剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
189 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

挑発VS蝶発

しおりを挟む

※この物語は作者の創作の世界になります。

 他の作品の設定や、現実の倫理観とは
 異なる場合がありますので予めご了承ください。




「――――お前の娘は私が預かっている。返して欲しけりゃ冒険者を罵った事の謝罪。それとナゴタとゴナタには土下座。そして私の妹のユーアには泣いて詫びろ」

「「キサマッ!!!!」」

「お姉さまっ!」
「お姉ぇっ!」

 私がアマジを睨みそう告げると、アマジの取り巻きの男たちが即座に動き出す。
 武器は手にしてないが一斉に拳を上げて向かってくる。

 それを見て、後ろのナゴタたちがすぐさま身構える。

 ところが、

「ククッ、お前ら止めろ」
「っ!?アマジさん?」

「………………」

 アマジの制止の言葉に、取り巻き3人の動きが止まる。

「で、ですが、この者が言ったことが事実だとしても、しかも我々の事を――」

「ククッ、それでも今はいい。それに娘が大人しくしてくれるんだったら逆に好都合だ。あの跳ねっ返りが英雄さまのところにいるのであればな」

「……わかりました。アマジさんがそうおっしゃるなら」

 アマジは皮肉げに私に視線を向け、一人納得できない男を諫める。

「で、結局あなたたちは謝罪してくれるの?どうなの?」

 私は取り巻き3人が落ち着いたのを見計らってアマジに声を掛ける。

「クククッ。お前は気に食わないが中々に面白い。そんなお前を俺の前に跪かせたくなった。お前が俺にして欲しいようにな。それに娘は無事なんだろう?今更だが」

「無事も何も、お風呂に入れて今は寝てるよ。だから何?」

「風呂に?まぁいい。それじゃ明日、日の出から数刻のうちに娘を連れて、街の東の森に来い。そこは今俺たちが使っている人気のない森だ」

「何でわざわざ森に行かなきゃならないの?私に何の利点があるの」

「お前は俺に頭を下げて欲しいんだろう?だったらそこでお互いの主張を通そうじゃないか。あと腐れなく、お互いの実力でなっ!」

 そう言い、アマジは私を試すように「ニヤッ」と口角を上げる。

「………………」

 安い挑発だった。
 たがそれは――――

「うん、別にそれでいいよ。私もあなた達を気に食わないし、戦いで解決するんだったらこっちもスッキリするし。でもそう言いながら、負けたらお家の権力とかでうやむやにするんじゃないの?それか街から追い出すとか」

 ――――私が望む展開だ。

「まるで最初から勝つつもりでいる口ぶりだな、まぁいい。それなら立会人でここの領主を連れて来よう。それならお前たち寄りで文句もないだろう?」

「え、ナジメ?……だったら私から伝えておくよ。知り合いだし、ちょうど家にいるからさ。あ、それとどうやって勝敗決めるの?」

「ナジメと? そうだな。こっちはオレを含めて4人だ。お前たちは好きに集めればいいだろう。一先ずはそこの双子とお前で3人か。なら適当に見繕うか、こっちも3人に合わせてやろう」

 アマジはこちらの了承も得ず、チーム戦などと決めて来る。
 これはさすがに姉妹の二人にも確認しないとダメだ。

「ナゴタとゴナタ。そう言う訳なんだけど、どうする?なんなら私一人……」
「全く問題ありません。寧ろ望むところですっ」
「問題ないっ!」

 姉妹の二人は私が言い終わる前に即答する。
 どうやら二人も何かと思うところがあるのだろう。

 まぁ、私も二人に負けないぐらいの気持ちだけど。

「なら、後はどうするんだ?」

「う~ん、なら立会人のナジメでもいい? 一応暫定的に私のパーティーメンバーなんだけど。領主の立場上ダメなら3人でもいいよ」

 と、試しにナジメの名前を出して様子を伺う。
 私の予想だと、

「ナジメの立場に関しては問題ない。表面上はただの合同訓練か模擬戦にでもしておく」

「…………いいの?ナジメは元Aランクだよ?強いよ?舐めてない?」

 私は若干の煽りを入れて聞いてみる。
 これも私の考えだと、

「構わん。それにランクなんてたかが冒険者の指標だろう?そんな物に俺は何も感じないし、興味もない。だから好きにしろ」

 と、アマジは心底どうでもいいような感じで、吐き捨てるように即答する。

「……わかった。ならそれでこっちもいいよ。でも4体4で勝敗はどうするの?」

 アマジが私の要求を受け入れた事に内心ほくそ笑みながら、ふと疑問に思った事を聞いてみる。これだと引き分けになる可能性があるからだ。

 実際は全勝するつもりだから、私は関係ないけど一応ね。

「なら、双子と2人で1試合。それとナジメとお前一人ずつなら、合計3試合で問題ないだろう」

「ああ、なるほど。で、私たちが先に2勝したらそれで終わり?」

 私は薄く笑みを浮かべて、挑発的に聞いてみる。

「いや、最後までやるつもりだ。俺はお前のその余裕の顔を、屈辱に歪め頭を下げるのを見たいからな。それに俺たちは全勝してさっさと終わらせるつもりだ」

 アマジは私の挑発に被せてそう言い放つ。

「後それと武器は?自分たちの使うの?」

「建前上は訓練だからな。もしも死人が出ては大げさになる。ならこちらでいくつか見繕ろおう。剣、槍、槌、など刃が潰してあるのを適当にな」

「あ、私は魔法使い( 一応 )だからいいよ。それとナジメも」

 私は軽く手を上げてアマジにそう伝える。
 それで魔法がOKかどうかもわかるからだ。

「好きにすればいいだろう。魔法でも特殊能力でもなんでもな」

「ふーん、わかったそうするよ」
 
 アマジのこの余裕の様子だと、何かしらの魔法かスキルを使える?
 
『………………』

 よっぽどの馬鹿か、世俗から離れて生活してない限り、普通は元Aランク、そしてBランクの冒険者を前にしてこの落ち着きようはないだろう。

 それに見合った実力か、それに相当する何かを持ってるってわかる。

『……これは意外と――――強い?』

 私は再度、アマジを含めた4人を見てそう思った。
 冒険者のような、荒々しい強さではなく、

 何か洗練されたような得体の知れない力を感じたからだ。



□□□□□□


 
「ゴメンね、何か変な事に巻き込んじゃって。それとゴマチの事も」

 私は帰り道をナゴタとゴナタと歩きながら二人に謝る。

「いえ、私たちは全然構いません。先ほども言いましたがあのアマジという人は正直許せません。私たち姉妹の事だけでしたら我慢できますが、冒険者の存在とユーアちゃん、それとお姉さまを侮辱したことは許せませんから」

「ナゴ姉ちゃんの言う通りだっ!それとお姉ぇはリーダーなんだから、もっとワタシたちに命令したっていいんだぞっ?お姉ぇのやる事には絶対に意味があるからなっ!」

「そうね、二人ともありがとうねっ!」

 私はそんな二人の返答に立ち止まり「ぎゅっ」と二人の手を取る。

「お、おっ、お姉さまっ!わ、私たちは別にそこまで感謝される事などっ!そ、それとお姉さまの交渉術にはお見逸れしましたっ!」

 と、話をすり替えるように、あわあわと顔を赤らめるナゴタ。

「そ、そうだよなっ!うん、うんっ!」

 と、こちらは相変わらずのゴナタ。
 ナゴタと同じように慌ててはいるが、多分意味は分かってないと思う。

「ふふ。ありがとうね二人とも。でもそんな大した事じゃないんだよ」

 そう。

 私はナゴタの言う通り、話し合いでの解決じゃなく、お互いの実力での解決になるように話を誘導をした。

 こちらはユーアの件があるとはいえ、一介の冒険者と貴族の孫とその父親に、私たちの主張が通る可能性は限りなく低いと思ったからだ。

 寧ろ私とユーアが逆に、誘拐犯として引っ立てられてもおかしくない。
 ゴマチ本人がそれを主張したら確実にそうなるだろう。

『それも、ほぼ私闘に近い形に持って行けたのも僥倖だったよ』

 それはアマジが冒険者と実の娘を毛嫌いしてる事が起因している。

 英雄と呼ばれる、ある意味冒険者の筆頭に近い存在の私が挑発すれば乗ってくるだろうと。まぁ、この街限定だけど。

『後は、実の娘に何の愛情も無かった事も大きいんだよね?ゴマチは不憫だけど』

 もっと娘に愛情を持っていたなら、こんなまどろっこしい事などせず、問答無用で権力や法で何とでも出来ただろう。でもアマジは冒険者を実力で負かす事で、自分たちの私欲を優先した。くだらない自尊心の為に。

 それも――

『――――それも実の娘をダシにして、か……』

 私はもう星の出ているきれいな夜空を見ながらそう思った。

 ただその空とは対照的に、私の心はもやもやしたままだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...