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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2
ラブナの想いとユーアの逆鱗
しおりを挟む思いがけない流れでバサとの模擬戦に参加することが出来た。
あくまでユーアとハラミの引き立て役。
だけど、アタシだっていいところを見せたい。
ユーアにも頼もしいお姉さんだって知ってもらいたいし、
それに――――
『アタシだって何かの結果を残したいのよっ! スミ姉率いるBシスターズの一員なんだからっ! お荷物だなんて思われたくないのよねっ!』
そんな想いで臨んだ対戦だけど―――
まさか、あんな事になるなんて……
※※
ハラミに乗ったアタシとユーアは、広い裏庭の中央に移動する。
その広場の脇にはテラスがあり、ロアジムさんを含む貴族の人たちが、数か所に分かれて設置してあるテーブルセットに座ってこちらの様子を伺っている。
そして、その各テーブルにはメイドさんが一人ずつ待機しており、豪華なティーセットなどが用意してあった。
「バサだっけ? あんた。それでアタシたちはどうすればいいのよっ? ルールとか聞いてないからわかんないんだけどっ」
「よ、よろしくお願いしますっ! バサさんっ!」
ひたすら準備運動をしているバサに声を掛ける。
ユーアは少しだけおどおどしている。
「あらぁん、相変わらずツンツンしてんのね? あなた。それに比べてユーアたんは小動物みたいで可愛いわねぇ。まぁ、俺はツンツンも嫌いじゃないけどねぇ」
相変わらず容姿に似合わない声で話すバサ。
アタシとユーアより声が高い。
「ユ、ユーアが可愛いのは当たり前じゃないっ! それよりもルールは? 聞いてるんでしょう、ロアジムさんに」
そんなバサを若干気持ち悪いと思いながら聞いてみる。
「ルールは簡単よぉ。ユーアたんがハラミを操って、俺に攻撃を直撃させるか、この広場から出たら負けよぉ。もちろんラブナちゃんも好きに攻撃していいわよぉ。魔法使いって聞いてるから」
「な、なんだそんなの簡単じゃないのっ!」
「まぁ、俺は身体魔法関連の使用を控えろって言われてるけど、でもあなたが言うほど簡単じゃないと思うけどぉ。それにハラミは無しにして、冒険者で言うと低ランクでしょう? あなたたちは」
意気揚々と事の容易さを叫んだアタシを訝し気な目で見る。
「だ、だから何よっ! 仕方ないでしょアタシはなってまだ数日なのよっ!」
「ボ、ボクは半年で、Dランクです……」
「ほら。そんなんで俺に敵うわけないでしょ? 俺はナジメ、さんともいい勝負をした実力者なのよ? 実戦経験も殆どない低ランクに、どうにかできるわけないでしょぉ?」
「はぁ」とわざとらしくおどけた様子で両手を上げる。
バサはさらに続けて、
「それに、いくらあの英雄さまが強いって言ったって、あなたたちを見ればわかるけど、人を見る目はあまりなかったみたいね? ただ単に強いだけで、中身はただの子供だわ。俺から見たら何の価値もないリーダーだわねぇ」
「………………」
「………………」
バサは、何か目的があってアタシたちをわざと煽って言ってるのか、それとも本音を言っているのかは、その表情から読み取れない。
ただそれがどんな理由があろうとも許される事ではない。
アタシたちを馬鹿にするという事に関しては
それはそれで仕方ないと思う。
事実。冒険者になって数日の、スミ姉のこれまでの活躍に比べたら、アタシたちが霞んで見えるのは至極当然だと思う。
特にアタシに関しては、目立った実力もないし、何の役にもたってないし、何の実績を残していない。
それでもスミ姉はアタシを仲間にしてくれた。
きっとアタシを必要としてくれたんだと思う。
『それは自惚れかもしれないけどさ、スミ姉のやる事には必ず意味がある。だからアタシにも何かしらの意味があるんだからっ!』
そうアタシはスミ姉を信じている。
そしてそんな自分も信じている。
恐らくそれは事実だから。
もしこの場に、ナゴ師匠たちやナジメがいたならば、すぐさまバサは標的にして、顔の原型が無くなるまでボコボコにしただろう。スミ姉をコケにした罰として。
だが、その頼もしい仲間たちはここにはいない。
バサを叩きのめせる実力者は現れない。
『……だったら決まってるでしょっ! アタシが頑張んないとスミ姉が馬鹿にされたままになるっ! そんな事はスミ姉本人が許しても、アタシが納得できないわっ!』
そのバサの言葉に憤り、アタシは思わず魔法を放ちたくなる。
感情のままに盛大にぶっ放してやろうと、心が逸る。
だけど――
「ねぇ、バサって言う人。ボクも少し戦えるから参加してもいいかなぁ?」
アタシが噛みつく前に、ユーアがバサに向かい提案する。
「え? ユ、ユーア?」
ただその顔は、今まで見た事もないような笑顔だった。
『ぞくっ!?』
アタシはそれを見て身震いがした。
ユーアは目も口も頬も緩んで、満面の笑顔のままだ。
どこからどう見ても、ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべている。
「………………ゴクッ」
ただアタシにはわかる。
それがただの笑顔の訳が無いと。
そもそもユーアは誰にでも人当たりがいいし、話す言葉にも何の含みも感じない。
嫌味とか、皮肉とか、妬みとか、それらしい事を聞いたこともない。
それを念頭に置いて、今のユーアのセリフはおかしかった。
『………………』
最初の挨拶の時、ユーアはバサの事を『バサさん』て呼んでいた。
だと言うのに、さっきユーアはハッキリとこう言った。
『バサって言う人』 と。
これはユーアの中で知人から「見た事ある人」に格下げされたんだろう。
そうして距離を取って牽制したんだろう。
『い、いやこれは牽制ではなくって、ユーアなりの威嚇だと思うわ……』
アタシは極上の笑みを浮かべてるユーアを見てそう思った。
『これはアタシも負けてらんないわっ! 覚悟しなさいよバサっ!』
アタシもユーアと同じように笑顔を浮かべて相手を強く睨んだ。
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