243 / 581
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
全ては最初から決まってた?
しおりを挟む「それで、何でワナイが食い逃げナイフの男を捕まえてきてるの?」
私は拘束された男たちを眺めてルーギルに尋ねる。
そんなルーギルは後頭部を掻きながら口を開く。
「んあッ、それはスミカ嬢から食い逃げした仲間の事を聞いた時に、他の冒険者に事実確認に行かせたんだよッ」
「それで?」
「それで報告を受けたのがついさっきって訳だァ。ここからは――」
「どうせクレハンでしょ?」
私はすぐさまルーギルに突っ込む。
どうせ小難しい話とか、長い話は頭脳担当の副ギルド長に出番だと。
「そうですね、ここからは私が説明させていただきますね」
みんなを見渡しながらクレハンの説明が始まった。
――――――
その話をまとめて時系列で言うと……
・アマジが絡まれているのを目撃する。そこに私とユーアがたまたまいた。
・それを見て、何とかこの場面を利用できないかと考える。
・食い逃げの話を聞いて、すぐさま他の冒険者へ事実確認へ行かせる。
・屋台のおじさんに、ワナイを呼び連行されたことを聞く。
・そしてその道中で見付けてここまでくる。
簡単に説明するとこんな感じだった。
「あれ? でもこれって何か抜けてない?」
「ああ、そうだな。俺たちが絡まれた男たちの事が含まれていない」
クレハンの話だけ聞くと、食い逃げナイフの男の事実確認だけ取れれば、OKな内容に聞こえる。絡まれた男の話は殆ど入ってない。
私がルーギルに食い逃げの事を話をしたのが、切っ掛けぽくなっている。
はなからそれだけで良かったんじゃないかと思う程に。
「そこんとこはどうなってるの? ルーギル」
私は微妙に予想と違う話に困惑する。
食い逃げと、4人の男たちの両方の事を知ってるはずなのに
その話が余り関係ないみたいな感じだった。
「あ、ああそれはよォ、クレハンの奴がな――――」
「ちょ、ちょっとそれはギルド長が先に言い出したんですよぉっ!」
「いや、お前だってッ! 見たいとか言い出したんじゃねえかッ!」
「………………」
「………………」
私とアマジを置いて、何やら二人で言い争いが始まった。
「でも先に面白そうだって言いだしたのはギルド長ですよぉ!」
「でも考えたのはクレハンだろうォ?」
「実行に移したのはギルド長、あなたですよっ!」
「ああんッ? クレハンお前裏切るのかァッ!!」
「はぁ、もういいよ」
私は醜い二人の言い争いを止める。
「要するに、あななたちは私たちをけしかけてそれを面白がってたって事?」
要約すると多分これで合っている。
それは戦闘好きな二人が、私とアマジが絡まれて
どう男たちをボコすのかを見たかった事。
恐らくこれで間違いない。二人の話の流れ的に。
「あ、ああ。それとあいつらには、元々釘を刺しておいたんだよッ」
「なんて?」
「次に仲間内で何かやらかした場合は、お前らの冒険者登録を解除するとなッ」
「それで、その次ってのが食い逃げした男の話だって事?」
「そうだッ。その確認が取れたから実際は後の4人も、もう終わりだったんだッ」
「………………ふ~ん」
ここで私は一度考える。
これってやはりアマジも私も関係ないよね?
だった私がルーギルに報告した時点で、本当は終わっていた話だもん。
あの4人の男たちと戦う必要性はなかったよね?
「そ、それでも確認が取れたのがついさっきなので、決して無駄ではなかったんですよっ? アマジさんのあの素晴らしい演技も、スミカさんのあの可愛いポーズも」
「そ、そうだぜッ! お前らが下手糞な芝居を打つのも見れたかんなッ!」
「………………」
「………………」
何やら二人とも説明じゃなく、途中から言い訳がましくなってきている。
全ての理由は分かったけど、これで得したのは冒険者ギルドだけだろう。
私たちはただ単に、ルーギルたちの退屈しのぎに利用されただけだろう。
二人の話を聞いてそう思った。
「………アマジ。こいつらどうする? 私たちで遊んでただけだよ」
「そうだな。俺も空気投げを練習してみたいのだが」
「はぁッ!?」
「えっ!?」
「それはこの状況だとちょっと難しいから、違う投げ技教えてあげる」
「ああ、スミカよろしく頼む」
「なァッ!?」
「あ、あああっ!!」
「それじゃ二人まとめてやってみるよっ!」
「ああ」
私は予告して二人の懐に一足飛びで潜り込む。
「よっと」
ガシィ
そして手首を取り一瞬で――
ヒュ~~~~ン
と、二人のギルド長コンビを空中に放り投げる。
「うおぉ――――ッッ!!」
「わあぁ――――っっ!!」
そうして私は何度も「浮かせ技」をアマジに披露したのだった。
それは二人が吐くまで続けられた。
――――――
「それじゃ、もう帰ろうか? ユーア」
「はい、スミカお姉ちゃん」
ルーギルもクレハンも仕事に戻り、ワナイも騒ぎの男たちを連行していった。
元々の予定だった、オークとトロールの報奨金と分配も終わった。
報奨金についてはかなり色を付けてくれた。当分生活費には困らなそう。
それにまだまだアイテムも討伐した魔物もあるからね。
なので今ここにいるのは私たちと、アマジ親子だけ。
「なら俺たちも用事が済んだのでな。一緒に歩くとしよう。それにお前のその格好だと、まだまだ絡まれそうだからな」
私とユーアのやり取りを聞いていたアマジがそんな事を言い出す。
「え? 何それ。今度は白昼堂々とお持ち帰り宣言?」
「は? お持ち帰りとは?」
「家に女の子をだまして連れ帰るって事だよ」
「はぁ? なぜ俺がお前みたいな幼児体――――」
「いいって別に言い訳しなくても。どうせ私のイメチェンした姿を見て見惚れてたんでしょう? だってたまに目が合ったもんね?」
「い、いや、だから俺は子供には。それに目が合うぐらい誰でも――」
「親父…………」
「ゴマチちゃんのお父さん……」
「うううっ」
「ホラね。子供たちだって引いてるよ? いい年した大人が若い娘を家に連れ込もうとするから。しかも娘の目の前でさ」
「はぁ、もういい。ゴマチ俺はそんな事しないぞ」
「まぁ、全部冗談だけどね。それじゃ行こうか」
そう言ってユーアに手を出しながら歩き出す。
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
私の手を笑顔で握り返しながら4人で帰路につく。
ユーアを真ん中に私とゴマチが手を繋ぐ。
その後ろではアマジがとぼとぼと歩いてくる。
こうして私の蝶を脱いだ休日は、無事終わりを告げたのだった。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる