剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第10蝶 初デートは護衛依頼

スミカ運命の出会い

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 私たち三人は、シクロ湿原の遠方に伸びる大橋を渡る。

 この大橋は馬車同士のすれ違いが出来るように設計されており、幅が広く作られている。橋の高さは水面から1メートル程で、木製であっても歩いた感じでは充分に耐久もあるみたいだ。

 さっき聞いたリブの話だと、この大橋がシクロ湿原の中央まで伸びており、そこから分岐して各方面へと渡れるようになっている。

 そしてその分岐地点の付近で、リブたちはあの魔物と遭遇したとの話だ。


「リブ、ここから中央まで10キロだっけ?」

 ラブナと並んで話をしている後ろの二人に声を掛ける。
 何やら、魔法の事について話しあってたみたいだ。


「そうよ。歩くと2時間ほどかかるかしら」
「もしかしてスミ姉、また走っていくの?」

「いや、体力を温存したいから走るのはやめておくよ」

 首を横に振って答える。

「まぁ、さすがのスミ姉も朝から走りっぱなしだものね、少しは休んでおかないとアタシも心配しちゃうわ」

 それに対し、頷きながら返事をするラブナ。
 どうやら私の体を案じてくれていたようだ。


「……………… えっ? 朝からって、もしかしてスミカたちは今日コムケの街から出てきたのっ!?」

 一瞬の間があり、リブが唐突に声を荒げる。
 その違和感に気が付いたようだ。


「そうよ。来る時はアタシをおんぶして爆走してきたのよ。でも途中でアタシは降りたけど、その後はさっきと同じように魔法壁の横を走って来たわよ」

 ラブナが私の代わりに、ノトリの街までの交通手段をリブに教える。
 ただ、背中で酔ってダウンした事は言わないでいた。


「…………もう、ほんっ、とうに意味が分からないわっ! スミカは私と同じ魔法使いよね? なんでここまで走ってケロッとしてんのさっ! なんでわざわざ走ってくるのさっ! そもそもあれだって魔法かどうか怪しいわよっ!」

「ブブ~っ! リブさんそれ以上は約定に抵触するわっ! 禁足事項よっ!」

 捲し立てるリブに、腕を交差させて警告するラブナ。
 
「くっ! 一体何なのよっ! それじゃ何も聞けないじゃないっ!」
「それはアタシじゃなくて、ロアジムさんを通さないとダメねっ!」
「う、ううう~っ!」 

「………………」

 なんか、ラブナが私のマネージャーみたくなってる。
 そしてロアジムが会社の社長みたい。

 なんて、二人のやり取りに気を取られていると……


 ぴょんっ!
 ポト


「え?」

 私の足元に見た事あるような生物が跳ねてきた。
 その姿形を見ると、恐らく湿原の中から出てきたようだ。


『…………ケロロ』

「………………カエル? っぽい?」

『ケロ?』

「………………かわいい――――」

 私は突如現れた初めての生物に、警戒心を忘れて心を奪われた。

 体調は凡そ50㎝くらい。
 体表は緑色ではなく、何故か華やかな桃色。

 そして頭には桜の花びらのような水草が生えており、手足の吸盤は綿毛の様にホワホワとしている。黒目がちなつぶらな瞳は、まるでチワワのようにうるうるとしていた。


「ああ、それはこのシクロ湿原に主に生息する『キュートード』だわ」

 カエルを凝視する私を見て、リブがそう教えてくれた。

「キュート。な、トード?」

 何それ、可愛いカエルって事?
 確かに名前も姿も可愛いらしい……。
 

「スミカ、これでもこのカエルは魔物なのよ? 基本は湿原の魚を主食にしてるから人は襲わないけど。って、しゃがみ込んで何してるのよ?」

「いや、もっと近くで見てみようと思って……」

 膝を付いて、キュートードに近付いてみる。


『ケロロ?』

 そんな私を首をコクンっと傾げて、不思議そうに見上げてくる。

「かわいい……」

 何コレ?
 こんなマスコットみたいな人畜無害な魔物がいるの?
 
 別に爬虫類とか両生類とか好きじゃないけど、このカエルは別物だ。
 まるでぬいぐるみのような可愛さ、そして外敵から守ってあげたくなるか弱さがある。

「ケ、ケロロ」
『ケロ?』
「かわいい…… これ食べるかな?」

 魚が主食と教えてもらったので、露店で購入した魚の干物を上げてみる。

 すると、

『ケロっ!』

 ハシィ

「え?」

 あろうことかキュートードは、目に前に出した干物を舌で受け取らずに、ポンポンが付いている両手で受け取って食べ始めた。


『もしゃ♪ もしゃ♪――――』

「かわいいっ~~!」

「………………」
「………………」

「お替りする? ケロロ?」
『ケロ♪』

 食べ終わった時を見計らって、もう一つ出してみる。
 するとそれも両手で受け取り咀嚼し始めた。

 ああ、癒される……


「…………ねぇ、ラブナちゃん」
「…………何? リブさん」
「スミカはなんで魔物に餌付けしてるのさ」
「そ、それも禁則事項よっ!」
「…………それ絶対に嘘だよねっ!」
「………………」 

 目を逸らし、黙り込むラブナを睨むリブ。

「そもそもこんなの秘密にしたって意味ないじゃないのっ!」
「アタシだってこんなスミ姉知らないんだもんっ! 仕方ないわよっ!」
「だったら、禁則事項じゃないじゃないのさ」
「………………」

 何やら後ろで騒いでいるが、今はこのカエルに夢中の私。
 もう少しだけ愛でたいので待って欲しい。


『ケロ、ケロロっ!』

 ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん

『ケロ』『ケロ』『ケロ』『ケロ』
『ケロ』『ケロ』『ケロ』『ケロ』

「わっ! 増えたっ!」

 桃色のキュートードが可愛い声で鳴いたと思ったら、橋の上に色違いのキュートードが現れた。恐らくだけど仲間を呼んだんだろう。

「わ、わ、わ、何これっ!? 色んな花びらが頭に生えてるよっ!」

 増えたキュートードは色とりどりな花を頭の上に咲かせていた。
 まるで橋の上が小さな花畑見たくなってる。


「……スミカが水草だと思ってたのは、その殆どがキュートードよ。って言うか、そろそろ先に進もうよ」

「リブさん言う通りよスミ姉。もういい加減にして先に行くわよっ!」

 業を煮やした二人が囃し立てるが、それよりもとんでもない事を聞いた。


「えっ!? もしかして湿原に浮かぶあの水草がみんな?」  

 ここから見える範囲でも、かなりの数の鮮やか花が見える。
 あれが全部この愛らしいキュートード、なの?


「そう言ってるじゃないのよっ! それに大量に繁殖するからノトリの街でも――――」 
「かわいいこの子たちが、まだあんなにたくさんっ!?」

 マジかっ!

 なら一匹くらい連れて帰ってもいいよね?
 ユーアもきっと喜ぶよね?


「それはないわよ、スミ姉っ!」
「え?」
「だってハラミみたいに賢くて強いんならともかく、カエルなんて従魔にしてどうするのよっ! ユーアもいらないに決まってるわよっ!」
「う、うん」

 あれ? 何でラブナから反対されるの?
 そもそも私は何も聞いてないよね?


「なに言ってるのさ、スミカはずっと声出てたわよっ!」
「あ、そうなんだ。まぁ、それはいいや」
「………………」
「………………」

 リブから視線を戻し、色とりどりのキュートードを見つめる。
 持ち帰るのがダメなら、今はとにかくもっと愛でていたい。


 グイッ

「って、スミ姉っ! いい加減目を覚ましなよっ! いつもの横柄で図々しく、ふんぞり返ってるスミ姉はどこいったのよっ! そんな乙女チックは似合わないわよっ!」

 グイッ

「ちょっとスミカっ! あなたは何のためにここに来たのさっ! こっちは依頼じゃないからっていつまで遊んでいるのっ!」

 座り込む私の背中の羽根を引っ張り始めた二人。
 動かない私を強引に連れて行こうと強硬手段にでた。

 なんだけど、

「う、スミ姉が全く動かないわっ! 重いっ!」
「う~んっ! こ、こんな小さいのに、なんで動かせないのさっ!」

「………………」

 グイグイと必死に羽根を引っ張るが、二人はピクリとも動かせないようだ。

 それはそうだ。何せ能力を使っているんだから。
 ゴナタがここにいたとしても簡単には動かせないだろう。

 因みに重いってのは語弊があるからね、ラブナ。
 それと小さいじゃなくて、小柄だからね、リブ。
  

 それから数分後


――――――


「はぁ、はぁ、はぁ――――」
「ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~」

 羽根を離して、息を荒げているラブナとリブ。
 魔法使いだからか意外と体力がなく、諦めるのが早かった。
 
「………………」

 もういいかな?
 これ以上遊んでいると、帰った時にロアジムとかにチクられても嫌だし。


「さて、それじゃ冗談はさておいて、そろそろ行こうか?」

 キリと意識を切り替え、息を整えている二人に声を掛ける。
 目指すは、この巨大な橋の分岐点。


「って、キュートードを抱えて言うセリフじゃないわっ!」
「そ、そうよっ! しかもなんでキュートードに懐かれてんのさっ!」

 息を乱した二人に、指をさされ突っ込まれる。

「え? ああ、これね」

 まぁ、確かに、両腕に4匹、頭に1匹。肩には2匹、足元には5匹いる。
 それぞれに色違いで、どれも可愛らしい。

「二人が羽根を必死に引っ張ってる間に、みんなにエサあげてたからね。それで仲良くなったんだよ、ね? ケロロ、ケロ?」

『『ケロロ~~!!』』『『ケロロ~~!!』』
『『ケロロ~~!!』』『『ケロロ~~!!』』

 懐いているみんなにケロ語で聞くと、大合唱で返事をしてくれた。
 もう仲が良いを通り越して、友達になれたようだ。


「これで本当に冗談は終わりにするから、あまり怒らないでよね二人とも。それとキューちゃんが悪い訳じゃないから、言いたい事があるなら私に直接言ってよ。それじゃ、みんなまたね~!」

『『ケロロ~~!!』』
 
 優しくキューちゃんたちを降ろすと、一鳴きしてみんな湿原に帰って行った。
 こんなに頭も良くて、可愛いのに魔物なんて区別の仕方は間違っている。


「ほら、いつまでも私を見てないで、いい加減先に向かうよ?」

 ボーっとしている二人に声を掛ける。
 気のせいか、肩が小刻みに震えているように見えたけど。


「もうっ! 帰ったらユーアにお説教してもらうからねっ! スミ姉っ!」
「もう何なのよっ! 待ってたのは私たちだったのにさっ!」

 そんな二人の剣幕を他所に、私は水面に視線を向ける。
 そこにはたくさんの色とりどりの花が咲いていた。

『色々と片付いたら、また来るからね。それまで良い子にしててね』

 私はキレイに咲き乱れる花たちを見て、そう心に決めた。 

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