剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

さぁ帰ろうみんなの待つ場所へ

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「蝶の姐さん、本当にありがとうございましたっ!」

「「「ありがとうございましたっ!」」」

 ボウたちが待つ地下室に到着する直前に、唐突にカイが頭を下げる。
 その後ろでは、カイに続いてみんなも深く頭を下げている。

「どうしたの今更。もう着くから話は後でいいんじゃないの? それに帰ってくる時にも聞いたと思うけど」

 洞窟を移送している間にも、お礼の言葉は貰った。
 ここまで大仰なものじゃなかったけど。


「いえ、きちんとお礼を言えてなかった事に気付いたんですっ! 色々とあり得ないことが起こり過ぎて、たくさん驚いて、それで……」

「うん? それこそみんなと合流して、安心させてからでもいいんじゃない?」

 他の人たちも見渡してそう聞いてみる。
 驚いた中に、私のパンツの事がチラっと頭をよぎったけど。


「そ、それもそうなんですが、子供たちの前では中々言いづらいのと、戻ってしまえばきっとうやむやになりそうだったんです。みんなも喜んで大騒ぎすると思うので」

「ああ、なるほど。でもそんなに感謝しなくてもいいんだよ? 私は私で得る物もあったし、ボウたちをこれ以上泣かせたくなかったし、それにいいことも思いついたからね」

 少しだけ、含みのある笑顔でそう答える。

「え、いいことですか?」 
「うん、まぁ、それはここでは話せないけど。だからお礼は気にしないでいいよ」
「はぁ、姐さんがそう言うならいいですけど……」
「あ、でも一つだけ聞いていい?」
「はい、なんですか? 姐さん」

 私はある事を思い出してカイに聞こうと思った。
 子供たちの前では、あまり聞かせたくない話だからだ。


「このスラムに、武器があるって聞いたんだけど、そんなのあるの?」
「武器ですか?」
「そう、ナジメが、じゃなくて、領主さまが言ってたんだけど」
「え? こ、この街の領主さまとも知り合いなんですかっ!」

 領主と聞いて、ひと際声が大きくなるカイ。
 他のみんなもざわざわと話し始める。

 まぁ、色々と思うところはあるんだろう。
 お互いの立場の違いもそうだけど、もっと根深いところでね。


「カイや他の人たちは会った事あるの? この街の領主さまに?」
「い、いえ、あまり街にはいないって事だけしか……」
「なら今度連れてくるよ。ちょっとビエ婆さんとも相談したいし、領主さまにも見てもらいたいから」

「ちょ、それじゃ、俺たち街の人間はっ!」

 私の話を聞いて、カイも他の人たちも更に騒ぎ出し始める。


「違うって、そういうのじゃないから安心して。そもそもそんな事するなら、私はこの街に来なかったよボウの話を聞いても。それよりも武器の話は?」

 慌てるみんなを宥めるようにそう答える。

「え、あ、確かにそうですよねっ、なら理由は後からですか?」
「そうだね、帰ったからじゃないとわからないから。で?」
「で? ああ、武器の話でしたね、それは――――」

 カイはみんなを見渡して、話を始める。

※ 


「ばりすたぁ?」

「そうです『バリスタ』です。ただしかなり昔の物で、金属の部分も弦も腐食していて、使い物にはならないものばかりですが……。 それと『投石機』もありますね」

「それの事か、なるほど」

 商業ギルドでナジメが言ってた事。
 それはこのスラムの人々には、戦う手段があるとの話だった。

 その正体がカイの言っていた『バリスタ』と『投石機』だろう。
 ただし、古くて使えない代物みたいだけど。


「で、それはどこにあるの?」
「外壁の近くにある石の建屋に揃っています」
「え、揃ってるっていっぱいあるの?」
「はい。全て移動式みたいですが、凡そ30台はあったかなと思います」
「ふ~ん。なんでそんなものがあるんだろう?」
「さぁ? 何分昔からあるものなので、詳しくはわからないです」
「うん、わかったよ。教えてくれてありがとうカイ」
「は、はいっ! 姐さんのお役に立てて嬉しいですっ!」

 カイは最後にそう言って「ビシ」と背筋を伸ばす。
 ただその顔は締まりのないものだったけど。

 そうして、話が終わる頃には、ちょうど地下室のある建物の前に着いた。

 そこには――――


「スミカ姉ちゃんっ! みんなっ! 無事だったんだなっ!」
「スミカ姉さんっ! それとみんなも無事でよかったですっ!」

 建物に入る前に、ボウとホウの姉妹に出迎えられた。
 私が出てから、ずっと待っててくれたんだろう。

 ただ二人とも透明壁で近寄ることが出来ず、むぎゅと顔を押し付けていた。

「ふふ、今魔法を解除するから待ってて」

 姉妹の潰れた顔を見ながら解除する。

「わっ!」
「きゃっ!?」

 ダダッ

 ガバッ

「あ、ごめんごめん、一応断ったんだけど、聞こえなかったみたいだね」

 姉妹の二人は、突然に壁が無くなった事で前のめりに転びそうになる。
 私はそれぞれ両手に受け止めて、ボウとホウに謝る。


「ん? どうしたの二人とも」

 私に抱きかかえられたまま動かない二人に声を掛ける。

「うん、わたしたち心配したんだ。外壁よりでっかい虫と戦ってたスミカ姉ちゃんが見えたから。そしたら――――」

「そうしたら、スミカ姉さんも、でっかい虫も見えなくなって、それでずっと帰って来なかったから不安になっちゃったんです。ここから出られないし……」

 二人ともそう言って、私の腕をギュッと強く胸に抱く。

「…………うん、心配してくれてたんだね、ありがとう。でも私は行く前に言ったと思うけど、心配しないでねって」

 腕ごと二人を抱き寄せて、優しく声を掛ける。

「うん、うん、それはわかってるけど、だってっ!」
「だって、あんなに大きな虫なんだもんっ! 誰だって心配しますっ!」

「…………そう、だね。それは二人の言ってる事が正しいよ。それよりも、そろそろ手を放してくれない? 痺れてきちゃうから」

「あっ! ごめんなっ! スミカ姉ちゃんっ!」
「す、すいませんっ! スミカお姉さんっ!」

 慌てて二人とも、私の腕を離す。
 強く抱き寄せてた自覚はあるようだった。

「まぁ、二人ともそんな顔しないで。今は私に驚いたり、心配するよりも、もっと他にいるでしょ? 今、みんなも、ボウたちも見たいのは、お互いにそんな顔じゃないでしょ?」

 コロコロと表情が変わるボウとホウにやんわりと話をする。
 今は私の事で気を揉むよりも、他に相手がいて、伝えたいものがあるというのに。

 すると、二人とも私の言った事に気付いたようで、みんなに振り返る。

 そして――

「カイもみんなも無事で良かったっ! わたしたちを逃がしてくれてありがとうっ!」
「ううう、みなさん、無事で良かったです……。わたしたちを守ってくれて……」

 ボウは、無事を祝う言葉と感謝を伝えて、笑顔になる。
 ホウは、泣きそうになりながらも、必死に笑顔を作り感謝を伝える。

『ふふ』

 そう。

 今この場に相応しいのは、みんなの無事を笑顔で迎える事。
 それは待ち人だけではなく、待たせてた人たちも一緒だ。


 だから――

「ボウとホウ、たくさん心配してくれてありがとなっ!」

 カイも笑顔になって、ボウとホウにお礼を伝える。
 更にカイは続けて、

「それと、ボウは危険を冒して姐さんを連れてきてくれてありがとうっ!」
「え?」
「ホウはビエ婆さんたちに、姐さんの事を必死に説明してくれたんだろっ!」
「へ?」
「俺たちは子供たちを助けたかもしれないけど、俺たちを助けたのはボウとホウ。お前たち姉妹だからなっ! ここにいるスミカの姐さんと同じくらいに、お前たちには感謝しているぞっ!」

 カイは両手を広げ、面食らっている二人に抱きつく。

 すると他のみんなもボウとホウに駆け寄り、三人まとめて抱きしめる。


「おおっ! 外が騒がしいと思ったら、みんな無事で帰ってきたんじゃなっ!」
「み、みんな無事だったのねっ!」

 ビエ婆さんと、ニカさんも騒ぎを聞いて駆け付ける。
 その後ろには子供たちもいて、真っ先にそれぞれの親元に駆けていく。


『ふぅ、これで虫の件は一件落着かな? 話をしたかったけどそんな空気じゃないね』

 私は少し離れ、みんなの喜ぶ姿を眺めて頬が緩む。
 家族や友人たちの無事を喜び合い、弾けそうな笑顔のみんなを見て。


 そうして、一先ずの決着がついた今回の巨大な虫の魔物騒ぎ。
 後はこの街の行く末が気になるところだ。
 
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