211 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
都市伝説じゃなかったよっ!
しおりを挟む「お前?……らはここで何をしているんだ?」
「うん、誰?」
「………………」
私は森の中から突如現れた男の声に戸惑いながらそちらに注視する。
『………………』
着ているものは皮の胸当てとグローブとグリーブ。
腰にはアイテムポーチらしき物や、手にはナイフを持っている。
年齢は……40代から50代ほどだろうか。
背丈はあるが、どこか頼りなくひょろりとした体形で、口髭はあるがきちんと整えられている。茶色の短髪も丁寧にまとめられていて、全体的に気品もあるが、何となく柔らかな雰囲気のある男だった。
ただ私たちを見る眼光は意外にも鋭く感じた。
『……敵意は……ないかな?視線の鋭さは本来の物っぽいしね?』
私は突如森から姿を現した男を見てそう思った。
『で、姿はただの冒険者に見えるんだけど、なんかチグハグのような……』
男の格好は冒険者が好んで着る軽装の装備だ。
ただ容姿もそうだが、年齢も纏う雰囲気もどこか違う。
『冒険者のような荒々しさはない。どっちかというと気品?高貴さ?』
と、私がその違和感に逡巡していると
意外な方向から男に向けて声がかけられる。
「あっ!もしかしてっ!」
「うぬ?お主は何故こんなところに」
「へ?」
それはユーアとナジメの二人だった。
『へ?ユーアとナジメの知り合いって、そもそも二人は殆ど接点なかったよね?ナジメとユーアは一昨日初めて会ったばかりだし……』
私はユーアたちと男を見比べながら疑問に思った。
ナジメとユーアの共通の知り合いなんていつ出来たのだろうと。
『う~ん。なら、たまたまあの男を二人が知り合いだったって事?冒険者らしい風貌だからきっとそうだね。でもまぁ、知り合いでもちょっかい出してこなければいいかな』
ユーアの表情を見る限り、男は今のところ無害に見える。
ナジメも薄っすと笑顔を浮かべているのを見て更に安堵する。
「こんなとこで何をしている?親父よ」
「へっ?」
今度は目の前のアマジからそんな言葉が出てきた。
『おやじっ!?』
それってもしかして――――
貴族、さま。ってやつ?
「おじちゃんっ!ここでお仕事してるのっ?」
と、続いてユーアも話しかける。
『へっ?仕事って冒険者?ってそれよりも……』
「おおっ! やっぱりユーアちゃんかい?おじちゃんユーアちゃんに教えてもらったところで依頼を受けてるんだよ!」
「そうなんだっ!おじちゃんお仕事達成できるといいねっ!」
「おうっ!おじちゃん頑張っちゃうよっ!!」
「おっ――――!?」
『じ……ちゃん……てっ――――えええええええっ!!!!!』
お、おじちゃんってあのおじちゃんだよねっ!?
ユーアのストー○ー?じゃなくてファンの謎のおじちゃんだよねっ??
いつもユーアが話してるけど一度も姿を見たことなかった
正体不明、神出鬼没の謎のおじちゃんだよねっ!!
そ、存在したんだっ!
もう都市伝説かと思ってたよっ!!
「ユ、ユーア、この人がいつも言ってたおじ――――」
「ロアジムよ、お主ユーアとも知り合いじゃったのか?」
と私が言い終わる前にナジメが男にそう声をかける。
『んんんっ!ロアジムっ!?ってやっぱり?』
「おう、ナジメかっ!ユーアちゃんには以前に色々教えてもらったのだよ。採取のいい場所とか目利きとか色々教わった事があるのだよ。それにしても――――」
そう言葉を止めてロアジムは私たちを見渡し
最後にアマジで視線を止め再度口を開く。
「――にしても中々珍しい組み合わせだな、アマジよ。と言うか可愛い孫娘のゴマチはいいとして、お前は何か訳アリだよな?お前たちが冒険者さんたちと一緒にいるなんて普通ならありえないからな」
「ふん、それはこちらの勝手だろう。それに俺だって気まぐれで冒険者の相手ぐらいするさ。それが今回可愛い娘が関わっていれば、そうおかしな事でもないだろう」
「はん、何を今更白々しい事を。お前は一人娘を放っておいて嫡男でない事をいいことに、いや違うな。嫡男でないからこそ好き勝手しておるのだろう?つまらんプライドの為にな」
「はっ、それは親父の勝手な――――」
「ちょっと待って」
私は二人の話に割って入る。
この流れだとこの戦いがうやむやになる恐れもあるし、ゴマチに聞かせられない話に発展する可能性もある。なので一度二人の話を寸断した。
「……なんだ?蝶の英雄」
「お、あんたはユーアちゃんのお姉ちゃん兼、保護者のスミカちゃんだなっ!いやぁっ!あなたの事はユーアちゃんから聞いているし、ワシも昨日の試合を見てたんだよっ!」
ロアジムはアマジとの会話とは打って変わって、妙にほころんだ顔で私に向かって歩いてくる。
ユーアと話してた顔はもっとだらしな、じゃなくて緩んでいたけど。
「えーとそれでなんだけど――――」
「いや~スミカちゃんはナジメに勝つなんて凄いなっ!さすがユーアちゃんのお姉ちゃんだよっ!それとそこの姉妹も負けはしたが素晴らしかったぞっ!」
「は、はい、ありがとうございますっ」
「うん、うんっ!」
突然話を振られてきょどるナゴタとゴナタ。
珍しくナゴタも面食らっていた。
ゴナタはいつもと一緒で姉に頼るつもりだろう。
「それとそこの赤い少女も強いのだろう?ユーアちゃんが教えてくれたぞっ!しかも特殊な魔法使いだとなっ!」
「へ?ユーアがアタシの事を……あ、当り前じゃないっ!アタシはユーアのお姉ちゃんなんだからそれ相応の実力を持ってるわよっ!!」
次のラブナはユーアに称賛されてた事を知りいつものポーズに。
初対面の男に褒めれてるのにまんざらでもない様子だった。
『く、嬉々としてシスターズを褒め讃えるこの貴族男に口を挟めないっ!』
そ、それにしてもこの男はどこまで――
「ワシはもうバタフライシスターズの大ファンだよっ!今日一同揃ってここで会えたのは何かの縁。ワシにも冒険者の話を聞かせてくれなのだよ。特に魔法関係の話を所望するっ!」
『――冒険者の事が好きなのだろう……』
確かにナジメからも聞いてはいたがここまで冒険者、更に命を救われた魔法使いの冒険者が好きなんだろう。いや執着しすぎている。
「いや~っ!スミカちゃんも近くで見ると美人さんだなっ!ユーアちゃんが褒めちぎってたけど、顔だちも立ち姿も気品があって美人ちゃんだよなっ!その成人でもなだらかな胸だってユーアちゃんが憧れてたぞ?どうせ大人になるんだったらスミカお姉ちゃんみたいなのがいいってなっ!」
私の目の前まで来たロアジムは、満面の笑顔でそう言った。
ほぼ初対面の乙女に
な、なだらかだとぉっ!
「まあ、ねっ」
『な、なんだユーアもああ見えて自分の体の事を気にしてたの? でも私のスタイルに憧れるって事は私がいいお姉ちゃんだから真似したいって事だよねっ!!』
私は怒りを忘れて、内心ニヤニヤしながらロアジムの話を聞いていた。
そ、そうなんだユーアがねぇ?
「でな、わしとユーアちゃんはな――――」
「うん、それでそれで?」
「あそこでユーアちゃんに会えなかったら、わしは――――」
「ああ、そこはユーアらしいねっ」
私は何故かロアジムから聞くユーアの話に夢中になりつつあった。
…………あれ?
私ここに何しに来たんだっけ?
ロアジムとユーア談義を楽しむ為じゃないよね?
アマジたちと戦いに来たんだよね?
それで色々と解決しようと……
『な、なんて恐ろしい男だっ!いつの間にか私が目的を忘れるように誘導されるなんて……しかも私の可愛いユーアの話題で釣ろうなどと……』
笑顔でユーアの事を話すロアジムを見て背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
まぁ、装備のお陰で実際は快適なままだけどね……。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる