剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

スミカ怒りの鉄球っ!?

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 私の目の前には宙に浮いている一人の男がいる。
 その高さは地上から凡そ15メートル程。

「ぐっ、逃れられんっ!」
「………………」

 その男アマジは空中に足を投げ出されたまま
 両腕の拘束だけで宙に浮いている。

 その姿はまるで――

 公開処刑を待つ磔にされた罪人のようだった。

「………………」

 私はそれをどこか冷めた目で見ていた。

 冷静に確実に罰を与える為、私の心は冷えていた。
 この男を機械的に事務的に分析し処罰する為に。


「ぐっ、くっ、な、何だこの魔法はっ!全力でも全く――」
「………………」

 その咎人は十字架から逃れようと無様に体を揺さぶる。

 ゴッ

「ぐっ!」

 私はそんな身動きの取れない男を殴りつける。

「がっ!」「ごっ!」「がぁっ!」「うっ!」

 思ったより反応の薄い男を続けて殴りつける。

「………………」
 これでもまだ鈍い。

 こいつは泣き叫び、喚き散らし、仲間の前で情けない姿をさらし、己のした事を悔いるのが相応しい。ユーアの前で土下座をし、罪を懺悔するのが至極当然だ。

 私は魔力で防御を上げているであろうその姿に苛立ち、空中にスキルを5機展開し浮遊待機させる。その形状は先ほどアマジを吹き飛ばした球体。

 その大きさは5メートル。重さは1t。

「………………」

 それの1機を身動きの取れない男に向かって発射する。

 ゴオォォ――ッ!

「ガッ、ハァッ!!」

 巨大な球体は寸分たがわずアマジに激突する。
 その大きさ故外す事の方が難しいくらいだ。

 そしてその球体スキルがズルリと剥がれ落ちる。

「う、くっ、くそっ、この拘束さえっ」
「………………」

 アマジは全身にダメージを受けながらもジタバタと体を動かすが、腕を中心にそこから抜け出すことはできない。もし抜けるとしたら両手首が無くなった時だ。

「………………」

 私はそれを見て次弾を発射する。

 ゴオォォ――ッ!

「があぁっ!」

 更にもう1機。
「ごふぁっ!」

 続けて1機。
「う、ぐぁっ!」

「………………」

 そして最後の1機は大きさを倍の10メートルにする。

「なっ!!」

 それは宙に浮く私たちとほぼ同じ高さの球体。

「………………」

 私はそれを躊躇なく発射する。
 動きを封じられ、何の戦闘力を持たない男に向かって。

 ゴオォォ――ッ!

「くっ!」
「なっ!?」

 が、またもやアマジは能力を発動し、その前に小さな少女が現れる。

「お、お前はまたっ!」

 その形はアマジがここに磔にされた発端となったユーアだった。

『でもっ!』

 私はスキルを全て解除して、アマジと共に地上に降りてくる。

「ぐぅっ」

 アマジは全身のダメージの影響か、着地と同時にガクんと崩れ落ちる。
 
「………………」

 私はそれを見てアマジにゆっくり近づいていく。
 知らず知らず拳を強く握り締めながら。

『――色々悔しいかも、私がまだ未熟だった事に……』
 
 ここまでアマジを追い詰めるのに、ことごとく自身の制限を破っている。
 強くなろうとした、自身に課した数々の制約を。

 私は怒りに任せてこの男を追い詰めたかったんじゃない。

『…………』

 強くなるために追い詰めたかった。 
 全てを私に見せそれを吸収する為にそうしたかった。

 なのにユーアを利用されて頭にきた。目的を忘れ心が冷える程に。
 それでもユーアを二度目に出された瞬間、無理やり感情を戻されていた。

 ユーアの存在が、私のあらゆる指針になってるのは承知している。
 ユーアの存在そのものが、私の生きる概念そのものなのも理解している。

 それでも優先するべき事を忘れてはいけなかった。

 今はシスターズのお陰でユーアに危害が及ぶ
 可能性はゼロだったのだから。


『…………これも克服しないと強くなれないならば、それは地獄だよ。だってこれも一種の脊髄反射みたいなもの。ユーアに悪意が向いたら、私が変わってしまうのは。だって脳が信号を送る前に体が動いてしまうんだから……』


※※


「ぐ、ぐぅ、ま、まだだっ」

 アマジは大剣を杖代わりにして立ち上がる。
 その体でこれ以上の戦闘は無理だろう。

 5メートルを超える1tもの衝撃を全身に数度受けたのだから。
 それ以前にも最終戦の最中に何度も攻撃も受けている。

「ねぇ、もう降参しない?」
「くっ」

 私は見るからに満身創痍のアマジに声を掛ける。

 ここから勝負がひっくり返る事は絶対にない。
 それはアマジ本人だってわかっているはずだ。

 私は無傷。
 対してアマジは、体力も体も、きっと魔力も枯渇寸前だろう。

「はぁはぁはぁっ、お、俺はまだ動くっ。片腕も片足も、そして血も足りている。それでも何故俺は負けを認めねばならぬのだっ。はぁはぁ」

「なんで、そこまで――――」

 もうアマジの勝ちはない。
 ここからの逆転劇など存在しない。

 それでもその目は鋭く私を見据えている。
 眼光は失われてない。

「なんでそこまでして戦おうと強くなろうとするの?あなたは十分に強い。それにここで負けて失うものはそこまで価値のあるものでもないでしょ?」

「…………お、お前には分からぬ事だっ」

「…………そう。なら勝利条件に気絶もあったよね?それと戦闘不能になる程のケガだっけか。それと土下座して許しを請うみたいなのだったね」

「だから何だっ。俺はまだお前に負けたつもりも、ましてや頭を下げ許しを請う事なぞ絶対に――――」

「何を勘違いして私の選択肢を勝手に無くすの?他に気絶させるってのもあるでしょ?それは話が出来なくなるから却下だけど」

「だ、だったら何だというのだっ」

「だったら残り一つの『戦闘不能になる程のケガ』てのが残ってるでしょ?それで終わりにするよ。だから覚悟しておいてよね。ギリギリ話せる程度には手加減するから」

 私はそうアマジに告げ、中空にスキルを展開する。
 そしてその影が私たち二人を徐々に覆っていく。

「な、な、なんだとっ!お、お前はそれ程の力をまだっ――」

 その影は私たち二人だけでは留まらず、この広場を覆いながらも更に大きく巨大に膨れ上がっていく。

 そして頭上に浮かんだ広場を照らす陽の光でさえ遮っていく。


「な、何なのよぉっ!あの巨大な物体はっ!」
「あ、あああ、あんなものここに落とされてはっ!」
「俺たちは絶対に助からないっ!」

 それを見て、驚愕の声を上げるこの3人は
 アマジの仲間のバサとアオウオ兄弟。


「ス、スミカちゃんっ!まさかそこまでのものをっ!」
「あ、あああ、まさかあれもスミカ姉ちゃんの魔法っ!」

 アマジ陣営とほぼ同じ反応をしたのは、ロアジムとゴマチ。


「うわぁっ!スミカお姉ちゃんやっぱりすごいっ!」
「あ、あああ、やっぱりスミ姉は魔王の生まれ変わりよっ!」

「ふふ、さすがですねお姉さまはっ!あちらも驚いてるわねっ!」
「あはは、やっぱりお姉ぇは断トツだなっ!それでこそお姉ぇだっ!」

「わははははっ!ね、ねぇねそれはあまりにも派手過ぎではないかっ!孤児院を破壊した魔法よりも大きいのじゃっ!!」

『わう~~~~っ!!』

 そして最後は私の大切な仲間のシスターズのみんな。
 他のメンツと違ってなんだか楽しそうだ。


「それじゃいっくよぉっ!」
「ぐっ、こ、こんなもの一体どうしろとっ!」

 私は腕を下ろしその中空に展開したスキルを地面に向かって操作する。

 この場にいる全員が驚き、声を荒げるその大きさは、

 透明壁スキル9機を使った
 直径150メートル×150メートルの巨大な平面体だった。

 それをこの地上に激突させる。

 アマジの心を戦闘不能にするために。
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