剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

涙目幼女と対戦相手

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「一番手はわしじゃっ!誰でもかかってこいなのじゃっ!何なら4人一度でも一向に構わぬぞっ!」


 と、小さな体に見合わぬ大声で、アマジたち4人に啖呵を切るナジメがそこにいた。その立ち姿は胸の前で腕を組み、両足を広げ「ふんっ」と鼻息荒くふんぞり返っている。旧スク水姿で。

 何やら随分と気合が入っているようだったが、

「ちょっと待ってナジメ。そう言えばルールとか細かい事聞いてないよっ!」

 私はふと思い出し広場中央で、ふんぞり返るナジメに大声を上げる。

「んなっ!ねぇね、そんな必要ないのじゃ、わ、わしが一網打尽にっ!」
「いやいや、ダメでしょ。勝敗の条件聞いてから出ないと」
「うむむぅ。ならわしはここで説明を聞くのじゃ。戻りたくないのじゃ」
「ごめん、私が行って来いって言ったからだよね?うっかりしてたよ」
「い、いや、わしも逸り過ぎたとも思っとるし、気にせずともよいのじゃ」
「それじゃ今聞くからそこで待ってて」
「わかったのじゃ」

 と誰もいない広場の中央でしゃがみ込み、何やら地面に描き始めた。
 またお世辞にも上手とは言えないお絵かきだろうか?

「っていう事だから、早くルールとか教えてよ。ナジメが待ってるから」

 と、何やら険しい顔のアマジたちに声を掛ける。

「「キ、キサマいい加減にッ!!」」

「……まぁいい。それでルールだったな」

 それを聞いて、取り巻きの3人はいきり立っていたが、アマジはそれを気にすることなく私の質問に答えていく。

「武器は模擬戦用のを適当に見繕ってきたから好きに使え。それと勝敗のルールは簡単だ。相手が気を失うか、戦闘不能なケガをした時。それと――――」

 そこで一旦言葉を止めるアマジ。

「?」

 そして私の目を見て、

「それと―――― 地べたに頭を付けて相手に許しを請うかだ!」

 と挑戦的な、いや、挑発的な笑みでそう言い放った。

「ふーん、よっぽど私に頭を下げさせたいんだね?」
「まぁ、な。 お前が英雄で女の冒険者なら尚更だ」
「…………わかった。ナジメっ!ちゃんと聞いてたぁっ!」

 ルールを聞き終わった私は、まだしゃがみ込んで
 何かを描いているナジメに声を掛ける。

 何かずっと集中してたけど、きちんと聞いていたのだろうか?


「うむ、ちゃんと聞こえておったぞっ!心配するな、ねぇねっ!」
「それじゃよろしくねナジメっ!それとあまり大ケガさせないでね!」

 顔を上げてそう返事が返ってきたので問題ないだろう。
 そのついでにナジメに応援のエールを送る。

「わかったのじゃ。でも保証は出来ないのじゃ、何やらあまり手加減が出来る相手じゃなさそうだしのぅ」

 と、ナジメに向かって歩いて行く一人の男を見て、そう返してくる。
 その声質は少しだけ低かった事から、警戒をしているのだと分かる。


「……うん、わかった。それならケガしないよう……に、はないか。それじゃ………………頑張ってねっ!」

 戦うナジメに気の利いた事を言いたかったが、相手がケガすることはあっても、ナジメはその能力故にケガなんて負いそうにない。なので私は当たり障りにない声援を送った。

「うぬ。わしに任せておくのじゃっ!ねぇねたちは大船に乗ったつもりでいるのじゃっ!それと今日は新技を披露するのじゃっ!」

「………………」

 私たちを見て、ナジメがそう声を張り上げる中、その対戦相手は無言だった。

 それに不気味さを感じながら、私はユーアたちの集まる場所まで駆けていく。

「ねぇスミカお姉ちゃん、ナジメちゃんは大丈夫だよねっ?」

 ユーアたちの前に着く早々、ユーアが心配そうに聞いてくる。

「そう、だね。ナジメは絶対に大丈夫だよ。ユーアもナジメが強いの知ってるでしょ?だからきっと勝って戻ってくるから安心しなよっ」

 私はそんなユーアを撫でながらそう答える。
 少しだけ気になることがあるけど、それは些細な事だし。

「そうですよユーアちゃん。相手の能力は不明ですが、ナジメはお姉さま相手にも善戦した強さなのですよ?」

「心配するなユーアちゃんっ!ナジメは見た目幼女でも中身は100歳超えてるからなっ!それこそだっ!!」

「そうよユーア、ナジメはこの中で一番小っちゃくて、一番ドジっ子で、一番世話がかかって、領主の仕事も満足に出来なかったけど、一番の年寄りなのよっ!!」

『わうっ!!』

 私に続いてシスターズたちもナジメの強さを信じ、それぞれに盛り上がる。
 それを聞いて、ナジメの戦闘力には何の不安もないようだと分かる。

 だけど実際にナジメを立てていたのは、私とナゴタだけのような……

『ゴ、ゴナタの百錬磨って何?百戦でしょ? それにラブナは褒めてる様で、何気に貶してる言葉ばっかりだよねっ!?応援も何も無いよね!?』

 私はちょっとだけ背中を丸めて、こっちを見ているナジメと目が合う。

「………………ぅぅ」
「………………」
 何か言いたそうにしている。 気がする……

『ナ、ナジメ?……』

 私と目が合ったその目はわずかに潤んでいた。
 きっとラブナの声が聞こえたんだろう。

 どうやら体は鉄より頑丈でも、心は薄氷のようにもろかった。


「俺たちの1戦目の代表は、今ナジメと向かい合ってる男だ。お前の所はナジメでいいのだろう?ならさっさと始めるぞ」

 そんな傷心気味のナジメを他所に、アマジが先を進める。
 うる目のナジメに全く興味がないようだった。
 幼女が泣きそうなのに。


「よ、よし、わしはもう大丈夫じゃ。それでお主、名は何と言う?」
「…………………」

 ナジメは軽く目元を拭いながらスクっと立ち、目の前の男に問いかける。
 どうやら泣きそうではなく、既に泣いた後だった。ちょっとだけ。

「あ、わしが先に名乗らねば失礼じゃな。わしはナジメじゃ。で、お主は?」

 返事がない男にナジメは再度問いかける。

「………………よ」
「なぬ?良く聞こえぬぞ?何と言った?」
「………………」
「はぁ、お主は男じゃろ?もう少しハッキリと言わぬと女子も口説けぬぞ?」
「………………」
「どうした、名も名乗れぬほどの無作法者がアマジとおるのか?」
「っ!?」
「わかった、ならお主のリーダーに一言言っておくのじゃ」
「ぁっ」

 返事のない男に業を煮やしたナジメは「ニヤァ」とアマジの方を向き、

「アマジよ。お主のメンバーは名も名乗れぬ無礼者じゃ。そんな者をおいておるお主もタカが知れ――」

「い、いちいちうっさいわねお前はオレの母ちゃんかよっ!名前はバサよっ!これで文句ないでしょうっ?」

 ナジメがアマジに言い終わる前に、目の前の男から甲高い声が聞こえた。

「な、なによっ!」

 甲高いというか、どっちかというと……

「お、お主、女の子じゃったのか?そんな無精ひげや、立派な体格なのに?」

 そう、そんな感じ。

「お、女じゃないわよっ!別に何だっていいじゃないっ!」
「う、うむ、確かにどうでもいいが、ただびっくりしただけじゃ」
「ならそれでいいじゃないっ!」
「う、うむ、お主はそれが地声でいいのじゃよな?」
「わ、悪いっ?だから今まで喋らなかったのよっ!舐められるし!」
「い、いや、わしはそんな風に思っていないのじゃっ!」


 ナジメは予想外の男の女児声とお姉言葉に、何やら驚いてる様子だった。

 私はそれを見て「あっ」と手を鳴らす。

『だ、だからあの男だけ、今まで何もしゃべらなかったんだっ!気になる事ってこれだったんだ。何か違和感があったんだよねっ?』

 アマジの取り巻きと出会ってから、今まで一人だけ言葉を発してなかった。
 
 悪役部下テンプレセリフの「キサマッ!」にも加わってなかった。
 ただ怒りを表すような時の動きはあったけど。

「まぁ、ただそれだけなんだけどね。でもスッキリしたかも」

 私は一人「うんうん」と納得して小さく頷く。

「どうしたんですか?スミカお姉ちゃん」

 そんな私にユーアが気付き声を掛けて来る。

「何でもないよユーア。ただ胸のつかえが取れただけだから」

「そうなの?」
 と首を横に傾げながら不思議そうに私を見ていた。

「そう、だから今はナジメの応援に集中しようか」
「はい、スミカお姉ちゃん!」

 私はユーアを撫でながら広場に視線を戻す。

 そこには、

「んなっ!お、お主いったい何人おるのじゃっ!?」

 目を見開きバサを凝視し、そして声を上げ驚愕するナジメがいた。

 そんなナジメはバサと呼ばれる目の前の男1人を視界に収めている。

 その男は模擬戦用の大剣を両手で構え、ナジメに鋭い視線を向けている。
 もちろん、その数は1人だ。

 ナジメの言う、何人とはいったい?
 そしてナジメの目には何が映っているのだろうか?

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