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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

悩むなら前にっ!

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 なし崩し的に参加した、大豆屋工房サリューのお手伝いは、本日売れる分がなくなって閉店となった。私たちが手伝ったのは実質2時間にも満たなかった。


「スミカさん、また手伝ってもらって申し訳なかった」
「また手伝ってくれてごめんなさいなのっ! スミカお姉さん」

 お店の片付けも落ち着いた頃、
 店主のマズナさんと一人娘のメルウちゃんが私たちに頭を下げてきた。


 そんな二人は、途中で在庫を取りに行ったマズナさんも戻って動き回り、メルウちゃんもひっきりなしにカイたちにも教えながら接客をしていた。それでも泣き言も言わず、笑顔で丁寧に対応していた。

 それを見て、よほどマズナさんが作った大豆の商品が好きなんだと思った。
 亡くなったメルウちゃんのお母さんが好きだった大豆の商品の数々を。

 そして今日までせわしないお店を切り盛りしてきた事には驚かされる。
 それも父娘のたった二人でこなしてきた事実に。
 しかもメルウちゃんはまだ10歳だ。


「はい、二人とも今日もお疲れさま。そしてみんなもね」

 ドリンクレーションをみんなに渡しながら、労いの言葉を贈る。

 私やナゴタとゴナタの疲労は労働時間も短いことからそうでもない。
 そもそもの基礎体力の違いもあるが。

 けど、慣れているマズナさん親子でさえ疲労の色が濃く見えた。
 慣れてないスラム組なんかは動けない程グったりとしていた。


「おうっ! 毎回ありがとうなスミカさんっ!」
「あっ! また甘くて不思議な飲み物なのっ!」

「あ、ありがとうございますっ! 姐さんっ!」

 疲労が残る顔で受け取るみんな。

「いいって、これぐらい。だって元々の原因は私にあるっぽいし」

 そう。今日の午後の繁盛の原因は私のせいでもある。
 黒アゲハ蝶のマークのせいで。


「な、何を言ってるんだスミカさんっ! 俺たち家族が救われたのはスミカさんとユーアさんのお陰なんだっ! だからスミカさんが悪者みたいに言わないでくれっ!」

「そうなのっ! お父さんのケガもお店もスミカお姉さんとユーアお姉さんに助けてもらったのっ! お父さんの商品が売れるのは嬉しいのっ!」

 何となしに言った私の一言に、声高に返す親子の二人。
 多分この感じだと勘違いをしていると思う。


「違うって、二人とも。元々ってのは今日の午後の話だよ。私とユーアとみんなで再建に成功したって前の話じゃなくってさぁ」

 二人は今日ではなく、今までの事を言っているのでやんわりと訂正する。
 感謝してくれてるのはいいけど、あまり引きずられてもね。


「な、なんだ俺の早とちりだったか、わははっ!」
「そうなの? で、でもお父さんもわたしも感謝しているのは本当なのっ!」

「うん、それはわかったよ。でもこれだけは言っておくけど、私は最初の切っ掛けを作っただけで、元々はマズナさんが作る大豆の商品が美味しいのが頭にあったからだからね。そもそもマズかったら、今頃閑古鳥が鳴いてる状態のはずだから」

 それに今まで頑張ってきたのも私ではなく、この親子の二人だ。
 今日も二人で大勢のお客さんを相手している。

 そんな頑張っている姿を見たら、私のやった事なんて大したことない。
 そしてその姿を見て、手を貸したくなるのも必然ともいえる。


「……お姉さまは、本当に色々な方を救っているのですね」
「うん、お姉ぇはやっぱり凄いな。カッコイイ……」

 今まで話を聞いていた、ナゴタとゴナタがしみじみと話し出す。
 そう言えば、ナゴタたちは元々の経緯は知らなかったと思い出す。


「姐さんって、俺たち以外にも優しく手を差し伸べていたんですね……。それに孤児院も復興させようと頑張っているし」

「そうなのっ! スミカお姉さんたちは凄いのっ!」
「ああっ! これぞ街の英雄さまだっ! がははははっ!」

 続けて、カイとマズナさん親子からお世辞の言葉をもらう。
 何だか妙にくすぐったい。


「い、いや、そんな大袈裟な事じゃないからっ! 元々はユーアの願いだったり、私がユーアにしてあげたい事をやっただけだからっ! だからあまり褒めるのはやめてよねっ!」

 そんなみんなに首と手をブンブン振り、慌てて訂正する。

 なんだけど…………

「そんな謙遜されるのもお姉さまらしいですね」
「そうだなっ! お姉ぇは凄いことしても自慢しないもんなっ!」

「はいっ! 確かにそうですね、ナゴタさんたちの言う通りですっ!」

「わはは、違えねぇっ! ユーアさんもスミカさんもそんな感じだっ!」
「うん、何でも出来るのに威張ったりしないのっ! 素敵なお姉さんなのっ!」

「い、いや、だから違うってっ! ああもうっ、何でもいいやっ!」

 ニコニコしながら褒めちぎってくるみんな。
 そんなみんなに対して投げやりに答える私。

 だってみんなはもう聞く耳は持っていない。
 よく見たらニコニコじゃなくて、みんなニヤニヤしてたから。
 私の反応がおかしくて、途中からからかい始めたんだと思うから。





 一息ついて暗くなる前に、今後の事を話し合った。


 元々の予定だと、孤児院の子供たちにお店は手伝ってもらう予定だった。
 カイたちには工房やスラムでの大豆の商品の製造。

 ただ今日のような忙しさの中では不可能に思えた。
 雇用主にしても従業員にしても、慣れるまでの負担が大き過ぎる。

 なので、

「でさ、カイたちは暫く孤児院に泊ってお店を手伝ってよ。孤児院の方はまだ引っ越し終わってないし、お店の方も覚えたほうが良いと思うんだよね。後から来た子供たちにも教えられるし」

 マズナさん親子と、カイたちスラム組を見渡しそう提案する。


「それはこっちとしても有難いんですが、でもいいんですか? 俺たちが孤児院にお邪魔してしまって」

「大丈夫だと思うよ。何ならビエ婆さんもボウたちも泊めるから…… ってこっちはまだ確認取れないか。でも泊るのは問題ないよ。で、店主のマズナさんはどう?」

 ここまで話して、マズナさんに確認を取る。

「こっちはスミカさんの案に大賛成だっ! 単純に人手が増えるのも助かるが、カイたちは今日の働きを見て真面目だってわかったからな願ったり叶ったりだっ! がはははっ!」

「そうなのっ! みんないい人なのっ!」

 どうやらカイたちの働きぶりは雇用主にとってかなりの好印象だったようだ。


 そんなマズナさんは、更に続けて、

「何なら今日から給金をあげてもいいぞっ! こっちも助かったからなっ!」
「うんなのっ! 何ならお昼もご馳走しちゃうのっ! お昼付きなのっ!」

 そう、カイたちに向けて親子で声を掛けていた。
 好印象を飛び越えて、カイたちの働きぶりは大絶賛だった。


「え? ほ、本当ですかっ!? それは有難いですっ! で、でもこんなに早く俺たちを信用してもいいんですか? 俺たちは、そのぉ、スラムの人間なんですが……」

 マズナさんの提案に喜びを隠しきれないカイ。
 でも自分たちの出身が根元にあり、そこに不安を感じていた。 


「はぁ? お前たちは何を言っているんだ? 俺たち親子だって他の大陸からきたよそ者だ。なんで同じ街のお前たちがそんな卑屈になるんだ?」

「え? いや、だって俺たちは今までこの街に何も……。あっ! 痛てぇっ!」

「それは今日までの事だろう? それにお前たちはスミカさんたちの知り合いだ。信用なんてそれで十分なんだよ。俺たちと街を救ってくれた英雄さまが連れてきたってだけで、誰だって信用するんだ。だからもう気にするな。がははははっ!」

「そうなのっ! それで充分なのっ!」

 カイたちの心の吐露を聞いて、バンバンと背中を叩いて励ますマズナさん。
 メルウちゃんも同じ気持ちなのだろう。笑顔で頷いていた。


「あ、姐さんっ! お、俺たちはいいんですかっ! これで」

 縋るように表情で私に聞いてくるカイ。

「いい訳ないでしょ? そんな顔してたら」
「えっ?」
「これからお世話になるんだから、もっと喜びなよ」
「あっ」
「それに変わるんでしょう? カイもみんなも。だったら前を見なよ。胸を張ってこれから変えるんだってさ」
「は、はいっ! 姐さんっ!」

 カイと他のみんなは、私の話を聞いて佇まいを正す。

 そして――――

「マズナさんとメルウさん、これからお世話になりますっ! 恩人の姐さんにも街の人たちにも認められるように俺たちは頑張りますっ!」

「「「よろしくお願いいたしますっ!」」」

 カイに続き、マズナさん親子に深く頭を下げるみんな。 
 そして顔を上げたその表情は、どこか誇らしげに見えた。

「おうっ! 明日からもよろしくなっ!」
「うん、よろしくなのっ! がんばるのっ!」


 これでカイたちも自信を持って生きていけるだろう。
 今日がそのスタートラインだ。


 そしてこの後にもう少し細かい話をして、大豆屋工房サリューを後にした。
 その頃には辺りはもう暗くなっていた。


――――


「ふふ、さすがお姉さまですね」
「うん。お姉ぇの言葉にはやる気にさせる力があるよな」

「うん? 何か言った、二人とも」

「いえ、ただ再認識してただけですよ。お姉さま」
「うん、何でもないぞっ! お姉ぇ」

「再認識? まぁ、何でもないならいいけど」

 私たちはそんな話をしながら、喜ぶカイたちの後ろを歩いていった。   
 

 でもまさか、この後帰った孤児院であんな事が起きているとは……




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