剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

異世界の新神さま誕生

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「ねぇねっ! わしが悪かったのじゃっ! 今度から忘れないのじゃぁっ!」


「ど、どうしたんですかナジメちゃんっ?」
「ナ、ナジメが空中で回転してるって、どういう状況よっ!?」

「あっ! ナジメちゃまがイジメられているっ!」
「きっと、あの黒いお姉ちゃんだっ!」

 お仕置き中のナジメの悲鳴を聞いて、タイミング良く?悪く?なのか
 ユーアたちが子供たちを連れて玄関から出てきた。
 その人数は、凡そ男女合わせて30人くらいだ。

「み、みんな、ナジメちゃまを助けるんだぁっ!」

「「「いくぞぉっ! わ~~~~っ!!」」」

 ナジメの悲鳴により、首謀者が私だと気付いた子供たちが一斉にやってくる。
 みんな一様に拳を振り上げ、私目掛けて駆けてくる。

「ちょ、私が悪者なのっ!?」

 予想外の出来事と、子供たちの剣幕に少し驚く。

「あ、相手は怯んでいるぞっ! みんなで囲んで一気に行くんだぁ~っ!」 

「「「わ~~~~っ!!」」」

 子供たちは砂糖に群がるアリの様に、一斉に私を囲んでいく。

「な、何なのこの団結力はっ! でも透明壁スキルは使えないなっ!」

 なので、私は透明鱗粉を自身に散布して姿を消す。
 そしてそのまま子供たちの間をすり抜けていく。

 あるものを子供たちの口に放り込みながら。

「き、消えたっ! あぐっ!」
「どこに行ったのっ! むぐぅ」
「あれ? 背中に蝶の羽なかった? ふぐぅ!」
「も、もしかして、このお姉ちゃんって? もぐぅ」

「「「もごもぐもぐもぐ――――」」」

 シ――――ン


「よし、これで少しは大人しくなったかな?」

 透明化を解除しながら、後ろに振り向き子供たちを見てみる。
 みんな海鮮串焼きに夢中になっている。

「ス、スミカお姉ちゃんっ!」

 トテテとユーアが私を見つけて駆けてくる。
 その後ろにはラブナもいる。

「うう~、目が回ったのじゃ~っ!」

 そしてスキルを解除したナジメもフラフラとこちらに歩いてくる。


「ユーア、子供たちみんな起きたんだね?」

「そ、そうですけど、みんな勘違いして、スミカお姉ちゃんを――」
「全くっ! ナジメがスミ姉を怒らせたからでしょ? どうせ」
「わ、わしが今度は悪者扱いなのかっ?」

 わーわー言いながら私の元に集まるシスターズ。
 それを子供たちはもぐもぐしながら様子を伺っている。


「まぁ、お仕置きは終わったし、ナジメも反省してるからもういいんだけど。なんか私のイメージが悪くなってない? 会った事ないから元々の好感度は知らないんだけど」

 集団のジト目を受け止めながらユーアたちに聞いてみる。
 無言、無表情で、子供たちに睨まれるのは正直恐い。

「こうかんど? 大丈夫だよ。スミカお姉ちゃんの事は話してるので」

「そうよ。ユーアを連れまわして、オークとトロールを大量虐殺したとか、姉妹をみんなの前でひん剥いて勝っちゃうとか、ナジメを壁に挟めたり、孤児院を魔法で爆散したとか――――」

「ちょっと待ってラブナ。それだけ聞くと、超が付く極悪人なんだけど、私」

 ラブナがそのまま説明してたら、子供たちは恐くて近づけない。
 いやそれどころか、今度は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑うだろう。

「ちょっと、ラブナちゃんっ! そんな変な事みんなに教えてないよぉっ! ちょっとだけだよぉっ! だから心配しないでスミカお姉ちゃんっ!」

 ラブナのドヤ顔の説明に、必死に弁明するユーア。
 ちょっとだけってのが気になるけど。

「ユーアがそういうなら心配ないけど。それにしてもナジメは好かれてるんだね?」

 スキルの中で、叫び声をあげるナジメを助けようとした子供たち。
 それを思い出して聞いてみる。

「うむぅ。わしもなんだか慕われて、むず痒いんじゃが。会った時からみんないい子じゃったのじゃ。恐らくユーアとラブナが話をしてくれてたのだろう?」

 ユーアとラブナにナジメが聞いている。

「うん。この街の偉い人って事と、お屋敷を貸してくれた人、それと新しい孤児院や、お洋服をくれた人って話してあるよ」

「アタシも大体似たような事を子供たちに伝えたわっ!」

 ユーアはいいとして、ラブナは正直何も言わないで欲しい。
 勝手に悪者にされそうだから。

「洋服? だからみんなキレイな格好なんだね?」

 子供たちを見ると、みんな身なりがいい。
 高級って程ではないけど、何処に出ても恥ずかしくない身なりだ。
 どこかのお金持ちの、坊っちゃんとか、お嬢さまみたいな。

 ユーアなんて最初ただの布切れ一枚だったのに。
 しかも下着も替えがなく、ノーパンだった時期もあったのに。

 なんて、最近の事なのに思いを馳せる。


「そうなんです。だからみんなナジメちゃんを大好きなんですっ!」

 ユーアが子供たちを見ながら、嬉々として話す。

「うん、そうだね。ユーア」

 そんな笑顔のユーアの頭を撫でる。

 ちょっとだけ、過去のナジメの素行を思い出したが、ここでそれを言うのは野暮ってものだ。これからは以前より、もっと過ごしやすい環境が出来上がるんだから。

『……そう考えると、ナジメの力は大きいよね。権力も繋がりも、私が持ってなかったものだし。そもそもユーアの生活を守るだけで精一杯だったし』

 ちょっとだけ寂しく思う。

 ユーアが守りたいものが、私だけではどうにもならなかった事に。
 そしてユーアも子供たちもナジメを恩人って思っているって事にも。

『いや、いや、何を心が狭い事考えてるんだろ。良い方向に向かえば、それは私じゃなくてもいいんだよ。私はユーアにずっと笑顔でいて欲しいんだから』


 でも、私はユーアにどう思われてるんだろう。

 私はユーアに救われたし、ユーアがいないと生きてても意味がない。
 この世界での生涯の願いがユーアの為に生きる事。
 それは願望ではなく、誓約。
 一生を賭して果たすべき役割。

 だって、私はユーアのお姉ちゃんだからね。


「どうしたんですか? スミカお姉ちゃん?」

 「クリ」とした目で、心配そうに聞いてくるユーア。

「なんでもないよ、ユーア。それよりみんなこっちに来るみたいだけど」

「「「………………」」」

 口元を拭きながらトコトコと子供たちが歩いてくる。
 相変わらずの能面な表情で恐い。

 そして私たちの前に横並びになる。
 みんな真剣な表情で、私たちを見ている。

『うん? 私たちって言うか。みんな私を見て――――』

 その中の年長者の少女だろうか。
 真摯な表情のまま一歩前に出て――――


「は、初めましてっ! スミ神さまっ!」

「へ?」

「わたしたちと、ユーア姉さまを救って下さりありがとうございましたっ!」

「「「ありがとうございましたっ! スミ神さまっ!!」」」

 年長者の少女に続き、一斉に私に向かって頭を下げてきた。

「いいいっ! わ、私の事、その、神さまってっ?」

 しどろもどろになりながら聞いてみる。

「そうですっ! スミ神さまですっ!」
「「「はいっ! スミ神さまっ!!」」」

「…………………」

 き、聞き間違いじゃない。
 私、神さま扱いされてるっぽい。

『い、一体ユーアは私の事を何て説明してるのっ! 子供たちにっ』

 ニコニコ顔のユーアと、上気した表情の子供たちを見てそう思った。

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