剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

色々な事情と内情と

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 ※今話よりスミカ視点に戻ります。




『な、何でバサって人がロアジムに出した手土産を狙うのっ? それとさっきの爆発音は何だったのっ? 模擬戦は終わったのっ? 何でロアジムは腰抜かしてるのっ?』

 潰れたように地面に倒れ込んでいるバサを見る。
 ユーアたちがいるであろう広場を見る。
 口をあんぐり開けて、座り込んでるロアジムを見る。

『…………何コレ?』

 正直何が何だか分からない。

 それでもバサがいるって事は試合は終わったって事だろう。
 でもそのユーアたちは貴族たちに囲まれて姿が見えない。

 それと勝敗もわからない。

 たださすがにユーアたちが格上のバサに敵うとは思っていない。
 それは、バサが手を抜いたとしても結果は変わらないと思う。


「スミカ」
「スミカ姉っ! そ、それなんだいっ!?」

 現状を把握しようと「キョロキョロ」していた私に
 アマジ親子が声を掛けてくる。

 ちょうどいいから情報収集してみよう。

「え~っと、何から聞けばいいんだろう?」

 何かを聞いてみたかったが、聞きたい事が多すぎて悩む。

 ただ一先ずは、口を開けて固まっているロアジムが気になる。
 一応貴族だし、色々とお世話になってる事だし。

 それに、ユーアたちは何やら盛り上がってるようだったから。
 何だか歓声みたいな声と、ハラミの鳴き声も聞こえたから。


『後、バサは、ほっといていいかな? どうせ自業自得だし、盗人だし』

 なんて思いはするが、もちろん口には出さない。

「ねえ? どうしてロアジムは驚いてるの?」

 バサの姿を視界から外して、アマジ親子に聞いてみる。

「スミカ。バサは自業自得でも、盗人でもないのだが」
「スミカ姉っ! それよりもあの魔物は生きてるのかいっ!」

「えっ? あ、それってどういう?」

 何だかこっちもゴタゴタしてるなぁ。
 親子そろって私の質問を無視しないで欲しい。
 それとバサの事は思わず口に出してしまったようだ。


「バサは、私の出したトロールに襲い掛かってきたから撃退した。だから自業自得だよアマジ。それにゴマチ、このトロールはとっくに死んでるよ。倒したのは4.5日前だから」

 捲し立てる様に、まとめて二人の質問に答える。

「何を言っているスミカ。バサはお前の妹たちの魔法で、気絶しながら吹き飛ばされてきただけだ。それをお前が追撃しただけだ。無惨にもな」

「へ? そうなのっ!」

「スミカ姉っ! そ、それならなんであのトロールはあんなに生々しくて、今も血が垂れてきてんのさっ! それになんで立ってるんだよぉっ!」

「ああもうっ! 面倒くさいなぁっ!」

 何だか、聞けば聞くほどドツボにハマってる気がする。
 話が進まずに情報だけが増えてきてる気がする。
 

「あ、ああ、すまんな、スミカちゃん。驚かせてしまって」
「あっ」

 我に返ったロアジムが立ち上がり声を掛けてくる。
 どうやらこっちの世界に帰ってきたようだ。焦点も合ってるし。

「ううん、こっちこそ驚かせてごめん。それで色々教えて欲しいんだけど」

 ロアジムと、アマジ親子を見ながらそう聞いてみた。





「わしがユーアちゃんたちにお願いしたのはそんなところだな」
「俺が見たのはそんなところだ」
「じいちゃんが驚いた理由はそんな感じだなっ! 俺も驚いたからな」

「う~ん………… ありがとう」

 ロアジム、アマジ、ゴマチの順で色々と教えてくれた。

 ユーアたちとバサの模擬戦の内容と結果。
 バサはその結果で、吹っ飛んできた事。
 それと手土産のトロールに驚いた理由。


『まさか、あのバサ相手に、ルールはどうあれ一本取るなんてね。年少組を少し甘く見てたかも。これはこれで良かったかもしれないけど、色々と披露し過ぎだよね……』

 私は未だに貴族の人たちに褒めたたえられてる、ユーアたちを見る。


『う~ん、よく見ると、褒めてるって言うかユーアとハラミに餌付けしてるようにも見えるけど。ラブナは色々と声を掛けられて緊張してるみたい』

 ユーアとハラミには貴族たちがお茶請けとして用意してあった、果物やお菓子などを与えて微笑んでいる。可愛い孫のような感覚なんだろう。ハラミは大きなペットとして。

 ラブナは強張った顔をしながらも、丁寧な口調と態度で受け答えをしている。
 猫を被りまくりだ。まぁ、礼儀は元貴族だから知っててもおかしくない。

 ただその称賛された戦いでも、色々と誤算があった。
 伏せておきたかった機密事項が露呈したのは予想外だった。

『ハラミは恐らくただの魔物じゃないんだよね? それとラブナの特殊能力【Four elements Master「四大元素使い」】も知られたのは痛いなぁ』

 その両方とも希少性が高い事から、貴族から何かしらの厄介ごとを引き込む可能性や、それに付随して、本人に危険が及ぶ可能性も大いにある。

『ハラミはそこら辺は安心できるけど、ラブナはまだ未熟なんだよね……』

 なので、これはロアジムを通して口止めをしたいところ。

 そうじゃないと良からぬ行動を起こした物から敵になる。
 そして火の粉を払うたびに居場所もなくなってしまう。


「ス、スミカお姉ちゃん、あの、ボクたち、そのぉ……」
「ス、スミ姉っ! あ、あのさ、アタシたちでさっ!……」
『が、がうっ!』

 他に何か対策がないか悩んでいる私の元に、貴族の人たちに解放されたユーアたちが戻ってきた。

 その顔は対戦後の余韻か? それとも何かを期待してなのか?
 赤く上気した顔でニコニコとしている。

 それでも私のところに報告に来たって事は、恐らく後者なのだろう。

 だからそんな二人に私は

「二人ともお疲れさんっ! それと私は見れなかったんだけど、ユーアもハラミもラブナも凄かったってアマジが教えてくれたよっ!」

「え、は、はいっ!」
「ま、まぁねっ!」
『わうっ!』

「ユーアの射撃の腕も、ハラミの速さと従順さも、ラブナの多彩な魔法も、みんな見ごたえがあったって褒めていたんだよっ! さすが私のパーティーメンバーだってさ、ってねっ!」

 私はそう言い終わり、二人の頭を優しく撫でる。

「うんっ! ボクたちもシスターズの一員ですからっ!」
「そ、そうよっ! だってスミ姉と同じパーティーなんだから当たり前よっ!」
『がうっ!』

 どうやら私の一言で、もっと喜んでくれていた。
 そんな二人の笑顔を見ると、褒めた方も嬉しかったりする。


『本当は注意したかったけど、今回は仕方ないよね? それに怒るのはいつでもできるけど、褒めるのはその時じゃないと心に残らないからね』

 手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねている二人を見てそう思った。


※※


「あの時はごめんねぇ、変な事ばっかり言っちゃってさぁ」

「バ、バサさん大丈夫ですか? それとすみませんでしたっ!」
「いいのよユーアっ! 嘘でもあれは許されないことだったんだからねっ!」

 私に叩き落されて、気を失っていたバサがユーアたちに謝っている。

 そんなバサには、こっそりとRポーションを使っておいた。
 何せ、私の勘違いで撃退しちゃったわけだから。


 その話を聞くと、どうやらユーアたちの力を出させたくて、バサは私の事を罵倒して、二人のやる気を出させてたらしい。

 それは見事に成功し、ユーアとラブナは、この街の冒険者としての実力を示せて、ハラミは獣魔としての安全性と有用性を見事に知らしめることが出来た。

 この企ては、バサにロアジムが吹き込んだものだった。

 一体どこまで冒険者の事を考えているの?
 なんて思ってしまう。

 それでもその計画はある意味功を成し、ユーアたちも随分と褒められていた。
 だからこちらからは何も言えなくなった。

 それと、トロールに怯えていたロアジムの訳は単純なものだった。


 『過去に襲われた事があった』

 まぁ、普通の戦力を持たない一般人からしたら凶悪な強さだろう。
 何人いようとも倒すことは出来ない。

 それともう一つは


 『まるで生きているように見えた』

 これはゴマチが言っていた血液が流れてるのと
 死んでいるのに直立してた事に原因があった。

 血液の件は、元々死んだ直後にアイテムボックスに収納したから。
 それで出した時に体液が垂れてしまったって事。

 直立してたのは、見栄えよくスキルで脳天から串刺しにしてた事が原因。
 

 以上の事で一先ず、ユーアたちの模擬戦の話は終わり。
 もちろん次には私の出番が待っている。

「ユーアたちが随分と派手にやってくれたけど、私はどうしようかな?」

 各々で、素振りやストレッチをしている5人のおじ様たち。
 そんな貴族の人たちを見て、一人悩む私だった。

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