剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

子供たちの思いと想い

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 ユーアとラブナを先頭に、孤児院の子供たちが列を作る。
 その中を人気のハラミが数名の子供を乗せて歩いている。

 一番後方にいるのは私とナジメ。
 周りを気にしながら子供たちの列についていく。

 私たちはナジメの屋敷を後にして、今は貴族街を移動しているところだ。


「ねぇね、子供たちを預かるのは孤児院の建屋が出来るまででも良かったのじゃよ? 事の発端はわしの失態から繋がっておるからのぅ」

 索敵モードに切り替えて、様子をみている私に声を掛けてくる。

「う~ん、貴族の街が意外と安全ってのはわかったんだけど、それでもユーアたちをナジメの屋敷に通わせるのは気が引けるんだよね」

「うむ、そうじゃろうな」

 子供たちが、ナジメの家にお世話になってる間は二人は通うだろう。
 それを私は良しとしなかった。

 悪意関係なく、何かに巻き込まれる可能性もあるからだ。
 一般地区よりは危ない気もするし。良く把握もしてないし。


「それでは、どこにねぇねの持っている、快適お家を出すのじゃ?」
「どこって、ナジメに整地してもらった跡地…… はダメか、新しく建てる土地だもんね」

 整地してもらった場所に建て直す事を忘れていた。
 そうなると、元々の跡地にレストエリアが設置出来ない。

「数日なら工事が始まらないから大丈夫じゃよ? 材料の搬入などもあるじゃろうし」
「そうだね、一先ずは跡地に設置して、その間で土地を探してみるよ」

 取り敢えずは数日の余裕が出来たので、空いた時間で探しに行く事に決める。


「あ、あのぅ、スミカお姉さま……」
「どうしたの? シーラ」

 孤児院のまとめ役の、最年長のシーラが列を外れ声を掛けてくる。

「ユーア姉さまから聞いたのですが、わたしたちが働けるって……」
「うん、そうだよ。まだ細かい話は決めてないけど」
「そ、それは小さい子でも大丈夫でしょうか?」

 大きな子と手を繋いでいる、数名の幼い子供たちに目を向ける。

「いくつなの? 見た感じはユーアよりは少し小さいけど」
「そ、それはそうですよっ! ユーア姉さまは12歳。あの子たちは5歳ですよ」
「えっ!?」
「え?」
「そ、そうなんだ。最近の5歳児は結構大きいんだね……」
「そ、そうですね、決してユーア姉さまが小さいなどと……」
「………………」
「………………」

 なんか気まずくなった。
 もしかして、私の年齢を知ったら同じ反応になるのだろうか?
 ユーアよりは大きいけど、成人には見られた事ないし。

「で、小さい子が働けるかって話だったよねっ!」
「は、はいそうですっ!」

 微妙な空気の沈黙に堪え切れず話を戻す。

「そうだね、大きい子と組ませるか、簡単な仕事をしてもらうことになると思う。ただ一度に大勢で働いても、向こうに迷惑だから、数名をローテーションで回すと思う」

 そう歩きながら説明する。

「そ、そうですかっ! それを聞いて安心しましたっ!」

 パッと目を輝かせて喜ぶシーラ。

「そう? なら今度一緒に顔合わせに行こうか。向こうの店長と一人娘に挨拶がてらに。でも孤児院の中が落ち着いてからだけど」

「は、はいっ! お願いしますっ!」

「でも、子供たちは、なんでそんなに働きたいの?」

 不思議に思い聞いてみる。
 これからは食べ物にも、住むところにも不自由しないし。

「そ、それは返したいんです……」
「返したい?」
「ふ、二人のお姉さまに……、自分たちで稼いだお金で贈り物をしたいんです」
「贈り物?」

 先頭にいるユーアとラブナを見て口を開く。

「そ、そうです、お姉さまたちには色々とお世話になったので。食べ物を分け与えてくれたり、小さい子の面倒をみてくれたり、ユーア姉さまは稼ぎの殆どを寄付してくれて……」

「………………」

「だ、だから働けるって聞いた時にみんなで話し合ったんですっ! 何かお姉さまたちに恩返しをしたいって、わたしたちのお金で何かを返したいってっ!」

 グッと胸の前で両手を握り声高に話すシーラ。

「そう、だね、ユーアたちは喜ぶと思うよ。なら贈り物の選びの時は、私も協力するよ。いいお店と、ついでに値切りしてあげるから」

 シーラの頭に手を乗せながらそう伝える。

「は、はいっ! その時はぜひっ!」

 私の提案に喜び、快活な返事をするシーナ。

「う、ううう、いい話じゃな…… さすがはねぇねの妹たちじゃ。なら、土地の事はわしに任せるが良いぞ。わしもちからになりたいのじゃ」

「ナ、ナジメさま?」
「………………ふふ」

 その隣では幼女の領主がすすり泣いていた。


※※


 ユーアとラブナが引率した集団下校のような移動は、孤児院跡地前で終点となり、それぞれが何もない土地を見ている。

 道中。ぞろぞろと、身なりの良い子供たちが街を闊歩していると、奇異な目で見られたり、もの珍しい目で見られたりもした。

 だた、ナジメや私を視界に収めると、穏やかな目に変わっていった。
 声を掛けてくれる、見慣れた街の人たちもいた。

 シーラも含め、子供たちは礼儀正しく挨拶を交わしていた。
 ユーアやシーラの教育の賜物だろう。
 そこにラブナの名前が思いつかなかったのは、普段の行いのせいだろう。



「あ、ああ、本当に孤児院が跡形もないのですねっ!」
「「「うん、うんっ!」」」

 孤児院の跡地を前にして驚くシーラと子供たち。

 確かに跡形もないね。
 透明壁スキルで押しつぶして、ナジメがきれいに整地したから。

「……やっぱり少し悲しかったりするの? 思い出とかあったり」

 少し興奮状態のシーラに聞いてみる。

「そ、そうですね、辛い時もありましたけど、楽しかった時もありましたしね……」

 瞼を下げて呟くシーナ。
 何やら思うところがあったのだろう。

 そんなシーラにユーアが声を掛ける。

「シーラちゃん。ボクも少しだけ悲しいけど、でもこれからは辛い時はないんだよっ! これからは楽しいことばっかりなんだからっ! だから前を向いていこうねっ!」

 シーラの両手を握り、ユーアらしく励ます。
 単純だけど、的を得てるし、前を向いている。

「は、はいっ! ユーアお姉さまっ!」

「そうよっ! これからは毎日楽しいんだからっ! アタシが保証するわっ!」
「は、はいっ! ラブナお姉さまもっ! ありがとうございますっ!」

 ユーアに続き、ラブナにも励まされて笑顔になるシーラ。
 3人とも手を取り合い、見つめ合っている。

 色々苦労し、助け合った仲間だからこそ、感慨深かったのだろう。


「…………それじゃっ! 臨時だけど新しい家を出すから少し離れてねっ!」

 少しだけしんみりした場を変える様に声を張る。

「お願いしますっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「スミ姉っ! どんと派手にお願いするわっ!」
「ス、スミカお姉さま、よろしくお願いいたしますっ!」


 みんなに見守られながら、私はレストエリアを設置した。
 これが、これからたくさんの笑顔が生まれる第一歩だ。

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