剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

全ては最初から決まってた?

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「それで、何でワナイが食い逃げナイフの男を捕まえてきてるの?」

 私は拘束された男たちを眺めてルーギルに尋ねる。
 そんなルーギルは後頭部を掻きながら口を開く。

「んあッ、それはスミカ嬢から食い逃げした仲間の事を聞いた時に、他の冒険者に事実確認に行かせたんだよッ」

「それで?」

「それで報告を受けたのがついさっきって訳だァ。ここからは――」
「どうせクレハンでしょ?」

 私はすぐさまルーギルに突っ込む。
 どうせ小難しい話とか、長い話は頭脳担当の副ギルド長に出番だと。

「そうですね、ここからは私が説明させていただきますね」

 みんなを見渡しながらクレハンの説明が始まった。


――――――


 その話をまとめて時系列で言うと……

・アマジが絡まれているのを目撃する。そこに私とユーアがたまたまいた。
・それを見て、何とかこの場面を利用できないかと考える。
・食い逃げの話を聞いて、すぐさま他の冒険者へ事実確認へ行かせる。
・屋台のおじさんに、ワナイを呼び連行されたことを聞く。
・そしてその道中で見付けてここまでくる。

 簡単に説明するとこんな感じだった。


「あれ? でもこれって何か抜けてない?」
「ああ、そうだな。俺たちが絡まれた男たちの事が含まれていない」

 クレハンの話だけ聞くと、食い逃げナイフの男の事実確認だけ取れれば、OKな内容に聞こえる。絡まれた男の話は殆ど入ってない。

 私がルーギルに食い逃げの事を話をしたのが、切っ掛けぽくなっている。
 はなからそれだけで良かったんじゃないかと思う程に。

「そこんとこはどうなってるの? ルーギル」

 私は微妙に予想と違う話に困惑する。

 食い逃げと、4人の男たちの両方の事を知ってるはずなのに
 その話が余り関係ないみたいな感じだった。

「あ、ああそれはよォ、クレハンの奴がな――――」
「ちょ、ちょっとそれはギルド長が先に言い出したんですよぉっ!」
「いや、お前だってッ! 見たいとか言い出したんじゃねえかッ!」

「………………」
「………………」

 私とアマジを置いて、何やら二人で言い争いが始まった。

「でも先に面白そうだって言いだしたのはギルド長ですよぉ!」
「でも考えたのはクレハンだろうォ?」
「実行に移したのはギルド長、あなたですよっ!」
「ああんッ? クレハンお前裏切るのかァッ!!」

「はぁ、もういいよ」

 私は醜い二人の言い争いを止める。

「要するに、あななたちは私たちをけしかけてそれを面白がってたって事?」

 要約すると多分これで合っている。

 それは戦闘好きな二人が、私とアマジが絡まれて
 どう男たちをボコすのかを見たかった事。

 恐らくこれで間違いない。二人の話の流れ的に。

「あ、ああ。それとあいつらには、元々釘を刺しておいたんだよッ」
「なんて?」
「次に仲間内で何かやらかした場合は、お前らの冒険者登録を解除するとなッ」
「それで、その次ってのが食い逃げした男の話だって事?」
「そうだッ。その確認が取れたから実際は後の4人も、もう終わりだったんだッ」

「………………ふ~ん」

 ここで私は一度考える。

 これってやはりアマジも私も関係ないよね?
 だった私がルーギルに報告した時点で、本当は終わっていた話だもん。
 あの4人の男たちと戦う必要性はなかったよね?


「そ、それでも確認が取れたのがついさっきなので、決して無駄ではなかったんですよっ? アマジさんのあの素晴らしい演技も、スミカさんのあのも」

「そ、そうだぜッ! お前らがを打つのも見れたかんなッ!」

「………………」
「………………」

 何やら二人とも説明じゃなく、途中から言い訳がましくなってきている。
 全ての理由は分かったけど、これで得したのは冒険者ギルドだけだろう。 

 私たちはただ単に、ルーギルたちの退屈しのぎに利用されただけだろう。
 二人の話を聞いてそう思った。


「………アマジ。こいつらどうする? 私たちで遊んでただけだよ」
「そうだな。俺も空気投げを練習してみたいのだが」

「はぁッ!?」
「えっ!?」

「それはこの状況だとちょっと難しいから、違う投げ技教えてあげる」
「ああ、スミカよろしく頼む」

「なァッ!?」
「あ、あああっ!!」

「それじゃ二人まとめてやってみるよっ!」
「ああ」

 私は予告して二人の懐に一足飛びで潜り込む。

「よっと」

 ガシィ

 そして手首を取り一瞬で――


 ヒュ~~~~ン


 と、二人のギルド長コンビを空中に放り投げる。


「うおぉ――――ッッ!!」
「わあぁ――――っっ!!」 

 そうして私は何度も「浮かせ技」をアマジに披露したのだった。
 それは二人が吐くまで続けられた。


――――――


「それじゃ、もう帰ろうか? ユーア」
「はい、スミカお姉ちゃん」

 ルーギルもクレハンも仕事に戻り、ワナイも騒ぎの男たちを連行していった。
 元々の予定だった、オークとトロールの報奨金と分配も終わった。

 報奨金についてはかなり色を付けてくれた。当分生活費には困らなそう。
 それにまだまだアイテムも討伐した魔物もあるからね。

 なので今ここにいるのは私たちと、アマジ親子だけ。

「なら俺たちも用事が済んだのでな。一緒に歩くとしよう。それにお前のその格好だと、まだまだ絡まれそうだからな」

 私とユーアのやり取りを聞いていたアマジがそんな事を言い出す。

「え? 何それ。今度は白昼堂々とお持ち帰り宣言?」
「は? お持ち帰りとは?」
「家に女の子をだまして連れ帰るって事だよ」
「はぁ? なぜ俺がお前みたいな幼児体――――」
「いいって別に言い訳しなくても。どうせ私のイメチェンした姿を見て見惚れてたんでしょう? だってたまに目が合ったもんね?」
「い、いや、だから俺は子供には。それに目が合うぐらい誰でも――」

「親父…………」
「ゴマチちゃんのお父さん……」

「うううっ」

「ホラね。子供たちだって引いてるよ? いい年した大人が若い娘を家に連れ込もうとするから。しかも娘の目の前でさ」

「はぁ、もういい。ゴマチ俺はそんな事しないぞ」

「まぁ、全部冗談だけどね。それじゃ行こうか」
 
 そう言ってユーアに手を出しながら歩き出す。

「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

 私の手を笑顔で握り返しながら4人で帰路につく。

 ユーアを真ん中に私とゴマチが手を繋ぐ。
 その後ろではアマジがとぼとぼと歩いてくる。

 こうして私の蝶を脱いだ休日は、終わりを告げたのだった。


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