剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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SS会議という名の乙女子会

馬子にも衣裳って?

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「はぁ、何だか動きずらいなぁ?」

 私は自分の姿を見下ろして溜息を吐く。
 ユーアとお揃いの衣装を着たはいいが居心地が悪い。
 
 因みにユーアは緑色で、私は赤色だ。
 別に世界的に有名な配管工の髭の兄弟を真似た訳ではない。
 たまたまユーアに似合いそうで、お揃いであったからだ。


「フリフリなのはあまり変わらないけど、生地も厚くてゴワゴワしてて、色も派手だし。こんなだと直ぐに敵に見つかっちゃうよね? 森での戦闘には適さないな」

 何て愚痴りながら早足でレストエリアを出る。
 みんなを待たせてるからね。

「みんなどう? 着てみたんだけど、赤なんて似合うかな? ……」

 私はみんなの前に出て「クルリ」と回って見せる。
 知らず知らず声が小さくなってしまう。
 気のせいか、顔に熱が上がるのを感じる。

 きっと慣れない衣装を着たせいだろう。
 それもみんなの前で。

「どう? かなぁ?」

「「「「………………」」」」

 ん?

 ユーアを除いたみんなの動きが止まってる。
 一様に口を開けて私を凝視している。

『な、何なのこれっ! 予想外なんだけどっ!』

 せめて何か一言でも感想言ってよねっ!
 無言が一番精神的にんだけどぉ!

「そ、それじゃもう見せたから、また着替えてくるねっ」

 みんなの視線に居た堪れなくなり私は戻る事にする。
 何だかんだでいつもの装備が落ち着くし。

『ふぅ、馬子にも衣裳って訳にもいかなかったなぁ?』

 ちょっと残念だけど仕方ないよね。
 どうせ私はあの装備にしかアイデンティティないんだもんね。

「あ、あのぉ、お姉さま……」
「ん、何? ナゴタ」

「お、お姉ぇ、あのさぁ……」
「どうしたの? ゴナタ」

「ス、スミ姉……」
「ラブナも何?」

「ねぇね、お主は……」
「ナジメ?」

 それぞれが私の名前を呼んで下を向く。
 余程お気に召さなかったのだろうか?
 気のせいじゃなければ、また耳が赤くなってる。

『………………』

 色々と可笑しくて言い出せないんだね。 
 それを堪えて赤くなってるんだよね? きっと。

「な、何もなければ着替えてくるね。あまり評判良くなかったし……」

 私はとぼとぼと引き返す。

「お、お姉さまっ!」
「お姉ぇっ!」
「スミ姉ぇっ!」
「ねぇねっ!」

「え? な、何?」

 「ガバ」と4人揃って勢いよく顔を上げる。

「ど、どうしたの? 顔まで赤くなって…… あまり気にしないでいいよ? 私はみんなほど目を引く美人じゃないし、愛嬌があるわけでもないから。だからいつものに着替えてくるよ」

「違うのですっ! お姉さまっ!」

「え、違うって何が? ナゴタ?」

 私はやっと顔を上げたナゴタに聞いてみる。
 それを感じてか、他の3人も顔を上げる。

「違うのですっ! 私たちはお姉さまの変わりように感動していただけなんですっ! だから勘違いをさせてしまいまして、申し訳ございませんでしたっ!」
 
「へ? 感動? 勘違いって?」

 珍しくナゴタが声を張り上げて興奮している。

「お、お姉ぇのいつもの黒い蝶の衣裳も、とっても似合ってて可愛くて、大人っぽくてワタシも憧れてたんだっ! でもさぁ、それは卑怯だよっ!」

「ひ、卑怯っ!?」

 続いてゴナタもナゴタと同じように必死に訴えている。

「そ、そうよっ! それを着た途端に、なんでしおらしくなるのよっ! いつもの自信満々な態度はどうしたのよっ!」

「な、自信満々って?」

 ラブナも2人に続いて声高に訴えてくる。
 ような気がする……

「そうじゃぞっ! ねぇねよ。なぜ顔を赤くして小さな声で『に、似あう?』なんて言うのじゃっ! そんなのいつものねぇねじゃないのじゃっ! ズルイのじゃっ!」

「今度はズルイっ!? な、なんで私が?」

 一体何なのこれ?

 みんなを気にして着替えようとしたら、今度は文句を言われるの?

『うううっ~~~~』

 踏んだり蹴ったりだよっ!
 弱り目に祟り目だよっ!
 泣き面に蜂だよっ! 

「スミカお姉ちゃん違うよ?」
「え? 違うって何が? ユーア」

 この中で一人「ニコニコ」と成り行きを見守っていたユーア。

「みんなスミカお姉ちゃんに驚いたんだよ?」
「う、うん。それはわかる」

 だってみんな顔を赤くしてまで我慢してるからね。

「ううん、そうじゃなくて、スミカお姉ちゃんがきれいで、みんなびっくりしたって事だよ? ナゴタさんもゴナタさんも、ラブナちゃんもナジメちゃんも」

「えっ!? そうなの?」

 ユーアの言葉に驚いてみんなを見渡す。

「あ、あのぉ、私が先ほど言ったのですが、みんなそれぞれ感動して声が出なかったんです。お姉さまがいつもの毅然としたお姿ではなく、年相応の少女のような振る舞いだったので……」

「そうだぞっ! お姉ぇ。だからワタシたちはそんなお姉ぇに衝撃を受けたんだぞっ! いつもの強いお姉ぇもいいけど、守ってあげたくなるそんな可憐な感じだったんだぞっ? さっきのお姉ぇは」

「まぁ、師匠たちが殆ど言っちゃったけどそんな感じよっ! だからそんなか弱い振りしなくてもいいわよっ! なんだかウズウズするからっ」

「うしし、ねぇねよ。お主はもっと自分を自覚した方が良いのじゃ」

 ユーアに促されるように、みんながそれぞれに感想を言ってくれる。
 でも結局それってどうなの?

 ただいつもと違くて驚いただけだよね?

「で、それで、あのさ、結局…………」

 私はたどたどしく聞き返す。
 最後までを聞けなかったから。

 装備がないせいか感情が外に出やすい気がする。
 そんな事も今になって気付いた。

 特に「気落ち」や「気恥ずかしい」といった感情が……

 なんて、一人考えていると――――


「とてもですよっ! お姉さまっ!」
「お人形さんみたいでぞっ! お姉ぇっ!」
「アタシと同じ色も中々じゃないっ! スミ姉っ!」
「ねぇね、のじゃっ! 可愛いのじゃっ!」

「えっ! あ、ありがとうみんなっ!!」

 みんながそれぞれに褒めてくれた。
 そして聞きたかったことを言ってくれた。
 ユーアとお揃いのこの衣装で。

 この瞬間に、私もこの世界で認められた気がする。
 何のチートもない、この世界の服装で似合うって言われたことに。

 ユーアや、みんなが住むこの世界の住人になれたとさえ錯覚する。

『……あの装備は便利だけど、あれを着てるとどこか私だけ違う世界の住人だった。でも、もうこれで吹っ切れた気がするよ。ユーアやみんなには感謝だよねっ!』


 知る人が知れば、それは大袈裟だと笑い飛ばすかもしれない。
 たかが衣装を褒められたぐらいで、何をそんなに。なんて。

 それでも私は嬉しかったんだ。

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