剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

孤児院の朝と今日の予定

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 「ふわぁ~ ん? ああ、そうか、結局泊ったんだっけ」


 伸びをしながら、隣でお腹を出して寝ているナジメを見て思い出す。
 昨夜は話を終えて帰ろうとしたら、ユーアたちに引き留められて泊った事を。


「ん~、それにしては他に誰もいないんだけど……」

 2階の一室でシスターズ全員で寝たはずが誰もいない。
 恐らく私たちより先に起きて、朝食の準備を始めていると思う。


「んごぉ~、すぴぃ~」

「ナジメ、私たちが一番のお寝坊さんらしいよ。だからもう起きようよ」

 出ている白いお腹をツンツンしてみる。

「うひゃひゃひゃひゃっ! はっ!? ここはどこなのじゃ?」
「ここは孤児院だよ。昨日子供たちにお願いされて泊ったでしょう?」

 涎を拭きながらキョロキョロしているナジメに教える。

「あ、そ、そうじゃったな。して、みんなはどうしたのじゃ?」
「多分私たちが最後だよ。みんなは朝食の準備じゃないかな?」
「ふわぁ~、ならわしらも手伝いに行くのじゃ」
「そうだね、さすがに大人として子供たちに全部任せるのはね」
「うむ、なら着替えて降りるのじゃ」

 ナジメはシャツを脱いで、いつものスク水に着替えポーチを付ける。

 私は『変態』の能力で、薄手のネグリジェタイプからいつものサイズに戻す。
 範囲内であれば、自由自在に形状が変化できるので便利だったりする。


「おおっ! ねぇねのそれは、随分と便利なものじゃなっ!」
「そうだね、暑い日なんか半袖にも出来るしね」

 私の周りを、興味深そうな目のナジメがウロウロする。

「ほら、そんな事やってると遅くなるからさっさと行くよ」
「う、うむ、わかったのじゃっ!」

 ナジメの手を取り、二人で急いで1階に降りる。




「あ、起きたんだね、スミカお姉ちゃん、おはようっ!」

 ユーアが一早く私たちに気付き挨拶をしてくれる。


「おはようっ! 随分と遅いわねっ! 二人ともっ!」

「おはよう、ラブナも」
「うむ、おはようなのじゃっ」

 それに気付いたラブナも、挨拶をして忙しそうにここを離れる。

 二人の両手には、料理が盛りつけられたお皿を持っていた。
 きっと配膳の途中だったのだろう。


「おはようユーア。もしかして起きるの遅かった?」

「うん、でもスミカお姉ちゃんは、昨日たくさん疲れたと思ったから起こさなかったんだっ! ナジメちゃんも疲れた顔してたし」

「そんな事気にしなくても良かったのに。ユーアたちだって帰ってきたら、孤児院の子たちの面倒を一日見てたんだから」

 昨日は、ユーアもラブナも貴族街にいって模擬戦したり、子供たちを連れて帰ってきたら、レストエリアを案内して、そのまま夜まで面倒を見ている。

 12歳の一日の行動としてはかなりハードな方だ。
 ユーアと同じでラブナもきっと疲れていると思う。


「う~ん、でもスミカお姉ちゃんの方が凄いことしてるから、ゆっくりして欲しかったんです」


 確かにユーアの言う通り、一般的には凄い事をしたように見える。
 ただそれは私から言わせると、出来るからしたことに過ぎない。

 これはお互いに出来ないものが、相手に出来るからお互いを凄いと錯覚してるだけなんだと思う。

 逆に私がユーアだったら、子供たちを案内して、ご飯の用意をして、お風呂に入れて、尚且つ朝早く起きる事なんて出来ない。

 要はこういった場合は適材適所なんだと思う。
 そこに、凄い凄くないの優劣は付けられない。


「ユーアの気持ちは嬉しいんだけど、ユーアも十分素晴らしい事してるからね。だから私だけじゃなくユーアも凄いんだから自信を持ってね」

 ユーアの持っているお皿を取りながらそう話す。

「は、はいっ! ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」

 ユーアは空になった両手を見て笑顔になる。


「どれ、わしもお手伝いするのじゃっ!」
「あ、ナジメちゃん、こっちだよっ! お手伝いさんが作ってくれてるから」

 ナジメがユーアの後に続きせわしなく動き始める。


「「「ナジメさま、おはようございますっ!」」」

「うむ、おはようなのじゃっ!」

 子供たちがそんなナジメに気付き元気に挨拶をする。
 そして小さい子も合わせて忙しく動き回る。


「よし、それじゃ私も張り切って手伝おうかなっ!」

 私もその輪に入り、大人数の朝食の準備に参加するのであった。





「それでナゴタとゴナタは朝からいなかったんだ」

 食後のお茶をすすりながらシーラに確認する。


「は、はい、早朝は自分たちの訓練で、その後は冒険者ギルドって言ってました」

 朝に二人に会ったシーラがそう教えてくれる。

「二人とも真面目って言うか、私だけじゃなく自分たちの事も心配した方が良いね」
「じゃが、ナゴタたちは嫌々ではないからそこまで心配せずとも良かろう」
「まぁ、そうなんだけど。ただ見てると張り詰めた感じもするからね」

 二人が色々取り返そうと、一生懸命なのはわかる。
 それが見ていてわかるからこそ心配してしまう。


『う~ん、さすがに昨日の今日でムツアカさんたちは動けないかぁ……』

 昨日のムツアカとの模擬戦でお願いしたことを思い出す。
 ナゴタたちが行っている、冒険者の指導を手伝ってもらう事を。


『だったら、今日はロアジムのところにも行くから、聞いてみようか?』

 私の今日の予定は、スラムでの事をロアジムにも報告に行く事。
 なのでついでに聞いてみようと思った。


「ユーアとラブナは今日どうするの?」

 貴族街には一人で行ってもいいんだけど、少し心細いから聞いてみる。
 ナジメは昨夜の時点で、午前中は商業ギルドに行く事を聞いていたから。


「え~とね、今日はシーラちゃんとお手伝いさんと、みんなの部屋の家具とかお洋服とか、お片付けする予定なんです」

「アタシもユーアと大体一緒ねっ! まだ出していない荷物があるからねっ!」

「ああ、そうだよね、引っ越してまだ一日だけだもんね。なら私はロアジムに会いに行ってくるよ。その後はナジメとスラムの街に行ってくるから、そっちも頑張ってね」

 ユーアたちの予定を聞いて席を立つ。


「はいっ! スミカお姉ちゃんも頑張ってくださいっ!」
「ユーアにはアタシが付いてるから大丈夫よっ!」
「わ、私も頑張りますっ! スミ神さまっ!」

 すると孤児院での三人のお姉さんに励ましの言葉をもらう。

「うん、ありがとうそれじゃ行ってくるねっ!」

 私は笑顔で答えて孤児院を後にする。

 みんなも忙しいから仕方ない、一人で初めて行ってみよう。
 


※※



 貴族街に入ったところで『変態』の能力で作ったフードを目深に被る。
 別に顔を見られても問題ないけど、貴族に対してまだ変な先入観が残っている。

「ロアジムや、おじ様たちはいい人だったけど、他の人は知らないからね」

 若干足早になって、丘の上のロアジムの屋敷を目指す。
 

 すると前方から見知った声が――――


「ん? スミカか。どうしたんだ、一人で顔を隠して」
「え? どうしたんだ親父? ってスミカ姉ちゃん?」

 そう声を掛けてきたのは手を繋いでいる、アマジとゴマチの親子だった。

「? なんでわかったの、帽子被ってるのに」

 フードを脱いで二人に聞いてみる。


「いや、そんな飾りのついた服装を着てるのはお前だけだろう?」
「そうだぞ、しかも羽根だって生えてるからスミカ姉ちゃんってわかるぞ」

 苦笑いしながら、二人で私の後ろを指さす。
 私はその方向を目で追い振り向く。

「え?」

 そこにはいつもの羽根があった。

「………………」

「………………」
「………………」


 変態で大きさは変えられるが、実は羽根だけはそのままだった。
 それは下着サイズにしても変わらなかった事を思い出した。


「スミカ、まさかお前、それで正体を隠してたつもりだったのか?」
「お、親父っ! それはさすがに無いと思うんだ。な、そうだよな?」

「え? あ、当り前でしょっ! 日差しが強かったから、被ってただけだからっ! あははははっ!」

 二人の疑問に、私は笑って答える。
 決して誤魔化している訳ではない。


「…………ならいいのだが。それよりどこへ向かうつもりだ。親父なら朝から出かけているが」

「え? ロアジム出かけてんの? どこに?」

「恐らく冒険者ギルドだろう。何やら昨日から騒いでたからな」

「騒いでたって?」

「お前のとこの、双子の指導がどうとか、ムツアカさんたちと話してたぞ」

「へ? あっちゃ~、まさか、もう動いてくれてたなんて」


 さすがロアジムというべきか、冒険者の事となると行動が早い。


「う~、仕方ない。だったら引き返すよ。アマジたちはどこか行くの?」

 街に向けて歩き出しながら聞いてみる。

「だったら、俺たちも行く先は一緒だ。アオとウオがギルドに通い始めたのと、俺も興味があるのでな」

「なんでアオとウオが通ってるの? ナゴタたちと訓練してるから?」

 私と一緒に歩き出したアマジに聞き返す。
 訓練してる事は聞いてたけど、ギルドでとは知らなかったから。


「いや、恐らく親父の護衛と、その双子姉妹と――――」

「ナゴタとゴナタね。いい加減覚えなよ」

「あ、ああ、そのナゴタたちとお前たちが生業している、冒険者の仕事に興味が湧いたのだろう。今までは俺に合わせて冒険者を毛嫌いしてたからな」

 口端を緩めてそう答えるアマジ。

「ふ~ん、だったらアマジもそうなの? 興味がどうとか言ってたけど」

「似たようなものだ。それにゴマチも親父と一緒で冒険者が気に入ってるからな」

「そっか、ロアジムは昔、冒険者に助けられた事あったんだよね。ゴマチはそれを小さい時から聞いてたからだっけ?」

 ゴマチを家で介抱した時に聞いた話を思い出す。

「そうだな。俺も冒険者に二度も助けられてるからな、昔も今も……」

「え? 何? 最後だけよく聞こえなかったけど」

 呟くように何かを言ったアマジに聞き返す。

「な、何でもない……。そういう訳だから俺たちも一緒に行くぞ」
「うん、一緒に行こうぜっ! スミカ姉ちゃんっ!」

「まぁ、別にいいけど」


 そうして今度は来た道を戻り、冒険者ギルドに向かい歩いていく。

 どうやら今日も忙しくなりそうだ。
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