剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
334 / 586
第10蝶 初デートは護衛依頼

ノトリの街へいざ出発

しおりを挟む



「それじゃ、一度孤児院に帰ろうか」

 冒険者ギルドを後にして、ラブナと二人来た道を戻る。
 今回のお仕事の事をユーアたちに報告する為だ。

「そうね、その方がいいわよねっ!」

 快活に返事をしたラブナは小躍りするように前を歩いている。
 長くきれいな真紅の髪が跳ねるたびに揺れている。

 冒険に出る嬉しさを、どうやら隠しきれていない様子だ。


「はぁ、これでアタシも冒険者かぁ。しかもスミ姉と二人きりなんて……」
「ん? 何か言った、ラブナ」

 前を歩くラブナから呟きが聞こえた。

「えっ!? あ、何でもないわよっ! ただアタシもやっと冒険者になれるんだって思ってさっ! アタシだけ冒険した事なかったしっ!」

「うん、確かにそうだね。でも経験で言えば私もそんなにないんだよ? 数で言えば一番はナジメで、二番目はナゴタとゴナタ。その次はユーアの順だね。しかも半年のユーアでも100回以上だし」

 それに対し、私は冒険で街を出たのは2回だけしかない。
 そんな素人がリーダーでいいの? なんて思ってしまう。


「スミ姉は論外よ。でもユーアは100回以上かぁ」

「でもさ、ラブナはナゴタとゴナタ師匠に、冒険者の心得みたいなの教えてもらってたんでしょう? 基礎的な何かとか」

「まぁ、それは教えてもらってるわよ。野営の仕方とか、魔物の種類とか、素材とか、保存食とか。でも知識だけあってもつまんないわよ」

「それでも十分心強いよ。じゃ、何かあったら聞くから教えてね」

 頼もしいとばかりにラブナの肩をポンと叩く。

「う、うん。そうよね。スミ姉の場合はそうなるわよね。冒険者歴で言えば、アタシと変わんないからさ。でも何か変な感じ。なって数日のアタシが街の英雄のスミ姉に教えるなんて」

 しみじみと私を見てポツリと話す。

「それは気にしないで欲しい。だって私の知識はゼロだから」

 自分を指さし豊満な胸を張る。えっへんっ!

「そんな威張れることじゃないわっ! でもアタシを頼ってもいいわよっ!」



 そんなこんなで一度孤児院に戻って、ユーアたちに説明してきた。
 この街を留守にし、ラブナの冒険者としての初のお仕事に行く事を。

 その詳細は、

 ロアジムが用意してくれたお手伝いさんが途中の街で動けない事とその理由。
 その迎えにいく為に、私が依頼を受けてラブナと一緒に行く事。
 帰りは遅くても一泊二日になる事、など。


 その私たちの説明を聞いたユーアは……

『本当はボクも行きたいんだけど、ラブナちゃんもスミカお姉ちゃんと一緒がいいと思うから、今回はお留守番してるね。だからよろしくお願いします、スミカお姉ちゃんっ! ラブナちゃんも頑張ってねっ!』


 そう笑顔で手を振って見送られた。
 ボウとホウもシーラも子供たちも一緒にお見送りしてくれた。





「何だか、ユーアがどんどんお姉ちゃんになってきてる気がするね。ラブナにも気を遣って、子供たちの世話をして、お留守番してるなんてさ」

 さっきの別れ際のユーアを思い出してひとり寂しく呟く。
 どんどんお姉さん離れしてきそうで。 


「何か言った? スミ姉」
「ん、何でもないよ。今日もいい天気だなってだなって思っただけ」
 

 今はコムケの街を出て街道を歩いている。
 目的地はここから北西にあるノトリの街だ。

 時間的には、休憩と野営を入れて片道3日程かかる予定だ。
 ただそれは普通の交通手段を使っての事。


「それで馬車も借りなかったけど、スミ姉。どうやって行くのよ」

 きれいに舗装された長い街道を見ながらラブナが聞いてくる。

「ん、そうだね。おんぶで行くのと、最短で行くのと、空から行くのとどれがいい?」

 右手で北西方向を、左手で空を差して聞いてみる。

「え? 何か普通の選択肢がないわよ、スミ姉。空はこの前体験したからわかるけど、おんぶと最短ってなによ?」

「おんぶはそのままおんぶ。ユーアとかは、前にしたら喜んでたけど。で、最短は最短のままで迂回しないで真っすぐに走るって事」

「走るってのも良く分からないんだけど…… でもスミ姉だからどうでもいいわよ」

 腕を組みながら投げやりに答える。

「そう? なら説明した順番の通りに行ってみる?」
「うん、スミ姉のお任せでお願いするわっ!」
「わかった。なら背中に乗って?」

 ラブナが乗りやすいように腰を屈める。

「え? ほ、本当にただのおんぶなのね?」 
「そうだよ。乗ったらしっかり首に掴まってね。あ、あと舌噛まないようにしてね」

 背中と首筋に重みと感触を感じたので立ち上がる。

 むにゅ

『………………』

 気のせいか結構なツインおπを背中に感じたけど敢えて無視する。
 どうせラブナの師匠にも、先輩冒険者の私にも敵わないだろうし。


「それじゃいくよ?」
「う、うん」

 ビュン

 私はラブナの返事を聞いて、長い街道を北西に向けて走り出す。


 シュタタタタ――――


「ラブナは地図読めるんだよね? 取り敢えずは今のところは道があるから大丈夫だけど、もし外れたら教えてね?」

「………………」

 首を動かしラブナにお願いする。

「………………」
「? ねぇ、聞いてる?」

 いつまでも大人しいラブナに聞き返す。

「き、聞いてるわよっ! それよりもスミ姉おかしいんじゃないのっ! このまま本当に走っていくとか正気じゃないわよっ!」

 やっと返事をしたと思ったら、耳元で騒ぎ立てるラブナ。

「そうは言っても、この速さだと4時間かからないと思うよ? 普通の馬車で3日くらいかかるって言ってたから」
 
 首を傾けラブナに説明する。

「違うわよっ! そうじゃないわっ! このまま走れるわけないって言ってるのよっ! いくらスミ姉でも速すぎるわよっ! もう街だってあんなに小さくなってるのにっ!?」

「痛ったっ! もう耳が痛いって! ラブナもう少し声量下げて話してよ。耳がキーンとなって聞こえないから」

 何やら興奮しすぎて、耳元で怒鳴るラブナに怒る。

「はぁ、もう何でもいいわよ。どうせ普通の冒険者のアタシには理解できないから。ユーアや師匠よりも、スミ姉に耐性ある訳じゃないから」

 声は小さくなったが、今度は溜息交じりに答えるラブナ。
 何だか微妙に引っ掛かる言い方だ。


「…………それじゃ、もう少し飛ばすから舌噛み切らないでね」
「噛み切るっ!? わ、わかったわよっ! お願いするわ、スミ姉っ!」


 そうして私とラブナは更にスピードを上げて走っていく。
 
 そろそろ春を終え、初夏を迎えるこの世界。
 ちょっと強くなった日差しの中、妹分を背負って街道を進んでいく。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...