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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

待ちくたびれた激おこ幼女

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 小高い丘の上のロアジムの屋敷を超えると、その下った先にナジメのお屋敷があった。森を背に、ロアジムの屋敷に勝るとも劣らない豪邸ぶりだった。 

 レンガ造りの洋風な数々の屋敷とは違い、ナジメのお屋敷は木材が主で、屋敷というよりは、まるで巨大なロッジ風。その形状は3階建ての「塔」のような変な形だった。


 そして、その屋敷の玄関の前には、幼女が仁王立ちしている。

 深緑の髪のショートカットにクルリと真ん丸な瞳。
 口元には八重歯が覗き、頬っぺたはツンツンしたくなるほど膨らんでいる。

 なぜか着ている服は旧スクール水着。
 そこから覗く手足は短く小さい。そしてお腹がポッコリしている。

「何やら、随分と遅かったではないかっ! もう昼をとうに過ぎておるのじゃっ! みんな待ちきれずにお昼寝してしまったのじゃっ!」

 そんな怒鳴り声を上げ、私たちを出迎えたのは、この屋敷の主のナジメ。
 幼女に見えても、実年齢は106歳。

 一応この街の、現領主さまだ。


「ロアジムのところで色々あったんだよっ、だから忘れてたとかじゃないから」
「ナジメちゃん、ボクもハラミの事でねっ、だから忘れてないんだよぉ?」
「ア、アタシだってもちろん忘れてないわよっ! ただバサのやつがさっ!」

 何やらご立腹の様子のナジメ領主さま。
 頬っぺたが破裂限界のモチみたいに膨張している。
 そんなナジメに平身低頭する私たち。

「なるほど。何やらロアジムのところで大変じゃったようじゃな?」

「そ、そうなんだよっ! だから遅くなっちゃったんだよっ」
「「うん、うんっ!」」

 どうやら、これだけでナジメも察してくれたようだ。
 元々ロアジムとも付き合いが長いのが理由だろう。


「それで、なぜねぇねも含めて、みな忘れたと連呼するのじゃ?」

「「「えっ!?」」」

 妙なところで細かい幼女。
 それを聞いて、お互いの顔を見渡す私たち。

「い、いやだなぁ、ナジメっ。それは口癖って言うか、たまに私が冗談で使うよねっ! 『手紙を出すのを忘レター』なんちゃって」

 何とかこの場をやり過ごすために、渾身のダジャレを披露する。
 さすがにこれを聞いては、平常心ではいられないだろう。
 きっと爆笑と共に、細かい事なんて忘れるに決まっている。


「何を言っているのじゃ、ねぇね」

「へっ?」

「何を言っているの? スミカお姉ちゃん?」

「え?」

「スミ姉、はぁ~」

「………………」

 何コレ?

 もしかしてダジャレが高度過ぎて、まだ幼女には伝わらなかった?
 だったら、もっと低レベルを披露すればよかった?
 何て少しだけ後悔する。

 ならナジメに理解できなかったのは仕方ない。
 幼女うんぬんより、種族も文化も違う恐れがあるからね?

 でも、何で私の陣営のユーアとラブナも呆れた顔してるの?
 そこは私をフォローするところだよね?
 それと、ため息だけって一番傷つくんだけど、ラブナめっ!

「それに、ねぇねだけじゃなく、ユーアたちも忘れたと――――」

「あっ! そう言えば、この前屋台で美味しい串焼き買ったんだよっ! 珍しく海鮮物の串焼きなんだけど食べる?」

 まだ何かを言いかけたナジメの前に、熱々のエビらしいのやら、サザエっぽいのや、白身魚風な素材を使った串焼きを差し出す。

 ダジャレが無理なら、食欲に訴えてやる。

「う、うむっ。いただくのじゃっ!」

 すかさず受け取り、速攻でかぶりつくナジメ。

「むぐむぐ。美味いのじゃぁっ!」

「それでさっきの話なんだけど、遅くなってごめんねっ」
「ボクもごめんなさいっ! ナジメちゃんっ!」
「アタシも一応謝っておくわっ! ごめんねっ」

 ご機嫌のちんちくりんのスク水幼女に、頭を下げる私たち。
 どうやら、領主も三大欲求には逆らえなかったようだ。

 でも、正直こんな姿は誰にも見られたくなかった。
 幼女相手に、揃って頭を下げるなんて真似は。

 だけど――


「くすくすっ」
「うふふっ」
「あらぁん、面白い光景だわねぇっ」

 だがそれは手遅れだった。

 メイド服に着飾った若い女性二人に失笑される。
 恐らく、ナジメのところのお手伝いさんだろう。

 その中の二人で気になるのが、フリフリヒラヒラした本物メイド服を着用している。
 本物っていうか、それ系の喫茶店でよく見る衣装。
 要は、コスプレってやつだ。

『ま、まぁ、コスプレはどうせまたナジメが仕入れてたとして、それよりも……』

 そんな二人よりも違和感バリバリな人物がここにいた。


「な、なんでニスマジがここにいるのよぉ――――っ!!」

 その変態を指さし絶叫を上げる。

「なんでって、ボクもいていいでしょ、スミカお姉ちゃんっ!」 
「もういい加減、その服脱ぎなよっ! あとその口調もやめてっ!」

 何故か、ナジメの屋敷で会ったニスマジはコスプレをしていた。
 それは私がユーアに買ってあげた白いワンピースだった。

 相変わらず、サイズの小さいワンピースを無理やり着ている。
 ピチTならぬ、ピチワンピース。

 ゴツゴツした手足が袖やらスカートから覗いて気持ち悪い。


「あらぁ? だってスミカちゃんある程度なら、好きにしていいって言ってたじゃない? Bシスターズの売り込みは任せるともぉ」

「そ、それは言ったけど、だからってこんなとこまで着てこないでよっ! 宣伝したって仕方ないでしょっ! ここは貴族の住む街なんだからっ!」

「意味なくないわよぉ。わたしは貴族の方々に売り込みにきたんだからぁ」

「貴族に? なんでまた?」

「それはロアジムさんに呼ばれたからに決まってるじゃない」

 人差し指を立てて満面の笑みで答える。

「いや、いや、もっと意味が分からないよっ! なんでここでロアジムが出てくるの? それにナジメの屋敷にいる理由は?」

 ナジメのお手伝いさんの衣装と事と言い、ニスマジがここにいる理由といい、どこから聞いていいのか分からない。

「別に難しい事ではないわよぉ。元々わたしのお店は、貴族街と言われる、このあたりのお店に商品を卸しているしねぇ。前にも言ったわよね。販売よりそっちが主だって話は」

「う、うん、まぁ、確かにそう聞いたかも」

 それはナゴタとゴナタを、ニスマジのお店に案内した時に聞いた。

「それでナジメ領主さまには、注文されていた商品を届けに。その帰りにロアジムさんのところへお邪魔するつもりよぉ」

「う~ん。なるほど。 なのかなぁ?」

 何となく納得いかないので、もう少し細かく聞いてみる。

 その話によると――


 ナジメのところに来た理由。

 それは孤児院の子供たちに必要なものを届けに来たって事。
 新しい寝具や家具。それに肌着や衣服。などの生活用品を。

 それらをマジックバッグに入れて持ってきてるらしい。
 依頼主のナジメに届けるために。


 ロアジムの件。

 それは、元々ロアジムとは付き合いがあったって話だった。
 この貴族の住む街でも、ニスマジのお店のお客さんとしても。
 
 それで今日呼ばれた理由は、Bシスターズの関連商品を見たかった。
 色々と私たちの衣装や、それに流行らせるための新しい衣装を。

 なのでニスマジはその為の売り込みにきた。
 だからムツアカたちがいる今日が都合が良かったのだろう。

『いや、私がお邪魔する件と、ニスマジが来るのを合わせたってのが普通かな? そうすれば、おじ様たちの招集も一回ですむからね』

 聡明なロアジムならば、そうすると思う。
 それじゃないと、二度手間になるからね。


『ま、まぁ、向こうで会うよりはここで会った方がましだったのかな? あっちで会ったら、いい見世物になってそうだし……新衣装なんて言ってるし……』

 ナジメの串焼きを物欲しそうに見ている、ユーアを見てそう思った。
 ファッションショーを回避できたことに安堵しながら。

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