274 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
神さまとお姉さん
しおりを挟む「は、初めましてスミ神さまっ! わたしは『シーラ』と言いますっ! 先ほどは勘違いして襲ってしまい申しわけございませんでしたっ!」
「「「申し訳ございませんでしたっ!」」」
「う、うん」
「そ、それと美味しい串焼きも、ありがとうございましたっ!」
「「「ありがとうございましたっ!」」」
「ま、まぁ、あんまり気にしないでいいよ。別に実害があったわけではないし、それに勘違いされても仕方なかった状況だったし、あと、もう少し肩の力を抜いたら?」
ヒラヒラと手を振って年長者の女の子『シーラ』を宥める。
ユーアとラブナが抜けた孤児院の子供たちを世話している少女だった。
聞くところによると、年齢は11歳。
背丈はユーアの少し上。ユーアは相変わらず小さい。
服装はチェニック風の亜麻色のワンピース。
女の子はみんなお揃いで同じ服を着ていた。
男子はハーフパンツ。
髪型は青紫のベリーショート。
元々のくせ毛なのか、所々跳ねている。
切れ長な目と、薄く結ばれた唇。
美人と言うよりは、宝塚の男装役が似合いそうな少女だった。
そんな少女が私の前で見てわかる程に緊張している。
「い、いや、でも、神さまに対して、肩の力を抜くというのは畏れ多くて……」
「畏れ多いって。 私どうみても人間でしょ?」
そう言って、クルリと回転して見せる。
「ね?」
「は、はいっ! まるで花畑を舞う神さまのような蝶でしたっ!」
「あ、いや、それはただの蝶だから」
何なの? 神様さまみたいな蝶って。
「それと、長い黒髪も、背格好もスラリとしてお美しいですっ!」
「え? スラリ? …………」
私は気になる単語に反応して、シーラを見てみる。
『………………Bランク?』
ま、まぁ、私と同じくらいかな?
最近の子供は成長速いしねっ!
よく知らないけど。
「ど、どうしました、スミ神さま?」
ある部分を凝視し、固まった私に、おどおどと声を掛けてくるシーラ。
「な、なんでもないよ。それより、そのスミ神さまって呼び方やめない? 見た目私は人間だし、あまり距離を感じたくもないし、ユーアも普通に呼んでるし」
最後にユーアの名前を出して、やんわりと提案する。
ユーアを姉さまって呼ぶくらいだから、これで聞いてくれるはずだ。
「そ、そうなんですが、ラブナお姉さまが……」
「ラブナ? ユーアじゃなくて?」
チラチラとラブナを見るシーラ。
私も釣られて視線を移す。
「な、なによっ! アタシはシーラたちに、ユーアの女神性と可愛さを、ずっと教えてきただけよっ! そのユーアが崇めるスミ姉は神さまってねっ! ついでに今までの所業もねっ!」
「お、お前かぁ~~~~っ!!」
「ふふん」とドヤ顔でふんぞり返るラブナ。
その元凶に突っ込む私。
ユーアを敬愛するのもラブナの仕業だった。
そして、神さま言わせてたのも同じ犯人だった。
それより所業ってのも気になる。
ガチガチに緊張しているシーラたちと関係あるのだろうか?
そもそも言い方がおかしいし。
「それより、なんて子供たちに伝えたの? 所業ってなに?」
何となしにわかってはいるが、一応聞いてみる。
「あ、所業っていうのは言葉のあやねっ! 実際は仕業ねっ!」
「いやいや、それどっちもイメージ悪いからねっ!」
「そう? 何かカッコイイじゃないっ! 企てたみたいで」
「それもイメージ悪いから、もういいから続けて」
いい加減うんざりしながら先を促す。
ラブナの価値観がイマイチわからない。
「え? さっき言ったのが殆どよっ?」
キョトンとした顔でそう答える。
「さっきって、ユーアを連れまわして、オークやトロールを討伐した?」
「そう、それよ」
続けてラブナに聞いてみる。
「ナゴタたちをひん剥いて、何々したとか?」
「そうだわ。それと壁で押しつぶして身動き取れなくして、お尻を大の大人が泣き叫ぶまでぶっ叩いた話とかもだわっ!」
「………………」
「それと、スキンシップって言い訳してユーアの体を――――」
「もうやめて」
思わずラブナの口をスキルで塞いでやろうと脳裏をよぎった。
でもそんな事をしたら、今の話の信憑性が増してしまう。
『ま、まぁ、その殆どが事実なんだけど、それでも事細かく子供たちに説明する必要性はなかったよねっ! 何か私に恨みでもあるのかなっ! ラブナっ!』
未だにドヤ顔のラブナを見る。
目が合った途端に、胸の前で腕を組みふんぞり返る。
「♪♪」
「………………」
なんだろう?
なんでそんなに得意げなんだろう。
ラブナは子供たちに向き直り、更にユーアと私の武勇伝を話し始める。
ユーアのここが可愛いとか、ここが凄いとか、私とユーアの仲の良さとか、冒険者になってすぐにランクアップの話とか――――
それをユーアも交えて、嬉々として子供たちに話しをしている。
手振り身振りでみんなに伝えていく。
まるで、身内自慢をするように、無邪気な笑顔で語っている。
『…………まぁ、いいか? ユーアも楽しそうだし』
それでもシーラたちと子供たちは何度も聞いているのだろう。
手足をプラプラさせて、ラブナの話を聞いていた。
ただ、そんなラブナを見る目は非常に優しかった。
ユーアだけじゃなく、十分ラブナも子供たちに敬愛されてるなと思った。
そうして、私たちはナジメのお屋敷を後にした。
孤児院の子供たちが住む、新しい家に向かってみんなで歩いていった。
「うん? そう言えば」
その前に思い出したことが。
「あ、話を戻すけど、シーラ。子供たちもそうだけど、私の事はスミカお姉さんって呼んでくれる? そうじゃないと世間の目も気になるから」
立ち止まって、子供たちにそう声を掛ける。
街中で呼ばれたんじゃ、変な噂になりそうだし。
「は、はいわかりましたスミカお姉さまっ! 不本意ですがっ!」
「「「わかりましたっ! スミカお姉ちゃまっ!」」」
敬礼でもするかのようにハキハキと答えるシーラと子供たち。
気になる単語もあったけどいいか。
『さま? は別にいいのかな? ナゴタもお姉さま呼びだし……』
これで良からぬ噂も立たないことだろう。
私はただのお姉さんなんだから。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる