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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

貴族の私兵を挑発する英雄

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「いいの?」

 小声で話すロアジムに合わせて声量を抑える。

「いいぞ。アオとウオは好きにして。当分街を出る予定もないしな。それに他の者もおるから気にせずとも良いぞ。ただし――――」

「ただし?」

「ただし、それはさっきの話の通りにスミカちゃんがアオとウオと戦って、しかも完勝してくれたらなっ! いや~、この短期間でまた英雄さまの戦いが見れるとはなっ! わはははっ!」

 満面の笑顔で答えるロアジム。
 今にもスキップして走り出しそうだ。


「まぁ、そうだよね。結局そうなるんだよね。わかったよ」

 肩をすくめて返事をする。
 ロアジムがいる時点でそうなるとは思ったし。


「ねぇね、そんな安請け合いしてよいのか? これからスラムに行くんじゃろ?」

 それを聞いて、ナジメが心配そうに聞いてくる。

「ああ、それは大丈夫。そんなに時間かからないから」

「なっ!?」「はっ!?」

「じゃが、ねぇねもあの兄弟が強いのは知っておろう? 何ならわしも――」
「ナジメ、ありがとう。それでも大丈夫。5分もあれば終わる予定だし」

 険しい表情に変わった、アオとウオの二人を見てそう答える。

「く、キ、キサマが如何に強かろうと」「我々を5分で始末するだとっ!」

 それを聞き、激昂して声を荒げるアオとウオ。
 始末するなんて物騒な事は一言も言ってないけど。

 まぁ、それでも効果があるならいいんだけど。



「く、くくく、やはりお前は面白い。アオ、ウオ、お前たちもスミカの強さを見てはいるが、この機会に体で学んでおけ。その自信に足りえる実力の持ち主がスミカだとな」

「ア、アマジさんまでっ」「そんな事をっ!」

 アオとウオを宥めたいのか何なのか、アマジがそんな事を口走る。
 端から見れば、火に油を注いでいるようにしか見えない。


「まぁ聞け。既にお前たちはスミカの術中に嵌ってる。だから俺は意識をこっちに向けさせた。スミカは軽口でお前たちの冷静さを失わせ、そこを突く作戦だからな」

「えっ?」「なにっ?」

 アマジは険しい表情の二人に説明しながら、私に視線を向ける。
 どうやら答え合わせをしたいらしい。


「まぁ、そんな感じ。そもそも完勝が条件だからそう言ったってのもあるんだけどね。ただ相変わらずアマジは挑発の類には乗らないよね? 私みたいな小娘に大口叩かれると、みんな血走った目で襲い掛かってくるのに」

 「チラ」とアマジに視線を返しながらそう答える。

 出会った時のルーギル、元Cランクの冒険者4人も見事に引っかかった。
 私の姿も相まって、その効果が上がる事を理解している。

 だけど、最初からアマジには通用しなかった。
 見かけで相手の強さは判断しないんだろう。私みたいに。


「まぁな、そもそも俺はお前に敗北し、その強さを認めている。肉体的な強さだけではなく、戦いに関する技術や立ち回りや駆け引き、それに年に見合わぬ知略や見識の広さ、全てにおいて俺を上回っている。と」

「うむ」「うむ」

 腕を組み、私を更に見定めるように全身に視線を這わすアマジ。
 それに釣られ、アオとウオも「じぃ~」とこちらを見てくる。

「………………うう」

 認めてくれるのはいいけど、いちいち見ないで欲しい。
 乙女の悩ましい体をマジマジと。


 バシュッ


「うがっ! め、目がぁっ! ス、スミカ、お前はっ!」

「なぁっ!」「なぜ突然光ったんだっ!」

 なので羽根を操作し、指向性にして閃光を放つ。
 ジロジロ見ていいのは私とユーアだけだ。


※※



「…………何? またルーギルが開始の合図するの?」

「………………」「………………」

 アオとウオと訓練所中央に集まると、何食わぬ顔でルーギルも付いてきた。

「あん? そりゃあ俺はここの責任者だかんなッ。見守る義務があんだろうがッ。ったく忙しいのによぉッ!」

 頭の後ろを掻きながら「仕方ねぇなぁ」なんて愚痴を吐いている。

「いや、いや、見た事もない笑顔でそう言われても説得力ないからね。ナジメと代わって仕事しなよ。それよりも昨日の話は?」

「ああ、さすがに昨日の今日じゃ探しきれなかったぜッ。これ終わったら再開すっからよッ。だからさっさと片付けてくれよなッ!」

 笑顔から一転、今度は挑発するように口端が上がる。
 いや、挑発と言うよりはいたずらに近い?

 それでも対戦相手が私の目の前にいる。
 今のままでそんな事言ったら、また頭に血が上って――


「ウオ、どうやら俺たちは……」
「ああ、ただの取引に使われるエサみたいだな……」

 そんな事にはならなかった。
 ポツリと呟いた二人はどこか諦めたような遠い目をしていた。

『う~ん…………』

 なぜかダシに使われているみたいでちょっとだけ可哀想。


「ルーギルさっさと合図して下がりなよ。二人の心が折れそうだから」

「んなっ! べ、別に俺たちは――」「これくらいで折れたりなぞ――」 

「おうッ! それじゃ模擬戦開始だッ!」

「あっ」「あっ」

 二人が何かを言い終わる前に、開始の合図をしてルーギルが下がる。
 いくら私が急かしたと言っても、それくらいは言わせてあげても良いだろう。
 
 なので、
 
「あのさ、別に私はアオとウオが弱いだなんて思ってないからね?」

「あ、ああ」「う、うむ」

 少し気落ちした雰囲気の二人の声を掛ける。
 元々は私が原因だったなって思いながら。

「だって二人は、私が認めるナゴタとゴナタといい勝負したんだからね。だから私は決して、油断しないよ?」

 アオとウオの目を見て本音を伝える。


「なら、なぜさっき」「俺たちを5分などと」

「あ、それはアマジの言う通り、冷静さをうんぬんの作戦だよ。それと――」 

「「それと?」」

「5分て言うのは変わらないからね」

 私は真顔でそう付け足す。
 

「「っ!!」」

 それを聞いた二人の雰囲気が変わる。
 大の大人が子供に3度もコケにされたら取るべき行動は一緒。

「………………」

 そう思っていたんだけど…………


「く、くくっ! やはりお前は」
「く、くくくっ! アマジさんの言う通り面白いっ!」

 身構える私に激昂せずに薄く笑い「ニヤリ」とする。


「え、面白いって?」

 そう言えば前にも言われてたな。って思い出す。
 それが侮蔑の意味ではないと分かってはいたけど、詳しい事は知らなかった。

 なのでこのついでに聞いてみようと思った。

 その内容は――――


「その無礼な態度も」「舐めた言葉遣いも」
「小さな体も」「そのおかしな衣装も」

「「全てを戦いに利用するって事がだっ!」」

 芝居がかった口調でアオとウオはそう説明してくれた。


「ああ、そう言う事ね」

 それを聞いて納得する。

 確かに小さなアバター設定も、装備もゲーム内では戦闘に利用してきた。
 見た目とのギャップが武器にもなるからね。

 ただ態度と言葉遣いは別にゲームに合わせた訳ではない。

『………………』

 なので前者は私本来のものだ。今は完治したコミュ障時代の。


「さぁ、それじゃ始めようか。ルーギルが出てきた意味なかったけど」

「あ、ああ」「た、確かにそうだったな」


 そうして締まりのない私の合図で模擬戦が開始された。

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