剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
230 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

昨日の敵は今日のお食事会

しおりを挟む



「どれ、そろそろみんな帰ろうかっ」


 私は一番に腰を上げみんなを見渡しそう声を掛ける。
 そろそろ日も傾き始めたな、とも思いながら。

 それに各々の顔を見ても十分満足してそうだった。
 一様にお腹に手を当ててゆっくり寛いでいる。

 特にユーアなんて「ふにゃ」として蕩けそうな表情だった。
 ナジメのお腹もここ一番膨らんでいた。

 姉妹もラブナも今はゆっくりと談笑している。
 何故かそこに、双子の兄弟も混ざってるけど。

 アマジの家族たちはぎこちないながらも、今は冷たい果実水を飲んでいる。
 ゴマチはショートケーキのレーションを口一杯に頬張っている。

 それをアマジもロアジムも柔らかな表情で見守っている。

 そしてバサは梃でも動かないハラミの背中に乗っている。

「ふふっ」

 一体どういう状況だって?

 それはユーアの可愛いお腹の虫が「きゅう」と
 鳴った時から始まった『お食事会』

 だってよく言うでしょ?

 昨日の敵は今日の友って。


 でもそれぞれにわだかまりは多少は残ってはいるけど
 別に敵同士ってわけではないからね。今は。



※※



「ス、スミカお姉ちゃん、あのボク……」

 そういって恥ずかしそうに私の顔を見る。
 お腹が空いたことよりも、お腹が鳴った事が恥ずかしかったみたいだ。

「それじゃ後は話しながら食事にしようか。まだまだ続きそうだし。それにユーアも足らなかったでしょ。あの量じゃ」

「うん、うんボクもう少し食べたかったかも。でもいいの?」

 と、モジモジしながら赤く頬を染める。

「いいんだよ。ユーアは育ちざかりなんだから遠慮しないでも。それにみんなもきっとそうだからさ。だから準備手伝ってね」

「はいっ!スミカお姉ちゃんっ!」

 ユーアの元気な返事を聞いて私も準備に入る。
 器具も食材も全部持ち歩いてるからね。



※※※※



「…………お前はいつもこんなものを持ち歩いてるのか?」
「えっ?そうだけど。普通じゃない?」

 私は大型コンロと食材を繁々と眺めているアマジにそう答える。

「いいや、これが普通なわけがないだろう。そんな事に容量を使いたくはないからな。貴重なマジックバックの中身を全部食料などと」

「ああ、違う違う。私は魔法使いだから『収納魔法』て奴なんだよ。だからだよ。それに中身に関してはアマジに言われたくないんだけど?武器ばっかだし」

「いや、そう意味で言った訳ではないのだが……まぁいい。お前については深く考えないことにしたからな。それに俺は他にもマジックバックを持っている。武器以外を収納するためにな」

「へぇ~そうなんだ」
「………………」

 そう言ったままアマジは離れようとはしない。
 私はユーアが配膳に言ってるのを確認して。

「で、何か言いたいことあるの?」

 と、黙り込むアマジに声を掛ける。

「あ、ああ、娘の……」
「うん?」
「娘のゴマチの傷を治してくれた事に礼を言う」
「別にいいよ。元々私はあなたたちを仲直りさせたいと思ってたから」
「なっ!それは一体どういう意味だ? それに元々だと?」
「そうだよ。ゴマチの話を聞いて、それでそう決めてたんだよ」
「はっ?何だってそんな何の益もない事を俺たち他人の為にっ!」
「ちょっと、声が大きいんだけど。周りに聞こえるよ?」
「う、すまん……」

 私はヒートアップするアマジを宥めて話を続ける。
 まぁアマジからしたらそう思うよね。

「ユーアと仲良くなったから」
「はぁっ?」

「ユーアはゴマチと仲がいいから。それとゴマチもユーアに憧れてるみたいだったし。だったら二人を何のしがらみもない普通の友達同士にしたいでしょ?そんな話だよ」

「そんな簡単な話か?いくら妹の為だからと言っても、些か度が過ぎているだろう。お前は周りを巻き込み過ぎだろう。ナジメやあの双子姉妹にとってもな」

「何、こんな時にお説教? そもそもあなたたちが仕掛けてこなかったらこんな事にはならなかったでしょ?だからお互い様だよ」

「ぐっ、ぬう。…………確かにそうだな。でもあの子供がお前の妹なのは分かったが随分と過保護過ぎやしないか?友人を与えたり、好きな食べ物を与えたりとかな。姉というよりお前は母親に近いんじゃないのか?」

「ったく。それもあなたに言われたくないな。自分の娘を放置してロアジムに預ける真似をして。それに私は姉でも母親でもどっちでもいいんだよ」

 と、色々と墓穴を掘ったアマジを睨んで返答する。

「どっちでもいい?とは」
 
 そんな私の返答に少し困惑するアマジ。

「言葉の通りで、私が姉でも母親でもどっちでもいいって事なんだよ。ユーアの生き方を守れればそれで構わないって事」

「………………」

「だってどっちかにしかなれないんだったら困るでしょ?ユーアと私は二人だけなんだから。だから姉妹として何かを教えたい時はお姉ちゃんに。ユーアが甘えたい時はお母さんになればいいんだよ」

「………………」

「だから私はどちらかに拘らない。そんな枠組みなんて邪魔なだけだからね」

「………………」

「まぁ、見た目的には私はお姉ちゃんだしユーアもそう呼んでるから、お姉ちゃんでもいいんだけど、でも必要なときはお母さんにチェンジするから。そんなとこだね」

 私は一息つくために果実水で喉を潤す。
 アマジが聞きに入って、何も反論しないから少し話し過ぎたし。

「くくっ…………」
「何? 笑うならそれでいいよ。別に同意しなくったって」

 私は額に手をやり下を向き、肩を震わせるアマジを見てそう口を開く。

 これは私の持論みたいなもの。
 だから納得してもらわなくても全然気にならない。


「くくくっ。悪かった。別に馬鹿にするつもりも否定するつもりもないんだ。ただお前の周りは居心地がいいんだろうなと、ふと思っただけだ」

 と、地面を向いて今度は独り言のように話す。
 
 多分褒めてはいるんだろうけど、何か男らしくない。
 だから私はその先を無理やり聞き出すことにした。

「何が居心地がいいって?」

「だってそうだろう。お前の周りには人が集まってくる。しかもそれぞれが良い目をしている。お前の傍にいる事に何の不安も不満も感じていない、そんな生き生きとした目をしている」

 そう言ってアマジは食事会の準備をしているシスターズたちと、父親のロアジムと娘のゴマチを見渡してぎこちない笑顔を浮かべる。

「………………」
 ふ~ん、そういう顔も出来るんだ。
 どうせならそれは娘に見せてあげればいいのに。

 私はそれを見て、すぐさま背中の羽を動かす。
 アマジに気付かれないように、そぉ~とね。

『………………trois』


「でも、仲間だったらアマジにだっているじゃん。アカアオクロだっけ?」
「違う。アオ、ウオ、バサだ。お前ワザと言ってないか?」
「うーん、そうだっけ? でも仲間でしょ?一応」

 そうアマジにだって数々の戦場を共にした仲間がいる。
 見たところ仲が悪いとか、ブラックな待遇ではなさそうだし。

「……何故途中から確認する聞き方になったかは知らんが……。でもそうだな。仲間だろうなきっと。立場も似てるし、目指したものも一緒だからな」

「やっぱり過去に何かあったって事?」

「いいや違う。あいつらも家督の低い身分なんだ。だから俺と同じように強さで上を目指した。まぁ俺は抜けるようだけどな、恐らくは」

 と、若干肩を落として仲間たちを見る。

「何でやめるの?もしかしてゴマチの為?」

 私は寂しげな眼差しのアマジにそう問いかける。

「ああ、そうだ。ゴマチの元に残る。俺は今まで父親らしいことをあいつにしてやれなかった。それでゴマチが俺を受け入れてくれるかどうかは別だが……。だが俺はあいつらと別れてここに残る。それが俺の役目だからな妻だったイータの為に?…………ん、ゴマチ?」

 そう言ってさっきよりも柔らかい表情を見せるアマジ。
 そしてすぐさまその異常に気付く。

 たった今話した愛娘がいないことに。

「どうしたの?」
「ゴマチがいないんだが、さっきまでそこに……」

「俺はここにいるよ親父」
「なっ?」

 突然に声を掛けられて驚くアマジ。

 私はそれを見てすぐさま透明化の鱗粉を解除する。

 そこに現れたのはもちろん――


「ゴ、ゴマチっ!」

「親父がそれでいいんなら、俺も一緒にいたい。ずっと居なかった分俺に色々聞かせてくれよ。冒険の話とか、お母さんの話とかさ――――」

 と、ゴマチは照れながらもアマジの目を見て話す。
 モジモジと指先をいじりながら、頬も紅潮させながらも。

「お、お前いつの間にっ!」
「う、うん、スミカ姉ちゃんが貴重な物見れるからって、ついさっき……」
「ちょ、蝶の英雄っ!お前は何てことをっ!全部ゴマチに聞かれたぞっ!」

「別にはないでしょ?だってそれが親子なんだから。それにこれからずっと一緒なんでしょ。だったらこの機会にアマジの気持ちを聞かせた方が良いって思ったんだよ。ここを逃すとアマジは言いそうにないしさ」

 「だから感謝しなよね」
 と、ちょっとだけ皮肉を込めて硬直する二人に向けて話す。


「はぁ、何なんだお前は本当に…………だが恩に着る」
「親父?」
「ゴマチもう聞いてはいるが、俺はお前と生きる」
「う、うんっ」

「ぷっ、何それ求婚?重すぎない?」

 私はそれを聞いて思わず口を押える。
 もっと他に言い方あるだろうって。

「ち、違うこれは言葉のあやだっ!本当はもう少し――」

 と顔を赤くして必死に言い訳をするアマジ。

「………………ぷぷっ」
「ゴ、ゴマチ?」
「わはははははははっ!!!!」
「ゴマチっ!?」

 いきなり笑い出したゴマチの姿に驚くアマジ。

「お、親父もそんな顔出来るんだなっ!今まで怖かった顔しか知らなかったっ!だから驚いてさっ!わははははは――――」

 そんなゴマチは全身で笑いながらも、目尻には光るものが見える。

「………………」
「………………」

 確かにゴマチは今までの10年近く、父親の顔をまともに見てはいないんだろう。見たとしてもそれは父親ではないアマジの顔。冒険者を憎むことで強さの糧にしてたそんな鬼のような顔。

 そう小さいゴマチには映っていた。
 それもゴマチの年齢程の長い年月の間。

 ガバッ

「お、親父?」
「………………」


『…………』

 私は娘を抱きしめる父親の姿を見てゆっくりそこから離れる。
 その際に透明化の鱗粉を二人に散布する。

『……どうか二人ともっ!』

 なんて祝辞とも皮肉とも取れる独り言を呟いて。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...