認できなかった。
ガガッ!
「こ、今度はこっちにも来たわっ! いくら安全でも恐いわよっ!」
更にリブにも攻撃の手が伸びる。
「炎よ私を纏いし衣となって周りの敵を焼き尽くせ『炎衣』っ!」
リブも負けじと魔法を唱える。
その最中、リブは長い手足を動かして発動させていた。
『へぇ、何かきれいだね。まるで踊っているみたいじゃん』
そう、リブが魔法を発動したその姿は、まるで演舞のようだった。
敵を目の前にして可憐に舞っている。
ただ、その可憐さとは裏腹に、炎は広範囲に渡ってうねりを上げる。
高熱の余波がこっちまで届いてくる。
『グギッ!』
「ん? 何か手応えあったわっ!」
リブの目の前から微かに擬音が漏れ聞こえた。
どうやら敵の一体にダメージを与えたみたいだ。
「ん、今一瞬姿が…… それも白い…… トカゲ人間?」
光がバチっと弾けたと同時にその姿が確認できた。
思いがけない威力の攻撃を受けて、実体化してしまったのだろうか。
「リブさん凄いじゃないっ! アタシの魔法より早くて範囲も広いじゃないっ!」
それを見て、ラブナがリブを称賛する。
自身よりも魔法が上だと。
確かにラブナの言う通り、リブの魔法は発動も早く広範囲だった。
さすがは、魔法使いだけのパーティーリーダーだ。
ロアジムが贔屓するのも分かる気がする。
それと、その特殊な発動の仕方から、パーティー名の『ロンドウィッチーズ』は輪舞(ロンド)から来ているんだろうと思う。文字通りに舞いながら戦うって意味で。
「どうやら、この敵は私とは相性が悪いみたい。なら今回は二人に頑張ってもらおうかな? リブのおかげで相手の正体も能力も分かったし。でも魔法かぁ~~、派手だね」
魔法を連発して奮闘している二人を見てそう思った。
ちょっとだけ、魔法に憧れたのはここだけの話だ。
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