剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

ユーアの幸せと絡まれる親子

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 私はユーアを背中から抱きかかえ、ログマさんの話を聞く。


「数十分前にアマジって男が話に来たんだ。それでその話の中にスミカの名前が何度か出てきたんだ」

「うんうん。先を続けてください」
「はい」

「それよりも先に聞いていいか? スミカは何をしたんだ?」

 聞きに入っていた私とユーアを見てそう聞いてくる。

「アマジって人から何も聞いてないんですか?」

「いいや、聞いてはいるさ。だがどれも抽象的だったのでな。『あいつのお陰で真実を知れた』とか『娘が戻ってきた』とか。いったいお前らは何をしたんだ? 偉く気に入ってるようでもあったぞ」

 私とユーアを軽く睨みながらそう聞いてくる。
 睨むと言っても、興味があるって意味の視線だけど。


「え~と、その娘を誘拐した」
「………………はっ!?」
「ユーアが襲われた」
「はぁっ!?」
「そして親子共々潰そうとした」
「………………」
「それと――――」
「い、いや、もういい」
「………………」

 ログマさんはこめかみを抑えて小さく唸る。
 どうやら理解が追いつかないようだ。

「スミカお姉ちゃんっ!ちゃんと教えないとダメだよぉっ!」

 それを見て、すぐさまユーアのツッコミが入る。

「そ、そうだね。もう少し細かく説明しますねっ」
「はぁ、全く。お前らはどちらが姉か妹か分からんな……」


 しみじみとそう話すログマさんに説明をする為口を開く。
 ユーアの目がちょっとだけ怖かったから。


※※



「…………なるほどな。そういう事か。お前は相変わらずだな」

 ポリポリとこめかみを掻きながら私たち二人を見る。
 どうやら今度は通じたようだった。

「あ、ありがとうございます?」
「ありがとうございます?」

「別に褒めてはいないのだがな。それでも色々と巻き込まれ過ぎだぞお前は。いや、お前になるのか? 実際のところは」

 ジロリと薄目で私たち二人を交互に見る。

「え、ボクもですかっ?」

 ユーアはちょっとだけ驚いた表情でログマさんを見返す。

「いや、ユーアだってよく考えればそうだろう? 必ずと言っていい程関わっている。スミカの起こす騒動にな」

「騒動って、ちょっとログマさん。私だって好きでやってる訳じゃ……」

 私はすぐさまログマさんの言葉に異を唱える。

 そんな言い方だとユーアだって迷惑に感じちゃうかもだし。

 『スミカお姉ちゃんといるとボクも巻き込まれて大変だよっ』

 なんて、言われたらまた引きこもるよ? 
 スキルの中に。


「でも俺はそれでも良いと思っている」
「え? 何でですか?」
「だって、見てみろ。スミカ」

 ログマさんは私から視線を外して、その前を見る。
 そこにいるのは私に後ろから抱きかかえられてるユーアだ。

 私はログマさんの視線に気付き、ユーアを脇から覗き込む。

「?」

 そこにはニコニコと締まりのない表情のユーアがいた。

「…………ユーア、どうしたの?」
「えっ!?」
「何かだらしない顔になってるけど?」

 そんなユーアも可愛いから私はいいけど。
 何て思いながらユーアに聞いてみる。

「だらしないですか?」
「うん、少し心配になるくらいに、ニヤニヤしてた」
「それは思い出してたんです。ログマさんの話を聞いて」
「思い出してた? 前の事?」

 ユーアは私の手を取りながら答える。

「うん、そうです。スミカお姉ちゃんに会って楽しい事ばかりだなって」
「………………」
「スミカお姉ちゃんに会って、お友達も一杯増えて」
「………………」
「スミカお姉ちゃんに会って、ハラミにも会えて」
「………………」
「スミカお姉ちゃんに会って、住むところもお洋服も美味しいものにも困らなくなって」
「………………」

 ここまで言って、首から回してる私の腕をほどき体ごとこちらに向けるユーア。その目は真っすぐに私を見ている。純粋なほど透き通った目で。

「だからスミカお姉ちゃんに会えて、ボク幸せがいっぱいですっ! もうお顔のにやにやが止まらないんです。たくさん幸せな事思い出しちゃってっ!」

 そう言い終わり「きゅっ」と私に抱きついてくる。

「な、だから俺はそれで良いと言っただろ?」
「はい、そうですねっ」

 私は腕の中に小さな温もりを感じながら、笑顔でそう答えた。

 ユーアにはいつも貰ってばかりだなって思いながら。



※※



 そうして、トロの精肉店を出て、屋台などが並ぶ繁華街を目指して歩く。
 アイテムボックス内の食料が心許ないから購入する為に。

 何だかんだで昨日の食事会で大盤振る舞いしちゃったから。

 ログマさんのところでは、解体分のお肉を受け取って、更に追加で置いてきた。
 まだまだアイテムボックスの中には素材が沢山あるからだ。

 それであの後、カジカさんも降りてきてアマジが謝罪とお礼に来たと話していた。どうやら2階の食堂の準備中に尋ねてきたらしい。

 ログマさんも、カジカさんも当時の事はうろ覚えだったらしい。
 10年前の話だし、そんな事は日常茶飯事みたいな事も言っていた。

 それでも昔の事でお礼を言われて嬉しかったらしい。
 冒険者としての活動が今でも感謝され、喜ばれた事が。

 アマジの態度も姿勢も真摯的で好感も持てたとも言っていた。

 きっとアマジも少しだけ前に進めたと思う。
 これからはきっと良い父親になるだろう。
 今までの分を取り戻すために。

 でもあまり厳しくしないといいけど……
 私みたいに甘やかさないって言ってたしね。


※※


 そんなこんなで私たちは、予定通りに屋台や露店で買い物も昼食も済ませて、冒険者ギルドに向かう。

「それじゃ次はギルドに行こうか?」
「はいっ!スミカお姉ちゃん」

 ユーアはまた先導するように私の手を引いて前を歩いていく。

 こっちの予定はオークとトロールの討伐の報酬の受け取りと、ルーギルたちの分け前を渡しに行くこと。

『まぁ、後はタイミング的に鉢合わせしそうな気がするけど……』

 私はそんな予感がしながらもユーアに手を引かれ冒険者ギルドに到着する。

 そこには――――


「何なんだお前はっ? 子供連れてこんなところ来るんじゃねえよっ!」
「ああ、全くだぜっ!嫌なアイツを思い出すぜっ!」
「ちっ、何だその面気に入らねぇっ! 子供の目つきもムカつくなぁっ!」
「おい、おっさんっ! 子守なら他所へ行けよっ!」

「お前らこそ何だ。俺はお前らには用はない。だからそこをどけ。娘も怯えてるだろ、醜い魔物が人語を話すってな」

「お、親父っ! お、俺は怖くないぞっ!ただの武者震いだっ!」


「………………」
「スミカお姉ちゃんっ!あれってっ?」

 私は4人に囲まれている男と女の子を見る。

『はぁ、やっぱり会うと思ったんだ。行動的にも時間的にもね……』


 そこには娘のゴマチを肩車しているアマジ親子がいた。

 そしてその親子にちょっかいを出していたのは――――

「う~ん、どっかで見た事あるんだよね……」

 
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