剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
203 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

もしやの苦戦?妹のゴナタ

しおりを挟む

※今回はゴナタ視点になります。
 
 2戦目の「アオとウオ」との対戦直前のお話です。


『凄いっ!もう、どっちが兄貴で弟かなんて分からないやっ!』

 二人が一度重なって、また二人に別れた双子を見てそう思う。
 持ってる武器も、構えの角度も姿勢も全てが同一だった。

 そこまでお互いに同調する技能に、感動を通り超え畏敬さえ覚える。
 ここに至るまでにどれ程の時間と修錬を繰り返してきたのだろうと。
 もしかしたらこの世界でも最高峰の技能かもしれない。

 ただ、ワタシがそれを目の当たりにして思う事は

『どちらが兄のアオでも弟のウオでも正直どうでもいいやっ!』

 だった。

 多分この双子は仕草も癖も声も、技だってきっと同じなんだろう?
 なら単純に二人に増えただけ。同じ能力や技が二つになっただけ。
 種類が増えた訳じゃない。

『って事は、どちらかが使った技はもう一人も使えるんだよなっ!一人のネタがバレたら必然的にもう一人もバレるんだよなっ!それなら――――』

 全然凄くないじゃんっ!
 それならワタシたち姉妹の方がもっと――

「ゴナちゃんっ!気配もそうだけど他にも警戒してね。私たちみたいな特殊能力の保持者かもしれないからっ!」
「わかったよっ!ナゴ姉ちゃんっ!」

 ナゴ姉ちゃんの言葉に返答しながら、武器を持つ手に力を入れる。

「「シュッ!」」
「っと!?」

 ガガガガッ

「ぐっ!」

 二人はナゴ姉ちゃんに見向きもしないで、ワタシ一人に攻撃を仕掛けてきた。
 その4つの剣戟をハンマーで受け止める。

「ぐ、強いっ!」
 二人の双剣での攻撃はかなりの速さと重さだった。

 ワタシは押し返そうとグッと力を込めるが、

「うん?」
 途端、手にかかる負荷が少しだけ弱くなる。
 ナゴ姉ちゃんを見ると、双子のどちらかと相対していた。

「……そういう事、か。ならっ!」
「ぬっ!」

 ガギィンッ!
 スタタッ―――

 ワタシはハンマーで双剣を弾き返し、森を目指し疾走する。

『こいつらはワタシを最初に狙ってきたんだよな』

 それはこの中で一番倒し易いと考えての事だろう。
 この戦場の中で一番鈍足で狙いやすいワタシを。

『なら、ナゴ姉ちゃんがもう一人を抑えてる間に、ワタシはもう一人を引き離す。これならコンビ技なんか関係ないからなっ!』

 スタタタッ――

 ワタシは森を目指しながらそう思考を巡らす。
 それが今の最善だと思って。
 わざわざ相手が得意な舞台で戦う必要なんてないからな。

「よし、やるかっ!」

 ザッ

 ワタシは後ろに振り向きハンマーを胸の前で構える。

「――お前は確か妹の方だな」

 直ぐに切り掛かってくるかと身構えていたが
 意外にも向こうから、そう声を掛けてきた。

「……お前はどっちなんだい?」
「俺はアオだ。ウオの兄のな」
「ふ~ん、そうなんだ。あ、ワタシは――」
「いやいい。今のやり取りで妹の方だと確信した」
「ん?だから妹のワタシを最初に狙ったんだろう?遅いから」

 この機に、ワタシが予想していたことを聞いてみる。

「ああ、そうだ。だがお前の能力は剛腕の類だろう?」
「そうだけど。何でそんなこと聞くのさ」
「いや、必死に森に逃げるお前が予想以上に素早かったからな」
「それで?ってか、ワタシ逃げてたんじゃないぞっ!」
「誘いこまれたのはわかっている。ただ速さに驚いただけだ」
「まぁ、たくさん鍛えてきたからなっ!」
「ふん、そうらしいな。だが――」
「んっ!?」

 そう言い終えた男の雰囲気が変わる。
 どうやらもう無駄話は終わりみたいだ。

「――だがそれでも俺たちには及ばないがなっ!」
「うわっ!」
 
 アオは即座間合いを詰め切り掛かってくる。

「早いなっ!」

 ワタシは向かって来るアオにハンマーを振り下ろす。
 そのワタシの攻撃は、

 ドゴォッ!と何もない地面を打ち付ける。

「っいない?って、横ぉっ!」

 ワタシはそのままハンマーを横薙ぎに振るう。
 アオはハンマーを脇に躱してやり過ごしていたからだ。

 ブウォンッ!

 が、再度振るったハンマーはまたもやアオを捉えられず空振りに終わる。

 アオはそれさえも、後ろに短くステップして難なく躱していた。
 そして双剣を前面で構え、ワタシとの距離を一瞬で詰めてくる。

「は、はやっ!でもっ!」
 ブンッ!

 ワタシは即座にハンマーを戻し目前のアオに振り下ろす。
 これ以上ない程のタイミングのはず。

「今度こそ当たった――!」

 振るったワタシのハンマーはアオの額に直撃し

 スカッ

 と、そのまますり抜ける。

「えっ?って気配だけっ!?なら」

 ワタシは体を捻り後方にハンマーを振り回す。
 目の前の姿が偽物なら、後方からくるに違いないと思ったからだ。

 そんなワタシの予想は……

 ガッ

 確かに的中してはいたが、ハンマーでの一撃はアオの双剣一本で防がれていた。

「はぁっ!?ワタシの一撃を簡単に防いだのかいっ!」
「軽いな」

 ガゴォ――ンッ!!

「なぁっ!って体がっ!?」

 受け止められた事に唖然とするワタシのハンマーは、
 アオのもう1本の剣で大きく弾かれる。
 その威力は体ごと浮かされる程の力だった。

 ワタシは態勢を崩しながらハンマーを手元に引き寄せる。

 アオは踏み込みや体捌きの速さだけじゃなく

「その腕力もお前の能力ってわけだ」
 そう。この男は速さと腕力の両方を底上げしている。

「ああ、そうだ。俺たちは、魔力を使って脚力と腕力を上昇できる。どちらか一方しかできない、お前たち出来損ないの双子と違ってな」

「俺たち?って事は弟も同じことできるんだ」
「そうだ。俺を映す鏡はウオだ。ウオが俺でアオも俺だ」
「ふ~ん、それって二人でも一人みたいだね?」
「…………どういう意味だ?単純に言葉通りの意味ではないだろう?」

 アオはワタシの言葉に訝し気な視線を向ける。

 やっぱり同じ双子でも違うんだなぁ。
 どれが正しいって正解はないけどさぁ。

 でもそれって

「そんなつまんない生き方してるお前たち双子には分からないよっ!出来損ないでもワタシたちの方が楽しいし、毎日充実してるよっ!」

「な、なんだと貴様っ!」

 ワタシはそう言い放ち、森の外に向かって駆けていく。
 後ろからアオの怒鳴り声が聞こえたけど無視して広場に向かう。

「逃げても無駄だっ!お前の半端な能力では俺からは逃れられないっ!」
「あら、そうなの?」

 シュ― ン

 は能力を使いアオから一気に距離を離す。

「なっ!お前っ!!く、速いっ!?」

 アオも魔力で脚力を底上げしているようだが、到底私には追い付けない。
 出来損ないとはいったい誰の事だったのだろう。

 私は瞬く間に木々が茂る森を抜け、広場に到着する。

 そこには――

「ゴナちゃんっ!これ使ってっ!!」

 ブゥンッ!

 私は持っているハンマーを妹のゴナタに放り投げる。

 パシッ!

「ありがとうっ!ナゴ姉ちゃんっ!」

 そこには、ゴナタを前にし驚愕の表情のウオがいた。

 どうやら私の双子の妹も、同じ双子の片割れに
 一泡吹かせたようだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...