165 / 586
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
ナジメのお願いと仮メンバー?
しおりを挟むこのお話はナジメの幼少の頃のお話です。
時間軸では本編の100年近く前のお話です。
※残酷な表現や人権に関わるお話があります。
苦手な方はご遠慮ください。
※過去の話と、現在とが交互に進んでいきます。
予めご了承ください。
ナジメは喉を潤し、私たちも釣られるように各々の飲み物を口に含む。
「それで、わしを守ってくれたねぇねがどうしたかの話と、わしの『小さな守護者』の能力が発動した話の続きじゃったな……」
ナジメは皆を見渡し呟くように話を再開する。
最愛の姉の行方と当時は忌むべき能力だった話を。
「…………ねぇねは、わしが目覚めたらいなくなっておったのじゃ」
※※※※
「ね、ねぇねっ、も、もう逃げてくれっ!じゃないとねぇねがっ!」
わちは脱力したように体を預ける、目を閉じたままのねぇねに叫ぶ。
「ねぇねっ、お、起きて逃げてくれなのじゃっ!」
覆い被さるねぇねをゆさゆさと揺すりながら。
だが目を瞑り覆い被さったままのクロは呻き声ひとつ発せず、
代わりに聞こえてきたのは、わち達を襲った男の下卑た声だった。
「うん? 良く見りゃこの姉の方は中々見栄えいいじゃねえかっ…………もしかしたら物好きな奴がいるかもしんねぇな――――」
そしてねぇねの温もりと重みがなくなり、わちと男の目が合う。
「やっぱり、こっちはいらねぇな。いくら何でもガキ過ぎらァ」
そんな言葉と同時に、男の持つ武器が振り上げられる。
「も、もうやめてくれなのじゃっ!ね、ねぇねっ、ねぇねっ――!」
わちは男に懇願しながらも姉を探し名前を呼ぶ。
わちが守りたかった、そして守ってくれた姉の名を。
「ちっ、うるせえっ!」
ブフォンッ
そして振り下ろされる凶器。
初めて恐怖した我を忘れる程の激痛が、
それがまたもわちに向かって――――
「う、うわぁぁぁぁっっっ!!!!」
ガゴォ―ンッ!
「ハァッ!? 何だってんだッ!?急に固くッ!!」
※※※※
「―――――そうして、わしは再度振り下ろされる男の攻撃に初めて能力が発動したのじゃ。姉のクロを守る為にではなく―――――」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「―――――結局は、自分自身を守る為だけに発動してしまったのじゃ」
顔を伏せ俯きながら、小さな拳をぎゅっと握って話を続ける。
「その後、わしは気を失ってしまったのじゃ。それが痛みへの恐怖だったのか、能力を急激に発動させた影響かどうかはわからぬが、目を覚ますと独り暗い森の中に取り残されており、わしは直ぐにねぇねを探したが見付けられなかった……」
ナジメはそう言い終わり視線を上げた後そっと目を閉じる。
強く握られた拳も小さな体もわずかながら震えている。
それでもナジメの話は続いていく。
「わしは、ねぇねの想いと願いを叶える為、強くなろうと努力を重ねた。強くあろうと夢中になった。姉の願いはわしみたいな存在を守る事。住みやすい街を造りたかった事。そんな世界に変えたかった事。その為にわしは必要な力が欲しかったのじゃ……」
ナジメはそう言い終わり、私たちを見渡し最後に私と目が合う。
それを見て私も口を開く。
「……それが、冒険者としての純粋な強さと、領主としての権力だったって事なんだね。そして、私の実力を試したのもそうだよね? ナジメの持っているものでも中々手に入らないものが現われたから」
私はナジメの手を軽く握りながら問いかける。
模擬戦の時、ナジメはユーアを演技とはいえ攻撃した。
それはルーギルから聞いていた私の大事な者にちょっかいを出したらどうなるかを知っていたからだ。
そうやってナジメは試したんだろう。私の実力がどれ程のものか。
その結果如何によって手を貸して欲しく相談するか、否かの。
『……なんか利用されてる感じで嫌な気もするけど、ユーアたちもナジメを助けたいと思ってるし、なら私はそれを叶える為に動くだけ。まぁ、私も正直打算的な考えもあるけど、実際は何とかしてやりたいとは思ってるし……』
私は強く握られたままのナジメの手をゆっくりと解すように開いていく。
そして開かれた小さな手をキュッと握る。
「ナジメ言ってごらんよ」
と一言だけ告げてナジメを見る。
「わ、わしと、2カ月余り先にアストオリア大陸で行われる大会に出場して欲しいのじゃ。それがわしと姉のクロの願いに、一歩繋がる事になるのじゃ……」
私の手を握り返し若干躊躇いがちに言った内容は、思いもよらなかったナジメからの大会への参加の願いだった。
「へっ?大会って何? ナジメちゃん?」
「た、大会って何か面白そうじゃないっ!?」
とユーアとラブナはさすがに知らなかったようだが、
「もしかして、ナジメが出て領主になった大会ですか?」
「ううっ!あの大会だったらワタシ出たいぞっ!」
冒険者として各地を周ってきたナゴナタ姉妹の二人は見当をつけていた。
『……大会って、やっぱあれだよね? それとナジメの目的って――』
私はナゴタとゴナタにトロール討伐に向かう最中に聞いた競技大会の事を思い出し、何となく納得する。それの賞品のどれかがナジメの目的なんだと。
それと――――
ナジメが勝てない程の何者かの存在を示唆しているって事も。
『そう。だからナジメは私を試したって事なんだよね?』
ナジメが私の強さを頼る理由って言ったらきっとそれだろう。
元とは言えナジメはAランク冒険者。
その強さを全て見たわけではないが、十分強者と言われる部類に入るだろう。
『……そんなナジメが敵わない相手がいる可能性があるって事かぁ……。もしかして未知の腕輪に関わっている奴らかもしれない。 ってそれよりも――――』
私はチラッとナジメに視線を移す。
「じゃあさぁ、チーム戦もあるらしいからナジメも私たちのパーティーに入らな――――」
「じゃ、じゃから、わしもお主たちねぇね率いるバタフライシスターズとやらに入れて欲しいのじゃが、いいだろうか? わしなんかでも……」
「あっ」
『な、ナジメに先に言われたぁっ!』
とナジメはみんなを見渡し真剣な表情でそう告げた。
そして最後は私の目を見て深々と頭を下げる。
「ん?どうしたのスミカお姉ちゃん。先に何か言いましたか?」
「えっ? ううん何でもないよっ。そ、それよりもナジメが仲間になってくれるんだねっ!嬉しいねユーア」
「うんっ!!」
私はユーアを撫でながら心からそう思った。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる