285 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
逃げ延びた人々
しおりを挟むボウとホウを傍らに、不規則に連なっている建屋の間を抜けていく。
相変わらず、石造りと質素な建屋が混在していて、比較的新しいのは質素な木製の家や、小さい倉庫らしいもの。
『もしかして、ここって何かの跡地か施設? それが建築の途中で中断したって事? その後で、ボウたちが住みついたって感じにも思えるね』
恐らく、頑強そうな石造りは過去の建物。
木造はここに住んでる人たちが建てたもの。
二つの混在する建物を見ながらなんとなく推測してみる。
「こっちだぞっ! スミカ姉ちゃんっ!」
「こちらです。スミカお姉さん」
暫く3人で歩いた後、一回り以上大きな平屋の建物に到着する。
それは石造りで出来た、古い年代を感じるものだった。
「わかったよ、でもまだ私から離れないでね」
先を促し、前に出る姉妹に注意をして呼び戻す。
そして3人で薄暗い中を進んでいく。
建屋の中は真ん中に広い通路があり、両脇は何人かが入れる小部屋になっていて、それが通路の置くまで続いている。部屋の数は両脇を合わせて10部屋程。
そしてどの部屋にも扉ではなく――――
「ここって、牢屋?」
鉄の格子が嵌められている部屋を横目に、二人に聞いてみる。
「そうだと思うな。わたしはよく知らないけど……」
「む、昔の戦争の時のものじゃないかって聞いたことがありますっ」
姉のボウは自信なさげに、妹のホウは少し緊張気味に答えた。
「それじゃ戦争の時は、ここは収容所とか、監獄だったって事かな? それにしてはあまり人数入れられないけど。あっ、そうか、他のみんながいる地下もたくさんの牢屋があるって事だね?」
どう見ても、このフロアの大きさと部屋数では収容できても30人くらい。
なので避難している地下にもあると考える。
「え? 下は大きな部屋が1つだけだぞ」
「はい」
姉妹で歩きながら、顔を見合わせて答える。
「う~ん、なんか中途半端な施設だね。だから放置されてる可能性もあるけど…… まぁ、今は気にしても仕方なかったね。それじゃ引き続き案内よろしくね」
ここで悩んでても埒が明かないので、二人に先を促す。
街に帰ったら誰かに聞いてみればいい、なんて思いながら。
「え? もう着いたぞ。スミカ姉ちゃん」
通路の行き止まりの薄暗い左手を指さしながら、ボウが答える。
そこには下に続く狭い階段があった。
私たち3人はボウを先頭に下に降りていく。
そして降りて行った先の暗がりには、教室ほどの牢屋があった。
※※
「ボ、ボウ、帰ってきたのねっ!」
「そ、それにホウまで一緒で…… 良かった心配したのじゃぞぉ」
「「「ボウ姉ちゃんっ!?」」」
ボウとホウが階段を降りとすぐに、その姿を発見して女性二人が声を掛けてくる。暗がりに目を凝らすと、若い女性とおばあさんに近い年齢の二人だった。
「大丈夫なのね二人ともっ! もうっ! ホウは勝手にいなくなってみんなも心配したんだからねっ!」
「そうか、そうか、二人とも無事じゃったか。良かった、良かったぁ」
その女性の様子から、姉妹の二人を心から心配していたとわかる。
女性の後ろにも30人近い子供がいるが、みんなも笑顔になっている。
「うん、うん、ごめんなさい、わたしボウお姉ちゃんが心配で……」
「あなたが姉のボウを心配するように、私たちも心配だったのよっ。もう勝手にいなくならないでちょうだい……」
牢屋を抜け、駆け寄ってきた若い女性に抱きつくホウ。
それを見て、おばあさんは涙ぐんでいる。
「…………う~ん、なんか暗いね」
私は、アイテムボックスよりキャラライトを出して手に取る。
因みにこのアイテムは地雷を模した形の照明で、レスト内の装飾アイテムだ。
「ここでいいかな?」
格子近くに地面に置く。
ここなら出入り口も中も照らせる。
するとすぐさまアイテムから発光し、辺りを優しく照らす。
もちろん暗いってのは雰囲気じゃなく、視覚的な意味合いだ。
「「「ぎゃ、ぎゃ~っ!! 蝶のお化けだっ!!」
「へ?」
「な、な、な…………」
「あ、あわわ…………」
光により、映し出された何かの影を見て絶叫する子供たち。
女性の二人は、ボウとホウを抱き締め怯えている。
何かの影の正体はもちろん私のアバターだけど。
「…………ごめん、別に驚かす為に出したわけじゃないよ? ただ辺りが暗いから不便だなって思っただけ。まぁ、地下だから仕方ないけど、それに釣られて気分も暗くなるの嫌だから」
一歩踏み出し、ライトの灯りを全身に受けて正体を現す。
と、言っても隠してたわけじゃないんだけど。
「あ、スミカ姉ちゃんっ! みんな紹介するぞっ! このお姉ちゃんがこの街の英雄さまで、わたしたちの為に来てくれたんだっ!」
二人の女性の腕から抜け出し、私の隣に立って紹介するボウ。
腰に手を当て、自慢げに仰け反っている。まるでラブナの様に。
但し、そのボウのテンションとは裏腹に
「「「…………………」」」
「…………………」
みんなの視線は冷たいものだった。
『…………まぁ、仕方ないよね』
ボウが命を賭けて連れてきた人物が、か弱い美少女だし、戦いよりお花が似合いそうなほど可憐だし、武器を持つには不向きな程の、女性としての膨らみが目立つからね。
『うん、うん、ならしょうがないね、見た目がこんなだし』
私はみんなの無言の視線を浴びながら、一人頷き納得する。
「あ、ああっ、ボウが街で騙されて帰ってきたなんて…… 蝶の子供に」
「ボ、ボウや、今日はもう休みなさい、蝶の子供と遊んで疲れたじゃろぅ」
「え? あ、ちょっとっ――」
女性の二人に肩を抱かれ、中に連れられて行くボウ。
「ニ、ニカさんと、ビエばあちゃんっ! そ、その人はわたしとボウお姉ちゃんを助けてくれたんですっ! あ、あのおおきな虫を退治してくれてっ!」
それを見て、物静かなイメージのホウが声高く訴える。
「え、それじゃ本当なのかい? そこの子供が……」
ビエと呼ばれてたおばあさんが、光に映し出されている私を見る。
ホウの必死の訴えが、どうやら功を制したようだった。
それでもまだ半信半疑だろうけど。
『う~ん、見た目に関してはアバターの設定で自覚してるけど、そこまで「子供子供」連呼しなくてもいいよね?』
容姿はこんなだが、中身は立派な大人なのだ。
元々の身長だって高い方だったし、スタイルだってもちろん抜群だ。
「一応、ボウの街の英雄って話も、ホウの虫を退治したって話も本当なんだよ。それでも納得できなさそうだから、証拠を出すよ。それと前もって言うけど驚かしたいわけじゃないから」
みんなを見渡しそう言って、アイテムボックスより虫の魔物の死骸を出す。
「「「――――――っ!?」」」
「ほら、こっちがハサミで、こっちの黒いのが頭。で、胴体は――――」
10分割になってるので、分かりやすいようにように並べていく。
直接触るのは嫌なので、スキルを使って床で組み立てていく。
「これで1匹分。あと5匹あるけど全部出す?」
床に並べた虫の魔物の死骸を見て固まるみんなに声を掛ける。
そんなみんなは「フルフル」と無言で首を横に振っている。
良かったよ、虫の魔物を回収してきて。
「お、お主が本当に助けてくれたのかい?」
声を震わせて近づいてくるビエ婆さん。
「そうだよ。英雄って話は証明できないけど、虫を退治したってのは本当」
「そ、その死骸を見てそれはわかったのじゃ」
「うん、ありがとう。ならちょっと話をしたいから、少し落ち着いてもらっていい? ここは絶対安全だから」
私はテーブルセットを取り出し床に設置する。
「そ、それは、一体……」
「立ち話もなんだからこれに座って? 飲み物も用意するから」
「お、お主は……」
「あ、あなたっ! 安全ってどういうこと?」
ビエ婆さんと、私の話にニカさんが入ってくる。
「それも一緒に説明するから、とりあえず座って。ボウとホウもね」
ニカさんにそう話した後、姉妹の二人に声を掛ける。
「わかったよ、スミカ姉ちゃんっ」
「はい、わかりましたスミカお姉さん」
「それじゃ、色々と聞きたいのと、教えて欲しいからよろしくね」
ボウとホウ、それと唯一の大人のビエ婆さんとニカさんを見渡して口を開いた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。


強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる