剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
317 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

姉妹仲良くお使いに

しおりを挟む



 ナジメと別れてスラム街を後にし、一人で商業地区を目指す。

 帰路が一人なのは、ナジメがまだスラムの土地を見終わってないって事と、もう少しみんなの話を聞きたいそうだ。なので私は一人で帰ってきた。


「で、私はこれをニスマジに届けるっと」

 別れ際に受け取った、紙でできた封書を眺める。
 これはナジメが何かを書き込んだもので、届けるように頼まれたものだった。


「え~と、屋根の上は登れないんだよね……」

 ニスマジのお店まで、近道しようとしたけど諦めた。
 どこにパンツの中身報告人がいるかわからないからね。

 一番手っ取り早いのは、透明化鱗粉を使って姿を消せば誰にも気付かれないけど、それは何か違うって思う。

 だって今はユーアと一緒のこの世界の住人だし、あまり世界とかけ離れた能力を使いたくない。それこそ違う世界の存在だって思い出しちゃうだけだから。

 さっきのナジメの言葉じゃないけど、自分が他とは違うってわかってはいても、やっぱり周りに認めて欲しいんだと思う。私も『同じ』人種だって。


 そんな理由で軽々しい使用を控えたいと思う。
 一種の自己満足の類だけど、私なりにこの世界にいる為の願掛けみたいなもの。

 ただ私たちの生活や、ユーアたちを脅かすなら遠慮はしない。
 それこそ装備以外にも、私自身の【裏スキル】を使っても守り抜く。
 その覚悟だけは忘れない。


「まぁ、そんなスキルを全力で使ったら、私は消滅しそうだけどね。幸い半分で済んでいるのはこの装備とアイテムボックスのおかげだよ。それと頼もしい仲間もいるからね」

 身に着けている装備と、みんなを思い出して物思いに耽る。
 そして装備やアイテムに頼らない力が欲しいとも思う。

「う~ん、そうなるとプレイヤースキルを上げるのが一番だよね。もっとこれから色んな事を試してみよう将来の為に。それと【spinal reflex 改】の習得もまだだしね。って、あれ?」


 ブツブツと一人呟いていると、見知った可愛い後ろ姿を発見する。
 この世界では珍しい、シルバーの髪色のボブヘアーの少女を。

「んふふ~♪ にくにっく~♪ お~にっく♪ く~♪っ」

 そしてその少女は足取り軽く、聞いたことないメロディーを口ずさんでいた。
 随分とご機嫌の様子だった。

 その少女の今日の服装は、白ワンピで肩が露出しているタイプ。
 気候も暖かくなってきているから非常に季節とマッチしている。
 その上からは緑色のエプロンを身に着けている。何かの仕事の途中だろうか。

 見える手足は深雪のように白く、傷や痣など見当たらない。
 それこそ処女雪のように、触れるのも躊躇う程の無垢さだ。

 小さい輪郭の中のクリッとした大きな瞳は深緑色。
 光沢のある小さく薄い唇、そして張りのある頬は思わずツンツンしたくなる。
 
 その容姿を見ると、将来はきっと美人になると断言できる。
 ただ今はまだ幼さが前面に出ている。その将来はもっと先の話だろう。

 だから今だけなのだ。

 その可愛い時代を愛でて堪能できるのは。
 

 今は視覚で十二分に堪能した。

「ごくっ」

 なら次は触覚と嗅覚で堪能しよう。そうしよう。

『って事で、ま、先ずは後ろから首筋に抱きついて、あの甘い匂いを堪能………… はっ! それってどっかの変態ギルド長と一緒じゃんっ!』

 自分のこれからする行動を思って一人突っ込み、そして愕然とする。
 思考も行動もあの変態ギルド長と何ら変わらない事実に。


「何やってるんですか? スミカお姉ちゃん」
「へ?」

 自分の思考にショックを受けていると、その少女が声を掛けてくる。

「あ、ユーアっ! わ、私は今からニスマジのお店に行くところだよっ!」

 少しだけ驚きながら上擦った声で返答する。

「そうなの? ならボクと同じですねっ!」
「そうなの? なら私と同じですねっ!」 
「真似しないでくださいスミカお姉ちゃんっ!」
「ふふ、なら一緒に行こうか。お昼ご飯は食べたの?」
「はい、みんなでお肉食べましたっ!」
「そう、良かった。それじゃ行こうか」
「うんっ!」

 手を伸ばすと笑顔でキュッと握ってくるユーア。
 そんな妹の小さな手を取って、私たちは歩き出す。

 他愛のない話をしながら、本当の姉妹の様に二人で歩いていく。
 これから先もずっと一緒に。







 ユーアと二人、怪しげなお店の前に到着する。
 そこはもちろん『黒蝶姉妹商店』 ニスマジのお店だ。


「…………今日も外にはあのムキムキ3人組はいないね……」

 辺りを見渡し、この店の看板男? の3人組がいない事に安心する。
 アイツらいるとユーアの教育にもよくないからね。


「スミカお姉ちゃんどうしたの、入り口はここだよ?」

 扉に手をかけたまま、ユーアが不思議そうに聞いてくる。

「え、な、なんでもないよっ! ちょっと安心しただけだからっ!」
「安心ですか? 大丈夫なら入ろうよ」
「う、うん、そうだねっ! ユーア」

 少しだけどもりながら、ユーアに続き暗幕をくぐる。

 そんなユーアが一人でここに来た目的はお使いだった。

 どうやら孤児院で足りないものがあったらしく購入に来たそうだ。
 お金はナジメのメイドさんから受け取ったらしい。
 何だかんだでナジメはしっかりと手を貸してくれている。


「こんにちは~っ! ニスマジさんいますか?」
「こんにちは…………」

 ユーアは子供らしく元気に挨拶をしながら店内に入る。
 私は周りを警戒しながら軽く挨拶する。
 外にいなかった看板男三人衆が中に入る可能性があったからだ。


「あらぁん? 最近ちょくちょく会うわねぇ? 二人ともぉ」
「あ、こんにちはっ! ニスマジさんっ!」
「そうだね、ニスマジ」

 店の奥から出てきた店主に挨拶をする。

「それで今日はどういったご用件かしらぁ?」

「ボクはこれを買いに来ましたっ!」

 ユーアは持っていたメモをニスマジに渡す。

「うん? 下着に食器に鍋に、それと…… うん。数が多いから、店の子にお願いするわね、ちょっとぉ~っ!」

 メモを受け取ったニスマジは他の店員さんに頼んでいる。
 私はそれを見届けた後で、ニスマジに近付く。

「あ、あのさぁ、いつもの男3人はどうしたの?」

 口に手を当てながら小声でニスマジに聞く。

「うん? ああ、あの子らは暫く忙しいのよぉ。他の仕事を手伝ってもらってるからぁん」
「そう、なら安心したよ。で、他のって?」
「安心? あの子らは工房の方に回って貰ってるのよぉ。スミカちゃんたちの衣装の増産の為に人手が欲しくてねぇ」
「ふ~ん……」

 看板男三人衆がいない事には安心したけど、嫌な事を聞いた。


「スミカお姉ちゃん、ボクお店の中見てきていいですか?」

 内緒話をする私たちにユーアが聞いてくる。

「うん、だったら私も行くよ。お家に足りないものもあるからね。あ、これナジメから頼まれたからニスマジに渡しておくよ」

 ユーアの後に続く前にナジメから預かった封書を渡す。

「ナジメさまから? わかったわ、わざわざありがとうねぇん」
「うん、よくわからないけど渡したからね。それじゃユーア行こうか?」


 受け取ったニスマジを確認して、ユーアと二人で店内を見て回る。
 
 そして二人でお揃いの夏服も買い、帰り際に商品を受け取ってお店を後にした。
 


「ユーアは急いで帰らないといけない感じ?」


 お使いが終わってにこにこ顔のユーアに聞いてみる。

「うん、お片付けまだあるんですけど、なんで?」
「ちょっと屋台で補充したいものが結構あるんだよね? 忙しいなら一人で行くけど」
「や、屋台ですかっ!? 補充って?」

 屋台と聞いて上ずった声で答えるユーア。
 よく見ると期待で目がキラキラしている。
 お目当てはきっとお肉なんだろう。


「うん。串焼きとかスープとかスラムの人たちに配っちゃったからね」
「そ、それじゃ、ボクも行きますっ!」
「なら、買い食いもしようか? 新製品もあるかもだから」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

 ユーアに合わせてちょっとだけをアピールして繁華街に向けて歩き出す。
 ここに来た時と同じようにユーアと手を繋ぎながら。

 こうして今日一日の予定は終了した。
 明日はまたスラムと街の往復だ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...