剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
174 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

着やせする蝶の英雄?

しおりを挟む



 降り出した雨は、相変わらず頭上に展開した透明スキルを打ち付ける。
 広場に見える人々は、各々に傘らしき物やマントを羽織って雨を防いでいる。

 そんな悪天候でも、


「へぇ、お昼時過ぎたのに結構人いるんだねっ」


 私は広場の、屋台や露店に並んでいる街の人たちを見て少し驚く。
 
 それに喧騒の中にも屋台から香る良い匂いと、露店の売り込みの声も聞こえてきて非常に賑やかだった。天候の良し悪し何てあまり関係ないみたいだ。

「それじゃ先に、ユーアの好きなお肉関係をコンプリートしていこうかっ。その後でメルウちゃんのお店を覗いてみよう」

 私は頭上の傘代わりの透明スキルを、更に上昇して面積を広げる。
 並んでいる人たちにぶつかっても危ないので。

 その際にスキルをお椀上に変形させる事にした。
 これなら雫が端から垂れなくていいかも何て考えながら。

 ただ徐々に雨がスキルの上に溜まっていってしまうが、そこまで長居する用事ではないので良いかなとも思いながら。


「おや、雨が止んだのか?」
「そうか?まだ降ってるぞ。ってあれ?」
「??何かここだけ止んでないか?」
「そうだな。向こうは傘やマントに雨が跳ねているもんな」

「あ、ゴメン。私が魔法でここだけ防いでるんだよ」

 私は「はい」と小さく手を挙げ、不思議がっている人たちに声を掛ける。
 このままずっと怪しがられても面倒だし。
 なら最初に言っておいた方が良いだろうと思って。


「っ!?こ、子供? じゃなくてあなたは英雄スミカさまっ!」

「はぁっ!?こんな小さいのが英雄だって?」
「お、お前何て失礼な事をっ!昨日の戦い見てなかったのか!」
「そ、そうだぞっ!こんなに色々小さくて、まっ平でもBランクの姉妹と、この街の領主さまで元Aランクのナジメさまを無傷で叩き伏せたんだぞっ!」

「………………」

「ま、本気かっ!こんな子供であちこち小さいのにかっ!?」
「ああ、そうだっ!こんなナリでも成人してるスミカさまだっ!」

「………………」

「へっ?成人してるって15歳超えてるって事かぁっ!?」
「お前いい加減失礼な事言うなっ!これでも成人してるって言ってるだろっ!」
「い、いやだって、俺の13歳の娘の方がもっと成長――――」
「それを言ったら、従妹の11歳の娘だってよ―――――」


「………………私着やせするから。超もの凄く。あり得ないくらい」


「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」

 私は男たちの全身をジロジロ見られる視線に耐え切れなくなり、簡潔に一言で真実を告げる。

 そうでも言わないといつまで経っても話題が終わりそうになかったから。


「あ、ああそうだよなっ!英雄スミカだもんなっ!そんなあり得ない事でも出来そうだもんなっ!分身も出来るしなっ!」

「……………………」

「そ、そうだぞっ!Aランクを無傷で倒せる実力があるんだから、胸をAAランクに見せる事だって朝飯前だよなっ!」

「……………………」

「な、なるほどっ!その絶壁は謎の能力でそう見せているのかっ!?さ、さすがこの街を救った蝶の英雄さまだっ!」

「……………………」

「あ、あのよぉ。聞いてて思ったんだが…………」

「な、何だ言ってみろっ」
「ど、どうしたっ!」

 この中で私の事をあまり知らない男が一人。ポツリと口を開く。

「あ、あのさ、聞いてて思ったんだが、小さく見せる意味ってあるのか?」

 し~~~~~~~~ん

「………………っ!」

「……………………」
「……………………」
「……………………」

「な、そう思うだろっ!」

 ザバアッ!

「うわっ!冷てぇっ!?」
「うおっ!いきなり雨がっ!?」
「な、何で急に頭からぶっ掛けられたみたいにっ!?」」
「あっ! 何故か英雄スミカがいなくなったぞっ!?」

「……………………」

 私は透明鱗粉を散布して、その場から離れる。

 ついでに、ずっと傘代わりにしていた頭上の円形スキルを解除する。


 雨が端から垂れるのが嫌だったので、お椀型に湾曲させていた。

 したがって、スキルを解除した瞬間に溜まっていた雨が一気にその真下に降り注ぐこととなった。


 新しく追加された透明スキルの『湾曲』はこういった場面で使うのが最適なのだ。便利すぎ。

『まぁ、そんなわけないけど』


 私はそれから香ばしい匂いの屋台に並んで、片っ端から肉関係の物を買い込んだ。もちろん全部を買い込んだりしない。私のせいで完売したら後に並んでる人たちが可哀想だしね。

 それと色々な果物の果実水や、スープ。そして海鮮物も買いこんだ。
 前に来た時は全く気付かなかったから、海の幸関係は大量に買っておいた。
 さすがに新鮮な魚とかはなかったけど、代わりに色々な魚の干物を購入した。


「これだけあれば、暫く困ることはないね。少し買い過ぎたから、ナゴタたちにもお裾分けしよう。後はナジメも喜びそうだし」

 私はホクホクしながら屋台から離れる。
 あちこちから、私の事を囁く声が聞こえるけど気にしない。

 それよりも、

「おおっ!マズナさん親子の大豆工房サリューも賑わってるね」

 他の露店や屋台よりも、多くの人たちが並んでいるのが見える。

 ユーアやルーギル。冒険者たちや、ログマさん夫妻、ニスマジたちに協力してもらい、その味やヘルシーさに、最初は腐った豆の先入観で閑古鳥どころか、親子共々生活が危うかった経営状況が嘘のようだ。

 今やその人気はうなぎ登り。

 素材の採取を日に二度ほどギルドに依頼したり、大豆商品を真似て販売しようとする動きも出てきているらしい。それにニスマジのお店とも契約して商品を卸している。

「そんな人気なおかげで、私が買う分が減っちゃったんだよね」

 私はちょこまかと動いている大豆工房サリューの看板娘のメルウちゃんを見てそう思い、近付いて声を掛ける。

「こんにちはメルウちゃん。私も買いに来たんだけど大丈夫?」
「あ、いらっしゃいませなのっ!ちょっと待って欲しいの!あっスミカお姉さんっ!」

 メルウちゃんは額の汗を拭いながらも、私に気付いてすぐ返事してくれた。
 随分と繁盛して忙しそうだった。嬉しい悲鳴とはこういう事だろう。

「あれ?メルウちゃん。お父さんのマズナさんはいないの?」

 小さなメルウちゃん一人でいる事に気になって声を掛ける。

「お父さんは今、在庫を取りにいってるの。もうちょっとかかるのっ!」
「うん、そうだったんだ。だったら私は少し落ち着いたらまた来るね。邪魔になっちゃいそうだし」

 私はそそくさとメルウちゃんから離れようと踵を返す。

 話しているとメルウちゃんも他のお客さんにも迷惑になりそうだし。


「あっ!ちょっと待ってなのっ!スミカお姉さんも手伝ってなのっお願いなのっ!」

 メルウちゃんが、離れようとした私に懇願するように背中に声を掛けて来る。

「わ、私、販売の事は素人だから、邪魔になっちゃうよ?余計仕事増えちゃうよっ!」

 私は振り向きメルウちゃんに声を返すが、

「ううん、簡単なお仕事なのっ!だからお願いなのスミカお姉さんっ!」

 と、美幼女の縋り付くような目で訴えられたら誰だって、

「わ、わかったよっ。だからそんな目で見ないでねっ!私が悪いみたいに感じちゃうから。後言っておくけどどうなっても知らないよ?あまりやった事ないし……」

「ありがとうなのっ!スミカお姉さんっ!!」


 私は断り切れずに、メルウちゃんのお仕事を手伝う事になった。

 そもそもが家族二人で切り盛りするのも大変だしね。

 私は腕まくりをし手伝いの為に、気合を入れるのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...