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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

与えられた恐怖と恐慌

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※少しだけ、残酷な表現があります。
 苦手な方はお気を付けください。



「随分とご機嫌だね。何か楽しい事でもあったの?」

「っ!!」

 私はトンっと足場にしていた透明スキルから飛び降りる。

 飛び降りる際に纏っていた透明鱗粉をついでに解除する。


「な、な、あなたはっ! では、さっきのはっ!?」

 地面に足を付き、男を睨む私に驚愕の表情を浮かべる。
 目を見開きガクガクと全身を震わせながら。


「さっきの? そんなの知らないよ。恐怖で幻でも見たんじゃない? これからのあなたの顛末を考えて」

「はぁっ!? だ、だって確かにあなたを攻撃した感触がっ??」

「へぇ。あなたが私を攻撃ねぇ。それは許せないな。それが例え幻だとしても、私に攻撃をしたんだったら、もちろんその覚悟は出来てるよね?」

「は、はは、ま、また覚悟の話ですかっ!?」

 執事服の男は半笑いになりながら、ジリジリと後退りをする。

 私は後退した分前進する。

「そう。また覚悟の話。あなたは私を攻撃したんだから、私に攻撃される覚悟がないとおかしいって事だよ」

 私は全身より、射殺す程の殺気を放ち、執事服の男を「ギン」と睨みつける。

「ひ、ひぃぃっっ――――っっ!!」

 ズダダ――

 男は悲鳴をあげ、武器も手放し、ジタバタとみっともない格好で走り出す。

「わ、私はただ雇われたっ―――― ガッ!?」

 ドジャァッ――

 男は数メートルを逃げた所で何かに躓き、雨でぬかるんだ地面に盛大に倒れ込む。
 
 その何かは、私が地面に設置したスキルだった。
 それに足を取られて倒れただけ。


「ゴホッゴホッ、は、はぁ、逃げなければ私が――――」

 執事服の男は倒れ込んだ時に、泥水を被ったのだろう。
 咳き込みながらも体を起こし、再び距離を取ろうと無様に走り出す。

 が、

「ぐはぁっ!? あ、足がァァァッッ!!」

 それは不可能だった。

 なぜなら、執事服の男の両足は私のスキルで押し潰されているからだ。


 ザッザッザッ

「ねえ」

 動けない男を見やり、私はゆっくりと歩いて行く。

「何で逃げようなんて思ったの?」

 痛みに叫ぶ男の眼前に立って、そう聞いてみる。

「だ、だって逃げなければ私が死ぬっ―――― はぁはぁっ」
「……死ぬ? 私はあなたたちを消すなんて一言も行ってないよ?」
「だ、だったら、わ、私たちをどうするのですかっ! ぐっぐぐぐっ!」

 男は痛みに堪えながら苦し気に答える。

「私、最初に言ったと思うけど『後悔なんて生易しいものじゃなく、私たちを思い出すたびに懺悔したくなるような生き地獄を味合わせてやる』って。だから消すなんてそんな事はしないよ。その証拠に――――」

 気を失ったままのチャラ男に目を向ける。

「――――その証拠にあの男の両足も潰れてないでしょ? 私の攻撃に恐怖してただ気絶してるだけ。それにあなたの足だって」

 執事服の男の両足に乗せているスキルを解除する。

「っ!?」

「何ともないでしょ? ただ上から抑え込んでただけだから」

「はぁっ!?」

 そう。

 チャラ男の両足は、スキルを叩きつけたように見えて、実はスキルの上に叩きつけただけだった。チャラ男の両足の上にスキルを展開して。

 執事服の男に関しても、両足にスキルを乗せてあるだけだった。
 ただ逃げられないように、ある程度の荷重を付加してはあるが。


「それじゃ最後のチャンスとして逃がしてあげるよ」
「へっ!?」
「ただし、空中にだけど」
「なっ!?」

 ドゴォォ――――ンッ!!

「っ!! ぐはぁぁっ!!」

 倒れ込んでいる男の真下に、円柱の透明スキルを展開する。

「がはっ! あ、あああああああっっっっ――――!!!!」

 それを腹に受けた執事服の男は、上空に向けて突き上げられる。


「――――ああああっ!ぐ、ごぼぼぼぼぼっ――――!!」


 突き上げられたスキルの威力の影響だろう。
 その悲鳴を上げる口元から、胃の中の吐しゃ物を撒き散らせながら上昇していく。

 その高さは50メートル。
 ビルの高さで言えば20階程だろう。


「私は追わないであげるから好きに逃げなよぉっ! それじゃ解除するよぉ!」

 それを見て、私は上空の執事服の男に大声を上げる。


「なっ! や、やめっ!? あ"あ"あ"あ"あ"――――――っ!!」


 スキルを解除された男は、ジタバタと空中を藻搔きながら落下していく。

「……………………」

 その顔は悲鳴を上げながら、鼻水やら唾液やらを撒き散らせながら恐怖に歪む。


「ああああああっ!! あ――あ――――――――」

 そして執事服の男は地面に激突する前に大人しくなる。
 チャラ男と同じように、恐怖で気を失ったのだろう。

 ドサッ

 地面に叩きつけられる前に、執事服の男をスキルを操作して受け止める。

 そしてゆっくりと高度を下げ、私は近付く。

「…………」

 そこには白目を剥き、口もだらしなく半開きな男が横たわっていた。
 吐しゃ物で顔中を汚した。

 私は執事服の男の意識が完全にない事を確認した後、チャラ男の脇に移動させ、すぐさまリカバリーポーションを使う。

 途端に、


「はっ! オ、俺の足っ!? あ、ひ、ひぃぃぃぃっっ!!」
「わ、私は………… あっ!? あああああああああっっ!!」

 すぐさま意識を戻した男たちは、私を視界に映し悲鳴を上げる。

「あのさ、少し聞きたいんだけどいい? 多分あなたたちの依頼主だと思うけど、あの子が気絶しちゃってるから先にあなたたちに聞きたいんだよ」

 私の存在を認識し、恐怖で慄く男たちに、そう口を開いた。

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