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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1
幼女と領主のお仕事
しおりを挟む※前半はナジメが孤児院を調べに行ったお話です。
後半は澄香とナジメとナゴタのお話です。
「こんな早朝に何のご用でしょう。院に入居希望ですか?ですが、生憎と今は一杯でベッドも食事もギリギリでして資金も……えっ?この街の領主ですかその年恰好で? ……横領?わたくしたちが?わかりました少しだけ話を聞きましょう」
わしはまだ薄暗い朝もやの残る中。スミカとの約束の孤児院を訪れていた。
昨夜の帰り道はハラミの上で寝てて見れなかったが、そこはいつ崩れてもおかしくない孤児院の建屋だった。
窓はあるが風を防ぐ物もなく、屋根も剝がれて、外の柵は朽ち果てている。至る所の壁に穴も開いていた。確かに廃墟と言うスミカの言葉が当てはまる。
「あなたがこの街の領主ですか?いきなり来て下手な嘘をつく子供ですね。それでわたくし達が、国から受け取っている運営資金を着服していると?しかもここを出て行ったユーアからの寄付金も横領していると。そう言いたいんですね?」
「うむ、そのとおりじゃ。じゃから色々と調べさせてもらう。まずはここにいる子供たちの現状と意見、後は院の中を見させてもらう。それとここの帳簿もじゃな。そしてこれがわしが領主だと証明する書類じゃ」
わしは院長と名乗る50過ぎくらいの女に書類を見せる。
これはわしが領主になった時に発行して貰ったものだ。
『かなり余裕がない事を言っていたが、随分と羽振りが良さそうな格好よのう?』
わしは書類を手に取り訝し気に見ている院長を見てみる。
『………………ふむ』
黒を基調とした質素な修道服に見えるが、皴一つなく、生地も厚手のいいものを使っているのがわかる。首筋や、手首にも光る凝った装飾品が見える。
これで資金もないとはよく言ったものだ。
「これ、本物ですか?偽物ですよね?」
「ちゃんとここに、この国の国王さまの判も押しておろう? これを偽物と言ったら、お主は不敬に問われるぞ?それでもいいのかのぅ」
わしは目を細めて院長の顔を見る。
「生憎わたくしはこの国には疎いので本物かどうかわかりません。ですが、以前一度だけ見た物とは違うようです。どうやら不敬に問われるのはあなたみたいですね? いや、それだけではすみませんか、偽証の罪と書類偽造が付いてきますから。あ、それと脅迫もですか?小銭が欲しいのでしょう、いくらですか?お子様ですしねぇ」
そう言って院長は書類を突き返し、わしを見下ろして口元を歪める。
「うぬぬぬぬっ!わ、わしは子供でも嘘をついているわけでもないのじゃっ!!」
わしはそれを聞いて足元からベティを出してその上に乗る。
「やるのじゃっ!ベティっ!」
ドゴォォォォ――――――ンッ!!!!
ともう殆ど朽ちていた柵にベティの野太い尾を叩きつけた。
「もうよいっ!さっさと悪事を働いたものは出て行くのじゃっ!!10数える内に出て行けば攻撃はせぬっ!今ならそのまま逃がしてやろうぞっ! 1.2.3.…………」
「ひ、ひいっ!逃げっ!」
「きゃあっ!!」
「あああっ!に、逃げろっ!」
「うわあぁぁぁっっ!!!!」
「は、早く早くっ!」
そうして院の中からわしを見ている子供たち以外いなくなった。
院長以外の男女の大人たちも、慌てて何も持たずに逃げて行った。
※※※※
「と、言う訳じゃ。わ、わしは悪くないじゃろ?」
「…………………」
「…………………」
とナジメは話し終えて、オドオドとナゴタの頭に顎を乗せている。
その目は若干私から逸らせていたけど。
「…………ナゴタ、どう思う?」
「はい、お姉さま。良いか悪いかで言えばナジメが悪いですね」
「んなぁっ!!悪いのは逃げたあ奴らじゃっ?」
「はぁ、そりゃそうだよね。元々ナジメが毎年視察を訪れていて、孤児院の事も知っていたなら、こんな事にはなっていなかった」
「はい、その通りです。お姉さま。ナジメがきちんと領主の仕事をしていれば防げた事なんです。そして悪い考えを持った者も出て来なかったかんじゃないかと思います」
「うううっ、わしが悪いのかぁ……」
これはナゴタの言った通りに、ナジメが領主としての仕事を普通にこなしていれば防げたし、気付けた事。この騒動の発端はナジメが原因だともいえる。
『まぁ、それでも悪い奴は、色々抜け道を探してやるんだろうけどね』
「それで、その後はどうなったの子供たちは?世話してた大人は全員いなくなっちゃったんだよね?」
「うむ、それならわしの屋敷に一時預かっておる。わしの屋敷の面倒を見てる者と、それと知り合いの貴族の男から女中を数名用意してもらっておるのでしばらくは大丈夫じゃろう」
「ナジメあなたお屋敷を持っているんですか?」
ナジメの説明で一先ず子供たちの件は安堵したが、それよりもナジメがお屋敷を持っている事に驚いた。
「わしも一応は領主じゃから、建前でも屋敷を持っているのじゃ。ただ領主になってから片手で数えるくらいしか行ってないがのう」
そう言ってナジメは、ナゴタの頭から顔を上げて、レストエリアの向こう側に目を向ける。そちらはこの街の貴族街がある方向だった。
「ふーん、さすが領主さまだね。お屋敷かぁ。それじゃそこに孤児院建てようよ?どうせ使ってないんだし、土地も余ってるんでしょ?それかお屋敷に子供を住まわせてもいいし」
とナジメに提案してみる。
元々はナジメにも原因があるのだから、きちんと責任取って欲しいとも思うし。
「うむ、わし自体はそれでも構わないのじゃが、それだとユーアとラブナは貴族の住む街を出入りすることになるぞ?それはお主も本意ではないだろうて」
「まあ、ね。色々と厄介な事にもなりそうだし、ユーアたちも気軽に行けなくなっちゃうしね」
「そうですね、お姉さま。全てが悪い貴族ではないですが、問題を起こす者も貴族が多いですから、ユーアちゃんとラブナが心配になりますしね?それにラブナはかなりの確率で、貴族の方々と揉めると思いますし」
ナゴタは私の顔を見てとナジメの足を握りそう答えてくれた。
確かにナゴタの言う通りだ。特にラブナの事は。
「それで、ナジメは私に孤児院を壊させて、建て替えてくれるって事でいいの?っていうか、ナジメが壊せばいいんじゃないの?ナジメなら余裕でしょう?そのくらいは」
「うむ、確かにそうなのじゃが、一応わしは領主なのじゃ。だからそこまで派手な事は出来んのじゃ。だからスミカにお願いしたいのじゃ。模擬戦の事はわしの個人的な事じゃったし……」
そう言って、ナジメはポリポリと頭を掻く。
まぁ模擬戦は派手を通り越して、色々とナジメはやり過ぎたと思うけどね。
「わかったよ。それじゃ早速行こうよ。ユーアたちも待たせたままだしね」
「うむ、済まぬのじゃ」
「はい、お姉さま」
私たちはそうして孤児院の前に着いた。まぁ、徒歩1分くらいだけどね。
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