256 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
ラブナの想いと決着と
しおりを挟む「わ、わかったわっ! アタシに任せてっ! 『水刃竜巻』そして『火山岩弾』」
待機させていた混合魔法をバサ目掛けて放つ。
『え、あれは?』
バサの足元をよく見ると、何故か氷の上に立っている。
もしかしなくとも、ハラミが凍らせたんだろう。
ただ不思議なのは、バサの足は凍結していない。
なのにバサの動きは止まっている。
完全に氷の上に立っている、のにだ。
何故この状況でバサの動きを止められたのだろう。
そしてバサの居場所を見極めたのだろう。
飛び回るハラミの上で、一瞬バサの姿を見失っていたらそうなっていた。
その理由を知っているのは恐らくユーアとハラミだけだろう。
一体どうやって? ――――
『って、今はそれどころじゃないわっ! ユーアとハラミが作ってくれたこの機会をものにしてみせるんだからっ! 失敗はそのまま負けに繋がるんだからっ!』
すぐさま意識を元に戻し、魔法に集中する。
何せ、2つの混合魔法の内の一つがバサに届いていないからだ。
「うぬぁっ! 何だって魔法の矢に当たってないのに体が痺れてるのよぉっ! それにこの竜巻だか、渦巻はなんなのっ? これじゃ痺れが解けてても動けないじゃないのっ!」
アタシが放った水刃竜巻の中で、バサが喚き散らす。
それを聞いてわかった事は、バサは何らかの方法で痺れたこと。
もう一つは、自由を奪っていた痺れが現在は解けてるということ。
『ま、まずいわっ! 早く『火山岩弾』を当てないと気付かれるわっ!』
バサに最初に届いた魔法は、水と風属性の混合魔法の『水刃竜巻』
これはバサの足元から発生し、バサを中心に渦巻と竜巻を同時に起こすもの。
攻撃魔法というよりは、相手の動きを封じる結界に近い。
中心から出ようとすれば、水と風の刃に切り刻まれるからだ。
そして時間差で、アタシの頭上から落ちてくるのは『火山岩弾』
火魔法で岩の魔法を覆い、ゴウゴウと燃え盛る岩石になっている。
この岩石を覆っている火は、中心にいくほど青白くなっている。
その中心温度だけで鉄をも溶解するほどの熱量になっている。
それは詠唱時に、火魔法を3度重ね掛けしてあるからだ。
ただそれでも、ここまで温度が上昇する訳ではない。
アタシの半端な魔法ではまだ早い。
だったら、何故ここまでの熱量が出ているのだろう。
その答えはアタシの魔力にあった。
「も、もう早くしろってのぉっ! 魔力もギリギリなんだからねっ!」
アタシはかなり焦っていた。
『火山岩弾』の纏う高熱量の炎。
それはアタシの魔力を燃料に燃え盛っているからだ。
だから人知れず焦ろうというもの。
火にくべる薪の様に魔力をくべているのだから。
それに、今バサを覆っている『水刃竜巻』
これの弱点を見つけれられたら直ぐに逃げられる。
何せ、バサの真上にだけは魔法の効果がないから。
だって竜巻も渦巻も真上は空いているものだから。
「はぁ、はあ、もっと真剣に魔法を勉強しておくんだったわ。小さい時から頑張ってればもっと上手に操れたし、もっと持続できたのに」
もう残り少ない魔力を感じながら呟くように愚痴る。
そしてノロノロと頭上から落ちてくる『火山岩弾』
これもアタシが落下地点を操作している。
もう少し魔力と、その扱いの練度が高かったら、とっくに終わっている。
今頃は二つの混合魔法でその威力を発揮していた事だろう。
「ラブナちゃんもう少しだよっ! 頑張ってっ!」
『わうっ!』
「う、うん、任せてっ!」
ふらふらと立っているアタシにユーアが応援してくれる。
その意味を知ってか知らずか、ハラミも声援をくれる。
確かにもう少しで――に接触する。
ほんの数瞬で到達する。
ところが
「ああ、何よぉ、良く見たら真上だけ魔法で覆ってないじゃないのぉ? 痺れもないからここから脱出できるわぁ~」
魔法の渦の中からバサの拍子抜けした声が聞こえる。
それは弱点がバレた事を告げていた。
『うきぃ~っ! は、早く早くっ!』
これを外したらもう次はない。
同じ手はバサに通じない。
『そ、それに魔力だって、もう枯渇寸前よっ! だから早くっ!』
アタシは願うように水刃竜巻の真上に視線を這わす。
高さはバサの倍以上あるが、難なく脱出してくるだろう。
『早くっ! もう少しっ!』
が、無惨にも黒い影が渦の中から飛び出す。
「さ、させないよっ!」
それを見てすかさずユーアが光の矢を撃つ。
「おわっ! ってやっぱり狙い撃ちされるわよねぇ?」
バサは予想してたらしく、身を翻して矢を躱した。
「あああっ! また外しちゃったっ!」
そのバサを見て絶叫を上げ、驚くユーア。
正直アタシも驚いている。
あのタイミングで躱すバサにも、攻撃を見極める戦闘経験にも。
「も、もう大丈夫よ、ユーア」
それでもアタシはユーアに安心してもらうように声を掛ける。
最後の魔力まで燃料に変えたので限界寸前だ。
「え? だってバサさん中から出てきちゃったんだよラブナちゃんっ。あの燃える石も避けられちゃうよっ?」
「だ、だって、もう、『水刃竜巻』と『火山岩弾』は混ざるから、う、うん違うわ、混ざるというか、反発して、その威力を、発揮するから、だから、もう……」
「ラブナちゃんっ!? 何を言ってるの?」
アタシはここで意識が朦朧とし、ユーアにもたれかかれ目を瞑る。
これで安心して休める。
『はぁ~、疲れたわ……』
結果は見るまでもない。
そもそもの狙いはこれで全てだからだ。
「一体これは何なのぉ? いつまでもノロノロと進んでるだけでぇ」
バサは殆ど動こうともせずに、頭ほどの大きさのそれを躱す。
あり得ない程の高熱で燃え盛る、疑似隕石の『火山岩弾』を。
それを不思議そうに見送る。
端から見たら、これでアタシたちの攻撃は全て不発に見えただろう。
ただ
『水刃竜巻』と『火山岩弾』
その二つが合わさる事で、反発しあう事で新たな力が生まれる。
それは――――
ジュッ!
「えっ!? 何よ?」
ドッガ――――ンッッ!!!!
「ぐはぁっ!!!!」
それは、水と高温がぶつかり合って起こす爆発のようなもの。
熱した鉄に水滴を落とすと蒸発する時に生まれるエネルギー。
『M・スチームエクスプロージョン』(魔法式水蒸気爆発)
その余波を受けて、バサは広場向こうに勢いよく飛ばされていった。
貴族の観客の人たちの上を軽々と飛び越えていった。
その先では「ぎゃんっ!」と何やら悲鳴を上げてはいたけど。
そしてその瞬間にバサの敗北が決定し、アタシたちの勝利が確定した。
アタシたちの勝利条件には、バサに攻撃を当てる以外にも、
場外への離脱か、退避も含まれていたからだ。
『ふう、良かったわ。これで』
面目躍如ってわけではないけど、これで少しは自信が持てた。
アタシもシスターズの一員だって。そう言えるほどには。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる