剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

ムツアカの願いとスミカのお願い

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 ユーアのお陰もあって話し合いが纏まり、おじ様たちは喜んでいた。

 トロールの代わりに、オークを5体あげる事で話し合いが終わった。
 おじ様たちは総勢10人なので、そちらの割り振りには関与しない。

 みんなで仲良く半分こでもいいし、戦ったおじ様たちでわけてもいい。
 きっとそっちはムツアカが仕切って、上手くやってくれるだろう。



「それでどうする? もう帰る?」

 片手にゴマチ、もう片手でユーアを撫でているロアジムに聞いてみる。
 両手に美幼女なんて、見る人が見たら歯ぎしりするだろう。


 暫く空の景色を楽しみ、それぞれに満喫していたみんな。
 さすがに飽きてきたのか、次第に席に着き始める。

 それを見て、ロアジムに聞いてみた。

「うむ。もう十分に楽しませてもらったなっ!」
「ワシもこんな景色を見られて満足だっ!」

 ロアジムと一緒にいたムツアカも答える。 
 二人ともその言葉の通り堪能したのだろう。

「だが……」
「うん? 何かあるのムツアカ、さん?」

 何やら真剣な面持ちのムツアカに聞いてみる。

「ス、スミカ嬢ぉっ!」
「わっ! な、何?」
「お願いがあるのだっ!」
「お願い?」
「そうだっ! ワシと手合わせしてくれぬかっ! 今度は一対一で」

 そう強く言い放ち、軽く頭を下げるムツアカ。

「どうして? って言っても理由は何となくわかるけど」
「………………」

 頭を下げて目を閉じているムツアカ。

「だったら、地上に降りるからそこでやろうよ。その方がやりやすいし」
「い、いいのか? スミカ嬢っ!」

 「ガバ」と顔を上げるムツアカ。
 私の返答が余程の事だったのか、その目が爛々としていた。

「いいよ。理由はわかるって言ったんだし。それと色々と納得できないところもあったんでしょ? もの足りないとかじゃなく、もっと戦いを楽しみたいとか」

「う、うむ、さすがロアジムさんが認めるスミカ嬢だっ! そんなに幼いのに、何もかもお見通しだとはなっ!」

「別にそんなに褒めなくてもいいよ。知り合いに似た人いるし」

 似た人っていうのは、戦いが好きな何処かのギルド長の話。

「ぐふふ」
「?」
「ぐふふふふ。また英雄の戦いが見れるとはなっ! わしは嬉しいぞっ!」
「………………」

 何やらそれを聞いて、喜ぶ冒険者バカがいたけど無視する。
 今更突っ込んでもどうにもならないし。

 一種の持病みたいなものだよ。
 ロアジムもムツアカも。





 スキルを操作して、ロアジムのお屋敷の裏庭に帰ってくる。

 地上に足を付けたみんなは、何だかフラフラとしているように見えた。
 船酔い? ではなく、単純に疲れたようだった。

 生涯初の空の旅で、羽目を外しまくってたからね。

 そんな中でもムツアカだけはしっかりと地面を踏みつける。
 確かめる様に数度ジャンプしては、腕を「グルン」と振り回す。

 どうやら気力的にも体力的にも問題ないようだ。


 これからの私との手合わせには。



「あ」
「どうしたのだ? スミカ嬢」

 空へ招待する前のように、広場の真ん中でムツアカと対峙する。
 他のみんなはテラスでこちらを見ている。

「あ、そう言えば、私の約束どうなるの? 引き分けの場合」

 5人のおじ様たちに私が勝った場合、私たちの能力の口止めをお願いしていた。
 それが引き分けだった場合の事を考えていなかった。

「何を言っている、スミカ嬢。そんなものワシとロアジムさんで、この街の貴族全員に緘口令を敷いてやるぞっ! 絶対に口外するなとなっ!」

 「ドン」と胸を叩いてそう答える。
 余程自信があるんだろうか?

「それって、破ったらどうなるの?」

「まず破るものはいないと思うが…… それでも何かの場合は一族郎党、この街どころか、この国にはいられぬな。まだ細かい罰則は話しあってはおらぬが」

「そうなんだ。だったらそれに甘えていい? 私だけではどうにもならないから」

「お、おおっ! それではワシとロアジムさんに任せてくれっ!」

 腰に手を当て得意満面で「ガハハ」と笑う。
 この様子なら任せても大丈夫そうだ。

「それで、まだ話っていうか、お願いがあるんだけど」
「おおっ! どんどんワシに頼ってくれっ! 英雄殿っ!」

 お願いと聞いて、またもや得意げな顔になるムツアカ。
 何だろう? 私もユーアみたいに孫みたいな感覚なのだろうか。


「と、思ったけど、戦いながら話そうか? その方がムツアカも――」
「おうっ! それでもいいぞっ! で、ワシがどうした?」
「その方が時間稼げるでしょう? それならムツアカも少し戦えるし」
「………………うん?」
「じゃないと、戦いを楽しむ前にムツアカは負けちゃうからね」

 「ニヤリ」と口元に笑みを浮かべ、ムツアカを見る。

「………………くっ」
「く?」
「…………くくっ」
「………………」
「くっ、あはははははっ!」

 私の挑発を最後まで聞いたムツアカが大声で笑いだす。
 目尻には薄っすらと涙が見える。

 余程私の煽りが意外だったのだろう。


「どう? 少しはやる気になった?」

 少し落ち着いたムツアカに聞いてみる。

「あ、ああっ! さすがはスミカ嬢っ! 弛緩した気持ちが引き締まったぞっ!」
「そう? なら良かったよ。何だか仲良しこよしの関係になってたから」
「そうだなっ! これから手合わせする相手には必要なかったなっ!」
「そういう事。私だってやりずらくなっちゃうんだよ。お願いばかりしてたから」

 私は視覚化した透明壁スキルを装備する。


 ムツアカは身の丈程の大剣。
 だったら私も大剣を模倣する。

 【四角柱+円柱(湾曲+連結操作)=大剣】

 ただし――――

「な、なんだっ! その巨大なものはっ!」
「うん? これは私が生成した魔法の武器だよ?」


 ――ただし、その大きさは私の身長を優に超える。

 否

 屋敷の2階まで届くほどの巨大な大剣だった。


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