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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
お仕事の後の反省会+
しおりを挟む「ス、スミカお姉さんごめんなさいなのっ!あまりにも繁盛しちゃったから、そのぉっ…………もったいないと思ったの。せっかく集まってくれたお客さんだから…………」
メルウちゃんは私にタオルを渡しながら、少し潤んだ目で謝る。
私は装備のお陰で汗をかいてないから必要ないけどそれを受け取る。
「まぁ、途中からそんな感じしてたけどね?メルウちゃんこっちに近寄って来なかったし。お父さんのマズナさんもそうだったから」
「わ、悪いスミカさんっ!メルウの言う通りだ。商売人の欲が出ちまったっ!それと売れなかった頃を思い出すと余計になっ!」
「ご、ごめんなさいなのっ!」
と大豆屋工房サリューの店主で、メルウちゃんの父親のマズナさんと二人揃って私に頭を下げる。
特にきつい言い方したわけではが、それでも二人にはそう聞こえてしまったようだ。だから――――
「別に怒ってるわけじゃないよ?いい経験も出来たと思ってるし味噌も豆腐も格安でたくさん売って貰ったし。だからこの話はこれで終わり。それでいいよね?」
私は頭を下げたままの親子に優しくそう話す。
「ス、スミカさんがそう言うなら、俺たちは嬉しいんだが……」
「うん。わたしたちもそれでいいなら……」
「ならそれでいいでしょ?だから終わりねこの話は。それと――――」
やっと落ち着いた大豆屋工房サリューの店内で、私とマズナさん親子で、今は反省会の真っ最中。
今日出せる分のお店の在庫を全て出し切って、大繁盛のまま販売は終了した。
最後まで並んでくれて買えなかった人たちも大勢いたけど、笑顔で帰ってくれて良かった。それと私にも声を掛けてくれた人も大勢いた。
『スミカちゃんに会いにまた来るよっ』
『明日はシスターズ全員できてくれよなっ!』
『今度お勧めを教えてくれよなっ!この街の英雄さまの好きな物をな』
『次回はユーアちゃんもよろしくっ』
『蝶のお姉ちゃんまた明日ねっ!』
何て声をたくさん掛けられた。
ただ、私はここの専属の従業員じゃないから、明日とか来ないけどね。
ん? またおじちゃんいなかった?
まぁ、肉体以外は色々と疲れたけど、意外と楽しかったし、街の人たちも良い人だったし、何だかんだでやり切った充足感も得られた。
『うん。たまにだったら良いのかな?それとユーアの教育にもなりそうだし』
ちょこまかと動いて働くユーアの姿を想像して、それもありかなって思った。
「それでスミカさん。さっきの話なんだが働き手に当てがあるってどういう事だ?」
と店主のマズナさんが、会話を止めて考え込んでいる私に声を掛けて来る。
ああ、そう言えば話の途中だったんだよね。
「うん、一度帰って聞いてみないとわからないけど大丈夫だと思うよ?ちょうど領主もこの街にいる事だしさ。でもマズナさんの方は子供達でも大丈夫なの?」
「ああ。それは全然構わねえんだスミカさん。逆にこっちはメルウに友達が増えそうだから一石二鳥だっ!ガハハハハッ!」
「ちょっとお父さんっ!わたしお友達欲しいなんて言ってないのっ!それにわたしにはユーアさんがいるの!」
「それはそうだけどよっ。ユーアさんだっていつも遊べるわけじゃないだろ?色々と有名になっちまったし、冒険者の仕事もあるんだからなっ!」
「う、うん、そうなんだけど。でもお父さんの言う通りなの……」
「なら、それで決まりね。孤児院の小さい子たちが働ける場所があれば、ユーアもラブナも喜びそうだしね」
と私が最後に話を閉める。
この案は、私がマズナさんに提案した話だった。
さすがにこの繁忙ぶりで、親子二人でお店を回していくのは大変だろうと。
実際に今日私が体験した通り、大豆屋工房サリューはこの付近でかなりの人気店だ。
これからもお客さんが増える事も予想できるし、親子共々無理がたたってどちらかが倒れたりでもしたら休業せざる得なくなるだろう。
そうなったら信用もそうだけど、競合がひしめいているこの界隈での地位にも響いてくる。
せっかくここまでの人気店になったんだから、他にお客さんを取られるのも嫌だろう。
それに大豆で作る商品を、真似る他のお店の動きもあるのだから。
まぁ、真似て作れる程、簡単な技術ではないと思うけどね。
そんな訳で、私からマズナさんに提案した話が従業員の増員の件だった。
それで従業員には子供たちを雇ってはどうかと。
それなら人件費も抑えられるし。
「それじゃスミカさんよろしくお願いいたします。こっちはいつでも歓迎するからなっ!」
「スミカお姉さん、いつもありがとうなの。本当に感謝してるの!」
「うん、私に任せてよ。それとお礼とかはいらないからね?私が好きでやってることだし必要な事だから。それとユーアも喜んでくれそうだしね」
私は二人にそう言ってお店を出ようと立ち上がる。
「あ、それと食堂と、屋台出店の件も考えておいてね」
「おうっ!期待してくれなスミカさんっ!ガハハハハッ!」
「うん、面白そうなのっ!やってみたいのっ!」
と最後に大事なことを付け足して大豆屋工房サリューを後にする。
食堂と屋台の出店。
これも私が提案した事。
大豆屋工房サリューの商品を外でも手軽に食べたいと思って。
それに屋台って言えば、一度大成功してるしね?
お店を立て直したイベントの時に。
※※※
「あ、雨はもう上がったんだね」
私は外に出て夕陽が出てる空を見上げて一人声を上げる。
「そろそろユーアたちも帰って来てるよね? 帰ったら屋台のお土産渡すのと子供たちのこと聞いてみないとね」
私は繁華街、商店街を抜け、孤児院のある一般地区の奥に歩みを進める。
うっすらとだが、辺りが暗くなってきている。
それと、通る家々から美味しそうな匂いが漏れてくる。
きっと夕飯の支度の匂いだろう。
「あれ?孤児院のレストエリア誰もいないんだ。まだナジメのお屋敷にいるのかな? それじゃユーアたちもまだ帰って来てないのかな?」
大型のレストエリアの前に到着し前面に張っておいた保護色のスキルを解除する。中を確かめてみるが、人気が全くなかった。
ユーアたちはまだ帰って来ていないのだろうか?それと子供達も。
「う~ん、それじゃ一度収納しておこうかな」
大型のレストエリアをアイテムボックスに収納し、私とユーアの住んでいるレストエリアに歩いて行く。ちょうど孤児院裏の雑木林で隠れている場所だ。
((――――から――――いよっ!!))
((でも――――ちゃん――――です))
((いい――――いよっ!!))
((ううん―――――もう―――だよっ))
「うん?この声はユーアと………………誰?」
雑木林の向こうから、ユーアと知らない声が聞こえてくる。
大人の声ではなく、少し甲高いから子供の声だと思う。
それにしても――――
『あんまりいい雰囲気じゃないね?お友達でもなさそうだし』
そうどちらかと言うと、片方が捲し立ててる感じ。一方的に。
もちろんそれがユーアではない事は直ぐにわかる。
私は急いで声の聞こえるであろうレストエリアに向かった。
子供の声だけじゃなく、どこか威嚇するような男の声も聞こえてきたからだ。
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