剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
290 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

洞窟を散策する蝶

しおりを挟む



「念のためスキルで蓋しておいて正解だったよ。いくら地面が固くても、あんなに暴れられたら崩れて探すのが大変だったろうしね」

 ラスボスの、巨大なハサミ虫の魔物が出てきた穴を見る。

 実態分身を攻撃した際に全身を出したので、その時に保管しておいた。
 出現してきた穴の上に、透明壁スキルで蓋をして。


「まぁ、これなら余裕で入れる大きさだけど、出口がわからないから正直恐いね。それでも行くしかないんだけど……」

 ブツブツと独り言を言いながら、暗い穴の中を見てみる。
 どこに続いてるかはわからないが、恐らくこの先に巣があると思う。

 じゃないと、子分を使って街の人たちを攫っていった先がわからないからだ。


「多分、あの小さいのは、って言っても普通に比べたら異常な大きさけど、ラスボスの為か、何か他の目的があって活動してたんだと思う。それも目立たないように、スラムの人たちを狙って」


 私はナイトビジョンゴーグルを付けて穴に飛び込む。
 穴の大きさは5メートルほどあるから、ちょっとした洞窟みたいだ。

「よっと」

 暫く暗闇の中を真下に向けて降下していく。
 体長20メートルを超える虫の魔物だったから、かなり深い。

「ん、さすがに暗すぎるな、暗視はやめてライトに切り替えよう。それと足場を作りながらの方が良さそうだね。距離感掴みずらいし」

 落下の途中で暗視モードからヘッドライトに切り替え、足場を何度も展開しながら徐々に地下に降りていく。最初の自由落下で10秒以上は経過してるから、かなりの深さまで降りてきている。

――

 トンッ

「とりあえず、ここが最下層なのかな?」

 固い地面に足を付け、周りを見渡す。
 ライトが届く範囲には何も危険が無いように見える。

「横穴が北方面と南だけ、と。あまり動き回らなかったみたいだね。あんな巨大な虫があちこち移動してたら地盤が危なかったよ。子分たちに任せて、自分は大人しくしてたのかな? 以前の腕輪をしてた他の魔物みたいに」

 今思い出すと、サロマ村のオークもトロールも、仲間がやられたのを見計らって出現していた。その存在を知られたくないのか、そう操作されてるのかはわからない。

 恐らく腕輪の機能が解明しない限りは、行動原理は不明のままだと思う。


「う~ん、相変わらず索敵には何も映らないな。道は北と南の二択かぁ、だったら」

 メニュー画面のコンパスを頼りに北に向けて洞窟を進んでいく。
 高さも幅も私の3倍以上もあるから問題ない。強度も地質のせいか大丈夫そうだ。





「うん、思った通りにこっちが正解っぽいね、良かったよ。南は街の中だし。もし、潜んで行動したいなら、北に向かうはずだからね、もうここはとっくに街の外の距離ぐらいだろうし」
 
 暫く進んだところで、索敵に40以上の反応を見付け、ホッとする。
 何の反応もなかったら、それは生物ではなくなっているからだ。


「よし、少し急ごう。生きてるのは良かったけど、状態がわからないから」

 私は足場に気を付けながら、小走りで急ぐ。
 ギリ索敵の範囲なので、恐らく走ってすぐだろう。



「ここは?」

 ライトを照らしながら、周りの状況を確かめる。
 40以上の反応があったところは大きな洞穴になっていた。

 天井も横幅も、今までの10倍以上の広さだ。
 恐らくここに最後の魔物は潜んでいたのだろう。

 そして、その一番奥には――――

「う、うう……」
「あ、あああ……」
「はぁはぁ……」
「…………うくっ」
「だ、だれか……」

 大勢の男女の人間が横たわり、みな呻き声をあげている。
 全員まともに意識が無く、力なく倒れている。


「…………結構ひどいね」


 見た目の衰弱だけではなく、虫の魔物と戦った者なのか、はたまた、連れてこられる間で何かあったのか、体の一部が抉れてたり、出血の跡のある者が多かった。

「先に治しちゃおうか」

 幸い血液は固まりつつあるが、抉れた部分が見当たらない。
 それと全員が全員、衰弱が激しすぎる。
 たった数時間で何があったというのだろうか。


 私はアイテムボックスより、2種類のアイテムを出す。

 『リワインドポーション』  欠損部分を治す。
 『リカバリーポーションS』 ケガと体力を回復する。

 ついでにヘッドライトを消して、キャラライトを床に置く。
 今度は軍用ジープタイプの模型風だ。


「最初はこっちから」

 まず最初にリワインドポーションを使用することにする。
 リカバリーの方を使用すると、気付け薬にもなるので目が覚めてしまう。

 リワインドポーションを一気に使わずに、少しづつ使用していく。
 患部の状態を見ながら量を調整する。

「うん、やっぱり効果が高いから、丸々使う必要ないねっ!」

 この使いは、ムツアカにあげたレーションの時に思いついた。
 少量でも、効果があるって。
 なので試してみたら、このアイテムもそうだった。

「それじゃ、次は――――」

 意識のない全員の欠損を治した後で、同じようにリカバリーも使っていく。

「あ、あれ? ここって――」
「俺たちは一体? ――」
「う、うん、なんか暗いな――」
「確か、でっかい虫がみんなを――」

 見る見るうちに目を覚ます街の大人たち。
 直ぐに周りを見渡し、状況を把握しようと視線を巡らす。

 そして、ある一点に注目する。

「「「うわっ! また違う虫がっ! 今度はが生えてるぞっ!」」」

「………………」

 洞窟内に映された、何かのシルエットに驚き大騒ぎを始める。
 言うまでもなく、キャラライトで照らされた私だ。


『……なんだよ、虫の魔物のせいで、私まで虫扱いで怖がられちゃってるよ。でっかい羽根があるんだから、天使とか妖精とか思いついてもいいでしょ? …………あれ?』

 私は驚くみんなを他所に、視線を背中に向けてみる。
 みんなから気になる単語を聞いたからだ。


「…………ああ、これは確かに驚くかも」


 シルエットにも映っていたが、ある一部分が大きくなっていた。

 それは――


 パタパタ


「うん、一応羽は動かせるし、小さくも出来る。これなら邪魔にはならないね」

 そこには大きな羽根を生やした私がいた。
 どうやら魔物との戦いで、スキルレベルと共に成長したようだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...