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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
逃げ延びた人々
しおりを挟むボウとホウを傍らに、不規則に連なっている建屋の間を抜けていく。
相変わらず、石造りと質素な建屋が混在していて、比較的新しいのは質素な木製の家や、小さい倉庫らしいもの。
『もしかして、ここって何かの跡地か施設? それが建築の途中で中断したって事? その後で、ボウたちが住みついたって感じにも思えるね』
恐らく、頑強そうな石造りは過去の建物。
木造はここに住んでる人たちが建てたもの。
二つの混在する建物を見ながらなんとなく推測してみる。
「こっちだぞっ! スミカ姉ちゃんっ!」
「こちらです。スミカお姉さん」
暫く3人で歩いた後、一回り以上大きな平屋の建物に到着する。
それは石造りで出来た、古い年代を感じるものだった。
「わかったよ、でもまだ私から離れないでね」
先を促し、前に出る姉妹に注意をして呼び戻す。
そして3人で薄暗い中を進んでいく。
建屋の中は真ん中に広い通路があり、両脇は何人かが入れる小部屋になっていて、それが通路の置くまで続いている。部屋の数は両脇を合わせて10部屋程。
そしてどの部屋にも扉ではなく――――
「ここって、牢屋?」
鉄の格子が嵌められている部屋を横目に、二人に聞いてみる。
「そうだと思うな。わたしはよく知らないけど……」
「む、昔の戦争の時のものじゃないかって聞いたことがありますっ」
姉のボウは自信なさげに、妹のホウは少し緊張気味に答えた。
「それじゃ戦争の時は、ここは収容所とか、監獄だったって事かな? それにしてはあまり人数入れられないけど。あっ、そうか、他のみんながいる地下もたくさんの牢屋があるって事だね?」
どう見ても、このフロアの大きさと部屋数では収容できても30人くらい。
なので避難している地下にもあると考える。
「え? 下は大きな部屋が1つだけだぞ」
「はい」
姉妹で歩きながら、顔を見合わせて答える。
「う~ん、なんか中途半端な施設だね。だから放置されてる可能性もあるけど…… まぁ、今は気にしても仕方なかったね。それじゃ引き続き案内よろしくね」
ここで悩んでても埒が明かないので、二人に先を促す。
街に帰ったら誰かに聞いてみればいい、なんて思いながら。
「え? もう着いたぞ。スミカ姉ちゃん」
通路の行き止まりの薄暗い左手を指さしながら、ボウが答える。
そこには下に続く狭い階段があった。
私たち3人はボウを先頭に下に降りていく。
そして降りて行った先の暗がりには、教室ほどの牢屋があった。
※※
「ボ、ボウ、帰ってきたのねっ!」
「そ、それにホウまで一緒で…… 良かった心配したのじゃぞぉ」
「「「ボウ姉ちゃんっ!?」」」
ボウとホウが階段を降りとすぐに、その姿を発見して女性二人が声を掛けてくる。暗がりに目を凝らすと、若い女性とおばあさんに近い年齢の二人だった。
「大丈夫なのね二人ともっ! もうっ! ホウは勝手にいなくなってみんなも心配したんだからねっ!」
「そうか、そうか、二人とも無事じゃったか。良かった、良かったぁ」
その女性の様子から、姉妹の二人を心から心配していたとわかる。
女性の後ろにも30人近い子供がいるが、みんなも笑顔になっている。
「うん、うん、ごめんなさい、わたしボウお姉ちゃんが心配で……」
「あなたが姉のボウを心配するように、私たちも心配だったのよっ。もう勝手にいなくならないでちょうだい……」
牢屋を抜け、駆け寄ってきた若い女性に抱きつくホウ。
それを見て、おばあさんは涙ぐんでいる。
「…………う~ん、なんか暗いね」
私は、アイテムボックスよりキャラライトを出して手に取る。
因みにこのアイテムは地雷を模した形の照明で、レスト内の装飾アイテムだ。
「ここでいいかな?」
格子近くに地面に置く。
ここなら出入り口も中も照らせる。
するとすぐさまアイテムから発光し、辺りを優しく照らす。
もちろん暗いってのは雰囲気じゃなく、視覚的な意味合いだ。
「「「ぎゃ、ぎゃ~っ!! 蝶のお化けだっ!!」
「へ?」
「な、な、な…………」
「あ、あわわ…………」
光により、映し出された何かの影を見て絶叫する子供たち。
女性の二人は、ボウとホウを抱き締め怯えている。
何かの影の正体はもちろん私のアバターだけど。
「…………ごめん、別に驚かす為に出したわけじゃないよ? ただ辺りが暗いから不便だなって思っただけ。まぁ、地下だから仕方ないけど、それに釣られて気分も暗くなるの嫌だから」
一歩踏み出し、ライトの灯りを全身に受けて正体を現す。
と、言っても隠してたわけじゃないんだけど。
「あ、スミカ姉ちゃんっ! みんな紹介するぞっ! このお姉ちゃんがこの街の英雄さまで、わたしたちの為に来てくれたんだっ!」
二人の女性の腕から抜け出し、私の隣に立って紹介するボウ。
腰に手を当て、自慢げに仰け反っている。まるでラブナの様に。
但し、そのボウのテンションとは裏腹に
「「「…………………」」」
「…………………」
みんなの視線は冷たいものだった。
『…………まぁ、仕方ないよね』
ボウが命を賭けて連れてきた人物が、か弱い美少女だし、戦いよりお花が似合いそうなほど可憐だし、武器を持つには不向きな程の、女性としての膨らみが目立つからね。
『うん、うん、ならしょうがないね、見た目がこんなだし』
私はみんなの無言の視線を浴びながら、一人頷き納得する。
「あ、ああっ、ボウが街で騙されて帰ってきたなんて…… 蝶の子供に」
「ボ、ボウや、今日はもう休みなさい、蝶の子供と遊んで疲れたじゃろぅ」
「え? あ、ちょっとっ――」
女性の二人に肩を抱かれ、中に連れられて行くボウ。
「ニ、ニカさんと、ビエばあちゃんっ! そ、その人はわたしとボウお姉ちゃんを助けてくれたんですっ! あ、あのおおきな虫を退治してくれてっ!」
それを見て、物静かなイメージのホウが声高く訴える。
「え、それじゃ本当なのかい? そこの子供が……」
ビエと呼ばれてたおばあさんが、光に映し出されている私を見る。
ホウの必死の訴えが、どうやら功を制したようだった。
それでもまだ半信半疑だろうけど。
『う~ん、見た目に関してはアバターの設定で自覚してるけど、そこまで「子供子供」連呼しなくてもいいよね?』
容姿はこんなだが、中身は立派な大人なのだ。
元々の身長だって高い方だったし、スタイルだってもちろん抜群だ。
「一応、ボウの街の英雄って話も、ホウの虫を退治したって話も本当なんだよ。それでも納得できなさそうだから、証拠を出すよ。それと前もって言うけど驚かしたいわけじゃないから」
みんなを見渡しそう言って、アイテムボックスより虫の魔物の死骸を出す。
「「「――――――っ!?」」」
「ほら、こっちがハサミで、こっちの黒いのが頭。で、胴体は――――」
10分割になってるので、分かりやすいようにように並べていく。
直接触るのは嫌なので、スキルを使って床で組み立てていく。
「これで1匹分。あと5匹あるけど全部出す?」
床に並べた虫の魔物の死骸を見て固まるみんなに声を掛ける。
そんなみんなは「フルフル」と無言で首を横に振っている。
良かったよ、虫の魔物を回収してきて。
「お、お主が本当に助けてくれたのかい?」
声を震わせて近づいてくるビエ婆さん。
「そうだよ。英雄って話は証明できないけど、虫を退治したってのは本当」
「そ、その死骸を見てそれはわかったのじゃ」
「うん、ありがとう。ならちょっと話をしたいから、少し落ち着いてもらっていい? ここは絶対安全だから」
私はテーブルセットを取り出し床に設置する。
「そ、それは、一体……」
「立ち話もなんだからこれに座って? 飲み物も用意するから」
「お、お主は……」
「あ、あなたっ! 安全ってどういうこと?」
ビエ婆さんと、私の話にニカさんが入ってくる。
「それも一緒に説明するから、とりあえず座って。ボウとホウもね」
ニカさんにそう話した後、姉妹の二人に声を掛ける。
「わかったよ、スミカ姉ちゃんっ」
「はい、わかりましたスミカお姉さん」
「それじゃ、色々と聞きたいのと、教えて欲しいからよろしくね」
ボウとホウ、それと唯一の大人のビエ婆さんとニカさんを見渡して口を開いた。
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