剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
190 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

お留守番組の少女と幼女たち

しおりを挟む

※この物語は作者の創作の世界になります。
 他の作品の設定や、現実の倫理観とは
 異なる場合がありますので予めご了承ください。




 澄香たちがゴマチの父親アマジと邂逅している一方。

 レストエリアではこの騒動の渦中の人物

 ゴマチが目を覚ましていた。


「う~ん、あれ?俺はまた何で……」

「あ、ゴマチちゃん目が覚めたんだねっ!大丈夫?」
「おお、ゴマチっ!わしを覚えておるか?ナジメじゃ。お主大丈夫か?」
「あんた何でユーアを襲ったのよっ!ユーアがいくら大丈夫だって言っても信じられないわっ!ねえ?どうなのっ!!それと体はっ?」

 ゴマチは起き上がりキョロキョロを周りを見回す。

 そんなゴマチに、ユーアとナジメとラブナは一様に声を掛ける。

 ユーアは体への心配を、ナジメは自身の状況確認を、ラブナはユーアを襲った件での憤りを、それぞれをゴマチにぶつけていた。

 各々の気持ちはそれぞれ違ってはいたが、

 ゴマチへの気遣いは一緒だった。

 それはユーアから、ゴマチが再度気を失った事を聞いたのと。
 それとゴマチの境遇と、ユーアがゴマチに対して何も危惧していない事が誘因となっていた。


「へ?あ、な、何でナジメ?それとお前は…………だ、誰だっ!?」

 ゴマチは最初にユーアそしてナジメを視界に入れ、最後のラブナで視線を停止する。その目は驚きよりも怯える目に近かったが。

 だってそれはそうだろう。

 ユーアとナジメはゴマチに寄り添うようにしているのに対して、

「ワタシの事はどうだっていいのよっ!それよりも質問に答えなさいよっ!」

 と、ビッと指を突き付けての、いつもの仁王立ちスタイルであったからだ。

「な、何だいきなりお前はっ!!」

「何だ、じゃないわよっ!さっさと質問に答えなさいっ!じゃないとワタシの魔法が炸裂するわよっ!そのキレイな顔が焼け焦げるわよっ!」

 そんなゴマチに怒りを露わにするラブナ。

「ちょ、ちょっとラブナちゃん止めてよぉっ!」

「ラブナ、ユーアが大丈夫じゃと言っておったろう?だから矛を収めるのじゃ。色々聞きたい事があるのじゃからな」

「ふんっ わかったわよっ!」

 ユーアとナジメの制止の声でラブナは表情を崩したが、それでもゴマチを見る視線は鋭かった。ユーアの言うことを信じてはいたが、それと感情は別だった。


「ま、魔法? 赤い姉ちゃんは魔法を使えるのかっ!?」

 怯えの表情から一転、ゴマチはラブナの「ワタシの魔法発言」に興味を示す。

「わ、悪いっ?それと赤い姉ちゃんって何よっ!」
「だって、コートも髪も赤いだろ?それよりも魔法の事だよっ!」
「ワ、ワタシは魔法使いなのよっ!ってそれよりあんた―――」
「って事は赤い姉ちゃんも――――」
「わ、わかったからいちいち近いのよっ!もっと離れなさいよっ!」
「ぼ、冒険者なのか?ユーアやナジメと一緒の!」
「そ、そうよっ!まだなり立てだけどっ!!ってそれよりいい加減――」

 何故か立場が逆転してしまい、グイグイと迫るゴマチに困惑するラブナ。

「ラブナちゃんもう仲良くなったんだねっ!」
「うむ。うむ」

 どうやらナジメの情報通りに、ゴマチは冒険者に憧れてるみたいだ。

「ち、違うわよユーアこの子が勝手にっ!ワタシはユーアとスミ姉ぇを」
「赤い姉ちゃんっ!魔法見せてくれよっ!お願いだよっ!!」

 それも魔法使いに対して、非常に興味があるようだった。



※※※※


「なるほどのぉ。お主の祖父のロアジムを救った冒険者が、凄腕の魔法使いじゃったと。しかもお主ぐらいの年齢か、若しくは更に幼い少女じゃったとは。ふむぅ。いや、でも、しかし――」

 ゴマチの話を聞き終えたナジメが、胸の前で腕を組み何やら唸っている。
 
「ナジメはその魔法使いの冒険者知ってるの?Aランクらしいけど」

 それを見てラブナがナジメに声を掛ける。

「そうじゃな。直接会ったことはないが、Aランクの幼い魔法使いがいるとは聞いておる。しかしそれを知ったのはここ数年じゃぞ?恐らくロアジムの話は十数年は前の話じゃ。じゃからわしが思いついた冒険者とは別人じゃな。とうに成人しておるじゃろうし」

「ふーんそうなんだ。それじゃ別人じゃない?」

 それに対し、ラブナはさほど興味がなさそうに答える。
 何となく、会話の流れの成り行きで聞いただけのようだった。

「まぁ、確実にそうじゃろうな。それよりも今は――」
「そうね、そんな事は今はどうでもいいでしょ。それよりも――」
 
 そんなラブナの返しにナジメも特に気にすることなく、二人の視線は小さい少女二人に向けられる。それはもちろん……

「それじゃゴマチちゃんも冒険者になりたいんだっ!」
「うん、そうなんだよっ!でも親父がうるさいんだよっ!俺の事興味ないくせにそれだけは口出ししてくるんだよっ!」
「お父さんが、何で?」
「それは多分、死んだ母ちゃんが関係してるんだと思う。親父はハッキリ言わないけど……。じゃなきゃあんな――――」

 そう言いゴマチはそっぽを向き小さな拳を強く握る。

 それを見れば、両親、そして冒険者に対しても何か思うところがあると分かる。拳だけじゃなく、口元にも小さな肩にも力が入っているからだ。

「ゴマチちゃん……」

「それよりもお主。反省が足らんのじゃないか?」
「そうよっ!ゴマチだっけ?ユーアにもっと謝んなさいよねっ!」

 そんな心配をするユーアを他所に声を荒げる、見た目幼女と赤い少女。

「う、それは……ごめん……なさい……うううっ」

「そんなんじゃ足りないわっ!全裸で土下座くらいしなさいよねっ!それでチャラにしてあげるわっ!!」

「は、裸で、土下座だってっ!?俺がか?」

「それぐらい当たり前じゃないっ!ワタシのユーアを危険な目に合わせたんだから。それにスミ姉もそう言ってたわよねっ?ユーア!」

「うっ、あの蝶の姉ちゃんが……ぐ、うううっ、な、なら」

 ラブナに煽られたゴマチは、それを聞いてパジャマの裾を捲り上げる。
 白いお腹と小さなおへそがチラリと見える。

「ラブナちゃんっ!スミカお姉ちゃんはそんな事言わないよぉっ!だからもう止めなよぉっ!仲良くしてよさっきみたいにっ!」

「そうじゃぞラブナ。ねぇねが留守なのとゴマチが気を失ってたのを良い事に、適当な事を言うでない。それにねぇねの話じゃと、襲った男たちはユーアを連れさらうだけの依頼だったではないか。それもゴマチの話とも一致しておる」

「でもそれじゃワタシの気が晴れ――――」

「じゃから危険だったとしても、ユーアがゴマチの話し相手になるだけの事だったのじゃ。やり方は不器用を通り越して、強引過ぎる気もするがのう」

「わ、わかったわよっ!今のはワタシの気が済まなかっただけの事なのよっ!だ、だからユーアもそんな目でワタシを見ないでよぉ!」

 被害者のユーア当人とナジメにも言われたラブナは、ユーアの頬が「ぷくぅ」と膨らんでいる事に気付き慌てる。それは珍しくボクっ娘が怒っているからだった。



※※※


 何のことはない。

 この俺っ娘少女は冒険者のユーアと仲良くしたかっただけだった。
 大好きな祖父からユーアの話を聞いて。

 その激しい性格故、近い年頃の子供も、ましてや友人と呼べる者もいなかったこの少女は、友達になる方法など知らなかった。

 この騒動の発端は、そんなコミュ章の少女から始まった出来事だった。

 ただその火種が大きくなっている事に、この4人はまだ知らなかった。

「ただいま。ユーア。あれ?ゴマチ起きたんだ」
「お邪魔しますユーアちゃん。それとゴマチさん?」
「こんばんはだなっ!ユーアちゃん。それとゴマチっ?」


 そして戻って来た澄香たちの話を聞いた4人は炎上した事の大きさに驚くのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...