277 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
涙目ナジメの懇願
しおりを挟む「レストエリアを売って欲しいって、どういうことなのナジメ? 今のお屋敷だって十分広いし、お庭も奇麗だし、場所だって静かでいいところでしょ?」
懇願するような、しかも上目遣いの眼差しのナジメに聞き返す。
まぁ、上目遣いは身長的に仕方ないんだけど。
それでも、その態度からは本気なんだって気付いた。
「う、うむ。これから数日で孤児院の建築に取り掛かるのは知っておるじゃろ?」
「そうだね。1ヵ月くらい先だって聞いてるよ。完成は」
うん? ナジメのお屋敷の話は?
などと話を合わせながら、ナジメの話に耳を傾ける。
「わしは、良い孤児院を作ろうと考えておる。罪滅ぼしも含めてな」
「うん」
「じゃから、工事にも出来る限り立ち会うつもりなのじゃ」
「そう、そこまで考えてくれてたんだ……」
真摯な眼差しのナジメを見て、自然に頭に手が伸びる。
そこまで思っていてくれた事を褒めてあげたいと思って。
「よし、よし、ナジメも頑張ってるん――――」
だったんだけど……
「じゃが……」
「うん?」
次の言葉を聞いて手を引っ込めた。
「じゃが、ねぇねの『快適お家』に一度でも子供たちが住んだら、もうそこから抜け出せないのじゃっ! わしが作った孤児院では満足しないのじゃっ~!」
両手を上げ、背伸びしながら叫んだナジメ。
その勢いとは裏腹に、目尻には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「………………うん」
これって、要するに。
「もしそうなったら、立場も含めて心中複雑って事? ナジメが建てた孤児院よりも、私の孤児院(レンタル)の方が人気だったりしたら」
ウル目のナジメに聞いてみる。
「う、うむ。そうとも言うのじゃ……」
「いや、いや、この流れだったらそれしかないでしょ?」
なんで今更強がるの?
「はい、その通りです」
「え?」
な、なんでいきなり標準語に?
「なので、どうか、スミ神さまお願いしますっ!」
「いいいっ!」
ガバァッ
て、今度は私に抱きつき懇願してきたっ!
「スミ神さまっ! お願いなのじゃ~っ!!」
「わ、わかったよっ! 但し条件っていうか、工事もしてもらうかんねっ!」
腰に纏わりつくナジメを引きはがしながら、そう答えた。
私もその事を想定してなかった訳じゃないしね。
※
「スミカお姉ちゃんっ!」
ナジメと工事の打ち合わせをしてると、ユーアたちが中から出てきた。
その後ろには、シーラを先頭に子供たちの姿も見える。
そして最後尾にはラブナの姿があった。
「それで中は大丈夫だった?」
2階建ての箱型のレストエリア。
そしてユーアを含め、子供たちを見渡して聞いてみる。
「うん、みんなもあれでいいって言ってましたっ!」
「いいも何も、子供たちは魂が抜けた顔してたけどねっ! だから決めたのはユーアとアタシとシーラで決めたわっ!」
答えたユーアの補足として、ラブナが駆け寄り教えてくれる。
「シーラは?」
子供たちはレストエリアに夢中だったので聞いてみる。
シーラだけは私とユーアとのやり取りを見ていたから。
ただし、その目がキラキラしているように見える……
両手も胸の前で「ギュッ」と握ってるし。
「や、やはりスミカお姉さまは、神さ――――」
「違うから」
言い切る前に上から被せる。
「それでシーラも大丈夫だった? 一応考えては配置したんだけど」
「は、はいっ! 後は必要な家具を置いてみないとわかりませんが、あれで大丈夫だと思いますっ! いえ、そもそも神さまに意見なんて畏れ多いですっ! あれで完璧ですっ!」
早口で捲し立てる様に言い直すシーラ。
「……ま、まぁ、シーラがそういうならいいけど。でも何かあったら言ってね? 実際使って見ないと不便なところとかわからないから」
もう面倒臭くなって、シーラの言う事を受け入れる。
事あるたびに訂正するのも、正直おっくうだし。
「ナジメ、孤児院にくる臨時のお手伝いさんたちは、いつ来るの?」
子供たちだけでは心配だと気付き、聞いてみる。
「夕刻の時間には来るのじゃ、ねぇね」
「院長みたいな人の代わりは? それと臨時じゃない人たちも」
「ロアジムが1週間ほどかかると言っておったのじゃ」
「なら、その間はナジメのとこのメイドさんと、ロアジムの知り合いの人たちが交互に来てくれるんだっけ?」
シーラも含めて、いきさつを説明しながら聞いてみる。
「そうじゃ。それと院長も、他の従事する者もロアジムが用意してくれるそうじゃ」
「そう、それなら色々と安心だね」
ロアジムに任せておけば、変な人員は送っては来ないだろう。
それとナジメもしっかりと管理するだろうし。
「ねぇね、わしはこれから商業ギルドに行ってくるのじゃ」
「商業ギルド。 なんで、何か買うの?」
「何を言っておる。土地はわしが何とかすると言ったじゃろ? だからじゃ」
「ふ~ん、そうなんだ。商業ギルドねぇ?」
商業ギルドって、ニスマジが所属しているところだよね?
さっき会ったばかりのオカマを思い出す。
どんなところなんだろ?
冒険者ギルドとは全く違うのはわかるけど。
それと土地もあるんだ。
見てみたい気もするけど……
「スミカお姉ちゃん、こっちはボクとラブナちゃんがいるから大丈夫だよ」
少し悩んでいるとユーアが声を掛けてくる。
興味があるのが態度に出てしまったのだろう。
「ありがとうユーア。少しだけ気になるから、ナジメと見てくるね。夕方までには帰れると思うけど、もし遅くなった時は先にご飯食べてていいからね。我慢しないでいいからね? それとお金も少し置いていくから、何か必要なものはそこから使ってね。後あまり――――」
「もう行くのじゃ、ねぇねっ! 子供たちがびっくりしてるのじゃっ!」
「あ、あとハラミもキチンと見張っててね? ラブナも――――」
「もういい加減過保護過ぎっ! さっさと行きなさいよっ! スミ姉っ!」
「シーラ、ユーアはあまり冷たいもの得意じゃないから、飲ませ過ぎには――」
「わ、わかりましたスミ神さまっ! うふふっ」
「あ、そうだっ! それとユーアに――――」
「「「……………………はぁ」」」
ナジメには催促され、ラブナには呆れられ、シーラには笑われながら、ナジメと二人で商業ギルドに向かう。
そんな中、ユーアはちょっとだけ頬っぺたが膨らんでいた。
あまり子ども扱いしちゃダメだよね?
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる