剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
153 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

泳ぐ!スク水幼女

しおりを挟む



「スミカお姉ちゃん大丈夫ケガはない? それとナジメちゃ、さまもっ!」
「スミ姉凄かったわっ!」
『わうっ!!』
「お姉さまっ! さすがですっ!」
「お姉ぇはやっぱり最高だぁっ!!」


 シスターズのみんなが、未だ鳴りやまない歓声を受けている私たちに駆け寄ってくる。ユーアとラブナはハラミに乗って、姉妹の二人はその傍らを走ってきた。


「うん、私は大丈夫。ナジメはあんな状態だけどハリボテみたいなもので、そこまで重くないから安心して。それに回復してあるから」

 ユーアのほわほわした頭を撫でながら、ナジメを見てそう答える。

「うぬ、スミカの言う通りじゃ。重さはほとんど感じないのじゃ。それにわしは人より頑丈だしのう。これくらいは何ともないのじゃっ! わははっ!」

 「だから心配無用じゃっ」とスキルの壁に挟まれたままドヤ顔でそう言った。
 地面から1メートル弱程の高さで、ぷらんと手を下げ、顔だけ上げての態勢で。


「「「………………??」」」
『……わふ?』

 そんなナジメを見て、首を傾げる面々。

 さっきも言った通り、重さは減らしてあるので簡単にどかせるだろう。
 なら何故この幼女はそこから出て来ないのだろう?


「ナジメもうそこから出てきていいよ? 一応打ち合わせ通りだったし」

 足をプラプラさせて、なんだか居心地のよさそうなナジメに声を掛ける。

 因みに、透明壁を解いて姿を現したナジメの敗北宣言は演技である。
 裏取引みたいなもので、わざわざナジメに演じて貰った訳だ。


「う、うぬぅ。わしはまだここに…… それよりもユーアすまなかったのじゃ。未遂とは言え、わしの勝手な事情でお主を攻撃したことは謝るのじゃ。本当にすまなかったのじゃ」

 「コテン」と頭を下げて、真摯な表情で謝罪するナジメ。

「う、うんっ! ボクは何ともないから気にしていないよ、ですっ! だから謝ら…… じゃなくて、しゃざい?はいらないですっ! はいっ!」

 ハラミから降りて、使い慣れない言葉で返事をするユーア。
 きっとナジメが領主だと知って、今までの体裁を取り繕うと必死なのだろう。


「そうか? それでも謝罪は受け取ってくれ。でないとわしも――――」
「は、はいっ! りょうしゅしゃまが、そう言う、お、おっしゃる?にゃら――――」

『ふふっ。ユーアがあわあわしてる。そんなユーアも可愛いよねっ』

 そんな二人を眺めながら、ナジメを挟んでいる上下のスキルを透明にする。


 すると、そこには――――


「ぷっ! クスクスっ……」

「ちょ、スミ姉ってばっ! くすくすっ」
『わふふっ』
「お姉さまそれは …… うふふ」
「お姉ぇっ! それは何だい? わははっ!」


 そこには、空中に浮いて、両手両足をプラプラさせている幼女がいた。
 スキルを透明にしたせいで、おかしな状況になっていた。


「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは偉い人とお話してるのにっ! ぷくくっ……」
「? なぜ、お主たちはわしとユーアを見て、苦しそうな顔をしておるのじゃ?」

 ユーアもナジメのそんな姿を見て、必死に笑いを耐えている。

 その当のナジメは、自分の状態にも気付かずに、苦し気に笑いを堪えている私たちを、不思議そうに見上げている。


「オ、オイッ! スミカ嬢ッ…… って何だそれッ! グフフ……」
「ナ、ナジメさん?…… うふふふっ」

『何だあれ? って、わははっ!』
『はぁ? 浮いて? アハハっ!』
『お母さんあれ見てっ! 面白いよっ!』
『どれ? ってダメよっ! 笑っちゃ…… ぷっ』

 そんな私たちにルーギルたちも、そして大勢の冒険者や街の人たちも気付いたのだろう。
 そこかしこから「クスクス」と小さな笑いが聞こえる。


「な、何なのじゃっ! わしとユーアの事だと思ってみていたら、わしを見て笑いを我慢しておるのかっ!? 何がそんなに面白いのじゃっ! わ、わしはこの街の領主じゃぞぉっ! この街で一番偉いのじゃっ!」

 ナジメは両手両足をジタバタさせながら、プンプンと怒鳴り声を上げる。
 見方によっては空中で泳いでいるようにも見えない事もない。

 いや、溺れてる?


「ぷっ、あ、あのさ、ナジメこれ持ってくれない? そして両手を前に伸ばして、足を上下に動かしてみて?」

 私は、ナジメの肩幅と同じくらいの、長方形の板を渡す。
 その正体は、水色に視覚化した透明壁だ。


「う、うむ。よくわからぬが、スミカがそういうなら意味があるのじゃろうな」
「う、うん、まあ、あるかな? ある意味……」

 パタパタパタッ

 それを受け取ったナジメは、私の言う通りに足を上下に動かしている。
 それはプールでビート板を持って、バタ足の練習をする幼女そのものだった。

 パタパタパタッ――――

「これでいいのじゃろ? 一体これに何の意味があるのじゃ?」

 顔を上げ周りを見渡し、目を丸くしてナジメが疑問符を浮かべる。

「ぷっ!?」

 こ、今度は息継ぎの練習になってるよっ!


『――――ぷっくくっ、も、もうダメだっ! あ、そうだっ! こういう時は素数を数えて気を紛らわして我慢しようっ! 2.3.5.7――――』

 自分でやっておいてなんだけど、笑いに耐えようと意識を切り替える。
 冗談半分でやってみたけど、反則的に面白すぎる。

 これで黄色いキャップまであったら完璧だった。


「ナ、ナジメちゃまっ、それとスミカお姉ちゃん…… も、もうボクはっ――」

「「「~~~~っっぷぷぷっ!」」

「オイッ! 嬢ちゃんいい加減に――――」
「ス、スミカさんっ! そ、それ以上は――――」

 だけど、そんな私の努力を知る由もないシスターズとルーギルたち、そして未だ集まっている大勢の観客たちは――――――


「「「「わははははははっっっっ!!!!」」」

「ひいひいっ、な、何だよあれっ? 何で空中で泳いでるんだよぉ!」
「一体どうやって浮いてっ? ってかあの動きっ、わははっ!」
「ナ、ナジメ領主さま、面白い方だったんだなぁっ! うはははっ!」
「あの板の意味は良く分からねえけどよぉっ、なんかこうっ! がははっ!」


 そんなナジメの滑稽な姿を見て、大盛り上がりしていた。

 そうして訓練場は和やかな空気のまま、私たちの模擬戦は終わりを告げた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...