剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
258 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

スミカの策略と提案

しおりを挟む



 念入りに準備体操や、素振りをしている貴族の5人を見る。
 いずれも年齢は50歳前後。

 それぞれに武器を振る姿を見て、中々にサマになってると思う。

 これなら昔は腕に自信があったてのも頷ける。
 普通の貴族なのか、それとも武功を上げて成り上がったのかはわからない。

 それでも私から見ても、今でも十分に現役でいけそうな体つきをしている。
 武器の構え方、足運び、身のこなし、いずれも冒険者と比べて遜色ない。

『うん、ルーギルよりは劣るけど、それでも遥かに一般人より強いよ』

 そんな輩が5人。
 それが今から私と戦う相手だ。

 ただし、その中でもムツアカと呼ばれた、色黒ガチムキおじさんは別格。
 ゴツイ図体の割に、武器を振るう速さも重さも音も、他の4人とは違っていた。


「スミカ嬢っ! さっきの小さいシスターズたちの戦いは見事だったぞっ」
「え、あ、う、うん、ありがとう、ございます」

 戦う予定の貴族のおじ様たちを見ていると、ムツアカが声を掛けてくる。

「なんだ、ワシもロアジムさんみたく砕けた口調でいいぞ? ワシ自身も礼儀とかは苦手だしなっ!」

「そ、そうですか、なら、そうする、よ? 私もこの姿の割には礼儀とか苦手だし、むしろ私以外のメンバーの方がしっかりしてるしね」

 せっかくの貴族さまからお許しが出たので、直ぐにタメ口で話す。

「その姿の意味が、礼儀に繋がるかはワシは知らんがそれでいいぞっ!」
「あ、それで結局どうするの? 模擬戦? 手合わせ? の仕方とか」

 当初の話に戻してムツアカに尋ねる。

「それなんだが、普通にやっても面白くないと、他の奴が言い出してな、実はまだ決まってないんだ。恐らくシスターズの活躍に触発されたんだろうな」

 柔軟や素振りをひたすら行っている、他のおじ様たちを見る。

「そうなんだ。だったら私に提案があるんだけど」
「おお、どんなものか聞かせてくれっ!」
「私、一応魔法使いなんだよ」
「うむ、それはロアジムさんから聞いてるぞ。変わった魔法を使うとなっ」
「それで、私決まった範囲から動かずに、5人を同時に魔法だけで相手するよ」

 私はそう言って、黒に視覚化した透明壁スキルを頭上に5機展開する。
 形状はいずれも1メートルくらいの棒状のもの。

「おおっ! これがスミカ嬢の魔法かっ!」

 フワフワと浮いている黒の棒を見て、歓喜の声を上げる。

「それで、この5個を掻い潜って、中心にいる私に1発入れたらムツアカさんたちの勝ち。で、誰も辿り着けず、負けを宣言したら私の勝ちっていうルールなんだけど」

 簡単に説明を終えて「どう?」とムツアカの顔を見る。
 どうも何も、今のムツアカの表情を見ればわかるんだけど。

「面白い事を考えるな、スミカ嬢はっ! 一見すれば、ただの棒相手に負けるわけないと思うのだが、英雄さまの得意の魔法なのだから、そんな事はないはずだ。いや実際は歯が立たぬと言ったところが真実だろう」

「うん」

「だが5人同時なのと、動かないスミカ嬢に一発入れるってだけで、難易度がグッと下がる。何とかなるんじゃないかってくらいにな、まるで遊戯の様になっ!」

「そんな感じだよ、でも良く分かったね? むしろ怒るかと思ったけど」

 普通の貴族ならきっと憤慨していた事だろう。

 小娘が腕に覚えのある大人に対して、手を抜いているように見えるのだから。
 いくら英雄と呼ばれているからって、それでも自尊心が傷つけられるだろう。


「気にしなくてもいいぞ? スミカ嬢。ワシらはもう現役を退いてしばらくたつ。そんな輩が現役の、しかもあの巨体をあんなに見事に討伐した冒険者に敵う訳が無いからなっ!」

 「わははっ」と笑いながら、未だに直立したままの物体を見る。
 それは手土産に私が出した10メートル級のトロールだった。

「あと言い忘れたけど、私の武器はその魔法だけなんだけど、それ以外の用途には他の魔法使うから、攻撃も防御もしないけどいい?」

「それでも構わないぞっ! それが勝敗に関係ないのであればなっ」

 追加した条件だけど、すぐさま可決されてしまった。

「あ、それと更に遊戯っぽくしてみない? 賭け事の部類だけど」
「まだ何か面白くするルールがあるのかっ! いいぞ早く聞かせてくれっ!」

 そんな私の新たな提案に嬉々として急かしてくる。

「実はさ、あのトロールは他にもまだ持ってるんだよ。なんで、私に勝てた人にあげちゃおうかと思って」

「おおっ! さすが英雄は太っ腹というか、豪胆というか、あんな高級食材を惜しげもなく賭け事に使うとはなっ! して、ワシたちが敵わなかった場合は?」

「それはね、ロアジムにも後でお願いするけど、私たちの情報をあまり外部に漏らさないで欲しいんだよ。情報は武器にもなるけど、逆に知られたら威力は半減しちゃうからさ」

 「ねっ、お願い」と付け加え、胸の前で手を合わせながらウィンクしてみる。

「なるほどそれは重要だな。それだったらワシが責任を持って口止めしておくぞっ! それとロアジムさんにも伝えておくからなっ!」

「そう、それなら安心――――」

「なんじゃ? ワシの名前が聞こえたが一体どうしたんだい?」

 ユーアとゴマチの手を繋ぎながら満面の笑みのロアジムが口を挟む。

「ちょうどいいや、ああ、それはね――――」

 私は今の話を掻い摘んでロアジムにも話した。





「なんだ、そんなこと心配しなくとも、わしたちは口外せぬぞ?」

「うん、多分そうだとは思うけど、やっぱり無条件で約束されるのは落ち着かないっていうか、納得できないって言うか」

「うむ。ワシはスミカ嬢の言いたい事がわかるぞ、ロアジムさん。簡単に言えば、お互いに対等の立ち位置にしたいって事だろう。英雄や貴族うんぬんの話より、約束事としてな」

「うん、大体ムツアカの言う通りだよ」

「そうか、ならスミカちゃんの好きにしたらいいさ。わしに異論はないぞ」
「ワシもだなっ!」

 そう言って、笑顔で頷いてる二人。

「うん、二人ともありがとうねっ!」

 私はそれを見て笑顔で答えるのであった。

 内心では「うししっ」とほくそ笑んでいたけど。



 でもこれで私たちの情報が漏洩する可能性は減った。

 ラブナの魔法も、ハラミの特殊性も知ってる人が限られる。
 何かあっても出所を探るのは容易い事だろう。

『で、次は私が上手に接待すれば万事うまくいく。って事だよね?』

 あとはおじ様たちに十分に満足してもらうだけ。
 適度に戦って汗をかけば恐らくそれで十分。
 
「それじゃ、私も準備あるから先に行ってるよ」

「わかったぞっ! スミカちゃん」
「スミカ嬢、準備出来たらすぐにそちらに行くぞっ! ああ楽しみだっ!」

 先に広場中央に陣取り、私も準備をする。
 おじ様たちを満足させる演出を考える。

 私の今回の役割は「キャスト」
 おじ様たちは「ゲスト」

 だったら、今日のお客さまを楽しませるために全力を尽くそう。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...