剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

ナジメの気遣い

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「あれ? さっきユーアたちに渡したバッグ(ランドセル)は?」

 孤児院跡地を離れて、ナジメと商業ギルドを目指して歩いている。
 その際、ユーアたちとの別れ際に、渡したものについて聞いてみる。


「あれは孤児院で使う家具や寝具などが入っておるのじゃ」
「あ、そう言えばニスマジから受け取ってたんだっけ?」
「そうじゃよ。かなり安くしてくれたのじゃっ!」
「それにしても、よくあんな変なお店知ってたね?」

 行くたびに驚かされる、ニスマジの店を思い出す。
 コスプレ集団だったり、ガチムキ露出だったり、いきなり店名変わるし。

「ロアジムに聞いて知ったんじゃよ。あ奴も冒険者じゃし」
「ああ、なるほど。そう言えば冒険者だったね」

 元々はユーアのストーカーかと思ってたけど。

「それと、そもそもわしはルーギルとパーティーを組んだこともあるから、ニスマジの事は知っておったしのぅ」

「あ、そうか、前にも言ってたもんね」

 確かにナジメと戦った時に言っていた。
 かなり昔の冒険者時代の話だっけか?

「ニスマジの奴がユーアの衣装を着ていたが、あれは何だったんじゃ?」
「う…………」
「ねぇね?」
「あ、ああ、あれは売り込みの為らしいよ」

 呼びかけにふと我に返り答える。
 あれを思い出してはいけない筈なのに、脳裏から離れない。
 インパクトって言うか、一緒の恐怖体験みたいで。


「売り込みじゃと?」

「うん。英雄扱いの私のパーティーメンバーの格好をして、宣伝するみたい。要はシスターズの人気に便乗した感じだよね。正直嫌だけど」

「それじゃ、ねぇねや、ナゴタたちのもあるのか? わしのはないのに」
「え? そもそもお店に一度行ったんでしょ? 見てないの?」

 だったら、あの異常なお店をどうにかして欲しい。
 ユーアの教育にも悪いし。


「いや、わしではなく、子供たちを世話してる女中に行ってもらったんじゃ。その方が詳しいからのぅ。じゃからわしは、ニスマジの店には行った事ないのじゃ」

「なら、行かない方がいいよ。あれはトラウマになるからね」

 なるべく思い出さないよう、心を落ち着かせ返答する。

「ううむ。やはりわしのもニスマジの店で広めて欲しいのじゃが……。 なんなら一着貸してあげてもいいと考えておるのじゃが」

「絶対にやめてっ! もう諦めてっ!」

 それが現実になったら、お店がどうなるかわからないよっ!
 元孤児院と同じ末路かもしれないよっ!

「む、むぅ。そんな反対せずともよかろうに……」 
 
 トボトボと肩を落として歩くナジメ。

「う………………」

 そんないじらしいところ見せたって無理なものは無理。
 絶対にあってはならないものだ。

「あ、私初めてなんだけど、商業ギルドって何するところなの?」

 これ以上悲しむ幼女を見てると、肯定しそうなので話題を変える。

「う、うむ。大雑把に言えば、この街の流通や仕切り価格などを決めたり、商人たちを守る協会みたいなものじゃなっ!」

 「キリ」と声質を変えて、身振り手振りで説明が始まる。
 そうは言っても、目元口元が緩んでいるけど。
 
「へ~、それじゃ物販以外にも、それを扱う人も見てるんだ」
「そうじゃなっ! 商人と商業、両方を仕切っているんじゃっ!」

 姉妹もラブナもそうだけど、私が何か聞くと嬉しそうにするよね?
 無知な私に、色々教えるのが楽しいんだろうな。

 
 その他、聞いた話だと……

 ギルドに加入しなければ、出店することができない。
 加入すれば色々な恩恵がある。
 素材の買い取りをしてくれる。
 オークションに参加できる。
 土地や建屋の売買や賃貸。
 お金を預けることが出来る。
 
 更に冒険者と同じでランクがあるらしい。
 そのランクによって利用できることが制限されてるらしい。

 他にも細かい役割があるが、凡そはそんな感じだった。


『冒険者には、ユーアに合わせて登録したけど、こっちはあまり興味がないかも』

 なんせお店を出す予定もないし、買取は冒険者ギルドでも出来る。
 お金はアイテムボックスに保管してるし、建物は持ってるし。

『う~ん、オークションとか、土地は興味があるけど、土地は街中限定だし、オークションはこの街では開催しないらしいし。出展だけは出来るらしいけど……』

 取り急いで、今のところは加入する必要性がない気がする。
 私のアイテムは、現状では売るつもりもない。今のところは。


「ナジメも商業ギルドに入ってるの?」
「わしももちろん入っているのじゃっ!」

 そう言って、腰のポーチから薄いカードを出して見せてくれる。

「ん? 冒険者カードと一緒なんだ」
 
 色は違うけど、見た目は殆ど一緒だった。

「これ一枚で、加入しているギルドは全て大丈夫なのじゃ。それにしても、ねぇねはあまりにも知識がなさすぎるのぅ?」

 嬉々としてた顔から一転、訝し気な視線に変わる。

「ま、まぁねっ! 私は田舎から来たばっかりだからっ! あ、あんまり都会の事は知らないんだよっ! 山奥に住んでたからさぁっ! あははっ!」

 ナジメの視線を躱しながら、手を頭の後ろに回ながら言い訳をする。
 少し、いや、かなり挙動不審になってしまったけど大丈夫だろうか。

「う~む、それにしては、ねぇねの格好も持ち物も、特殊というか、国宝級に近いものをもっておるじゃろう? そんなギルドもない田舎などにあるものなのじゃろうか」

「う…………」

 腕を組み上目遣いに見てくるナジメ。
 更に視線が鋭くなってる気がする。

「そ、それは――――」

「じゃが、実際はねぇねが何処から来たのか、何者なのかはどうでもいい事なのじゃっ! 別にねぇねに秘密があったからって、わしらはねぇねを嫌わないし、ねぇねは、みんなの、ねぇねなのは、変わらない事実なのじゃからなっ!」

 言い淀んだ私に「ポンポン」と背中を叩き、そう言ってくれるナジメ。
 見た目幼女でも、中身は気遣いが出来る立派な大人なのだ。

「……ありがとう」

 私は一言だけ、そう告げる。
 
「うむ」

 ナジメも一言だけ返して、それ以降はまた孤児院の話に戻った。

 そうして、商店を抜け、商業地区内の目的のギルドに到着した。

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