294 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
スミカの独り言と提案
しおりを挟む外での立ち話もあれなので、広い地下室に戻ってきた。
興奮冷めやらぬ様で、中に入ってもみんなは笑顔で無事を称え合っている。
母親の胸に抱かれる小さな男の子や、両親に迎えられる女の子。
それを見ると、無事に救出できて良かったなと思う。
ボウとホウの姉妹は、そんなみんなの輪に入り、一緒に喜び合っている。
ただ姉妹の二人には、親が見当たらなかった。
その代わり、ビエ婆さんとニカさんとカイがその中にいた。
二人の両親代わりなんだと思う。
『ふふふ。カイも何だかんだで、子供みたいに喜んでいるじゃん』
私はその喧騒が収まるまで、離れて待っていることにした。
部外者が邪魔しちゃ悪いからと、それと色々整理したい事もあるし。
※
今回の件。
最終的には、私が解決したみたくなってはいるが、ただ今の現状、子供たちが無事なのは、カイたちが逃がしてくれたからだ。
『洞窟で倒れてた時の、みんなの衰弱ぶりでは危なかったかも……』
一番奥の広場の中で倒れていた大人たちは、体中の傷もそうだが、もっとも命にかかわりそうだったのは、体の消耗ぶりだった。まるで体の中のエネルギーを摂取されたみたいに。
あの状況を見ると大人ならまだしも、子供たちだったら恐らく……
『あとは、サロマ村の住人達の遺体がなかったのも気になってたんだよね』
オークに全滅させられたサロマ村の住人は、元々100人を超える。
襲われてから日数が結構経っていたとはいえ、その名残が無いのはおかしい。
『この腕輪といい、襲われた小さな村や集落を見ると、その規模から秘密裏に事を運びたいんだと思う。知らない小さな地域で、同じことが起きてると考えた方がいいかも……』
当初、私たちに降りかかってくる火の粉だったら、殲滅する予定だった。
私の領域に入ってくるんだったら、全力で潰してやろうと。
『ただ、そうは言っても、どこかの組織を私一人で潰せるとは思えない。まだレベルも足りないし、背中を任せられる仲間も足りないと思う。ユーアを守り、そして戦ってくれる強者が』
腕の中の、謎の腕輪を握ってそう思う。
腕輪の正体はわからないが、他の世界から持ち込まれたものなのは確かだ。
恐らく戦争になるとしたら、他のゲームのプレイヤーの可能性が高い。
その中には、私をも超えるプレイヤーがいる確率も高い。
だから私は慎重になり、時を待つ。
今は目の前に現れたものを、振り払うだけが得策なのだと。
『それと、このカウントダウンが進むにつれ、私の力になると思うから……』
数日前、装備メニューの中に現れた数字を見て、そう解釈する。
アバターではなく、防具に現れたタイマーだからだ。
この装備は謎が多い。その全容が想像できない。
それでも所持者の力になるための「何か」だと思う。
今までも私の望み通りに、成長してる気がするから。
『いや、もう何かって曖昧なものじゃないね。既に効果が出てきてるんだから。現にアイテムボックスに無いものが増えてきてるしね』
私の、そして私たちの力となるアイテムの類が現れ始めている。
それは戦闘向けなものから、お遊びな的なアイテム。
はたまた補助的なものや、些か危険なものまである。
但し、現在現れているのは小物ばかりで、比較的「善」よりなもの。
戦況を覆す「悪」なものは出てきていない。
『うん、それでも十分に役に立つものもあるんだけどね、ユーアにもみんなにも使えそうなものもあるし、ハラミにだって合うのもあるから、暫くはこれでやり過ごそうか』
使い道を考えながら、少しだけ楽しくなる。
与えられたものだけで攻略する縛りプレイみたいで。
本来であれば、ホームのストレージボックス内にあったもの。
その存在を確認して気持ちが逸るのを私は感じていた。
長年貯め込んだ膨大な数々のアイテムが、ユーアやみんなの役に立つ。
そんな未来を想像して、一人ほくそ笑んでしまう。
不謹慎ながらとわかってはいる。
それを使うという事は、みんなの身に危険が迫るって事だから。
それでも心の中で、疼く衝動を抑えるのも辛く感じてしまう。
『はぁ、これじゃルーギルたちや、ムツアカの事言えないなぁ? それでも自覚してるだけましって事にしよう。それだったら戦闘狂の部類じゃないしね』
同じ枠組みでいるあろう、人物を思い浮かべて自制する事にした。
※※
「それじゃ、みんな落ち着いたかな?」
それぞれにご馳走した、飲み物を空にした時を見計らって声を掛ける。
みんな話過ぎて、喉がカラカラだったらしいから。
「ありがとうな、スミカ姉ちゃんっ! またご馳走になっちゃってさ。これは街で売ってるものなのかい? 何かの果物の味がするけど」
ボウが飲み干した容器を眺めながら、声を掛けてくる。
「ああ、それは屋台で売ってるやつだよ。ユーアや冒険の為に買い込んでたやつ。なんだ飲んだことないの? 普通に売ってるけど…… あっ!」
私はボウに答えながらも、最後の一言が余計だった事に「はっ」と気付く。
この街にいれば、おいそれと買えないだろう現状を思い出して。
「スミカよ。別に気にせんどもよいぞ? わしらは全く街に行かないってわけではないからな。お金も一応持ってはおるし。ただ望んでは行かないだけじゃよ」
私の気持ちを汲み取ってか、ビエ婆さんがフォローしてくれる。
「まぁ、それでも気遣いが足らなかったって反省するよ。それでお金ってどうやって稼いでいるの? 自給自足だけではないんだ」
「それはスミカがここに来た時に見せた大豆じゃよ。それを買い取ってくれる者がおるんじゃよ。あまり大した金額にはならないがな」
「ふ~ん、誰かと取引してるって事かな?」
「そうじゃな、それが一応の収入源になっておる。あとは栽培している野菜などを売って、足りないものを街に買い出しに行っておる。目立たないようにしながらじゃがな」
「なるほどね」
私はみんなを見渡してみる。
ボウとホウも、当初のユーアより貧しそうに見える。
その格好もそうだけど、痩せ細っている体だから余計だろう。
その他のみんなも似たようなものだ。
ただ働いていないわけではない。
それが普通の生活の水準になるほど稼げないのと、税金が払えないとかで。
そもそも売りに出しているものも、正規な値段で買取されてるのかも怪しい。
間違いなくスラムって事で、足元を見られてる可能性が高い。
大人たちは、もう大人として成長している。
だけど、これから成長する子供たちはどうなるんだろう。
ユーアの生活も最初は似たようなものだった。
だからなのか、同年代より成長が遅い。
正直、ユーアみたいな子供たちは見たくない。
貧しくても、卑屈にならないで頑張っているからだ。
それは最初に目を見て分かった事だ。
だから、ここの世界の子供たちは強いと思った。
そして、何とかしたいと思った。
だから私はある提案をする。
「ねぇ? スラムを変えて普通の生活をしてみたいと思う? もしその意志があるんだったら、私は協力するよ。最初は厳しいかもしれないけど、領主さまとも相談してあげるから」
「そ、それはどういった内容なのじゃっ!」
ビエ婆さんがいち早く反応する。
他の人たちは、それを黙って見ている。
「内容は先に言えないよ。それを聞いて及び腰になって断られても、そっちの都合がいいだけだから。だから私は覚悟として聞いてみたの。このままでは子供たちも、これからの街の生活も発展は望めないから。それを踏まえてどうする?」
厳しいようでも、私はそんな風に答えた。
良い人たちばかりでも、この人たちは言わば不法滞在者たちだ。
街のルールに反して生きてきている。
その経緯はわからないけど、普通に戻りたいならば、ある程度見せて欲しい。
私はそんな意味を込めてその提案をしてみた。
「う、むぅ。スミカの言いたい事はわかる…… じゃが、わしたちは――」
言葉尻を濁して、ビエ婆さんが悩み始める。
さすがにおいそれとは決められないみたいだ。
『それはそうだよね、この街の未来って話だけど、そこに踏み込むには勇気と体力も使うからすぐには判断できないかな? 少し意地悪だったかも』
断れる可能性が高いことを考慮して、ちょっとだけ後悔する。
そもそも今日会ったばかりの小娘に未来を託すなんて。
『う~ん、ちょっと焦ったかも……』
私はほぼ諦め気味に返事を待つ。
予想では、今までの生活で生きていくことを選ぶはずだと。
そう思っていたけど――――
「ビエ婆さん、何を悩んでいるんだっ! スミカ姉ちゃんの言う事だぞっ!」
「ビエ婆さん、何を悩むんですか? わたしたちを救ってくれた英雄さまですよっ!」
双子の姉妹のボウとホウの声に我に返る。
そして私の納得できる答えがその後聞くことが出来た。
ボウとホウがビエ婆さんと話をして。
やはりこの世界の子供たちは強いと、私は再認識した。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる