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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
お休みと蝶を脱いだスミカ
しおりを挟む「う~ん、どうしよう……」
「どうしたの?ユーア」
何やら朝からパンツ一枚で唸っている、妹のユーアに声を掛ける。
「スミカお姉ちゃんから貰ったお洋服が一杯あって、どれ着て行こうか悩んでるんです。どれも可愛いので……」
う~ん、う~んと更に首を傾げる。
「だったらこれにしなよ。 私も色違いで同じもの着ていくから。それだったらいいでしょ?ユーアは薄い桃色で、私は真っ白で」
「え?スミカお姉ちゃん、ちょうちょのお洋服脱いじゃうの?」
そんな私の提案に驚いた様子で聞き返す。
「うん、たまにはいいかなって。ユーアはそれじゃ嫌?お揃いのは」
「ううん、嬉しいですっ!お外でもスミカお姉ちゃんとお揃いの着れるのは。やった~っ!それじゃボクも同じの着ますっ!」
そうしてユーアはいそいそと私と色違いの洋服を着る。
子供らしい無邪気な笑顔を浮かべながら、心底嬉しそうに。
『ふふっ。ユーアも喜んでくれてよかった。街中なら透明壁スキル使えなくてもいいよね?それといざとなったらアイテムボックス使えるし』
そんなこんなで、私もユーアと一緒に着替えてレストエリアを出た。
この衣装チェンジが、ちょっとした騒動を巻き起こす
切っ掛けになる事を知らずに。
※※
アマジとの一件の翌日。
今日は各々に休日を設けていた。
傷や疲れはアイテムで回復できるけど
精神部分には効果がない。
だからキッチリとした心の休養が必要だ。
そんな訳で今日一日フリーになったのでユーアとお出かけの予定になった。
他のメンバーも好きな事をして今日は一日過ごすだろう。
「ハラミは朝早く何処に行ったの?」
私はとことこと横を歩くユーアに話しかける。
「あのですね。裏の林に行くって言ってました」
その姿は私とお揃いのいつもより大人向けのワンピース。
首元からスカートの裾までボタンの周りにフリルがあしらわれている。
肩の部分も胸元も開いていて、実にアダルトなイメージのワンピースだ。
「林?ってナゴタたちが住んでいる?」
「そうです。多分野生のウサギさんとか鳥さんとか採りに行ったんです」
「ああ、なるほどね」
ハラミもユーアに懐いてると言っても、元は野生のシルバーウルフだ。
新鮮なエサが欲しいのだろう。それと狩りもできるし。
「それで今日は何処に行くんですか? スミカお姉ちゃん」
私の手をキュっと握りながらクリッとした瞳で聞いてくる。
「今日はログマさんのところに頼んでたオークとかの解体分を取りに行って」
「うん、うん」
「昨日、結構なストックを食事会で出しちゃったから、その補充と」
「うん、うんっ!」
「最後はギルドかな?報酬とか分け前とか渡してないし」
「ほうしゅう? 分け前? ですか」
首を傾げて「なに?」て表情を浮かべてユーアが聞いてくる。
「そう。私たちはこの前オークとかトロールを討伐してきたでしょ?あれってギルドからの依頼って言ってたよね?」
「あっ! はいそうですっ!」
ユーアは目を開いて「はっ」と思い出したような表情になる。
「でしょ?だからそれの受け取りと、ルーギルとクレハンが倒した分も渡しに行くの。そっちが分け前だね。もちろんユーアの分もあるからね」
「え? ボ、ボク魔物一匹も倒してないよ?」
「何言ってるの? ある意味ユーアが一番活躍したんだからね。初戦闘で私の手助けをしてくれたり、ルーギルの危ないところを救ったんだから。それにナゴタたちとも戦ったんだから」
「そ、そうなんですかっ!?」
「だからユーアも受け取る権利があるんだよ。私からもオークを渡したいけど、今は渡せないからユーアの分としてキチンと管理してるから」
「で、でもボク、スミカお姉ちゃんに貰った武器が無かったら……」
「それは関係ないでしょ? 武器なんて誰だって持てるんだから。それをあそこまで上手に扱えたユーアの実力なんだから」
私は表情がコロコロと変わるユーアに諭すようにそう答える。
やはりまだ自信が無いようだった。
『それにしても「倒してない」かぁ。そろそろユーアにも必要なのかな?』
私は小さなユーアを見て、そう思いに耽る。
ユーアにも戦える武器ではなく
『最後まで戦える武器』が必要なんだと。
※
「く、食い逃げだっ! 捕まえてくれっ!!」
「食い逃げっ?」
「くいにげっ!?」
ユーアと二人、繁華街に入った直後、怒鳴り声が聞こえてくる。
見ると、屋台の主人らしい男が屋根を見上げて走ってくる。
その目線の先には串焼きを両手に持って屋根の上を走る男が見える。
「あれかな? ユーアっ!」
「うんっ!」
何で一般人が屋根なんかに登れて逃走できるの?
なんて不思議に思いながら、ユーアに声を掛ける。
シュッ
「ぎゃっ!」
ユーアがマジックポーチに手を出し入れした瞬間、屋根上の食い逃げ犯が動きを止める。スタンボーガン一発で痺れさせたのだろう。
「相変わらず百発百中だねっ!ユーアっ!」
私はユーアを褒めて、すぐさま走り出す。
全身が痺れた犯人が屋根から転げ落ちたからだ。
「とっ!」
私はギリギリでその男を受け止める。
少しだけピリっときたけど大丈夫。
直接受けたわけではないし、アバターのままだし。
「スミカお姉ちゃん!」
「おおっ! スゲ――っ!!」
ユーアがそれを見て私の元に駆け寄ってくる。
その後ろには屋台の店主の姿も見える。
受け止めた男はショックで気を失っているみたいだ。
背格好は長身体躯の冒険者に着る軽装にも見える。
「ふう、何とか間に合ったよ」
駆け寄ってきたユーアと店主を見ながらそう声を掛ける。
正直スキルが使えれば、もっと楽だったんだけど。
何て少しだけ考えてしまう。
まぁ、今は無いものに文句を言っても仕方ない。
最悪は着替えればいいだけだし。
そうなると生着替えなるけど。
『う~ん、それは困るなぁ』
何て、また考え込んでしまう私。
「はぁ、はぁ、ユーアちゃんありがとうな捕まえてくれてっ! え~と、それと――――お嬢ちゃんもなっ」
私とユーアを見比べて屋台の店主がお礼を言ってくる。
「別にいいよ。いつも美味しい串焼き売って貰ってるから」
少しだけ怪訝に思いながら店主に返事を返す。
「お、おう。随分と小さくても別嬪さんだなっ! それとユーアちゃん今日はスミカのお姉ちゃんはいないのかい?」
「えっ?」
「へっ?」
「そろそろ買いに来る頃だろうって、みんなも多めに準備してるんだよ」
「あ、あのおじさん、スミカお姉ちゃんは……」
「………………」
ユーアが堪らずといった様子で屋台の店主に声を掛ける。
「何だい? ユーアちゃん」
「あ、あのぅ、ここにいるのがスミカお姉ちゃんですけど……」
「私がそうだけどおじさん。それに一昨日も買いに行ったと思うけど?」
「はい」と手を上げながら、屋台のおじさんに声を掛ける。
「??」
「??」
何故か見つめあうおじさんと私。
だけど徐々にその表情が変わってくる。
「あ、ああああっ! た、確かによく見ればスミカの姉ちゃんだっ!ど、どうしたんだっ!その変な格好はっ!!」
声を震わせ、驚愕の表情で私を見る屋台のおじさん。
「へ、変な格好ってなによっ! たまには私だってお洒落するんだよっ!」
私は少しだけ強めに睨んで文句を言う。
せっかくユーアとお揃いなのに、変な格好だなんて言うおじさんを。
「ご、ごめん、変な格好ってのは言葉のあやだっ! ただいつもと違うから驚いただけどっ! う、うん、さっきも言ったがキレイだぞっ!」
「ふ~ん、何か無理やり機嫌取りにきてない? まぁ別にいいけど」
私は慌てふためくおじさんにジト目を向ける。
よく考えたら、こうなる事はある程度予想出来てたし。
「そんな訳だから、勘違いしないでくれ!それとありがとうな!」
「もう分かったからいいよ。それじゃ私たちは行くから、この食い逃げの人はお願いね。それと屋台には後で行くから」
「おおっ!みんなも待ってるぞっ!」
「またねっ!おじさんっ!」
取り繕うように言い訳をする屋台の店主と別れて
私たちはログマさんとカジカさんがいるトロの精肉店を目指して歩いていく。
「ねえ、スミカお姉ちゃん?」
「ん、何?」
少し歩いたところでユーアは振り向き声を掛けてくる。
「さっきの、食べ物取った人見た事ないかなぁ?」
「え? う~ん、あまり良く見なかったな、汚かったし」
「うん、あまりきれいじゃなかったですね」
「その点、ユーアはいつもピカピカだよねっ!」
私はそう言って、ユーアの顔やら首筋やら胸元やら、露出している部分の匂いを嗅いでいく。まるでハラミの様に。
「くふふっ! スミカお姉ちゃんくすぐったいですっ!」
「どれどれっ!」
相変わらずユーアはいい匂いがするねっ!
何てじゃれあいながら本当の姉妹の様に歩いていく。
お揃いのおニューの服に身を包みながら。
『でも、やっぱり装備がないと、なんか不安だね』
なんて思いながら、それでもそのお陰で、いつも感じていた物珍しい視線を感じないことを嬉しく思った。
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