剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
173 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

需要あるの?

しおりを挟む




「カ、カジカさん?一体その格好は……」


 私は驚きながら、奥から姿を現したカジカさんに声を掛ける。
 だってその衣装はまたもや……

「ああこれね。スミカちゃんたちシスターズも人気なんだけど、英雄相手に戦った領主のナジメ様も結構人気があるのよ。だからそれに便乗してみたってわけね」

 そう言って、クルっと回って衣装を見せてくれる。
 何で口調は普通なのかは良く分からないけど。

「………………」

 その姿は急ごしらえながらもナジメのスク水を再現した衣装だった。

 細い体にフィットしてはいるが、決してポリエステルやナイロンみたいな伸びそうな生地ではない。

 素材は見た所ただの布に見える。
 実用性はほぼない、ただの布切れだ。


 でもまさか、20代後半のカジカさんが偽スク水姿で現れるとは……

『み、見る人が見たら、ご馳走なんだろうけど……』

 ナゴタとゴナタみたいに肉感的な魅力はないが、スラッとした両手足と、ツンと張りのあるヒップライン。色白な大人のスレンダー美人といったところだ。

 ただ、何かがおかしい。

『じ~~~~~~~』

 と、横目でこっそりカジカさんのある部分を見つめる。

『っ!? な、何で大きくなってるの!』

 カジカと書かれた胸のネーム部分が私の予想を超えて大きく盛り上がっていた。
 その双丘のお陰で、文字が歪んでいた。

『じ~~~~~~~』
「………………?」

 確か私の目測だと、カジカさんはAに近いギリギリBランクだったはず。

『じ~~~~~~~』
「………………??」

 なのに何で、偽スク水になった途端にDランクまで膨らんでいるんだろう。

『じ~~~~~~~』
「……~~~~っ」

 もしかして、私の目測が間違いだった? 大幅に狂っていた?
 実はカジカさんは高ランクだった?

『じ~~~~~~~』
「~~~~~~っ!!」

 いや、それは絶対にない。

 プチトマトがいきなりデコポンにはならないのだから。
 それ程の差があったのだから。

 もちろん見間違う何てあるはずがない。

「あ、あのカジカさん、その胸――――」
「っ!! あ、ああやっぱりこの格好は寒いわっ!」

 そう言ってそそくさと首に巻いてあった上着を即座に羽織る。
 しっかりと前を閉めて。まるで胸元を隠すように。

「……………………」
「…………」

 そしてログマさんの時と同じように、またもや気まずい空気が流れる。


『な、何でナジメのコスプレしといて、胸の大きさは強調するのっ!? ナジメはAAAランクだよっ?絶壁だよっ!盛って大きくする意味が無いよねっ!逆にしてどうするのっ!?』

 私は上着の上からでも分かるその膨らみを見る。

『ま、まあ、その衣装だと色々と凹凸がはっきり見えちゃうから、見栄を張りたかったんだよね、そ、そうだよね?カジカさん――――』

 私はそう思い立って、無言でカジカさんに頷く。

『…………コク』
「スミカちゃん……」

 もちろんログマさんには気付かれないように。
 女性は色々と大変なのだ。

 そうして同じ悩みを抱える者同士の、新しい友情が生まれた瞬間でもあった。



※※※※※※


「うーん、まだ雨降ってるんだね」

 私はスキルを傘代わりに頭上に展開し、空を見ながら一人呟く。

 ログマさんにはオーク3体と、トロール1体の解体をお願いして店を後にした。

 お礼にオーク1体を上げたら、多すぎるって遠慮されちゃったけど無理やり置いてきた。だってログマさん夫妻とはこれからも懇意にしたいし、個人的にも好きな人たちだからだ。

 そしてお昼は、カジカさんのお店で舌鼓を打ちつつ料理を美味しく頂いた。
 やっぱり異世界肉美味しい。

 それは新鮮なお肉を仕入れるて捌くログマさんと、それと奥さんのカジカさんの料理の腕が良かったのが一番の理由だろう。

 ユーアが冒険者以前に、虜になった理由も良く分かる。


「これからどうしようかな?ナゴタたちはギルドに行ってるし、ユーアたちはまだ帰って来てないだろうし……」

 うーんと、腕を組みこれからの行き先に悩む。

『あれ? 私もしかしてこの世界に来て初めて時間を持て余してる?まぁ色々あったしね、ユーアと出会ったから……』

 何て、しみじみと考えてしまう。
 と言っても、まだ1週間も経ってないんだけどね。この世界に来て。

『そう言えばあの時はユーアとニスマジの店で買い物した後に、ログマさんの所にお肉を買いに行って、その後は――――』

 ユーアの案内でこの世界での2日目はその2件を周った。

 後は――――

「うん、だったら次はメルウちゃんの所に顔を出してみようかな?大豆商品も欲しいし。 それと屋台でユーアの好きな食べ物も補充したいしね」

 と、次の目的地をユーアと周った所を思い出して歩みを進める。

「ユーアに手を引かれて、屋台に並んでいる時にメルウちゃんのお店を見つけたんだったよね?あまりにもお客さんが少なくて目立っちゃって」 


 見上げる空は相変わらずどんよりと曇り、細かい雨が地面を打ち続ける。

 けれど私は足取り軽くのんびりと、大豆工房サリューを目指すのであった。

『~~~~~~♪』

 たまには独りこういう日もあってもいいなって、思いながら。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...