剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

領主さまとスラム視察

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 ナジメと二人、コムケとスラムを隔てる防壁を抜けて通りを歩いていく。
 行く先はもちろん、ビエ婆さんたちが住んでいる地下室だ。


『みんな昨日はゆっくり寝れたのかなぁ? 大人たちもあんな目にあったし、子供たちも怖い思いしちゃったけど……。体の傷は癒せるけど、心は自分で治すものだからね』

 スラムに入り、みんなを思い浮かべて心配する。
 特に子供たちは、目の前で親たちが襲われてるのを見ていただろうから。


「あっ! 姐さんっ! どうしたんですか?」

「ん?」
「む?」

 そう心配し、歩いていると見知った顔がヒョコと建屋から出てくる。


「あれ? なんでカイが外にいるの?」
「え? 何でって、だってもう魔物はいないんですよ?」

 キョトンとした顔でカイが答える。

「え? ああ、そうだった。何か地下にいるイメージが残ってたよ。そうだよね、別に地下に住んでたわけじゃないもんね、なんかゴメンね」

「い、いいえっ! 姐さんのお陰なんですから謝らないで下さいよっ!」

 軽く頭を下げる私を見て慌てるカイ。

「うん、ありがとう。それで今は何してんの? 見た感じ穴掘りする感じだけど」

 会った時に大きなシャベルを持って出てきたカイ。
 きっとそれを取りに建屋に入っていたんだろう。


「いいえ、逆なんです姐さん。今から穴を埋めに行くんですよ」
「穴? ってなんの?」
「あのでかい虫たちが空けた穴ですよ」
「あ、そう言えば地面からでてきてたからね」

 私も二つほど見ている。

 一個はボウとホウが襲われてた建屋の中。
 もう一個は20メートルを超える虫のボスの。


「そうです。あの時は逃げるので精一杯で気付けなかったんですが、今朝調べてみると、あちこちに穴が開いてるんですよ。放置してると危険なので、今からみんなで埋めるところなんです」

 そう言って、シャベルを担いで見せる。
 さらに続けて、

「ただ、俺たちが攫われた先のでっかい穴が大変そうなんですよねぇ。直径5メートルくらいあって、深さもかなりありますから……」 

 カイがうんざりと話す、その穴の正体は虫のボスが出てきたところだ。


「うん、確かにあれは大変だよ。埋めるよりフタをした方が良いんじゃないの?」

 あの大きさを思い出してカイに提案してみる。


 あんなの人力で埋るのには労力も時間もかかるだろう。
 恐らく深さも数百メートルあるだろうし。

 そもそもこれからこのスラムの街は、色々と忙しくなる予定。

 だと言うのに、あの虫の魔物は余計な置き土産してくれちゃって……
 なんて心の中で恨み言を言う。

 ただ同じ置き土産でも、あの美味しい素材は嬉しい誤算だったけど。


「はい。姐さんの言う通りなんですが、雨とかで地盤が緩くなって崩れても困るって事で、ビエ婆さんが何とかならないかって心配してるんですよ。子供たちも危ないだろうって」

「なるほど、確かにビエ婆さんの言う通りだね。ならどうしようかなぁ?」

 腕を組み「う~ん」と首を傾げる。
 何かいい方法ないかなぁ、って思案する。

「ねぇねよ」
「ん?」

 すると、そんな私に見かねたようでナジメが口を挟む。

「だったらわしが手伝ってやるのじゃ。この者たちは色々と忙しくなるのじゃろ?」
「うん。そうなんだけど…… いいの?」
「うむ。構わぬぞ。そもそもわしも出来る事を探しておったのじゃ。それにねぇねは少し人を頼る事を覚えた方が良いぞ。こういう場合は適材適所じゃ」

 「ニヤリ」としながら短い腕で力こぶを作る。

 ただその上腕二頭筋は「ぷくり」ともしてなかった。
 それでも非常に頼もしく見える。

「うん、わかった。なら任せるよ」
「うむ。任されたのじゃっ!」

 八重歯を見せ、笑顔で答える幼女がそれでも頼もしく見える理由。

 それはナジメはこの大陸一の土魔法の使い手だからだ。


「カイとやら、わしをその穴に案内するのじゃ」
「え?」
「信用していいよカイ。こう見えても頼りになるから」
「へ? え?」
「そうじゃ、この街を救ったねぇねを信じるのじゃ。じゃから安心するのじゃ」
「そ、それはそうですが、でもこの幼児が……」
「カイ、こう見えても土魔法の達人だから間違いないよ」
「えっ!? 土魔法の達人!? この女の子がぁっ!」
「ねぇね、見た目ばかり言うでないぞ、少し傷つくのじゃ!」

 私とナジメに挟まれて、オロオロするカイ。
 そして少しイジけてるナジメ。

 そりゃそうだよね? 
 こんな見た目で大人とも思えないし、ましてや魔法使いなんて聞いても。

「まぁ、そんな訳だから、騙されたと思って連れてってみなよ、きっと驚くから。土木作業や農耕作業に1台は欲しい人材だから」

「わかりました。そこまで姐さんが言うなら間違いないですね」
「ねぇねよ、わしが1台とは一体……」
「あ、ゴメン。それは言葉のあやだよ。でもそれだけ信頼してるって事だから任せたよ。私はビエ婆さんのところに行ってるから」

「うむ。わしも後から行くから。さっさと終わらせるのじゃっ」
「うん、よろしくねっ!」


 そうしてナジメ達と別れて、一人歩きだす。

 確かにナジメの言う通り、こういった事は適材適所なのだろう。
 一種のパーティープレイみたいなものだ。


※※


「う~ん、よく考えればビエ婆さんの居場所聞いておくんだった」

 カイたちと別れて似たような建物が並ぶ中、一人呟き通りを歩く。

 すると……

「あっ! ちょうちょさんだっ!」
「え? ああ、蝶だっ!」
「ねぇ、ちょうちょのえいゆうさま来てるよっ! みんなっ!」
「ほんとうだっ! わるいむしを退治してくれたっ!」

 通りの横で、地面に何かを描いて遊んでいる子供たちに遭遇する。
 そしてそんな子供たちは笑顔で私に近付いてくる。


「ふふ。こんにちは。あのさぁ、ビエ婆さんがどこにいるか知ってる?」

 少し屈んで子供たちに聞いてみる。
 ついでに昨日も配った串焼きを渡してあげる。


「あ、ありがとうございますっ! それとありがとうっ!」
「「「うんっ! ありがとうっ!」」」

「ん? どうして2回もお礼言ってくれたの?」

 声を揃えて快活にお礼を言う子供たちに、不思議に思い聞いてみる。


「だって、お肉もくれて助けてくれたもんっ!」
「助けた? お肉をもらう事がって事かな?」

「ちがうよ。わるいむしを退治したことだよっ!」
「え? ああ、なるほどわかったよ」

 そう笑顔で答えて、みんなの頭を撫でる。
 最初のありがとうは今で、二回目は昨日の事だってわかったから。


「それで、ビエ婆さんか、ボウとホウでもいいんだけど知らない?」

 満面の笑みで、串焼きを持っている子供たちにもう一度聞いてみる。
 やっぱり子供は笑顔が一番だね、て思いながら。


 タタタ――――


「ん?」

「ん~、いい匂いがこっちからするぞ、ホウっ!」
「ちょっとボウお姉ちゃんっ! そんな匂いしないからっ!」

 子供たちに聞いていると、見知った声が背後から聞こえてくる。


「あ、ボウとホウ。ちょうど良かった。ビエ婆さんどこにいるか知らない?」

「え? ああっ! スミカ姉ちゃんっ!」
「あっ! スミカお姉さんっ!」

 子供たちと話している私を見つけて驚く双子姉妹のボウとホウ。
 ってか、ボウは食いしん坊キャラなの? 匂いとか言ってたし。


「あ、みんなありがとうね、二人は見つかったよ。それとボウとホウは何やってるの? なんか暇、じゃなかった、今日はのんびりしてそうに見えるけど」

 子供たちにお礼を言って、にこにこしている姉妹に声を掛ける。

「べ、別に暇じゃないぞ、スミカ姉ちゃん。わたしたちはこの街の地図を書いてるんだからなっ! ビエ婆さんに頼まれてさ」

 そう言ってボロボロな板切れを差し出す。
 忙しそうに言ってるけど匂いに釣られたことは言わない。

「ん? どれ」

 確かにそこにはこの街の地図、と言うよりはお絵かきに近いものが書いてある。
 建物の位置と縮尺がおかしくて、正直地図としては見ずらい。
 ただ何となくはわかる。


「ふ~ん、それじゃこの●は何の印なの? あちこちにあるけど」
「スミカお姉さん、それは穴の位置を地図に書いてあるんです」

 ボウの代わりに、妹のホウが教えてくえる。

「穴って、もしかしなくても虫の魔物が開けたやつ?」
「はい、そうです。大人の人たちが埋めてる間に調べてくれって」
「は~ん、なるほど時間短縮ってやつだ」

 これもさっきの適材適所みたいなもの、なのかな?
 ただそれはもっと上手に地図が書けてたらの場合だけど。

 まぁ、この場合も想定して、ビエ婆さんはボウたちに指示を出したんだろう。

 恐らくだけど、ボウとホウは何か貢献したいって願い出たんだと思う。
 特に、ボウは街に助けを呼びに行った行動力から想像できる。

 なので、ビエ婆さんは二人を満足させる為に仕事を与えたんだろう。
 その出来がいいか悪いかはさて於いて。

 そう考えるとビエ婆さんは子供たちの事をよく見ているとわかる。
 これから孤児院で働いてもらうには最適な人材だ。


 ただそうとは知らず、期待に応えようと一生懸命に地図を作るボウとホウ。
 その出来具合にはきっと誰も口を挟まないだろう。
 ビエ婆さんもそれはきっと最初から理解しているはず。


 ただし――


「ちょっと手伝ってあげるから、私と一緒に書き直さない?」

 ――ただし、そこに私が絡む事は想定外だろう。

「え?」
「はい?」

 物欲しそうに、子供たちの串焼きを見ている姉妹にそう提案した。
 私もナジメみたく二人の役に立ちたいと思ったから。



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