剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

神さまとお姉さん

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「は、初めましてスミ神さまっ! わたしは『シーラ』と言いますっ! 先ほどは勘違いして襲ってしまい申しわけございませんでしたっ!」

「「「申し訳ございませんでしたっ!」」」

「う、うん」

「そ、それと美味しい串焼きも、ありがとうございましたっ!」

「「「ありがとうございましたっ!」」」

「ま、まぁ、あんまり気にしないでいいよ。別に実害があったわけではないし、それに勘違いされても仕方なかった状況だったし、あと、もう少し肩の力を抜いたら?」

 ヒラヒラと手を振って年長者の女の子『シーラ』を宥める。
 ユーアとラブナが抜けた孤児院の子供たちを世話している少女だった。

 聞くところによると、年齢は11歳。
 背丈はユーアの少し上。ユーアは相変わらず小さい。

 服装はチェニック風の亜麻色のワンピース。
 女の子はみんなお揃いで同じ服を着ていた。
 男子はハーフパンツ。

 髪型は青紫のベリーショート。
 元々のくせ毛なのか、所々跳ねている。
 切れ長な目と、薄く結ばれた唇。

 美人と言うよりは、宝塚の男装役が似合いそうな少女だった。
 
 そんな少女が私の前で見てわかる程に緊張している。


「い、いや、でも、神さまに対して、肩の力を抜くというのは畏れ多くて……」
「畏れ多いって。 私どうみても人間でしょ?」

 そう言って、クルリと回転して見せる。

「ね?」
「は、はいっ! まるで花畑を舞う神さまのような蝶でしたっ!」
「あ、いや、それはただの蝶だから」

 何なの? 神様さまみたいな蝶って。

「それと、長い黒髪も、背格好もスラリとしてお美しいですっ!」 
「え? スラリ? …………」

 私は気になる単語に反応して、シーラを見てみる。

『………………Bランク?』

 ま、まぁ、私と同じくらいかな?
 最近の子供は成長速いしねっ! 
 よく知らないけど。


「ど、どうしました、スミ神さま?」

 ある部分を凝視し、固まった私に、おどおどと声を掛けてくるシーラ。

「な、なんでもないよ。それより、そのスミ神さまって呼び方やめない? 見た目私は人間だし、あまり距離を感じたくもないし、ユーアも普通に呼んでるし」

 最後にユーアの名前を出して、やんわりと提案する。
 ユーアを姉さまって呼ぶくらいだから、これで聞いてくれるはずだ。

「そ、そうなんですが、ラブナお姉さまが……」
「ラブナ? ユーアじゃなくて?」

 チラチラとラブナを見るシーラ。
 私も釣られて視線を移す。

「な、なによっ! アタシはシーラたちに、ユーアの女神性と可愛さを、ずっと教えてきただけよっ! そのユーアが崇めるスミ姉は神さまってねっ! ついでに今までの所業もねっ!」

「お、お前かぁ~~~~っ!!」

 「ふふん」とドヤ顔でふんぞり返るラブナ。
 その元凶に突っ込む私。

 ユーアを敬愛するのもラブナの仕業だった。
 そして、神さま言わせてたのも同じ犯人だった。

 それより所業ってのも気になる。
 ガチガチに緊張しているシーラたちと関係あるのだろうか?
 そもそも言い方がおかしいし。


「それより、なんて子供たちに伝えたの? 所業ってなに?」

 何となしにわかってはいるが、一応聞いてみる。

「あ、所業っていうのは言葉のあやねっ! 実際は仕業ねっ!」
「いやいや、それどっちもイメージ悪いからねっ!」
「そう? 何かカッコイイじゃないっ! くわだてたみたいで」 
「それもイメージ悪いから、もういいから続けて」

 いい加減うんざりしながら先を促す。
 ラブナの価値観がイマイチわからない。

「え? さっき言ったのが殆どよっ?」

 キョトンとした顔でそう答える。

「さっきって、ユーアを連れまわして、オークやトロールを討伐した?」
「そう、それよ」

 続けてラブナに聞いてみる。

「ナゴタたちをひん剥いて、何々したとか?」

「そうだわ。それと壁で押しつぶして身動き取れなくして、お尻を大の大人が泣き叫ぶまでぶっ叩いた話とかもだわっ!」

「………………」

「それと、スキンシップって言い訳してユーアの体を――――」

「もうやめて」

 思わずラブナの口をスキルで塞いでやろうと脳裏をよぎった。
 でもそんな事をしたら、今の話の信憑性が増してしまう。
 
『ま、まぁ、その殆どが事実なんだけど、それでも事細かく子供たちに説明する必要性はなかったよねっ! 何か私に恨みでもあるのかなっ! ラブナっ!』

 未だにドヤ顔のラブナを見る。

 目が合った途端に、胸の前で腕を組みふんぞり返る。

「♪♪」

「………………」

 なんだろう?
 なんでそんなに得意げなんだろう。

 ラブナは子供たちに向き直り、更にユーアと私の武勇伝を話し始める。

 ユーアのここが可愛いとか、ここが凄いとか、私とユーアの仲の良さとか、冒険者になってすぐにランクアップの話とか――――

 それをユーアも交えて、嬉々として子供たちに話しをしている。
 手振り身振りでみんなに伝えていく。


 まるで、をするように、無邪気な笑顔で語っている。


『…………まぁ、いいか? ユーアも楽しそうだし』


 それでもシーラたちと子供たちは何度も聞いているのだろう。
 手足をプラプラさせて、ラブナの話を聞いていた。
 ただ、そんなラブナを見る目は非常に優しかった。

 ユーアだけじゃなく、十分ラブナも子供たちに敬愛されてるなと思った。


 そうして、私たちはナジメのお屋敷を後にした。
 孤児院の子供たちが住む、新しい家に向かってみんなで歩いていった。


「うん? そう言えば」

 その前に思い出したことが。

「あ、話を戻すけど、シーラ。子供たちもそうだけど、私の事はスミカお姉さんって呼んでくれる? そうじゃないと世間の目も気になるから」

 立ち止まって、子供たちにそう声を掛ける。
 街中で呼ばれたんじゃ、変な噂になりそうだし。

「は、はいわかりましたスミカお姉さまっ! 不本意ですがっ!」
「「「わかりましたっ! スミカお姉ちゃまっ!」」」

 敬礼でもするかのようにハキハキと答えるシーラと子供たち。
 気になる単語もあったけどいいか。


『さま? は別にいいのかな? ナゴタもお姉さま呼びだし……』

 
 これで良からぬ噂も立たないことだろう。
 私はただのお姉さんなんだから。

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